僕はまだ道に迷い続けていた。
一体ここはどこなんだろう。もう随分歩いたぞ。しかし一向に着く気配はない。
「まいったな〜」
今日何回目のセリフだろう。やっぱりさっきあのままちゃんと案内してもらえば良かったかな……。
ここまで思って僕は頭を振った。
いや、誰も巻き込まないって決めたんだ。あれで良かったんだ……そう思い直した。
僕はもう一度地図を見た。確かに、麻衣が言ってた通り別館の方しか記されていない。
一体何でなんだ? 普通は本館が書いてあるだろーが! ふざけんのもいい加減にしろよ!!(お前がな)
時刻は既に六時十五分を指していた。
「がーっ! どーすりゃいいんだよーっ!!!」
僕は既に我を見失っていた。辺りに生えている草木を無我夢中でむしりまくった。木にぶら下がったり、穴を掘ってみたり、踊ったり回ったりもした。そうそう、遠吠えもしたんだった。しかし何も起こらない(当たり前だろ)
「もう駄目だ……。死んでしまう!!」
そう思った矢先だった。
――ちゃららーん、ちゃららららーらん(ベートーベンの運命)
なんと、僕の携帯が鳴ったのだ。見るとメールが届いたようだ。
僕は早速メールを見た。しかし、このメールの送信者は不明だ。
僕は少し怖くなったが今は気を紛らわすためにも読むしかなかった。僕はボタンを押した。
メールの内容はこんなものだった。
『――彷徨える愚人へ
君が今どこにいるかはだいたい想像がつくが、君は私が誰かは分からないだろう。私は・・・そうだな、死神とでも名乗っておこうか。
義高君。君に一つのヒントをあげよう。桜山荘の歴史を調べてごらん。そうすれば謎は一つ解けるだろう。
君にはまだまだやるべきことがある。今言える事はそれだけだ。健闘を祈る。
一つ忠告しておこう。君が信頼している者の行動は信じた方が良い。』
「はあっ!?」
僕は叫んだ。
愚人だと!? おまけに死神だって? 一体何なんだ? てか誰だよオイ!!
でも……
――桜山荘――
なんでコイツそんなこと知っているんだ?
まさか……
僕はあの電話を思い出した。
まさかあの電話の奴がこのメールを? 歴史って何だ? 調べるってどうやって? くそっ……僕は一体どうすれば……
そんな時である。
「そこのお若いの。団子はいらんかね?」
「え?」
そこには一人の老婆が屋台を開いていた。その時初めて僕は、山の麓近くまで戻ってきてしまっている事に気付いた。結構歩いたと思ったが、まさか逆歩していたとは……。恐るべし、僕の方向音痴。
(でも……行きにこんな店あったっけ?)
でもあまり気にしていてもしょうがないので、僕は取りあえず団子を食べる事にした。(食べるのか)
「あっ、じゃあ一本ください」
「あいよ」
僕は団子を食べながらふと思った。もしかしてこの人なら、桜山荘の歴史とか知っているんじゃないかと。僕は早速質問してみた。
「あの、桜山荘ってご存知ですか?」
すると老婆はゆっくりと答えた。
「ああ知ってるよ。ここら辺であそこを知らない奴なんかいやしないよ」
よし! 脈アリだ。この人ならきっと古くからのここら辺を知っているだろう。神よ、やっと僕の苦労が報われる時が来ました! アーメン……。僕は続けた。
「あの、桜山荘についてお聞きしたい事があるんですが」
「なんだい?」
老婆は団子を焼きながら言った。
「桜山荘っていつごろできたものなんですか?」
「たしか……戦後間もない頃だったかねぇ」
戦後間もない……か、これは相当古いよな。僕は警察手帳にメモしながらどんどん質問していった。
「女将は何代目くらいですかね?」
「七代目……かの」
「別館はいつ作られたのですか?」
「別館? ああ、あれが本館なんじゃよ」
「えっ?!」
僕は驚愕した。(もちろん顔は劇画タッチ)
別館が本館?
どういうことだ?
わけがわからない!
老婆は落ち着いて続ける。
「いや、正確には本館だったんじゃ。桜山荘は有名になったからのう、新しく立て直したのじゃ」
「それが今の本館というわけですね?」
「そういうことじゃ」
そうか……昔は別館の方が使用されていたというわけだな。メモ必須だ。
老婆はまだ続ける。
「昔の地図なんかにはまだ、本館の方が載っていないことも多いんじゃよ」
「別館しか……のっていない?!」
まさか!
僕は慌てて自分の地図を見る。
「やっぱり……。この地図は古いやつだ」
(今ごろ気付くなんて)
村の名前等、現在は使われていない名称で書かれている。
じゃあもしかして……あの電話で言ってた桜山荘って、麻衣達が今いる別館のことだったのか!? 人が死ぬって言うのも麻衣達のことなのか!? そんな!!
僕は自分が青ざめているのがわかった。どうしよう……こんな所で油売ってる場合じゃない!
「おばあさん! これお金!! ご馳走様っ」
僕はお金を置くと一目散に山へと引き返そうとした。が……
「ちょっとお待ち。あんたに一つ聞きたいことがあるんじゃ」
老婆が突然言った。僕は早く戻りたかったが、さっき山ほど質問しておいて自分だけ答えないのは悪いと思い、立ち止まる。
「何ですか?」
僕が聞くと老婆は不思議な事を聞いてきた。
「いや……ただの戯言なんじゃがね。あんたとあんたの友人が二人でジュースを飲もうとしたとする。さあ、この時二人はどうすれば不公平なくジュースを分ける事ができるだろうか?それを答えてほしいのじゃ」
「はあ……?」
僕は心の中で思う。
(一体何なんだよ!? こんな変な問題だしやがって!! こっちは時間ねえんだよ! くそババア!!)
でも……なんか気になるこの問題。
頭の体操か? ジュースを分ける? 公平に……。
「お婆さん……こんなの聞いてどうすんの? υυ」
「ほっほっほ……あんたを試したいだけじゃよ」
「あのね〜……」
僕は考えていた。
ふたりで公平に分ける方法。それはどちらも文句が言えない上、ズルのしようがない方法。そんな方法があるのだろうか?
僕の脳裏には二つのコップと一つのジュースが浮かんだ。
何か閃いた?
そして僕は……
A,「分かった!! あの方法を使えばいいんだ!!」
B,「あー……全く思いつかない……」