この四人組……
 ちょっと……危険な香りがするのですが……

 和洋折衷+暗黒。
 そんな奇天烈料理――召し上がれ?
























  
惑と悩と葛藤と





















「じゃあこのメンバーで分けましょう。いいですか?」
「ああ、問題は無いよ」
 自分で分けたはずなのに、何故だか今更すごい不安になってくる。
 本当にこの分け方で良かったのだろうか。
 僕は、ちらりと三人を覗き見る。






――津久井さん。
 彼女は今回、生存者の中では一番の被害者だ。
 麻衣の親友であり、弁護士でもある彼女。
 その肩書きから、犯人とは程遠いと思われる……が、果たして本当にそうだろうか。
 『隣人は密かに笑う』のように、犯人とは意外な人物、しかも身近な人物なことが多い。連ドラではそう相場が決まっているのだ。
 しかし、彼女一人ではどう考えても犯行不可能なことも多い。
 他に共犯がいるとしても、その人物は一体……?



――吉野さん。
 彼女は今回の同窓会に、一人遅れてやってきた。その理由は定かではない。
 僕に何かと意味深な問いかけをしてくるのも、気になる。彼女には、何かがあるような気がする。
 犯人ではない……そうだが、心の底から信じることはできない。
 しかし、彼女が犯人だと仮定したとして、彼女の目的は何か別のところにあるような気がする。
 殺人は、何かのためのカモフラージュ……? 何にせよ、色々と怪しいことには変わりない。



――小倉先輩……。
 僕はこの人に、得体の知れない恐怖を抱いている。
 何だか、全てを見透かしているような言動が、妙に気になる。
 何かを知っている……それが今回の事件に関係しているのかどうかは分からないが。
 でも、僕の直感を信じるとするならば、この人は紛れもなく「黒」だ。
 僕の全身が、拒絶信号を発しているのだから……。



 ここまで考えて、僕は思う。
 そもそも、今回の事件に関わっている人物たち全員に、何かしら不可解な雰囲気を僕は感じ取っている。
 誰もが何かを隠しているような、何かを抱えているような、そんな異様な空気が流れてる。


――誰 も が 
 を つ い て い る


 僕は一体、何を信じればいいのだろうか……。





「さあ、早く私たちも出発しよう」
 吉野さんの言葉に、はっと我に返る。

 そうだ。
 今はもう、先に進むしかないんだ。
 たとえ誰も信じられなくても、今はこの現実を信じるしか……。


























「麻衣……いないわね」
「それらしい所も、見つからないし……」

 麻衣を捜し始めて、どのくらいの時間が経っただろうか。一向に見つかる気配は無い。
 僕らの会話も、段々と少なくなり、焦りの色が見え始める。
 小倉先輩は、終始無言を決め込んでいるし、津久井さんと吉野さんは話し続けている。
 不安を紛らわせるため……というのが、痛いほど伝わってくる。

 僕は、何気なく携帯を取り出す。
 相変わらず圏外。

 意味も無く、メールボックスを開く。
 先頭は死神からのメール。
 このメールは、一体何を示しているのだろうか。
 死神は味方なのか、敵なのか。僕にはよく分からなかった。
 溜め息をついて、携帯を閉じた瞬間
「きゃああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
「!?」
「きゃあっ!」
「やぁぁっ!!」

 遠くから、悲鳴が聞こえた。それに驚いた津久井さんと吉野さんが、壁にしがみつく。
 この悲鳴は……岸谷さん?
 僕が、様子を見に行こうと駆け出す寸前、津久井さんと吉野さんの焦った声が聞こえる。

「えっ!? ちょっ、何これ!!」
「嘘っ! え! うわわわわっ!!」

――ガラガラガラ

「どうした!?……って、何だこれ……」
「まさか……こんな隠し部屋があったとはな……」
「「あいたたたた……」」

 女性陣二人が寄りかかった弾みで、壁が奥へと動いたのだ。
 どうやら、奥は空洞が続いているようだ。
 何かが隠されている……?

「あ!? そう言えば今の悲鳴……」
 僕が意識を悲鳴に戻すと、遠くから声が聞こえてくる。

「今の悲鳴は、ユリエが虫に驚いただけですからーーーー!!!!」
「うわぁぁん!! ごめんなさーーーーーーーーーーいっ」


「……良かった」
 僕たちはほっと胸を撫で下ろすと同時に、この壁の奥に思いを馳せる。
 きっと、重大な何かが眠っているに違いない。
 この先に進むしか、それを見つけることは出来ない。

 小倉先輩に視線を送ると、無言で頷く。
 やるしかない。
 僕は懐中電灯を握る手に力を込める。
「……僕が、見てきます」
「え!? 一人で行くの?」
 津久井さんが驚きの声を上げる。吉野さんも、不安げな瞳を向けてきた。
 でも、何があるか分からないこそ、一人の方が逆に安全なのだ。
 女性陣を引き連れて、もし犯人と遭遇してしまったら……こんな暗闇の中で、女性を守りながら闘うのははっきり言って難しい。
 小倉先輩と二人で行くわけにもいかないし、ここは別れるべきだ。
「うん。三人はここで、入り口付近を見張っていてほしいんだ」
「でも……」
 渋る津久井さんに、小倉先輩が静かに言った。
「北林の言うとおりにしよう。お前たちがついていったら逆に足手まといになりかねない。ここも固めるのも、大事な役目だ」
「……分かりました」
 先輩の言葉に、津久井さんも納得したようだ。
「ありがとうございます……」
 僕は軽く頭を下げると、そのまま暗闇へと足を踏み出す。
 入り口から既に、黴臭い臭気が漂っている。
「北林君……気を付けて」
 吉野さんの言葉に、僕は振り返らずに答えた。
「…………神のご加護が、あればいいんだけどね……」



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