僕は、暗い廊下を歩きながら一人考えていた。
犯人は誰なのか?
一人なのか、二人なのか、あるいは複数人なのか……。
どちらにしても、この桜山荘に犯人がいる事は間違いない。
玄関は内側から鍵が掛かっていたから、外に逃げたとは考えにくい。
縁側から逃げたと思うかもしれないが、犯行が行われた時刻、あの場所には僕たちがいたんだ。誰にも気付かれずに出て行くなんて無理だ。
じゃあ、二階はどうだろうか?
いや……どう考えても飛び降りたりするのは不可能だし(高さ的に)まして、益子君の部屋の窓は鍵が掛かっていた。やっぱり、犯人は外には出られないはずだ。
(やっぱり犯人はこの旅館の中にいる!)
僕はそう確信すると、更に足を速めた。奥にいるであろう、何者かに注意を払いながら……
廊下も半ば近くになった頃、何かが廊下の奥のほうで動いた気がした。
(やはり何かいる!!)
僕は懐中電灯を強く握りなおすと、奥へ光を向けた。
「誰か……いるのか?」
返答はない。
しかし、明らかに気配がする。
僕は震えながら先に足を進めた。
こんな時、やはり麻衣がいてくれたら……と、しみじみと思う。
こんな事態に立ち会ったことなんて今まで一度もなかったのだ。正直どうしたらいいのか、分かりかねる……。
気付けば廊下の端が見える。
もうかなり進んできたようだった。
しかし、何者かの姿を見る事はできなかった。
僕はもう一度辺りを見渡すために、懐中電灯を回そうとした……が、何と、僕は勢い余って落としてしまったのだ。嫌な高い音が廊下に響いた……
(やばい……壊れた……!)
僕は全身の血の気が引いていく音を聞いた。足元には、無惨にも飛び散った懐中電灯の破片が落ちていた。僕は馬鹿だ。
こうして唯一の明かりは消え、僕はもう進むしかなくなった。今では横の壁が辛うじて分かる程度だ。僕は壁に手を当てながら一歩一歩進んでいった。
しばらく進んだ時、僕の手は何か生暖かいモノに触れた。
「ん?……――ひっ、うわぁっ!!?」
僕は自分の手の平を見て、思わず叫んだ。
手には血が、べっとりと付いていたのだ……臭いで分かる。
驚いた僕は壁から離れ、一目散に廊下の端目指して走った。
――怖いっ
今の僕を支配していたのは、恐怖以外の何物でもなかった。
たぶん顔は恐怖漫画もびっくり☆な顔、もちろん劇画タッチだったに違いない……
「はあっ、はあっ……」
――端が見える
「はあっ、はあっ、はあっ」
――少し明かりも見える
もうすぐ、もうすぐ……
僕は走った。
先を目指して……
「明かりが……見えっ……」
――見えた!
そう思った瞬間、僕は廊下に人が倒れている事に気付いた。
「!? 誰だっ!!?」
僕は慌てて駆け寄った。
そしてその人物に驚愕した。
「っ……つ、津久井さん!?」
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