僕たちは宿に着くと、まず自分の部屋に戻り、着替える事にした。しかし一人や二人では危険なので、男女それぞれ二つの部屋のみ使う事にした。
「着替え終わったら、一階の談話室に集合してください。一人で行動は絶対しないで。必ず全員で来て下さい」
「分かったわ」
そう言うと、女性陣は足早に部屋に入っていった。僕と吉文、先輩はその後に続き、女性達の隣の部屋に入った。
部屋に入る前に、益子君の部屋の様子を見ようと思ったが、後回しすることにした。
「………」
僕たちは着替えている間、ずっと無言だった。ただ黙々と着替えていた。
僕はワイシャツに袖を通しながら、麻衣の事を想っていた。吉文は誰の事を想っているだろう。先輩は……。
僕は無駄だとは知りながら、携帯電話を見た。時刻は午前二時十分。やはり圏外だった。
(圏外か……)
ポケットに強引にそれをしまい込むと、上着を羽織った。ネクタイは邪魔なので外して、それもポケットにしまい込んだ。
「そろそろ行こうぜ」
吉文が沈黙を破った。
「ああ。そうだな」
二人とも着替え終わったようだ。
「よし。行こう」
こうして部屋を後にし、一階へと下りていく。
一階に下りていく途中、吉文が呟いた。
「義高……その……色々当たっちまって悪かった。一緒に犯人見つけようぜ」
「うん」
僕は笑顔で返したが、吉文の事を心から信頼できない自分がいた。
もしかしたら、吉文が犯人かもしれないのだ……
一階に着くと、まだ女性陣は下りてきていなかった。僕らは先に談話室に行く事にした。
談話室は何の変わりもなくそこにあった。飲みかけのお茶や、お酒。食べかけのお菓子につまみ。それらは僕を幾分か安心させた。
僕らは談話室の椅子に腰掛けた。先輩は静かに煙草を吸い始めた。僕はその光景を見つめていた。
(小倉先輩……)
僕は、この人に対して「何か得体の知れないモノ」を感じていた。初めて会った時から。
そしてそれが何なのか、僕はもう答えを知っている気がする。
漠然とした、掴み所の無いモノが僕の中で蠢いているのを感じた。
しばらくすると、足音と共に、女性陣がやって来た。
これで全員が揃った。只一人、麻衣を除いて……
僕はみんなに腰掛けるように促し、話し始めた。
「それじゃあこれからの事を考えましょう。まず、今僕たちがすべきなのは、麻衣を捜す事です」
みんなは大きく頷く。反論はなかった。僕は安心し、先を急いだ。
「おそらく、津久井さんを襲った犯人と麻衣をさらった犯人は同一犯です。津久井さんは怪我を負わされていましたが、命に関わるような酷いモノではありませんでした。これから考えると、麻衣も無事だといえます。犯罪心理学的に、犯人はほとんどの場合、同じような犯罪を繰り返す……という結果が出ています」
「そうね。弁護士としての見解からみても、そういうケースが多いのは事実。ましてあの子は探偵よ。いざって時の行動は、常人よりも優れているはずだわ」
津久井さんが加勢した。みんなの不安を取り除き、一刻も早く、麻衣を見つける事が先決なのだ。津久井さんの言葉は大きい。
「よしっ! 早く麻衣ちゃんを見つけよう!」
「千絵子。やっといつもの調子が出てきたみたいね」
「そうだよね。早く見つけてあげないと、麻衣ちゃん怒るわ」
みんな言葉を発する度に、段々と明るさや活気を取り戻してきたようだ。
先輩にも笑みが見え、吉文も苦笑していた。こんな光景を、麻衣にも見せたい。僕は立ち上がる。
「じゃあ早速、麻衣捜索隊を結成しますか!」
するとここで、先輩が言った。
「捜しに行くのはいいけど、全員で行っても効率が悪いだろ。ここは別れて行くべきじゃないか?」
「うーん……確かに」
堀之内さんが言う。
「確かにそうよね。じゃあここは、義高君が決めてくれればいいんじゃない?」
吉野さんが提案するとみんなは頷いた。みんなは僕にチーム分けを委ねたのだ。
「僕が決めるのか……υυ」
みんなは僕をじっと見た。その目からは「私を選べ」「俺俺」など、様々な想いが見えた。
これはかなり慎重に選ぶべき問題だ。
なんせ、犯人もこの中にいるのだ。誤った人選は、その時点で既に身の破滅を意味していた。
「う〜ん……」
僕は悩みに悩んだ。白髪が一気に増えそうだ。
とりあえず、グループは大きく分けて、二つくらいか?
男女比も合わせた方がいいよな……。とにかく、怪しいと思われる人物を、二手に分けさせるようにして……。
そして、悩み抜いた末に僕は……
(男・女の順、あいうえお順で表記)
A,、北林・須山・堀之内・吉野と小倉・秋山・岸谷・津久井……というグループ分けがいいと思う
B、北林・秋山・津久井・吉野と小倉・須山・岸谷・堀之内……というグループ分けがいいと思う
C、小倉・北林・岸谷・堀之内と須山・秋山・津久井・吉野……というグループ分けがいいと思う
D、小倉・北林・津久井・吉野と須山・秋山・岸谷・堀之内……というグループ分けがいいと思う
E、北林・須山・津久井・岸谷と小倉・秋山・堀之内・吉野……というグループ分けがいいと思う
F(,やっぱり誰も信用できないし……)僕は単身で乗り込もう!
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さてさて、ここからは、ちょっと推理小説っぽく、謎解きが入ってきます。
と言っても、別に何てことはないんですけどね……。(CとEは随時更新予定です)
選択分岐式のお話なので、ここから先は、貴方の選択次第で、お話は変わっていきます。
一見、同じようなお話でも、実は結末は変わったりするかもしれません。
ま、謎解きなんて考えず、色んなドラマを読むくらいの気持ちで読んでいただければ幸いです。
では、貴方の未来に、幸多きことを……
桜山荘総支配人より