[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
そんなこんなで時は過ぎ、気付けば月が浮かび始めた頃。
綾たちの部屋の前に、一つの影。
「……綾、翼。代官がお呼びだよ」
襖からは入ってきたのは、代官の横に控えていた腹心、英士。綾と翼は咄嗟に演技モードに戻る。
「はい……分かりました。今、参ります」
そう言って立ち上がった二人に、英士は軽く微笑んだ。
「……?」
首を傾げた綾に、英士は何も言わなかった。
部屋をあとにする二人を見つめ、英士は呟いた。
「……綺麗過ぎることは、時に仇になるんだよ。美しき蝶」
「三上様、綾と翼が参りました……」
「おう、こっちへ来い」
控えめに襖を開け、中へ入る二人。三上は酒を片手に、口の端を上げて笑っている。綾はにっこりと微笑むと、三上の隣に膝を付きお酌をし出した。
「はいお代官様」
「おお、気が利くじゃねえか」
翼はと言えば、少し距離を置きながらも微笑を絶やさないように努力していた。
三上に手を握られても、何とかこうにか堪えていた。自分がセクハラに遭う分、綾を守れるのだ……と必死に言い聞かせながら。
きっと、今の自分の姿を腹心やお庭番、はたまたお目付け役の玲に見られたら……大爆笑されることは間違いないだろうなと、頭の片隅で考えつつ、ただ時が過ぎるのを待っていた。
「三上様……私、妙な噂を耳にしましたの」
酒も進み、三上が大分饒舌になってきたところで、やっと綾が本題を切り出した。翼の表情も、途端に真剣味を帯びる。
「……ん? 妙な噂?」
「はい……。こちらに来る途中で、お役人様らしき方々とすれ違ったのですけれど、何でも三上様のお屋敷へ向かうのだとか何とか……」
「ほう……」
「物騒なお話だと思い、少しだけ……聞き耳を立てていたのですが……お役人様が仰るには……その……三上様が、将軍様への謀反を企てておられると……」
決定的な言葉を口にした綾。顔は酔った装いを見せているものの、既にくの一モードに突入している。翼も同様、将軍様のオーラを放ち始めていた。しかし、当の三上は顔色一つ変えず「そんな噂が立ってんのか?」と笑うだけであった。このままでは終われない、と綾はもう一歩踏み込んでいく。
「うふふ……三上様ほどのお方になれば、謀反の一つや二つ、企てていたとしてもおかしくありませんわ。むしろそれくらいの力量のあるお方であると、私たちは聞き及んでおります」
「……そうですわ。将軍家に敵対するなんて、お力のある方でしか成しえないことですものね? その点、三上様でしたら十分な素質に満ち溢れていらっしゃいますでしょう」
こめかみがぴくぴくと動き、青筋を立てながらも笑顔でそんなことを言う翼。綾は「何とおいたわしや……」と心の中で泣いていた。
そんな時、突然三上が綾の手を引いた。綾は自然に三上に抱き寄せられる形になる。それを見た翼は、心中穏やかではなかったが、必死でそれを押し隠した。
「み、三上様……? どうなさったのです?」
冷や汗を流しながらも、やんわりと告げる綾。三上は、綾の顎に手を掛けるとくいっと上を向かせる。
「綾っ!?」
思わず声を上げてしまった翼。だが、三上はそんなこと気にも留めていない様子。翼は咄嗟に、胸元にしまった短刀に手を当てる。
(綾に何かしたら……殺る!!)
そういう意味合いで。
「綾……今の噂が全部事実だとしたら……お前はどうする?」
唇が触れそうな距離でそう問われ、綾は眩暈を起こしかけた。元々お酒にあまり強くない綾は、酒の香りでも十分酔える体質であり、三上から漂う酒の香りに酔い始めていたのであった。しかし、彼女には将軍家のお庭番としてのプライドがある。必死に理性を繋ぎとめ、三上を見返す。
「……なお一層、貴方様の虜になってしまいそうですわ」
そう呟いた綾に、三上は笑みを深くする。その笑みに、綾は何か嫌な予感を覚え、咄嗟に身を引いた……が。
――――タンッ タンッ タンッ
「!?」
背後に立つ、複数の影。
三上は立ち上がると、軽く手を叩いた。
「……見事だったぜ、綾、翼。お前らの変装は完璧だ。初めから何も情報が無ければ、俺もまんまと騙されてただろうな」
「どういう……こと……?」
「お前ら、将軍家が寄越したっていう隠密だろ? クククッ……まさか、こんな美人揃いだとは思ってもみなかったぜ。マジで俺様好みだ」
三上の言葉に、綾はやれやれといった様子で立ち上がる。その瞳は既に、臨戦態勢を整えていた。
「……まさかこんなに早く見破られるとは、貴方たちを侮りすぎたみたいね」
「ここは随分優秀なお庭番でも雇ってるみたいだね。後ろの三人がそれ?」
翼の言葉に、一歩前に出た三つの影。
薄暗い闇に、その瞳だけが鮮やかに光っている。
「見逃して……くれるわけもないわよね?」
「俺様が、お前らみたいな美人を逃がすわけないっつーの」
「それは残念。ま、最初から逃げる気もないけど――――ねっ!!!」
――――がきんっ!!
金属同士が擦れる音が鳴り響き、部屋の灯りが全て消える。
戦いの幕開けであった。
満月を背に、屋根を飛び交う黒い影。
その数は五つ。
着物を脱ぎ捨て、忍装束で立ち振る舞う綾。手には例の風車と、短刀が握られている。
「君たちって、代官屋敷のお庭番なの?」
綾と対峙するのは、二つの影。綾の問い掛けに、二人は口を開く。
「そうだよ。俺は竹巳」
「俺は英士。さっきぶり」
「竹巳って……もしかして、笠井一族の!?」
驚いたように声を上げる綾に、竹巳は微笑んだ。
「すごーい……道理で全然、気配に気付かなかったわけだ」
和やかに話しているように見えるが、実際は屋根の上を飛び交いながら、激しい戦闘を繰り広げている真っ最中である。
「そういう綾だって、あの風見の末裔でしょ?」
「……詳しいのね、英士」
英士の言葉に、綾はため息をつく。まさかそこまで調べられていたとは……。
「忍仲間として、君を傷付けたくないけど……ごめんね。今は雇われの身だから」
「手加減なんていらないよ! 私だって将軍家のお庭番だもん。本気で行かせてもらうから」
「フッ……有名なくの一とお手合わせ願えるなんて、今夜はついてるよ」
「へ?」
英士の言葉に、呆けたような返事をする綾。英士は苦笑しながら言う。
「綾の名前は、隠密の間じゃあ知らない人のが少ないでしょ。若くて美人、おまけに凄腕のくの一と来てるんだし」
「えぇっ!?」
「あれ、知らなかったの? 綾、この世界じゃあ有名だよ」
「嘘……全然知らなかった」
――――キンッ! ガキンッ!
「今だって、余裕な表情で男二人を相手にしてるしね。有名になるわけだよ」
「……将軍家のお庭番は、とってもハードなのですよっ……えいっ!」
「おっと……ねえ綾、いっそのこと、こっちに転職しなよ。綾なら大歓迎だよ」
綾の攻撃を交わしながら、英士がそんなこと言う。
「……こらこら、代官の腹心がそんなこと言っちゃ駄目でしょ?」
「就職難だったんだよ、俺たちも。そろそろ下克上……いや、謀反起こす予定だし」
さらりと言ってのける英士に、綾は二度目の溜め息をついた。
「どうなってんのよ……貴方たちの関係って……(汗)」
呆れたような声を上げる綾に、竹巳が笑う。
「まあ、人々の欲望や憎しみが沢山渦巻いてる空間なんだよ此処は。綾も是非おいで?」
「そんな危ないところに行くかーっ!!(滝汗)」
……意外と楽しく(?)、戦っている三人であった。
一方、姫様ともう一つの影は……
「……お前、名を何と言う?」
「翼だよ、翼。聞いてなかったわけ?」
「いや、どうもお前の名を、どこかで聞いたことがあるような気がした。しかし、そいつは男だ。勘違いをしていたようだ俺は」
「……」
まだ自分は女として見られているらしいことに複雑な思いを抱きつつも、不幸中の幸いと思うしかない翼。苦虫を噛み潰したような顔で、その影に問いかける。
「……お前こそ、名前」
「俺は不破大地だ」
「ふーん……お前もここのお庭番なわけ?」
「ああ。就職難の末、止むを得なかった」
「は?」
短刀を構えつつ、訝しげな顔で不破を見つめる翼。就職難って何だ? という疑問符が彼の周りから出ている。ちなみに翼はまだ、着物を着たままだったりする。
「気にするな。こっちの話だ。それよりも三上の命により、お前を捕らえなくてはならない」
「んなこと分かってる。でも、そう簡単に捕まるわけにはいかないんだよ!」
――――ザシュッ!!
一瞬で距離を詰め、不破に切りかかる翼。しかし、着物が重くて上手く刀が振れないようで……。逆に不破に切りつけられてしまった。
「っ……」
「俺が言うことではないと思うが、戦闘時にその格好は動きにくいのではないか?」
「……余計なお世話、だよ」
尤もなことを指摘され、翼は舌を噛む。
(脱ぎたくても脱ぎ方が分からないんだよ!!!!!(涙))
そう心の中で叫びながら……。
「くっ……綾、やっぱり強いね」
「それはどうも! でえいっ!!」
相変わらず、勝敗の付かない綾、竹巳、英士組。
そんな時、ふと綾の視界に、翼が着物を着たままで戦っているところが入った。
「翼ってば……着物、脱げばいいのに」
そう呟いて……やがて、とんでもないことに気付いてしまった。
(もしかして翼、着物の脱ぎ方知らないんじゃ……!?Σ(|||´■`|||;;Σ)」
「――――綾、余所見は駄目だよ?」
「っ!?」
――――しゅるっ
翼に気を取られた一瞬に、綾は竹巳から羽交い絞めにされてしまった。そしてそれに畳み掛けるように、英士が紐で綾を拘束する。
「やだやだっ、はーなーしーてーーーっ!!(涙)」
「ごめんね綾。大人しくしてくれれば、酷いことはしないから」
「酷いことって何!?(汗)ていうか、この紐変! 何か身体に食い込んでくる~!!」
「これは特殊な術が掛けられている紐なんだよ。身体にフィットして、痕は付けずに。でもハードに食い込む、まさに縛りモノの決定版でしょ」
変態もびっくりな発言をする英士に、綾は総毛立った。
「その説明嫌過ぎ……!(泣)ていうか術とか反則! 英士のバカーーーっ――ぅんっ!? 苦しいっ……」
「嫌がれば嫌がるほど、その紐は身体に食い込むよ。綾の苦痛に歪む顔もいいけどね」
「いやぁぁ! 英士の変態! ドS!!(号泣)」
「郭、綾が嫌がってる。綾、こっちへおいで」
「……さり気無く、身体に触るのも反則だよ竹巳(汗)でも竹巳、助けて……!!」
「綾!?」
綾の泣き叫ぶ声(え)に翼が夜空を振り仰ぐ。そこには、二人の男に羽交い絞め……いや、体中を弄られ、紐で縛られている、何ともあられもない姿の綾がいるではないか!(翼の妄想)
「きゃーっ、翼、助けてーー!!――――んんっ、や、やめっ……息が出来な……」
「あんまり悩ましげな声上げると、我慢出来ないでしょ?」
「でしょ? て何!?(汗) 何が我慢出来ないの!?(怯)こ、こっち来ないでよー!!」
「郭、綾が嫌がってるって」
「……竹巳も身体、触らないでくれるかな?(怒)でも英士よりは全然いいー!!(涙)」
「あーいーつーらー!!! 絶対殺す!! 今すぐ殺す!!!(怒)」
怒りに燃える翼。不破を気迫でふっ飛ばし(え!?)急いで屋根に駆け上がろうとした……が。
――――ふみっ。
「あうっ」
――――べちゃっ。
「着物は脱いだ方がいいんじゃねえの? 翼」
「……無念…………(涙)」
何と悲しきかな。
長い着物の裾を三上に踏まれ、情けなくても地に平伏した将軍翼。彼は虚しさのあまり、顔を上げることが出来なかったとさ……。
「そんなぁぁ(涙)しっかりしてー、翼――――!!!!」
綾の悲しい叫び声だけが、代官屋敷に木霊した満月の夜。
囚われた二人の美女(一人は♂)の運命やいかに――――。
第四幕に続く
戻/表紙/次
前編後編に分けてみました今回、いかがでしたでしょうか。やっぱりギャグが書けない……。というか、お話自体が書けません(涙)
将軍様、華麗に転身しちゃいましたが、果たしてどうなる。何だか今回の翼は、めちゃめちゃへタレてますね……珍しい。でも、意外と可愛いことが判明(悦)可愛いければいいやv(おい)
何ていうか、英士も竹巳も皆変態ちっくになってますが……どうなってしまうんだ。次回、いよいよ全キャラが集結する……予感。