Chapter3: A vampire...?
「ようこそいらっしゃいました、マドモアゼル。今宵は――――……って!?」
「こんばんは、水野さん」
入り口で営業スマイルを浮かべた水野さんが凍りつくが、敢えて笑顔で挨拶する私。
しばらくの間があった後、彼は大きくため息を吐く。
「……懲りないな、君も」
「人間、諦めたらお終いだと思ってますから」
「……はあ」
もはや、何を言っても無駄だと解釈したのか、彼は黙って道を開けてくれた。私は、会釈しながらその前を通り過ぎる。
「「「ようこそMephistoへ。マドモアゼル」」」
店の中に入った瞬間、3名の吸血鬼の格好をしたホストたちが同時に礼を取った。しかし、私だと気付くと、営業スマイルから一転、何とも気安い表情へと変わる。
「! 今日も来てくれたんだ!? やったーvvv」
「こんばんは、結人」
抱きついてくる結人をひらりと交わし、出迎えてくれた他の二人にも挨拶をする。
「いらっしゃい、」
「そろそろ来る頃だなって、話してたんだぜ?」
「英士、一馬、こんばんは。また来ちゃいました……」
苦笑いをしつつ、店内を見渡す。
まだ時刻は午後7時を回ったところ。人はまばらで、手が空いているホストの方が多いように見える。
「空いている席に座ってて。混むまでは相手できるから」
奥の席を指差した英士が、カウンターへと消える。
「、俺たち英士を手伝ってくるから、先席行ってて」
「あ、うん。ありがとう」
私は言われるままに、奥のテーブルへと移動した。
少し離れに設置されているそこは、とても落ち着いた雰囲気を持っている。花瓶に飾られた薔薇の色は白。ソファーも白で統一されていて、とても清潔な感じがする。
ふと、隣のテーブルが気になって目を向ける。
そこには、青い薔薇を弄びながら、美女の手を取り口付ける男性の姿があった――――三上亮だ。
思わず目を背けるが、耳に入る声は消せない。
『美しいマドモアゼル……。今宵のお前は、いつに増して魅惑的だな。もしかして……俺を誘惑してるのか?』
「やだーっ、亮ってば」
『ふっ……お前の唇、綺麗な深紅色だな…………美味そうだ』
「ウフフ……味わってみる?」
『いや…どうせなら……お前自身を――――』
「やんっ……vvv」
「っ……////」
思わず耳に手を当てて、体ごと逆に向ける。
何て恥ずかしい台詞を吐くのだろうか。あんな言葉、漫画やドラマでしか聞いたこと無い。むしろ、どうしてあんな台詞が浮かんでくるのかが謎だった。
あんな台詞、耳元で囁かれたりしたら…………っ! ――――駄目駄目!! 絶対卒倒する!!
「――、どうしたの?」
「へ!?」
振り向くと、飲み物を持った英士たちが不思議そうに私を見ていた。
「何か顔赤いぜ? 熱でもあんのか?」
「にゃっ!?/////」
「うーん。熱は無いか」
「ゆ、ゆ、結人……!!!」
突然結人に顔を近付けられて、そのままおでここっつんをされた私は、半パニックになっていた。
「結人、が驚いてるでしょ」
結人を引っ張りながら、英士が言う。早鐘を打つ胸を押さえながら、私は必死に笑顔を作った。
「ご、ごめんね……ちょっと考え事してて、驚いて……」
「そうか? ならいいけど……」
一馬が訝しげな顔を浮かべるが、私は曖昧に笑ってごまかした。まさか盗み見して赤面してました、なんて言えるはずもない。
ソファーに腰掛けた三人を見て、私は早速本題に入る。
そう。私は何も、ホスト遊戯を楽しみにきたわけではないのだ。
テーブルに両手を付いて、身を乗り出す。
「――――で? 皆は一体何を隠してるの?」
「……だからー、俺たちは何も隠してないって」
結人が苦笑しながら手を振るが、私は声を荒げて反論した。
「嘘! 絶対何か隠してる!! 私の勘は外れたことないんだから!」
「、声大きい……」
一馬がぼそっと言ったので、名指しで言い返す。
「一馬! さっさと白状しちゃいなさい!! お兄はどこにいるの!?」
「な、何で俺なんだよ?」
「一馬が一番話してくれそうだから」
「うっ…………俺が弱そうってことか…………」
何故かへタレモードに突入した一馬を見て、英士が溜め息をつく。
「……。ここまでの会話、昨日と全く同じだね」
「う……」
今度は私が唸る番だった。
でも、このやり取りももう慣れた。私は英士を見据えて言ってやる。
「だって、皆が本当のことを教えてくれないのがいけないんじゃない! 私はお兄を捜してるの!! 皆が秘密を教えてくれるまで、私は諦めないんだから!!!」
息を切らしながら言い切った私に、英士は薄っすらと笑みを浮かべる。
「フフ……は可愛いね。いつも一生懸命で」
「なっ!?////」
「そのお兄って人が羨ましいよ。可愛いに、ここまで思ってもらえて」
そう言って立ち上がった英士は、両手を付いたままの私の頬に手を添える。身を引こうにも引けない状態の私は、ただ英士を見つめることしか出来なかった。
英士は私を見つめ、悲しそうに目を伏せる。
「早く見つかるといいね……お兄さん。可愛いが、これ以上悲しまないために…………」
「っ……//////」
恥ずかしさで火が出そうな顔を押さえながら、一気にテーブルから飛退く。
「ええええええ英士っ!!///////」
「フフフ……照れたも可愛いね」
「か、からかわないでよ……っ!!//////」
ポーカーフェイスを崩さない英士の真意は分からないが、私は遊ばれているのだということだけは分かる。
そうだった。ここはホストクラブだった。
あんなゲロ甘な台詞吐くのは、何もあの三上亮だけじゃない。英士だってホストの一人(しかもトップ3?)だし、結人や一馬だって、ここのホスト。皆、多かれ少なかれ、ああいう台詞を吐き散らしているに違いない!!(結構な極論)
「う〜〜〜〜っ……今日も負けたぁぁぁっ!! 英士の意地悪―――っ!!」
耐えられなくなった私は鞄を掴み、そのまま駆け出そうとした…………が、何故か腕を誰かに掴まれる。
「だ、誰……――――っ!?」
「店内で騒がれては困りますね、マドモアゼル?」
「か、笠井さん……」
苦笑したような、困ったような顔で佇んでいたのは笠井さんだった。
「よっ、笠井。お疲れーw」
結人が声を掛けると、笠井さんは軽く微笑みを返す。そこに、英士が冷ややかな声音で割り込む。
「笠井。に何か用?」
「ああ、ちょっとね。クイーンからご指名」
それだけを告げ、私の腕を引いて歩き出す笠井さん。数歩進むと、「あ」と呟いて英士たちを振り返る。
「ジャックは4番から指名。真田と若菜はナイト役とのこと。じゃあ、宜しく」
「……あのマダムが来たね」
「うわー……俺、あのオバチャン苦手……」
「俺も……うぅっ、あれは絶対セクハラだ……!!」
笠井さんの言葉に、青ざめた三人。
そんなに酷いお客さんなのだろうか。でも、一馬の震えは尋常ではない。セクハラが何とかって…………ホストも中々大変なのだろう。
再び歩き出した私たち。ちなみに私は、後ろ向きのまま引きずられているような格好だ……。
英士が、こっちを見て……私じゃなくて、笠井さん? を睨んでいるのは気のせいだろうか。というか、何となく今の会話、刺刺しかったような気もする……。
そんな思いを抱きつつ、私は笠井さんに連れられていく。
「あ、あのっ……」
「あ、すみません。腕、掴んだままでしたね」
申し訳無さそうに、彼は私の腕を放す。
「いえ……。あの、私は今からどこへ……?」
「クイーンのところです。貴女と話がしたいそうで」
「クイーン……?」
女王ということなのだろうか。
私が考え込んでいると、笠井さんは赤い薔薇を一輪、近くの花瓶から抜いた。
「これを見れば分かりますか?」
「赤い薔薇…………――――って、もしかして!?」
「はい。クイーンは、翼。椎名さんのことです」
数日前の光景が甦る。
赤い薔薇の花びらを降らせた彼。
兄にそっくりな、私を助けてくれた人……。
笠井さんは薔薇を戻すと、バルコニー仕様の奥まった席を手で示す。
「クイーンはあそこにいますよ、さん」
「あ、ありがとうございました…笠井さん」
何故かぺこりとお辞儀をした私に、笠井さんは笑った。
「クスクス……丁寧な方ですね。俺にも敬語ですし」
「あ、いえ、あの……」
確かに、英士たちにはタメ口を聞いてるのに、笠井さんには敬語だった。
何と反応してよいか分からないでいると、笠井さんは軽く目を閉じて、英国紳士がするように、優雅な礼を取る。
「……竹巳。そうお呼び下さい」
その、あまりにも優雅で洗練された仕草に、思わず見とれてしまう。はっと我に返った私は、どもりながら言った。
「あ、じゃ、じゃあ、私の事も呼び捨てにしてくれて構いません」
「分かりました、……」
「あ、敬語もナシで……。私たち、年あまり変わらない……よね?」
私の言葉に何故か曖昧に微笑んだ竹巳は、「そうだね……」とだけ返した。
え? 実は竹巳の方が年下とか?? いや、もしかしてすごく年上なのかも!
一人悶々としていると、竹巳の控えめな笑い声が響いた。
「クスクス…………本当に、って可愛いね。ココに来るお客様とは全然違うし…………あ、少し長く話しすぎたね。椎名さんが待ってる」
「あ、うん……」
手を振って微笑む竹巳を振り返りつつ、私はお兄…………じゃなかった、クイーンこと椎名さんの待つ席へと駆け出したのだった。
「何でここに呼ばれたか、分かってるよね?」
椎名さんは、私を見るなり開口一番そう言った。
「……はい」
俯く私に、彼は満面の笑みを浮かべる。
「今日で七日目。何か収穫はあったわけ?」
「……いえ、何も」
私の言葉に、なおいっそう笑みを深くする椎名さん。
あ、この顔。お兄が「してやったり」という時に見せる笑顔だ……なんて、関係ないことを考える私に、彼は自分の隣を手で示す。
「こちらへどうぞ、マドモアゼル」
「……失礼します」
おずおずと、彼の隣(一人分は空けて)に座る。彼は手馴れた手付きでドリンクを二つ作ると、私に一つ差し出した。
「え……」
「この店の門をくぐった女は、誰であってもお客様だからね。客人は常に、もてなされる存在だ。というわけで、今宵、この一時は、アンタは俺のお客様ってわけ。だから飲み物をお作りいたしましたが?」
「……いただきます」
受け取ったドリンクは、朱色のカクテルだった。ご丁寧なことに、飲み口には小ぶりな赤い薔薇が添えられている。思わず、感嘆の声を漏らしてしまった。
「綺麗……」
「――Aphrodite<アフロディテ>。アルコール度数も弱いし、飲みやすいと思うよ」
「Aphrodite……」
ギリシャ神話に出てくる、愛と美の女神。
確かに、そういった品のようなものが、このカクテルからは漂っている気がする。
でも……それは多分、作ったのがこの人だから……。
「ほら、何ぼさっとしてんのさ? 乾杯するよ」
「え、あ、は、はいっ」
――カチンッ
「乾杯」
「か、乾杯……」
グラスの高い音に続いて、椎名さんの声。
これ以上無いくらい緊張していた私は、一気にグラスを煽る。
「……いかがです? 美の女神の味は」
「お、美味しいです……」
「それは良かった。お気に召したなら、何より」
「……」
本当は、味なんて全く分からなかった。
それよりも、何で今、ここでこの人と乾杯を交わしているのかが分からない。
そんな私に苦笑したように微笑む彼。
「…………もう十分だろ? 僕たちは別に、何も隠してない」
「……」
俯いた私からグラスを取ると、椎名さんは私の頭を軽く撫でた。
「……お前が兄貴を見つけたいっていう気持ちは分かる。でも、僕たちには何もできない。僕たちには何も隠し事なんて無いんだから」
「……」
「一週間僕たちを見て、何か分かったことなんて無かっただろ?」
「……」
何も言葉が出てこない。
そうなのだ。私は一週間前、初めてこのメフィストを訪れてから毎晩、ここに通っている。……兄失踪の手掛かりを見つけるために。
絶対に何かを隠している……そう考えて一週間が経った今日。私のやる気も虚しく空回り、何も収穫が無いまま現在に至るのだ。
「お前があまりにも熱心だったから、特別に入店を許可してやってたけど……これ以上は黙認するわけにはいかない」
「……」
確かに、客でも無いただの女子大生がうろちょろしていいわけが無い。強行突破……してきたとは言え、向こうが本気になれば、私なんて警察に突き出されてもおかしくなかった。
それを、敢えて黙認してくれていたという。でもそれ=何も後ろめたいことが無い、ということの証なのではないだろうか。そう考えると、私がどれだけ探しても、手掛かりなんて出てくるはずがないのだ。
「本当に……本当に……お兄のこと、何も知らないんですね……?」
「……ああ」
「貴方は……椎名さんは……」
私は、一縷の希望を込めて、彼を見つめた。
「本当に……お兄じゃないの……?」
案の定困ったように微笑みながら、彼は私の頭をぽんぽんと叩く。
「悪いね……僕は翼。椎名翼。アンタの兄貴じゃない……」
でも……その仕草も、笑い方も……何から何までお兄なんだよ?
椎名さんがお兄じゃないって分かっても、ここまで似てるとやっぱり辛い。
けれどやっぱり、この人はお兄じゃないんだ……。お兄には、こんな八重歯は無かったもの。
こんな、吸血鬼みたいな――――
「吸血鬼?」
「え?」
「今、そう言わなかった?」
どうやら口に出してしまっていたらしい。椎名さんが、訝しげな目で私を見ている。
「すみません、独り言です……ただ……」
お兄の言葉を思い出す。
吸 血 鬼
何故だか妙に、頭に引っかかる言葉。
「……?」
「いえ……何でもないんです……」
私は頭を振り、立ち上がった。
だからって、どうすることもできないのだ。
時計を見れば、まだ午後8時半。来てから一時間半しか経っていない。
椎名さんに向き直り、ぺこんと頭を下げる。
「一週間、営業妨害してしまってすみませんでした。他をあたってみます。色々とご迷惑をお掛けしてしまって、ごめんなさい」
「……いや、気にしなくていいよ。アンタの兄貴が早く見つかること、祈ってる」
「ありがとうございます……」
私は、椎名さんを振り返らずにその場を去った。お兄と同じ顔の彼に別れを告げるのは、どうしても耐えられなかった。
「吸血鬼……ね」
ぼそっと聞こえたのは、椎名さんの独り言だったのだろうか。
何故か、彼の視線が離れないような感覚のまま、私は階下へと戻った。
「、話は済んだの?」
挨拶をして帰ろうか迷っているところ、竹巳に声を掛けられる。
「竹巳……私、やっぱり誤解してたみたいだね。ごめんなさい、営業の邪魔して……」
「椎名さんに言われた?」
「うん……。でも、私自身もそう思うから……」
「そう……。まあ、また暇なら遊びにおいでよ。きっとサービスするから」
「あはは、ありがと」
竹巳に手を振り、英士たちのところへ戻ろうと店内を歩く。途中、誰かが地下へ降りていくのが見えて、何となく足を止めた。
「地下って確か……」
最初に私が寝かされていた場所は、地下にある事務所だった。地下には事務所以外の部屋はあるのだろうか。そういえばこの一週間、1回も地下を調べなかったことを思い出す。
もしかしたら……
「……これで最後。何もなければそれでよし!」
不安と期待が入り混じったような気分で、私はそろりそろりと地階へと下りていった。
(ここがoffice……)
目の前のプレートを見て、ここが事務所だと理解する。
地階は思ったよりも広く、沢山の部屋が存在していた。
(……management-staff-room、cooking-staff-room……? 皆の個室なのかしら……)
見れば、十近くの部屋数があった。ホストの面々は皆、ここで暮らしているのだろうか。
(店全体が、一つの家って感じ……)
物音を立てないように、ゆっくりと一つずつ部屋を見て回る。しかし、どの部屋も鍵が掛けられているらしく、中の様子は窺えなかった。
廊下の端まで行き着くか…という所で、一番端の部屋の扉が微かに開いているのに気付いた。明かりが漏れている。
(……誰の部屋?)
壁伝いに移動し、扉の影から中を覗き見ようと身を寄せると、中からむせ返るような香りが漂ってきた。……薔薇の香りだった。
もう少しよく見てみようと身を乗り出した私は、思わず声を上げそうになった。
部屋の中にいたのは、結人と一馬。二人とも、げっそりとした様子で床に座り込んでいる。
手には薔薇。二人はおもむろにそれに口付ける。
次の瞬間――――
(う、嘘でしょ……?! そんなことって……)
二人に口付けられた薔薇は、見る見るうちに萎れていく。
気づけばすっかり茶色に変色し、ぱらりと花弁が落ちた。
薔薇の衰退に反比例するかのように、二人は元気になっていった――――まるで、薔薇の生気を吸い取ったかのように。
あまりの出来事に、身動きを取ることが出来ない。
でも、このままここにいたら、大変なことになる。
叫び出したくなる気持ちを何とか抑え、大急ぎで地階から逃げ出した。
(何なの……あれ……っ)
階段を駆け上がりながら、さっきの情景を思い起こす。
二人は確かに、薔薇の生気を吸い取っていた。
精気を吸い取る……まるで、ヴァンパイアのように――――。
(ヴァンパイア……?)
そのフレーズが、妙にクリアに頭に響く。
店内に戻った私は、英士の姿を捜す。彼はまだ、そのマダムとやらの相手をしているようだ。
ふと見渡すと、三上さんの姿が見えない。一緒にいた女性の姿も無かった。
胸がざわざわと騒ぎ出す。
何かが起きる前兆のような、そんな気分。
私の身体は、勝手に店の外へと駆け出していた。
店の裏側……路地裏と言うのだろうか。
私は、二人の男女の姿を見つける。
「ウフフ、ここから誰も来ないわよ?」
「フッ……俺は別に、誰に見られても構わないんだぜ?」
「やだっ、もう……エッチ……」
「お前の血が、俺を獣にするんだよ……!」
「あっ…………」
思わず赤面してしまうような場面だが、それよりも胸騒ぎの方が勝っていた。
この場面は、ただの男女の情事ではない――――そう、私の中の何かが告げているのだ。
「あ、亮っ……いたっ……」
「うるせえ……黙ってろ……」
雲が途切れ、月が姿を現す。
路地裏の景色を、ぼんやりと映し出す。
壁際に押しやられた女性と、それに覆いかぶさる男性。
月明かりが輝きを増し、彼らの姿を露わにした瞬間、私は自分の目を疑った。
三上亮が…………女性の首筋に噛み付いている。
血で濡れた唇から覗く、鋭い牙のような八重歯。
貪るように血を啜る音が、辺りに響き渡っている。
女性から力が抜けると、その場に座らせるようにして離れた。
私は、動くことも声を上げることも出来ず、ただ呆然と一部始終を見ていた。
このままここにいたらどうなるか分かっているのに、それでも体が動かない。
そして、月が一際強く輝いた瞬間、彼と目が合った。
――――時が止まり、見開かれた目にお互いが映し出される。
漆黒の瞳からは、赤い光が発せられている。
濡れたような夜色の髪が、風に揺れる。その風に、微かに血の匂いが混じっているのを感じる。
震える喉を通って出たのは、ずっと引っかかっていたこのフレーズだった。
「ヴァンパイア…………」
To be continued...?
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衝撃的な現場を目の当たりにしたヒロイン。ていうか、ちょっと年齢制限な匂いが漂う描写でしたね……(苦笑)
しかも、U-14が出張りすぎ……。一応翼・みかみん寄りの逆ハーなのに……。そして、名すら出てこない他キャラ(涙)もうすぐ出ます! 多分……(llllll´▽`llllll)
次回、彼らの正体を知ってしまったヒロインに、彼らは――――? ちょこっと急展開!! な予感。