「ねえ、お兄ちゃん。パパとママは今日もいないの?」
「うん……」
「どうして? だって今日は、お兄ちゃんのお誕生日だよ! 皆でお祝いしないの?」
「父さんと母さんは……仕事が忙しいんだよ」
「でも……皆でお祝いしなきゃ……お兄ちゃんが可哀相……」
「……」
「パパもママも嫌いっ! 大っ嫌い!!」
……」
「ひっ……ひっく……お兄ちゃんの誕生日なのにぃ……どうして誰も、帰ってこないの……!? うぅっ……」
……泣かないで」
「うっ……ひぅっ……」
「俺は淋しくないよ?」
「でもっ、でもっ……」
「だってがいるしね。は誕生日、祝ってくれるんだろ?」
「……うん」
「よし。じゃあ、ケーキでも食べよう」
「うんっ!!」





 
Chapter2: A family.





 誕生日は毎年、兄妹の二人で過ごすのが常になったのはいつからだったか。最初は、誕生日にも帰らない両親に憤って泣いていたのだけれど、いつしかそんなことさえどうでもよくなった。
 両親の顔を最期に見たのはいつだったか。もう、それすらも思い出せない。顔だけなら、ロンドンの産業誌に嫌というほど載っていたけど、実際に会った記憶はすっかり薄れてしまっている。

 私の両親は、科学者であり、研究者だ。医薬品の研究開発を主としている。
 その世界においては、結構な有名人らしい。
 でも、そんな両親を誇りに思ったことなんて、生まれてこの方一度も無いし、憎くすら思えど、愛しいとか好きだとか、大切だとかなんて感じたことも無い。

 両親なんて、私にとっては名ばかりの人たち。
 家族なんて思えない。ただ「私を生んだ人たち」という認識しか持てない。
 もちろん家族で旅行なんて行ったことは無いし、入学式や卒業式だって、両親が来てくれたことは一度も無い。
 あの人たちの研究が、どれほどこの世界にとって重要なのかなんて興味は無い。あの人たちが開発した薬でどれだけ多くの人が救われたって、そんなの私にとっては何の意味も持たない。

 自分でもかなり荒んでいると思う。普通なら、不良にでもなるのがオチなのかもしれない。

 でも……そんな環境にいても、私がここまで普通に育ってこれたのは、全部お兄のおかげ。四つ年上の兄は、いつだって私を守ってくれて、私を助けてくれた。
 私にとってお兄は、母親でもあり、父親でもあった。
 私の家族はお兄だけ。お兄しか、私の頼れる人はいなかった。
 
 そしてそれは……これからもずっと続くものだと思っていた。


 そんな矢先、突然お兄がいなくなってしまった。
 何の前触れもなく、忽然と姿を消したお兄。
 私は暗闇の中へ放り出された気分だった。
 お兄がいなくなったら、私は一人になってしまう。

 私は必死だった。死に物狂いでお兄を捜した。
 今まで、こんなにも必死になったことは無いくらいに私は焦っていた。他のことなんてどうでもいいくらい、お兄を捜すことに没頭していた。

 寝ている時間が惜しかった。
 学校にいる時間がもどかしい。
 早く、少しでも多くの時間を、お兄捜しに当てたいと心底思った。

 そして、見つかった遺留品の中の、小さな名刺。
 それが私の命運を握る唯一の鍵。

 彼らに出会って、彼らの正体を知って。
 奇妙な契約も結んだ。
 彼らは私に忠誠を誓い、私は彼らに情報を捧げる。何とも不思議な利害関係。
 でも……お兄以外に信じられる人がいなかった私にとって、たとえ利害関係だとしても、私を無条件で守ってくれる存在はとても心強かった。
 
 お兄の親友だったという亮。
 お兄に瓜二つな翼。
 私は、彼らの中に知らず知らず「兄の面影」を見ていた。

 亮と話すたび、私の知らないお兄を思った。
 翼に呼ばれるたび、お兄と重ねて見ていた。

 彼らは何百年の時を生きてきた存在で、その瞳には深い慈愛が見えた。
 私は多分、家族のような温もりを求めていたのだ。
 二人は私のことを、一歩違う目線で見てくれていたように思う。男女である前に。

 亮は「翔の妹」として。
 翼は「兄代わり」として……。

 今思えば、私はいつだって、お兄のことしか見えていなかった。
 いや……本当は、自分の事しか見えていなかった。



 玲さんに会って、話を聞いて。
 どうやらお兄ちゃんは無事のようで安心したのも束の間、驚愕の事実を知らされた。
 両親が製薬を開発している……というのは建前で、本当はクローニングの研究をしていたというから驚きだ。今まであまり、両親の仕事に関心が無かったとは言え、全くもって考えたこともなかった。
 むしろ、クローニングを研究していたからと言って、私の中での変化は何も無かった。兄がいなくなったって……あの人たちは何も変わらない。一度だって私たち兄妹を顧みてくれない。子供が行方不明になったっていうのに、研究を取る人たちなのだ。今更憤りすら感じない。

 でも……本当に混乱したのはこの後の言葉。
 お兄ちゃんが……クローン人間だと言う。

 信じられなかった。
 いや、信じたくなかった。

 両親は研究の犠牲になったらしい。
 きっとは母は、このことを知らないのだろう。父だって、きっと知らない。
 知っているのは、玲さんと研究チームのメンバーだけ。

 どうして、お兄ちゃんがこんな目に遭わなきゃいけなかったの?
 どうして、私のお兄ちゃんじゃなくちゃいけなかったの?
 他の人だっていいじゃない。

 そんなことばかりが頭を巡る。
 本当は、他の誰がそうなったって悲しむべきこと、忌むべきことなのに。私はただ、お兄ちゃんがそれに選ばれてしまったことだけが悲しくて、悔しくて、神様を恨む。
 そして、そうなった要因を作った両親を憎む心とは逆に、何も知らずに研究を続けていることへの哀れみも生まれた。


 でも……私の中で、ある真実が導き出された。
 もしかしたら、私の第六感は、既に気づいていたのかもしれないけれど。

 そう考えたら、何だか無性に彼に会いたくなった。


 正確には……赤薔薇の女王様に。

 兄と瓜二つな、孤高の吸血鬼に。


――――……


 私を呼ぶ声が、遠くで聞こえる。
 目を開ければきっと、彼が心配そうな瞳を向けているのだと思うと、嬉しいような切ないような複雑な気分になった。


 どうか真実を知っても……今までのままでいてほしい。
 そう願いながら、私は静かに目を開ける……





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ヒロイン独白の会です。いやー、わけわかめな感じですね☆あは(氏ねっ)何ていうか、独白って難しいですね。ホントさー。
さん、何か一人で色々悟っちゃってますけど!? まだ、全部伝えて無いから〜って書いてて思いました(爆)まだ、玲さんの言葉に色々驚かされて頂戴よ! と思いつつ、それは無理そうだなぁ……。何でこうも聡い子にしちゃったんだろ(;´▽`lllA`` 私がそういうヒロイン好きなためかと思われます……ごめんなさいm(。_。)m  天然主人公<かしこくて頭の良い主人公が好きなのですわv
さてさて、次回こそ彼ら吸血鬼のご登場です! ホント、長引いたよな……。。。