保健室に入ると、そこは異様な空気が漂っていた。
結界だろうか。一つのベッドを覆いつくすように、空間の至る所に魔法陣が浮かび上がっている。
真っ白だったはずのベッドは、所々焦げ付いて、くすみを帯びている。
そして、そのベッドに身を投げ出しながら、炎に囲まれている人物の姿に私は息を呑んだ。
「か、薫ちゃん……!」
思わず駆け寄ろうとすると、強く腕を引かれる。
「行くなっ!」
「で、でもっ……!」
「今近付いたら、お前も宮田も死ぬ」
その時、私たちに気付いたらしい薫ちゃんが、視線だけをこちらに向けた。
「薫ちゃんっ!」
「……フフフっ、ヒヒヒっ……ヒャははははははっ!! …キミ………キミは…だれ……?」
「っ!?」
「クククっ……オレが怖いの? ねえ? あははははっ、ひひひひっ……あーはははははははっ!!」
見開かれた瞳は、狂気を孕み爛々と輝いていて。
本能的に恐怖を感じた身体は、一歩後ずさってしまった。
――――え……? か、薫ちゃんが……壊れた? う、嘘……そんな……まさか…………(llllll゜Д゜)
「これは……」
静の問いかけに、先生は無表情のまま呟く。
「……強過ぎる力は、時にその身を滅ぼす。まして、他人から奪った力なんて、そう易々と使いこなせるものじゃない。……限界だったんだ、もう」
「せ……先生……それって、どういう……」
先生の綺麗な顔が歪んだ。
「宮田の精神は……壊れたんだ」
「ひっ…………」
息が出来ない。
これは夢だろうか。
夢だとしたら、酷い悪夢だ。
「ひゃはははははっ、もっともっと! さあ、燃えろ燃えろぉっ! あーっはははははっ!! 綺麗だなぁ……!」
「う……そ…………だって……そんな…………」
震えが止まらない。
眩暈がして、立っていられないくらい気持ち悪い。
「……これが…………禁忌を犯した代償なのか」
静の言葉を聞いた瞬間、全ての臓腑が引き攣れた。
――――ワ タ シ ノ セ イ ダ
「っ……うぐっ……おえっ……げほっごほっ……」
「!?」
吐き気と悪寒で、目の前がぐるぐると渦を巻く。
膝から崩れ落ちた先には、絶望が広がっている。
「わっ、わたしっ……私が……わたしのせいでっ……かおる……ちゃんが……」
「違う、お前のせいじゃない!」
薫ちゃんを、壊してしまった。
あの無邪気で明るい笑顔を、私が奪った。
私が、薫ちゃんを追い詰めて……狂わせた。
「私がっ……私がぁっ! ……ぐぇっ……かはっ……かお、かおるちゃっ……かおるちゃん……!」
「っ! 落ち着いて!」
こんな結果になると、分かっていれば……いや、これはただの言い訳だ。
弱い私が招いた、当然の結末だったのだ。
「うっ……うぇっ……かおるちゃんっ……ごめ、ごめんなさっ……」
這い蹲るようにして薫ちゃんへ手を伸ばす。
しかし、薫ちゃんは何も見えていないように、ただ笑い続けている。
「ああ、イイ気分だなぁっ! ひゃはははっ、真っ赤真っ赤!! もっと燃えろ……全てを焼き尽くせばいいんだ……あははははっ!」
「あ……あぁ……薫ちゃん……薫ちゃぁああああん……!!」
薄れゆく意識の中、薫ちゃんの狂ったような笑い声だけが、脳内に木霊していた――――
――――ぎょえーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! んがっ! 痛いっ!(脛をぶつけた!)
お、重すぎる……!!(´Д`;) 何か、オーナーと普通のカっプルごっこ?やってたのとか、夢だったんじゃないかってくらいに恐怖のどん底に堕ちたんですが!!!!(llllll゜Д゜)
薫ちゃんがまさかの精神崩壊とか!!。・゚・(ノД`)・゚・。 死ぬほどつらいんですけど!! これは想像してなかった……。だって、薫ちゃんだよ? これ、製作陣酷過ぎるでしょ! 声優さんの演技が上手過ぎて、薫ちゃんの壊れっぷりがぱねえ!!
ていうか、いくらPCゲームだからって、これならいっそのこと18禁として出した方が良かったんじゃないの?
それにしても、主人公……可哀想だな……これ、ホントこの先どうなるんだろう……。もうBADエンドの予感しか無いんだけど……うう、進めるのが怖い!
あの後、気付いたのは病院のベッドの上だった。
目を開けると、涙を浮かべたお母さんとお父さんがいた。
どうやら、楓先生が病院まで運んでくれたようだった。
「……」
両親の顔も、まともに見れない。
誰とも話したくない。
そんな時、病室の扉がノックされる。
「失礼します。西之園です」
「あ、先生」
楓先生だった。
「……お嬢さんの様子は……、ああ、目が覚めたんだな」
先生の眉が少し下がる。
「はい、今さっき起きたばかりで……西之園先生には色々ご迷惑をお掛けしてしまって本当にすみません」
「いえ、とんでもない。生徒の体調には常に気を配らなくてはならないのに……私の責任です。申し訳ありません」
頭を下げる先生に、両親はオロオロするばかりだった。
「、お母さんたち、ちょっと飲み物を買ってくるわね」
「……」
両親が出て行った病室で、先生と二人きりになる。
私は身体をベっドから起こし、先生を見つめた。
まるでそれが合図だったかのように、先生が一歩近付いた。
「……体調は……大丈夫か?」
無言のまま頷く。
「そうか……良かった」
先生は病室の窓に向かい、軽くブラインドを引く。
ブラインドの隙間から、月の光が差し込んでくる。
……もう、夜なんだ。
「私……テスト……」
「大丈夫だ。来週、追試をしてもらえるよう俺から頼んでおいた。心配するな」
「そう……なんですか。ありがとう……先生」
本当はテストなんて、どうだって良かった。
ただ、他の話をしたくなかっただけだ。
楓先生はそれを分かっているのか、何も言わない。
ただ、病室に置かれた時計の秒針の音が、静かに響いている。
「……すまない」
沈黙を破ったのは先生だった。
先生は俯いたまま、謝罪の言葉を繰り返す。
「……昨日、あの後……意識を取り戻した後から、ずっとああなんだ。家に連れて帰ることも出来なくて、まほアカに連れてきちまったが……お前たちに、会わせるべきじゃなかった。あんな状態のアイツに会わせたら、こうなることは分かっていたはずだったのに……本当に、すまない」
「…………薫ちゃんは、もう、ずっとあのまま……?」
「それは……」
先生が拳を握りしめた。
「……分からない。アイツが、自分の心と向き合うことが出来たなら、或いは……」
悲痛な表情を浮かべる先生を前に私は……
1、自分を責める
2、先生を責める
3、(……私に出来ることは)
――――こ、ここで選択肢!! 何ていうか、どれを選んでもBADなのかなぁ……(;´∩`) うーん、先生は全然悪くないと思うし、主人公だって悪くないよね!? 誰が悪いとか無いっていうか……ということは、3なのかな? でも、私に出来ることって……? 一個だけ独白の選択肢っていうのも、何となく怖いような……でも……まあいいか。一旦セーブして……と。はい、じゃあ一番有り得ないであろう「2」をぽちっ! こうなったら、先にBADエンド回収よ!! さよなら楓ちゃん!!
「……のせいだ」
「……」
「……先生が……先生が、悪いんだ……! 先生がっ……」
先生が悪い。
……本当はそんなこと、思ってない。
思ってないのに……誰かのせいにしないといられなかった。
優しい先生に八つ当たりするしか、自分を守れない。
一人で背負うなんて……あまりにも罪が大きすぎて、私には耐えられない。
「先生言ったじゃない! 助けてやるって! なのに、何で……! どうしてもっと早くに……もっと強く、無理矢理でも私たちを止めてくれなかったの!」
「すまない……すまない、っ……」
「先生のせいよ……っ……先生が、私たちを……先生が……先生のせいでっ……」
「ああ、俺のせいだ……。俺が、お前たちを止めてやれなかった……俺の、せいだ…………」
「うぇっ……ううっ……」
「……本当に、すまない……すまない……」
「先生っ……先生っ……」
先生は、しゃくりあげる私の背中をさすってくれた。
先生に触れられたところが、ほおっと温かくなっていく。
「先生……せんせ……」
背中が温かい。
全身が真綿で包まれているかのように、ふわふわする。
「…………すまない……本当に……すまない……」
楓先生の声が、段々遠くなっていく。
もう、自分が起きているのか、寝ているのか、それすらも曖昧になっていく。
気持ちいい。
あたたかい。
まるで、楓先生に抱き締められているみたいだ。
「……こうなることが分かっていても……結局俺は、何もしてやれなかった。また、前と同じことを繰り返して……俺は本当に、どうしようもない、クズ野郎だ……っ……」
先生が泣いているような気がする。
「……先生、ごめんなさい…………」
「っ…………」
「傷付けて……ごめんなさい……。先生のせいじゃ、ないのに…………ごめんなさい……」
「お前のせいじゃない……お前は悪くない……」
先生の温かさが、私の心を満たしていく。
だからだろうか。
さっきまでの、どうしようもなく不安な気持ちが少し薄れてくる。
「楓……ちゃん…………楓ちゃんがいてくれて……良かった…………」
そう呟いた瞬間、抱き寄せられた腕の力が強まった。
「っ…………っ」
先生の力が、私の身体の中に入り込んでくる。
それは、穏やかとは言い難い熱量を孕んでいて……少し寒気すら感じる程だった。
「……どちらかしか選べないのなら……俺は………………」
「……先生……――――」
意識を手放す直前に見た楓先生の瞳は、とても綺麗で……どこか、陰りを帯びていた。
――――……もう、辛い展開しか見えなくて辛い。・゚・(ノД`)・゚・。 楓ちゃんはクズじゃないです!! 楓ちゃんはカッコイイよ!!(とりあえず現実逃避)
「おはよう! 楓ちゃん」
「おう、おはよう。お前は今日も、元気だな」
日課となりつつある、保健室への朝の挨拶。
楓先生は今日もまた、笑顔で私を迎えてくれた。
先生の笑顔は、いつでも私の心を温かくしてくれる。
「ほら、今日のは楓先生特製、スペシャルブレンドティーだ。美容と健康にいいぞ。さあ飲め」
「わぁい、ありがとう」
先生は毎朝こうして、訪ねてきた私にお茶を淹れてくれる。
保険医だけあって、薬草に精通している先生は、お茶にもとても詳しかった。そして、こうやってよく、自分でブレンドしたお茶を飲ませてくれるのだ。
「ん……良い香り。何だかすごい、落ち着きます」
「そうか……この茶葉には、心を落ち着かせる効果があるんだよ。まあ、あんまり朝には向かないんだが、元気過ぎるお前には、丁度いいだろ」
「むっ。何かムカつく」
「はは、むくれんなって。ほら、飲め飲め」
「はぁい……。でも、こうしてると、数か月前を思い出すなぁ」
数ヶ月前、テスト期間中に度々体調を壊した私を、楓先生は気に掛けてくれた。
テスト最終日なんて、朝来てすぐに気分が悪くなって、そのまま病院へ搬送されてしまった。
その後しばらくは、体調が戻らなくて、保健室登校気味になってしまった私を、楓先生は優しく介抱してくれたのだ。
周りからは、慣れない環境と勉強のし過ぎによるストレス……だなんて言われたけど、私ってそんなに柔だったのだろうかと、ふと首を傾げたくなったものだ。
でも、そんな私を知ってか知らずか、先生は、ただ静かに、優しく、私を見守ってくれた。そのうち、体調は快復して、最早保健室に行く必要は無くなったのだけど……先生の傍が心地よくて、こうして毎日通ってしまっている。
「あの時も、こうやって毎日……お茶、飲ませてくれたよね」
「ああ、そうだな……」
「ふふっ……先生の傍にいると私……何だか、不安なことや辛いことも、消えていくような気になって……それで………………」
――――ずきり
「っ……!!」
こめかみに鋭い痛みが走る。
頭に細い針でも刺されたかのように、身体が痛みで硬直する。
「! !? おい、大丈夫か!?」
「う……ん……大丈夫……」
「頭……痛むのか?」
「う……ん……」
時々、こうして頭が猛烈に痛むことがある。
どうしてだろう。
数ヶ月前のことを考えると決まって、こんな風に頭痛が起きる。
だから、出来る限り考えないようにしていたのに……今日はついうっかり考えてしまった。
眉をしかめて見上げると、心配そうに私を見つめる先生と目が合った。
先生は、私のおでこにそっと手を翳す。
――――わぁっ、スチル!! 楓ちゃんがおでこ触ってるスチル!!!
「……だから、もう考えるなって言っただろう? 辛いことを無理に思い出すのは、身体に負担がかかるもんだ」
……辛いことって何だろう。
考えようとすると、頭が痛む。
何かを思い出せそうな気がするのに、私の身体と心が、それを拒んでいるかのようだ。
「楓先生……私は…………」
「……もう、忘れちまえ。嫌なことや悲しいことは、全部……」
額に翳されていた手が、静かに私の瞼を覆う。
――――うあわわっ! 手が瞳の位置に移動した!! め、目隠し萌える……!!
まるで私の瞳にベールを掛けるように。
私の心の何かを、閉じ込めるように。
そうだ……私には先生がいてくれる。
先生がいてくれるなら、きっともう二度と、怖いことや悲しいことは起こらない。
だから、忘れてしまえばいいんだ。
先生が私を何かから守ってくれているのなら、それを受け入れればいい。
それはきっと、私が望んだことなのだから――――……
「俺がずっと……お前を見守っていてやるからな。ずっと、ずっと……」
――――うギャアァァァァ━━━━━━(゚Д゚|||)━━━━━━!!!!!! 先生、先生っ、瞳の光が消えてます!! 先生が黒化したーーーーー!!!
こうやって毎日、先生は私に鎖をかける。
繰り返し、繰り返し、何度も、何度も。
薄っすらと目を開けた先には、私を見つめる紫苑の瞳。
私のそれよりも深みのある紫色の瞳は、どこまでも優しく、美しく、そして狂っていて。
その瞳の中に映る私も、どこか呆けたように微笑んでいた――――
END.
『---忘却と引き換えに』
――――も、萌える……!!( ゚∀゚)・∵ブハッ!! ヤン過保護キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
これは楓BADになるのかな? 楓ちゃんは、きっと薫ちゃんをどうにかしちゃったのかな。で、主人公の記憶も封じちゃった系? あ、どうしたのかなんて野暮なことは聞かないの☆(?´?`?)てへぺろ
ああ、BADがGOODって感じですよ先生!! 最後、黒い表情で微笑んだのまで見れて、私超満足!! これは楓先生√のBADはさぞ期待できそうですな。
あ、そうそう。私、BADエンド萌えだったりするんだよね実は! だから、こういうちょっと暗いエンドとかもう堪らんです!(誰に言ってる)
でもここまで来て思ったけど、このゲームって薫ちゃん・楓ちゃん√、静・オーナー√って組み合わせみたいだよね。てことは、晋也・野中先生√ってことなのかな? うー、薫ちゃんと楓ちゃんとか、一番接点無いかなーとか思ってたけど、どういう構成になってんのかね、このゲームは!!
さてさて、お次のエンドはどんなかな?
さっきのシーンにジャンプ……と。
悲痛な表情を浮かべる先生を前に私は……
1.自分を責める
2.先生を責める
3.(……私に出来ることは)
――――よし、次は3にしてみようっと! ぽち。
私に出来ること……。
それを考えた時、何でこんなに当たり前なことを忘れてたんだろうと自分を叱責したくなった。
私は薫ちゃんから離れない。
彼を見捨てない。
そう、誓ったじゃないか。
「……?」
訝しげに私を見つめる先生に向けて微笑む。
「……先生……私、もう平気です。ありがとうございます」
「あんまり、無理すんなよ。……また、明日来るな」
「はい、ありがとうございます」
先生が立ち去った病室。
私はブラインドを開けて、窓を開けた。
月の光を目一杯に浴びる。
ドクンと胸が鳴った。
――――……ちゃん……
……薫ちゃんの声が聞こえる。
月光に呼応するように、胸の高鳴りが大きくなる。
それに合わせるように、薫ちゃんの心が流れ込んでくる。
――――ちゃん……来て……早く……オレのところに…………
「薫……ちゃん………」
月のまどろみ、星が瞬く。
夜の帳が、私達を近付ける――――。
私はそのまま、駆け出していた。
――――おーっ、今度は薫ちゃん√!? でもなぁ……これってやっぱりBADなのかな……。
「はあっ……はあっ……」
暗い廊下を、ひたすら駆ける。
その先に見える彼がいる部屋は、暗闇の中薄らと赤く光っていて……まるで浮き上がっているように見える。
「っ……」
扉を開けた先の光景を思い出すと震えが止まらなくなる。
怖い。
でも、迷ってる暇はない。
「薫ちゃ―――――……っ……―――」
扉の向こうの景色に、声を失った。
視界が一瞬で、紅に染まる。
空気さえも焼き尽くす業火に、悲鳴さえも呑み込まれる。
全てが赤で埋め尽くされた世界の中、一際鈍く輝く焔の中で、薫ちゃんは暗い瞳を湛えて佇んでいた。
彼を纏うは禍々しく翅を広げた真っ赤な蝶。
それは薫ちゃんを包み込むようでもあり、薫ちゃんに喰らい付いているようでもある、何とも不気味な様態だった。
「…………ちゃん……?」
薫ちゃんの視線が、私を捉える。
その顔は真っ白で、まるで生気が感じられなかった。
「薫ちゃん……薫ちゃん……」
薫ちゃんに駆け寄ろうとするが、炎に阻まれて近付けない。
「……どうして、ここに来たの? オレに……殺されに来たってわけ?」
薄ら寒い笑みを浮かべながら、薫ちゃんが低く呟いた。
「っ……」
まるで、薫ちゃんじゃないみたいな声に、足が竦む。
こんな低い声……心の底から憎むような声、私は知らない。
怖い。
「……ホント、モノ好きだよね。オレに酷いことされて……あんな狂った姿まで見たって言うのに、それでもオレのところに来るなんて、ホント、どうかしてるよ」
――――ギャアァァァァ━━━━━━(゚Д゚|||)━━━━━━!!!!!! 黒薫降臨!! こんな黒い子だったのか薫ちゃん!!
もう今までみたいな小悪魔って感じじゃなくて、本当に病んだって感じの黒さだね!! た、堪らん……。この黒さ、プライスレス☆(おい)
薫ちゃんの瞳が私を見つめる。
真っ赤な瞳は、今は暗い色を湛えていて……そこに映る私の顔は、恐怖で歪んでいる。
でも……
――――ちゃん……ちゃん……
さっきから、ずっと私の心には薫ちゃんの声が響いている。
薫ちゃんの心の叫びが、苦しみが、私の心に直接届くのだ。
「薫ちゃん……ごめんねっ……ごめん……私が……こんな風になるまで、追い詰めたのね……」
薫ちゃんは吐き捨てるように言う。
「……追い詰めた? は? 何言ってんの。オレが、ちゃんの力を奪って、ちゃんを侵して、力が暴走して……勝手に壊れただけだろ! 変な同情とかやめろよ!!」
炎が私の前を舞い踊る。
これは薫ちゃんの心が具現化したものだと分かる。
熱いのに……とても悲しく、冷たい色をしているから。
手で顔を覆いながら、薫ちゃんは笑い出した。
「あはははっ……本当、笑っちゃうよな……力を手に入れたのに、使いこなせないなんてさ……所詮オレは、他人から力を奪っても何も手に入れられずに……ただ、終わっていくだけなんだって思い知らされた……くくくっ……本当、間抜け過ぎて、情けなくて……本当、どうしようもねえよ……! どうしてっ……オレはこんなクズで……っ…………オレは…………!!」
薫ちゃんは、壊れたように吐き出し続ける。
「今だって、自分を保つので精一杯で! いつまた、壊れるか分からない……くくっ……あはははっ、はははははっ! ああ、もう何もかも嫌だ……。兄貴も、オレと兄貴を比べる奴らも、学校も、友達も、何もかもっ……!」
行き場の無い怒りと悲しみ。
それがこの地獄の業火を更に深く、濃く彩っている。
でも、これが薫ちゃんの本心なのだ。
今まで抑圧されていたものが、全て放出されたものなのだ。
薫ちゃんの叫びが、心に突き刺さって痛い。
「こんなオレの前に……来るなよ…………! オレの前から消えてくれ……! ……お願いっ……だから……っ……!! こんなオレを……見ないでっ……」
――――か、可哀想過ぎる……!!。・゚・(ノД`)・゚・。
見ないでって……そんなの、そんなの「●REC」するに決まってるじゃないか……!!(;´Д`)ハァハァフンフンソウソウ(やめろ)
私のことを、拒否する言葉。
私に縋るような言葉。
狂気と悲哀に満ちた瞳が、私を射抜く。
薫ちゃんを救うために、私が出来ることは……
1.薫に駆け寄る
2.薫に向けて魔法を放つ
――――こ、ここで選択!? どうしよう!! まだ救いの道は残されてるってこと!? うーんうーんうーん……悩む、悩むよぉ(´Д`;)
でも、結局魔法が二人を近付けたり、引き離したりしたんだから、ここはやっぱり魔法で解決!? ええーい、セーブしてまずは2!!
詠唱を唱えようと、息を吸い込んだ瞬間、喉の奥にカッと燃えるような熱さを感じた。
「ひっ!……ぁっ……」
――――あれ……? もしかして、ミスった!?ガ━━Σ(゚Д゚|||)━━ン!!
声が、出なかった。
喉が焼き切れてしまったのだろうか。
喉の奥から、鮮血が吹き出してくる。
喉を震わせても、ただ空気が漏れ出るような、ひゅーひゅーと虚しい音が鳴るだけだった。
「ぐっ……うあぁああぁあああああぁぁぁあぁぁああっ!!!!」
叫び声を上げ、薫ちゃんがその場にうずくまる。
その身体が大きく揺れた瞬間、真っ赤な翅が更に大きく広がって彼に喰い付く。
その光景に圧倒された私は、そのままみっともなく尻もちをついた。
「あ……っ……ぁ…………」
「……ははっ……あはははっ……柚は……オレの……オレのっ…………っ……」
頭の中に、サイレンが鳴り響く。
ここにいては危険だと、本能が叫ぶ。
でも、足がもつれて動かない。
声も出ない。
出来るのはただ、狂った笑みを浮かべながら、私に狙いを定める肉食獣のような彼を、呆然と眺めるだけだ。
「……欲しいんだ……全部……」
嫌だ……!
誰か、助けて……!!
「……オレに全部……食べさせて……」
――――ギャアァァァァ━━━━━━(゚Д゚|||)━━━━━━!!!!!! 薫ちゃんに喰われる……!!
来ないで……やめて……。
恐怖で身体がガタガタと鳴る。
怖い、怖い、怖い――――
尻もちをついたまま、私は彼から後ずさる。
「……そしたらちゃんは……オレだけのモノ…………誰にも、奪われないで済む……ははっ……あはははっ……!」
近付いてくる。真っ赤な蝶が。
私を捕食しようと、禍々しい翅を広げながら。
「逃げないでよ……逃げないで…………逃げるなっ…………逃げるなぁぁああぁああぁっ!!」
――――ギャアァァァァ━━━━━━(゚Д゚|||)━━━━━━!!!!!! 薫ちゃん、怖いよ!!!
「いやぁぁぁああああああああああああっ……――――うぐっ!!」
喉の奥が裂け、血の塊がごぽりと吐き出された。
薫ちゃんの翅が、私を貪るかのように喰らい付いてくる。
「かはっ!……ごほっ、うぐっ……んぐっ……んんっ……」
物凄い力で、身体が締め付けられる。
息を吸おうと口を開くと、薫ちゃんに口の中まで貪られる。
「ふっ……んんっ……ちゃん……好き……好きだっ……!」
ぎりぎり、みしみし。
骨が軋み歪む嫌な音が、身体中から響いてくる。
――――ひぃっ……!! 主人公が……喰われてる…………((((;゚;Д;゚;))))カタカタカタカタカタカタカタカタカタ ちょ、本当にちょまっ……漏らす! 怖すぎて漏らす!!
主人公が薫ちゃんに押し倒されて、キスされながら目を見開いてるスチルとか……!! こんな時じゃなければ萌えるのに!! こんなシーンじゃ、いくら何でも萌えないよ!!
薫ちゃんの顔が影になってて見えないのが、余計に怖い!! でも口許だけ笑ってるし……!!
「ん…っ……っ…ちゃんっ……あはははっ、すご……すごいっ……ちゃんの全部が……オレの中に入ってくる……! ああ、オレ……このまま、逝きそっ……くくっ、あはははっ……」
――――ぐしゃり。
私の身体が潰れたのか、心が壊れたのか。
――――ギャアァァァァ━━━━━━(゚Д゚|||)━━━━━━!!!!!!(llllll゜Д゜)ヒィィィィ しゅ、主人公死んだ……!! 抱き絞殺された……!! 喰い殺された……!!((((;゚;Д;゚;))))カタカタカタカタカタカタカタカタカタ
何というホラー!! 何という猟奇展開!! 怖い……ときまほ怖過ぎるんですけど……!!。・゚・(ノД`)・゚・。
でも……やっぱり薫ちゃん役の声優さん演技上手過ぎる!! 何なのこの18禁展開は!! 猟奇シーンが何かふっつーに色気あり過ぎんですけど!! これはホラーなの!? エロスなの!? もうわけが分からないよ!!
ああ……主人公の瞳が虚ろになってしまった…………(´Д`;)
痛みよりも早く、身体が灼熱の業火に包まれる。
細胞の全てが沸騰して、身体中の血管が破裂したような気がする。
熱い。
痛い。
苦しい。
怖い。
そんな様々な感覚や感情も、やがて分からなくなる。
燃える。
焼ける。
崩れる。
このまま私は、彼の焔の一部になるのだろうか。
肌が焼ける臭いがする。
髪の毛が燃える臭いがする。
気味が悪い。
おぞましい。
「あはははっ………………ぐっ……うっ……ひっ、うっ…ううっ……」
ぽたぽたぽた。
水分なんてとうに蒸発し切った私の頬を、生温かい何かが濡らす。それは、後から後から落ちてきて、私の身体に染み込んでくるようだった。
彼が……泣いているのだろうか。
意識が朦朧として、もう、何も考えられない。
目の前には真っ赤な瞳。
真っ赤な翅。
真っ赤な焔。
全てが赤、紅、朱――――。
「………キミはオレのモノっ……これで、もうっ、オレだけのっ……あははははっ! ひゃはははっ…………ううっ…っ…ひっく……っ……」
――――狂ってる……薫ちゃんが本当に壊れちゃってるよぉ。・゚・(ノД`)・゚・。 笑いながら泣いてる……!? これ、もう本当どうすればいいんだ……orz
私を掻き抱く誰かの狂笑と慟哭が聴こえる。
その人は、狂気に染まった目をギラつかせながら笑っている。
……いや、泣いているのかもしれない。
あゝ狂わないで。
壊れないで。
胸の奥深く、まだ生きている私の心が嘆く。
――――ぽた、ぽた。
心の声に突き動かされるように、最期の力を振り絞り、彼に手を伸ばす。
ぬるり。
生温かいソレに触れた時に、私の世界は絶望という名の紅に染まる。
……私はやっぱり、どこまでも甘かったのだと思い知らされて。
それを最期に私の意識は燃え尽きた。
――――……え? ここで暗転? 終わり? ていうか何で絶望? どういうこと……!? あれ、続いて……
私の頬を濡らしていたもの。
それは、彼が私を貪った時に浴びた、大量の返り血だった――――。
END.
『----紅い涙』
――――ぎょえーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! んがっ! 痛いっ!(脛をぶつけた!(2回目))
こ、これは……慄く……慄くよ!! 戦慄が走るわ!! 薫ちゃんは泣いてるんだとユーザーに同情心を湧き起こさせ、最後の最後でそれを裏切るとか……何というドS!! ドS過ぎて、引くよ!!(llllll゜Д゜)ヒィィィィ
製作陣、どういう意図でこの話作ったの!? ときめいて☆魔法学園! なんてタイトル、嘘じゃん!!(涙)どこがときめいて☆なの!? ☆とか全く出てこないだろーが!! むしろ「どよめいて(血痕)暗黒学園」がぴったりだよ!! ぜーはーっ!
ああ……BADがこんなに胸抉られるなんて、乙女ゲーを舐めてたわ……。世の中には、こんなにも黒い乙女ゲーが存在してたのね……。
道理でネットの書き込みに「BADは本当に辛いけど、それあってこそのHAPPYだと信じてます!」とか「BADがBESTエンドでもいいんじゃ!?ってくらい萌えました〜v」とかとか「いっそ年齢制限とっぱらって、臨界点突破しちゃってもおk☆」とかとかとか……が書かれたわけだわ(長い)
ネタバレ避けたくて、薄目で(笑)流し読みしてたからあんまりよく分かって無かったけど……こ う い う こ と か !!
ってことは……これより更に破壊力の高い『絶望エンド』が待ってるかもってこと!?
あぁ……何だか良い意味で期待を裏切ってくれてんだか、悪い意味で裏切ってくれてんのか、このゲームよく分からなくなってきた…………。
でも、このエンドでゲームを終わるのだけは避けたい! 後味悪過ぎるし……(=_=)
さっきの選択肢へジャーンップ!!
薫ちゃんを救うために、私が出来ることは……
1.薫に駆け寄る
2.薫に向けて魔法を放つ
――――今度は1! もう魔法は使いません!! 身体と身体のぶつかり合いだ!!
自然と、足が前に出た。
不思議と怖くなかった。
目の前の彼と私は、心の奥深く繋がっているから。
薫ちゃんの心は、これ以上無い程に傷付き、壊れ、涙を流していることを、私は分かっているから。
「来るな……!! オレに触れたら、だって狂って死ぬん――――!?」
「……いいよ、それでも」
「なっ……何で…………!!」
薫ちゃんが目を見開く。
――――こ、ここでスチル!! ああぁぁっ、真っ赤な翅を生やした薫ちゃんに、主人公が抱き付いてる!!
く、黒い薫ちゃんのスチル、久々に見た気がした……ヤバい、萌える。
暗い瞳が戸惑ってるのが分かる!! 綺麗なスチルだなぁ。これはもう……心中エンドね…………きっと。。。
「は、離れろよ! ……早く、オレからっ!」
「嫌だよ……離れない」
「何言ってんの!? このままじゃ、ホントに……」
焦った顔の薫ちゃん。
こういう顔を、何だか久々に見た気がする。
それだけで、何だか全てがどうでもよくなる。
「……もう、いいの。薫ちゃんと一緒なら、もう何でもいい」
「…………っ……」
薫ちゃんの背中にぎゅっと腕を回す。
その瞬間、身体を内側から焼き尽くすような熱が、全身を駆け巡った。
息を呑めば、喉の奥がひり付く様な痛みを感じる。
ああ……燃えている。
私の身体から、灼熱の炎が噴き出しているのが分かる。
薫ちゃんと触れ合っているところが、ドロドロと溶けてしまいそうだ。
でも……それでも私は満たされていた。
やっと、薫ちゃんの心に寄り添えたから。
ふっと、薫ちゃんの身体から力が抜けた。
見上げると、どこか諦めにも似た瞳が、私を見つめていた。
「……ホント、ちゃんは……バカな子だね。オレと心中するつもり? ……っ……重過ぎて、胃もたれしそうだよ……」
「あは……そんな重たい私のことを好きだって言って、力まで奪ったのに……そんなこと言うの?」
「こんな重たい女だって知ってたら……好きになんてならなかったのにさ。ああ、ホントに……ちゃんはどこまでも優しくて……ウザったいよ」
言葉とは裏腹に、薫ちゃんは心底うれしそうに目を細め……私の背にそっと腕を回す。
そしてそのまま、ぎゅっと抱き締められた。
――――うわぁあぁん!! さっきのエンドを見た後のせいか、もうホント泣けてくる……!!
薫ちゃんが壊れてないよぉ! 主人公も自分の意思で薫ちゃんに寄り添ってるよぉ……!! 。・゚・(ノД`)・゚・。
……バカは薫ちゃんの方だよ。
薫ちゃんの心、今の私には手に取るように分かるのに。
懺悔と後悔と贖罪と思慕と情欲と……様々な想いが、私に流れ込んでくる。
彼の心全てで、私が欲しいと訴えてくる。
なんて甘美な感覚なんだろう。
誰かにこんな風に求められることが、こんなにも幸せを感じられるものだなんて知らなかった。
うっとりと目を閉じると、回された腕に力がこもる。
瞬間、背中に焼けるような熱と痛みを感じて、思わず呻き声を上げてしまう。
「っ……あぁっ……」
「!? ちゃん!!」
でも、痛みはやがて、じくじくとした熱となり、何かが内から湧きあがってくるような妙な感覚へと変化する。
痛みとも苦しみとも違う……身を捩りたくなるような、疼くようなそんな感覚。
この感覚は何なのだろう。
薫ちゃんの視線は、私の背に注がれている。
彼は、恍惚とした表情で呟いた。
「……すっげ……綺麗………………」
ため息と共に吐き出された声はどこか艶めいていて。
それに煽られるように、さらに私の背の熱は上がっていく。
ああ……多分私にも、薫ちゃんと同じような紅い翅が生えているのだろう。
薫ちゃんとより深く繋がれたことが嬉しくて、微笑む。
――――ああぁぁあ!! 主人公の背中にも、紅い翅が生えてる……!!
もう何なの!? 炎が噴き出すと皆蝶になっちゃうの!?(いや、無いだろ) まあ綺麗だからいいんだけど! 主人公の翅は、禍々しさが無くって綺麗だな……やっぱり、星使いだから?
「ああ……オレ……このまま……地獄に堕ちてもいい…………ちゃんが……いてくれるなら…………」
陶酔したように緩む薫ちゃんの瞳。
それは暗く、鈍く、輝いて。
まるで、彼の赤銅色の瞳と、私の薄紫色の瞳が混ざったような色を放っている。
きっと、私と彼は一つになったのだ。
どちらからともなく、唇を寄せ合う。
灼熱の業火に身を焼かれながら、私の心は甘美な痛みで震えていた。
何が正しくて、間違ってるかなんてもうどうでもいい。
これが依存愛なのだとしても、馴れ愛なのだとしても、なんだっていい。
私たちはどこへ向かうのだろう。
このまま二人、燃え尽きるまで。
ああ……でも、彼と私が二人でいられる場所なら、どこだって構わない。
それが喩え、天国でも地獄でも無い、煉獄なのだとしても。
私たちは今、紛れもない幸せを感じているのだから。
……薫ちゃん。
これからもずっと、一緒だよ……
色も音も無くなった世界で、私たちは極彩色の夢を見る。
END.
『---煉獄』
――――うぉぉおおおおおおおおお!!!!! な、泣ける……!!。・゚・(ノД`)・゚・。
何じゃこの悲恋エンドは!! 最後スチルの二人、キスしながら泣いてた……ていうか、声優さんホント演技上手過ぎて慄くよ!! 薫ちゃんの情緒不安定なとことか、マジで上手過ぎる!!
煉獄……薫ちゃんの得意魔法なのに……。まさか、本当に煉獄に旅立ってしまうなんて、誰が想像したか!! うわーん、悲し過ぎる……(´Д`;)
……ああ、でも何かちょっと救われた。さっきの「紅い涙エンド」が酷過ぎたんだと思うけど、あれに比べればこれってもうベストエンドくらいに救いがあるよ!!
これはあれかな、依存愛エンド? とでも言えばいいのか。薫ちゃんは今のところ、「黒から立ち直るエンド」と「絶望エンド」と「依存愛エンド」ってところですかね? ……あと何個あるんだろ。普通に考えて、「王道の白エンド」とか「ライバルと主人公を取り合うエンド」とか!? でもこれ、ほんっとーにシナリオが重過ぎる……。ライターさん誰なんだろ。絶対一人じゃないよね!? √によって温度差あり過ぎるし……!!(作者:はい、その通り(笑))
はあ……つ、疲れた…………がっくり。
まだ全部の選択肢選べてないし、こっちの√の静のあの後とかも見てみたい気もするけど……でも、今日はもうお腹いっぱいだし、やめた!!