第四幕〜囚われの身の上につき……〜
「ちょっと! 離してよっ」
「ごめんね、。でもこれも仕事だから」
「人の身体撫で回すのも仕事……?(怒)」
ガシャンと重たい音が鳴り響き、牢の扉が開く。
代官屋敷の地下に設置された牢獄は、まさに地獄のような雰囲気である。は縄でグルグルにされながら、牢屋に放り込まれた。
「ねえ! 翼はどこなの!?」
「あの子は三上先輩が直々にどうにかするって言ってたからなぁ……」
「どうにかするって!?(汗)」
「まあ、やることは一つだろうね」
さらりと言った英士の言葉に、は青ざめる。
君主の貞操を守るのは、お庭番である自分たちの仕事。将軍様の初めてが、まさか悪エロ代官なんて、誰が許すだろうか。
「ちょ、ちょっと! 翼に会わせて!! お願いっ!」
「それは無理だよ。は俺たちに処分が任されてるけど、あの子は手出し出来ないことになってるし」
「お願いよ、そこを何とか! もし会わせてくれるなら、二人の言うこと何でも聞くから!」
必死に懇願するに、英士と竹巳は顔を見合わせ、にやりと微笑んだ。
「……何でも言うこと聞くんだね?」
竹巳の瞳が妖しく揺らめく。
「うん……何でも聞くよ」
「本当に? 、絶対だよ?」
英士の視線が、にまとわりつく。
「分かってる……! お願いだから、翼に会わせて!!」
そんな居心地の悪さを拭い去るように、は声を荒げた。主君のためなら、命を懸ける。忍としてのプライドと、年若き将軍に対する恩義と忠誠が、を駆り立てた。
「いいよ。代官に交渉してみるよ」
英士は頷くと、そのまま牢屋から出て行った。その後を追うように、竹巳もいなくなった。ずるずると音を立てて、その場に座り込む。
牢の隙間から月の光が差し込んでくる。
はため息をつき、月を見上げた。
「翼……どうにか無事でいて……!!」
無事でいて……というのは勿論、貞操を守り抜いて、ということに他ならない。
「やめろ!! こっち来るな!」
「へっ、気が強い女だぜ……でも、もう逃げられねえなぁ?」
着物を大きく肌蹴させながら、暴れ回る翼こと将軍様。
綺麗なお顔が、恐怖で引きつっている模様。
「っ……もう我慢できない!!」
「ん? 何だ? 俺様に抱かれたくてか?」
「ちっがーう!!(汗) 勝手なこと言わないでくれる!?」
「まあ、そう盛んなって。今すぐ良くしてやるからよ」
「盛ってんのはお前だろ!!!(激怒)」
着物が纏わりついて、身動きの取れなくなった翼。ついに三上がその胸元に手を掛けた。
「ひっ……!(怯)」
「ククッ……さあて、いただくとするか……」
「や、やめろっ……」
身を捩った翼に、三上が訝しげな視線を向ける。
「……お前、あるべきもんがねえぞ……?」
翼の胸元を凝視する三上。
「……よ」
「は?」
「だからっ! 俺は男だって言ってんだよ!!」
「なにっ!?」
驚きに目を見開く三上。翼は真っ赤な顔で怒鳴った。
「俺は正真正銘男! 男なんだよ!!!」
「し、信じられねえ……」
「気色悪いんだよ! 触るな変態! 離れろ獣!!」
冷や汗を流しながらも、真っ赤な顔で怒鳴り散らす翼に、流石の三上も青ざめる。しばらくの間、両者は複雑な表情のまま向かい合った。
その時、襖に二つの影が現れた。
「代官、少々よろしいですか?」
「ああ……」
中に入ってきたのは、英士と竹巳。
二人は、青ざめた両者をまじまじと見つめると、すぐに状況を理解した模様。シニカルな笑みを浮かべた。
「……こんなことだろうとは思ってたけど、まさか本当に男だとはね」
英士が言うと、翼は鋭い視線を向けて言い放った。
「フン、あんな変装も見抜けないなんて、お前らの力量もたかが知れてるよ。そんなんで謀反起こそうなんて、いよいよ頭がおかしくなったんじゃない!?」
「別に……君が女装なんてしなくても良かったんじゃない? 一人でも、十分こなせた任務な気がするけどなぁ」
竹巳の言葉に、英士が頷く。
「どっちかって言うと、翼がいたことでの足を引っ張ったんじゃないの?」
――――ぐさり
「っ……」
図星を指され、言葉に詰まる翼。英士たちはその様子を、面白そうに見ている。三上はといえば、やっとこさ本調子を取り戻してきたようで、最初の皮肉っぽい笑みを浮かべている。
「俺様としたことが……本気でお前に騙されるところだったぜ。お前、その手の道に進んだ方がよっぽど良かったんじゃねえのか?」
「黙れ! 大体俺は、好きでこんなんやってるわけじゃないっつーの!!」
「「どうかな」」(英士・竹巳)
「変な目付きで見るなーーーーっ!!!!(怒)」
「ククッ……」
将軍様、以外とへタレの資質に満ち溢れているようで……。
しばらく、翼をからかって遊んでいた三上だが、ふと意味深な笑みを浮かべて翼を見た。
「さあて……お前をいびるのも飽きたし、そろそろ本物をいただくとするか」
「本物?」
「に決まってんだろ? あいつもお前に負けず劣らずの美人だしな。そうだ、お前の目の前で楽しんでやるよ」
そう言って笑みを深くする三上に、翼は慄いた。このままではが危ない。そう思うも、自分は囚われの身。どうすることも出来ない。
「やめろっ! には手を出すな!!」
「仕方ねえだろ? お前じゃあ俺様を満足させられねえんだからよ。そこで指咥えて見てるんだなぁ。惚れた女が別の男に弄ばれるところをよ」
惚れた女。
三上は翼の気持ちに気付いていたようで……またも図星を指された翼は、三上に噛み付きそうな勢いだった。
「っ……三上、貴様……!!」
「おい、お前ら。コイツをそこの柱に縛っとけ。明日一で、町内引き摺り回しの形にかける」
「代官、は……」
「は俺様の相手をさせた後、お前らの好きにしていいぜ。囲うなりなんなり、全て任せる」
「「御意」」
英士と竹巳は、流れるような手つきで翼を柱へと括りつけた。依然、着物がまとわり付いている翼は、もがくことしか出来ない。
「やめろっ! 離せ!!」
「は俺たちで可愛がってあげるから、心配しないで」(英士)
「そうそう。一生面倒見てあげるし」(竹巳)
「には手を出すな! 頼む!!」
「「却下」」
「くそっ!!」
に何かあったら、ここの屋敷の役人全員島流し(三上は勿論死刑)にして、屋敷を全焼させてやる!! と心に誓う翼。しかし、どう心で誓っても彼は今、囚われの身の上なのであるが……。
「、迎えに来たよ」
「英士……翼は? 翼はどうなったの?」
牢屋に戻ってきた英士たちに、は矢継ぎ早に尋ねる。すると、竹巳がふうと溜め息をついた。
「……もう隠しても無駄だよ。翼は男だって、バレちゃった」
「……え?」
「三上に着物脱がされて、胸が無いってことに気づかれたみたいだね。あの光景は見物だったよ。三上、青ざめてたし……笑えるよ」
クスリと笑みを零した英士に、今度はが青ざめる。翼が男だとバレた以上、身の危険は確実に自分に迫っている。翼の命も余計に危なくなった。
「……それで、どうするつもり? 私たちを打ち首にでもするのかしら?」
わざと気丈に振舞うに、英士は薄い笑みを浮かべる。
「まさか。にはそんなことしないよ。今夜はあの代官の相手をしてもらうけど、明日からは俺たち二人が一生面倒見ることになったし」
「え”っ!? わ、私がアイツと!?(汗)」
思わぬ言葉に、の声がひっくり返る。しかし、英士の表情は変わることは無い。
「うん……本当ごめんね? でもまあ、一晩だけだからさ」
「嫌ぁぁぁぁぁ!! あんなケダモノの相手するなんてっ!!!(涙)」
身震いするに、竹巳が微笑んだ。
「大丈夫だよ、。くの一は、色香で敵を惑わせ、暗殺するって有名じゃない。もそれで三上先輩を殺ればいいんだよ(黒笑)」
「ちょ、ちょっと竹巳……仮にも自分の雇い主を(汗)」
「この世は弱肉強食だからね。常に下克上だよ」
「そ、そういう問題じゃないでしょ(滝汗)」
何となく、三上が少しだけ不憫に思えてきた。しかし、自分の身に降りかかる火の粉は、自分で振り払わなければならない。
「……う、恨まないでよ? 自分の主君が致命傷を負っても……ていうか、もしかしてご臨終しちゃっても」
「「全然。むしろ歓迎」」
「うわぁ……(汗)」
最早、自分たちでどうにかしなくても、しばらくしたら勝手に代官屋敷は崩壊するんじゃないかとは思うのであった。
「代官、を連れて参りました」
「通せ」
「……っ」
「ほお……中々イイ姿じゃねえか。色っぽいぜ、」
代官の前には、縄で拘束された。結わいていた髪は解け、心なしか着物も乱れている。それは先ほどの戦闘のために他ならないのであるが、三上はの艶姿に釘付けになっていた。翼も思わず生唾を飲み込むほど、の姿は妖艶であった。
「翼! 無事だったのね!?」
「……悪い、しくった……」
「ううん、いいの……私こそ、翼を守れなくて……」
俯くに、翼は手を伸ばそうにも伸ばせず。そんな二人を見やる三上は、英士たちを下がらせると、突然を押し倒す。
「きゃっ……や、やめてよ!」
「せいぜいイイ声上げて、そいつも楽しませてやれよ」
「いやぁっ、やめてぇ! 嫌っ、翼ぁっ……あっ……!!」
「―――――っ!!…………え?」
翼が悲痛な叫び声を上げた時、の口元が微かに笑みを形作った。
ふと視線を感じて見上げた先には、見慣れた二つの顔。
翼の顔にも、不敵さが戻る。
「形成逆転よ、三上」
「何?」
殺気を感じた三上は、素早くから離れる。
その瞬間、三上頭上を吹き矢が掠めた。
「っ……てめえら……」
「ちっ、外してもうたわ」
柱の影から、吹き矢を構えたノリックが現れた。
「三上の旦那、ちょっくらオイタが過ぎたんやない? に手を出すんは、お上が許しても俺たちお庭番が許しまへんで」
翼の拘束を解きながらシゲが飄々と言う。
「……お上も許さないよ」
翼が呟くと、ノリックとシゲが不敵に微笑んだ。その様子を、着衣を整えたが嬉しそうに見ている。
「くっ……まだ仲間がいやがったのか」
「江戸城お庭番、吉田光徳、只今参上v」
「同じく、藤村成樹、ここに参る! やでv」
二人は翼を助け起こすと、揃って名乗りを上げた。
「申し遅れました。江戸城お庭番、。代官三上、覚悟なさい!」
がびしっと言うと、三上はニヒルな笑みを崩さずに指を鳴らす。
「郭、笠井、不破!」
シュタッと軽い音を立てて、三人の忍が三上の背後に降り立つ。
「郭英士、只今推参」
「笠井竹巳、参上」
「不破大地、見参だ」
三人は静かに名乗り、たちと対峙した。
「3対4じゃ、そっちが不利なんとちゃう?」
ノリックの言葉に、三上はにやりと笑う。
「誰が3人だって? おい、者共、であえぇぇぇい!!!!!」
三上が声を張り上げると、部屋の襖が全て開き、大勢の郎党たちが群がってきた。その数は最早数えられないほどである。
「ふーん。エロ代官にしては、結構な数の家来持ってんじゃん」
「フン翼……この人数を前にして、軽口叩ける度胸は認めてやるよ。、今なら許してやるぜ? お前が俺のモノになるって言うならな」
は三上を見つめると、にっこりと微笑んだ。
「私より強かったら、考えてあげてもよくってよ?」
「……フン、面白れえ。お前ら、俺様の恐ろしさ、見せ付けてやれ!」
「「「うぉーーーーーーーーーっ!!!!!!!!」」」(古い)
ずらりと周りを取り囲まれたたち。
しかし、誰一人として余裕の表情を崩す者はいない。
「久々に大暴れ出来そうやねえv」
「いっちょ、やったるか!」
「お前ら、あんまり暴れすぎるなよ? 、特にお前!」
「はーいv 分かってますって」
三人は不敵な笑みを向け合うと、は風車、シゲはクナイの二刀流、ノリックは吹き矢と硬糸をそれぞれ構える。そして、中心のが代表するように、三上に向かって声を張り上げたのだった。
「代官三上。貴殿のお命、頂戴いたしますv」
第五幕に続く
大変長らくお待たせ致しております(汗)やっとこさ、第4幕アップです(ていうか閉幕まで?) 前々から書いてはいたのですが、いかんせんアップする時間がなくて……楽しんでいただければ幸いです。 しかも今回まだ、全キャラ集結出来てませんね……ごめんなさい。次回は全部登場してますんで!
さてさて大江戸活劇もいよいよクライマックスに差し掛かって参りましたが、将軍様ご一行の命運はいかに? ついでに次回は、midi鳴ります!このまま次へ進まれる方は、音量などにご注意ください☆