「泣ける話だな〜っ!!」

「でしょ〜!」

僕は涙を流しながら麻衣の話を聞いていた。ハンカチは涙と鼻水でぐちょぐちょだ。

麻衣の話は鎌倉時代の悲恋だった。主人公は源頼朝の娘で大姫という姫。お相手は、木曾義仲の息子で義高というらしい。僕と同名!






 簡単にあらすじを説明すると、政略結婚という名の下、出会った幼い二人。

 思慮深く聡明な義高は、最初は大姫にも警戒心を顕にしていたが、次第に心を開き打ち解け、やがて二人はお互いに心惹かれていく存在となる。

 木曾義仲を裏切らせないように、人質として義高は鎌倉に送り込まれてきていたわけだ。

 確か義仲は頼朝の弟…? あれ、従兄弟だっけ? あれあれ?? 
 
 まあ、それは置いておいて、とにかく二人は幼いながらに愛し合ったわけだよ。

 しかし、戦乱の世。ついに頼朝を裏切った義仲が、討たれてしまう! 

 残った義高はどうなるか? ……想像通り、処刑されてしまうのだよ。

 幼い(まだ14歳? 大姫10歳?……若っ!)子供を殺めるなんて、なんて非道なんだ! と叫びたくなるが、頼朝もまた義高と同じような目に遭い、逃がされ、そして仇討ちを遂げたという経歴を持つため、義高がいつか仇討ちに来ることを恐れての決断であったそうだ。何て酷い……(涙)

 で、結局は、義高が死んだショックで、大姫もまた衰弱死してしまうという悲恋。

 でも僕は、北条政子は怖い女だと勝手に想像していたが、かなり良い人だった(この話では)

 頼朝は酷いけれど、この時代仕方なかったのかもしれないな……。






 それにしても義高、お前格好よすぎだよ! 大姫、健気すぎ! 二人ともまじ好きだぜ! ラヴィングユー!!(意味不明)

 やっぱ名前は義高に限るよなぁ!!(果てしなくどうでもいい)

 ていうか僕、さっきから一体誰に向かってあらすじ説明していたんだろう……。ま、いっか。






 僕らは感動しながらやっと別館にたどり着いた。いやー長い道のりだった。

「ひえ〜。だいぶ日が暮れちゃったねぇ」

「本当にな〜……」

時刻は丁度五時半を回ったところである。ちょっと遅くなっちゃったかな。

そんなことを考えているとふいに麻衣が言った。

「ねえ、義高はなんで桜山荘にいくの?」

「えっ?」

――どきぃっ!! 

僕はげろりと心臓を吐きそうになった。

やばい! なんて言えばいいんだ! まさか殺人が起こりそうなんて言えないし……ああでも言わなかったらそれはそれでかなり怪しいよな〜! あぁーーーっっ!!

その時だった。

『ああーっ、麻衣―っ!! 何してんのー!!?』

僕は一瞬唖然とした。が、どうやら麻衣の関心は移ったようでほっとした。しかし一体誰だ??

「あのね――」

麻衣が何か言おうとしていたが、怒鳴り声の彼女は僕の前にやって来た。そして……

「あのぉ! 私、津久井 萌って言います

なんと逆ナンされてしまったのだ。僕は当惑した。

「えっ、あっ、あの……?」

そんなこんなしていると次々と女の子が僕の所へやって来た。そして口々に僕に質問してくる。うわー目が回る……! 麻衣〜ヘルプミー!!

「みんなやめてよ! この人はね……」

麻衣が何とか彼女たちを僕から離してくれた。ふう……モテる男は辛いね。

麻衣が僕を紹介していた時、僕は既に一人で桜山荘に行くつもりだった。これ以上誰かに勘付かれては困るし、誰も事件に巻き込みたくなかった。

 心細くないといったら嘘になるが誰かが危ない目にあったりする方がよっぽど嫌だった。

そして決心した僕は言った。

「もういいんだ。わざわざありがとう」

「え?」

当然麻衣は困惑している。でももう決めたんだ。そして最後に「本当にありがとな。同窓会楽しめよ」と言い残して僕は去った。

 麻衣のことは忘れない。また会える気がするし、今度会えたら本当にパートナーの話を持ちかけてみようか。僕も清水冠者物語読んでみよう!

僕は夕日を背に、遠くなっていく麻衣達を振り返り微笑んだ。









そして一時間後……。

「あれ〜おかしいな? さっきも通ったぞ、ここ」

一向に着く気配のない義高に未来はあるのか!?

 義高の方向音痴は既に世界ギネス級になっていた……。



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