小さい時、よく探検ごっこってしなかった?
見知らぬ世界に、少しの不安と、大きな期待を抱いて……。
今回はその逆。
大きな不安と、小さな期待を僕らは抱いてる。
暗闇探検隊、再び
「堀ノ内さん、吉野さん、吉文、一緒に行こう」
僕は悩んだ末に、この三人と一緒に行こうと決めた。この分け方が、一番いいと思ったからだ。
「よし! そうと決まれば早く捜しに行こうぜ」
「そうだね。早く行こう」
「麻衣ちゃん見つけなきゃね」
三人は僕と一緒に行く事に、同意してくれたようだ。
他のみんなも何ら不満はないらしく、「じゃあ早速別れて捜そう」ということになった。みんな気合は充分なようだ。
しかし、僕はここで「本当にこのメンバーでいいのか?」という不安に駆られ始めた。
それは、ただ僕自身が危ないという不安ではなく、むしろ一緒に行かない他のメンバー達が平気だろうか? ということだった。
僕が目を離して平気だろうか……。(いや、むしろお前がいない方が安全だ)
この中に犯人がいる。その犯人と行動をする事はとても危険だ。(お前と行動するほうが危険だ)
犯人はまだ殺人を繰り返すかもしれない。
そう考えると、やっぱり別れて捜す事は危険すぎる。少なくともみんな一緒にいれば、犯人も迂闊には手を出せないはずだ。
僕はそう思ったが、これにも問題があることに気付いた。
それは、犯人が麻衣捜索の邪魔をするのでは? ということだ。
麻衣はおそらくこの宿のどこかにいるだろう。
宿はあの時、完全に密室に近い状態だった。犯人は少なくとも、麻衣達を襲った後暫くは、宿の中にいたはずだ。
外に出たとしたら、それは僕達が佐竹達を追っていた時に、どさくさに紛れて出ていったと考えられる。
唯一外へ出られる玄関は、内側から鍵がかかっていたし、宴会場の窓も、あの時は鍵を外して外へ出た。やはり誰も外へ出た形跡がないんだ。
(……でもまてよ? もし犯人が人間じゃなくて、妖怪とか幽霊とか怪物の類だったら?)
僕は心の中で神に祈りながら思う。
そんなん絶望的じゃないか!! 僕達は間違いなく皆殺しだ! みんなで仲良く天国ツアーだよ。それも永久滞在……。
それからの僕の空想は留まるところを知らなかった。
僕の頭の中ではいつの間にか犯人は「地球を脅かす凶悪怪人」になっていた。
それか、やっぱり「トイレの華子さん」か!?(やっぱり漢字変換が間違ってる気が……)
はたまたあれか!? 井戸から上がってくるあれか!? 「来ーる、きっと来るー」が来ちゃうのか!?
そんな論争が頭の中を駆け巡っていた。今のところ、トイレの華子説が有力だ。
「義高? 早く行こうぜ。他の連中はみんな行っちまったよ」
「――えっ」
僕は吉文の言葉に目を見開いた。それはもう「カッ」と。スニッカーズのCMの吸血鬼の様に(古いネタで、分からない方ごめんなさい)
(先に――行った!? ちょい待ちっ!!)
「嘘っ!? みなさんちょい待ちっ……」
僕がみんなを「天沢聖司(耳を澄ませばより)」っぽく止めようとすると、吉野さんがそれを諭した。
「吉野さん!」
僕の、やるせないといった表情を見た彼女は微笑みながら言った。
何故微笑んでいるのか、僕には分からない……正直怖かった。
「みんなは平気よ。あんなに大勢の中で犯人が何かできるわけがないもの。それに……」
ここまで言って彼女は、何故か口を噤んだ。
(それに?)
僕は続きの言葉が気になり彼女に聞き返した。
が、彼女は「何でもない」とだけ告げ、傍にいた吉文に同意を求めるように、しかし、冷ややかに言った。
「みんなはきっと平気よね?」
「あ、ああ……少なくとも今はな」
吉文の答えに、吉野さんは何ともいえない表情を浮かべた。
それは落胆しているようで、でも深く納得している、そんな表情だった。彼女は吉文の言葉に期待をしていたのかもしれない。
それを、黙って見ている堀之内さん。彼女も、何か言いたげだが、口を開くことはしなかった。
――絶対平気だ――
そんな言葉が欲しかったのかもしれない。いずれにせよ、僕が知ることはできないのだが……。
「まあでも今は安全なのよ。私の勘ではね」
「……」
僕の不安が消える事は無かったが、やはりここはこのまま行動するしかないと思い、運を天に祈った。
どうかこのまま何も起こらず、無事に麻衣を助け出せますように、と。
「じゃあ僕達も行こうか」
こうして僕らは、みんなが向かったのとは逆方向、堀ノ内、須山ペアが捜した方に向かう事となった。
麻衣が見つかる期待と、犯人に対する不安と恐怖を併せ持ちながら……。
四人で歩く廊下は、何だか最初に来た時とは違って見えた。
暗いせいもあるだろうが、それよりも、もっと何か「オーラ」のようなものが変わってしまっている風に思えるのだ。
「義高」
不意に呼ばれ振り返ると、吉文がボソッと言った。
「さっきの吉野の言葉……あれの意味、分かったか?」
僕は吉文が何故そんなことを聞くのか分からなかった。
僕が戸惑っていると、吉文は大きく溜め息をつき、遠くを見つめている。そして呟くように言った。
「あれはな、お前がさっき『お互い監視しあおう』って言っただろ。だからみんなそれを実行するから平気だ、っていう意味なんだよ。
俺には分かる、アイツの気持ちが。お前には分からないかもしれないけど、でもやっぱり俺たちには、この中に犯人がいるかもしれないことが、すごいショックなんだよ……」
そして、歩調を速め、僕から遠ざかっていった。
「……義高君、気を悪くしないでね? アイツも、結構いっぱいいっぱいみたいだから……」
堀之内さんが、フォローをしてくれたが、そんな彼女もまた同じことを思っているのだろう。
僕は何も言えなかった。
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