U The last mission






―――― side 一馬

たちは……行ったみたいだな」

 俺は腕を押さえながら、銃撃戦に耐えていた。
 銃と言っても、コイツらが撃っているのは普通の銃じゃない。銃弾の代わりに、細い針のようなものを撃ってきやがる。

「一馬っ、腕、平気?」
「ああ……特に何とも無い」
「そう……こっちも、コレを使うしか無さそうだね」
 壁に身を隠しながら、リボルバーの安全装置を抜く英士。
 反対側の壁には、藤村が同じく拳銃を、吉田がナイフを手に構えている。
 井上と結人は、それぞれどこかに身を隠しているようだ。

「でも……あの針は一体何なんだ?」
「さあね。でも、あっちの余裕ぶりが気になるね……一馬、本当に何ともない?」
「ああ。別に何とも無いよ。傷だって、もうとっくに――――っ!?」
 何気なく捲った腕を見た俺は、思わず息を呑んだ。
「どうしたの、一馬――――……これは……!?」
 英士が目を見開いている。かくゆう俺も、英士のような顔をしているに違いない。

 俺の腕には、針が刺さった後がくっきりと残っている。
 傷口からは、珠のような血が滲み出ており、白い白衣に染み込んだ。

 傷が……治っていない……。

「何でだ……!? どうして、傷が……!!」
「あの針に何か仕掛けがあるのかもしれない」
「……」

 確かにそれは考えられることだ。
 研究員の血には、俺たちの身体機能を低下させる物質が入っていた。それなら、俺たちの驚異的な治癒力を低下させる薬だってあるかもしれない。いや、むしろその考えは絶対に正しいと確信できる。
 ……溜め息しか出てこない。
「……厄介なことになったな。これじゃあ迂闊に手出しできないし……」
「治癒出来なくなったら、俺たちは只の人間だからね。一斉射撃でもされたら、即死だよ」
「クソッ……どうして一番不死の力が必要なときに、役に立たないんだよ……!!」
「フフッ……あんなに死を望んでたのにね。今はこの身体がこんなにも大切に思えるよ」
 
 そうだ。
 俺たちは何百年という時を生きてきて、常に「死」を見つめてきた。
 仲間がいたから、口には出さなかったけれど。本当は皆、心の中では「安らかな死」を望んでいた。
 不死という呪いを断ち切って望むものはただ一つ。
 「永遠からの解放」――――つまり、死ぬことだった。

 でも……最近は違う。
 「口に出していた希望」が「心からの願い」へと変わった。心と言葉が、やっと一体化した今なら言える。
 嘘偽りではなく、俺たちは元の身体に戻って、人間としてコイツらと……あの子と共に……この先の「短いけれど美しい生涯」を歩んでいきたいと……。

「なあ英士……」
「何? 一馬」
「俺、英士と結人と三人一緒にここまで来られて、本当に良かったって思ってる」
「……」
「もう……後は、自分の思うとおりに、ただやれることをやってみたいんだ」
「……一馬のやりたいようにやればいいよ」
 ふぅと息を吐き、英士は俺を見た。
「俺はどんな時も、一馬と共にある。今までも、これからもね」
「英士……」
「だから、一馬がやりたいようにやりなよ」
「俺――――」

――――ズシャシャシャ!!!

「おいおいおい! 俺を抜かして何感動的シーンしちゃってるわけ!?」
 突然、結人が転がり込んできた。
 その両腕、両脚には痛々しいほどに銃弾が埋め込まれていた。
「結人!? お前、その怪我……!!」
「へへっ! ちょっとな、油断したら普通の銃も持ってたのねーって感じでさ。ま、大したことねえよ」
「……治癒、出来ないんだね」
「ああ……何か、あの針打たれちまってから、一向に傷が回復しねえんだ。おかげで疲労困憊、出血多量で貧血気味―、みたいな?」
 明るく笑う結人。でも、額からは脂汗が滲んでいる。……相当、無理してるんだろう。この分だと、藤村たちも苦戦してるはずだ。
「結人、俺……」
「分かってるって! 何年一緒にいたと思ってんだよ。俺たちは親友だろ? 俺たちが、一馬を飛ばせてやる!」
「俺たちを生かすのは、いつだって一馬なんだからね」

 コイツらと一緒なら、死ぬ事なんて怖くない。
 地獄だって、迎え撃ってやれる。

「二人とも……俺と一緒にやってくれるか?」

 俺の言葉に、二人は笑って頷いた。
 ……もう、何も恐れることなんて無い。

「アイツらの血を……全て消し去ってやる」
たちのところへは、絶対に行かせない」
「最後のロスタイムってところだな。試合はまだ終わっちゃいねえぜ!」

 ……。
 他の奴らを、頼むぜ。

「英士! 結人! 試合〈ゲーム〉再開だ!!」
「了解」
「合点!」

 そうして俺たちは、鮮血の飛び散る戦場へと飛び出していった。









―――― side シゲ

「……あーあ、リンゴ王子たち行ってもうた」
「相変わらず、あっついトリオやね」
「でも……アイツららしいと思うで」
「せやな……」
 リボルバーなんて、俺の武器としてはイマイチやねん。肉弾戦の方が得意なんやけど……まあ、今は贅沢言ってられへんな。相手が銃を使うてくる以上、こっちもそれに応えるのが流儀ってもんや……。
「何考え込んどんの? 君にそんな顔似合わへんよ」
「そうじゃ、ボケ! いつもの人をバカにしくさった表情せんかい!」
「酷い言われようやな……って、二人とも、銃じゃないやん」
 ノリックがナイフを構えながら、きょとんとした顔で言う。
「何言っとんの? 藤村、僕は銃なんて柄やないやん。これは試合やで。自分らしく戦わなくてどないすんの」
「…………どこから出したん、それ」
 サルはいつの間にか、木刀持っとるし。
「それは企業秘密や。それに喧嘩には、木刀って相場が決まっとるやん」
「……いつの時代の不良や、直樹君……」

 二人の言葉に……俺は笑いが止まらなかったんや。
 重要な戦いやからこそ、自分らしく行くべきやった。
 使い慣れてない銃なんて、使う必要なかったやん。何を迷っとったんやろ、俺。

「ホンマ……サルよりバカかもしれへんな俺は」
「何やて!? お前のほうがその百倍はアホや!!」
「二人とも、今は喧嘩しとる場合やないで」

 俺らしく、最後を飾ってええねん。
 相手のことなんて、二の次、三の次や。
 勝つために、あらゆる手段を考えるのが関西流儀や。

「よっしゃ! こんなんやっぱ俺らしくない」
 俺はリボルバーを蹴り飛ばすと、手を叩いた。やっぱり俺は、この拳でいったる!
「おっ、やる気やね」
「はよ、そうせんかいボケ!」
「うっさいわサル! そんな棒、俺の拳で折ってやるわ!」
「何やて!? お前のそのひよい腕なんぞ、俺が粉砕してやるで!」
 俺らの漫才に、ノリックがニコニコ笑っとる。
「何や。難波のお庭番時代みたいやね。懐かしいわv ナイフはさしずめ、短刀ってとこやね」
「いっちょ暴れたるで! シゲ、ノリック、ワイについてこい!!」
「「嫌や!!」」
「何でやねん!?」

 このトリオ……俺は結構、気に入ってたんやで?
 俺らが関西弁を貫いとるのやって、あの頃の思い出が俺らを支えてるからやろ?

「ぷっ! あっはっはっはっは!!」
「藤村っ、僕らの息、ぴったりやん! あははははっ!!!」
「俺はどないなんねん!!!」

 嫌なことやって、沢山あったのにな。
 何でやろ……楽しかったことしか、今は思い出せへんのや。

「……ほな、早速こっちもリンゴ王子たちに続くで! これが俺らの、ラストミッションや!!」
「ツートップは僕らやね! 行っくで〜!!」
「だーっ!! 俺を置いて行くなーーっ!!!」



 たつぼん、ぽち、不破センセ……。
 俺は、最後まで俺らしくやったる。
 後悔はないで。
 ただ……最後にもう一度。
 お前らの笑った顔が見たかったわ。

 なあ、
 お前は泣いたらいかんで。
 ファウストは、メフィストの希望なんや。
 お前の笑顔が、俺らの救いになる。
 俺らは誓ったんや……お前の笑顔を、何に代えても守るって。

 だから
 どうかいつまでも、笑っていてくれな。

 そしてどうか……皆を救ってやってくれ……。




to be continued...


back/top/next
 
うわわ……何だか悲劇の渦中に突入しています(汗)なんでやねん!!でもいいの。切なさを追求する物語だから(おいおい)いやいや、それは言いすぎです。
 気付けば残すところ後4話? 最後まで頑張ります。あー、もう段々語ることが無くなって来た(涙)あ、一馬やシゲの独白がおかしいのは、桃井の頭がおかしいからなので気にしないで下さいm(。_。)m ペコッ ごめんなさい……。そうそう、ノリックが言ってるのは、江戸時代、この三人は関西に渡ってたことがあって、その時はある旧家のお庭番をしてたという裏設定です。だから、この三人だけ関西弁なのです(ヨーロッパ出身なのに、関西弁の理由こじつけw)その時の絆が、関西弁を使い続ける所以ってことになってます。あいたたた……。