「――――institute, may I help you?」
「Hello. This is
I'm.....the daughter of Dr.. It is urgent I talk to Mr. and Mrs now
「……
Just a moment, please

 電話の向こうで、どんな受け答えがなされているのか。
 知る術がないことが、こんなにももどかしい。

「……お待たせいたしました。さん」
 次に聞こえてきたのは、英語ではなく日本語だった。
 日本人の担当者に代わってくれたのだろうか。しかし、告げられたのは……
「……大変申し上げにくいのですが、お二人は一週間前より他国の研究所へ出向しております。こちらからは一切連絡することは出来ない状態のようです」
「そんな……何か方法は無いんですか? 出向先の連絡先は?」
「外部の方には一切の情報をお教えすることは出来ません」
「娘にも……ですか」
「いかなる場合も例外はございません」
「兄が……兄が大変なんです! どうしても、両親と話がしたいんです!!」
「……貴女様のお気持ちは分かりますが、こちらとしてはこれ以上のお答えは出来ません」
「そんな……じゃあ、どうしたら……」
「お二人の帰国日は、早くて半年後と伺っております。それまでは、連絡をお取りすることは難しいと思われます」
「…………」
「一応、こちらからも連絡してみますが、お返事をお約束することは出来かねます」

 受話器を置いた私は、そのまま電話ボックス内に崩れ落ちた。
 握り締めた拳には、連絡先のメモ。
 でも、今では何の役にも立たないただの紙切れ。

 灰色の曇天が、私の心を表していた。





 Chapter2: Vampire-project.






 祖国を離れて一週間が経った今現在。
 私たちはそれぞれ、情報収集のため国を跨いで散らばっていた。
 本拠点をイギリスのロンドンに置き、ドイツ、フランス、イタリア、アメリカといった国々を、数名ずつで回るという構図だ。
 ちなみに……

 ・大地・克朗
 翼・柾輝
 竜也・将君・多紀
 英士・一馬・結人
 亮・竹巳・誠二
 シゲ・光徳・直樹

 というようなグループ分けがなされた。
 これを決めたのは翼と英士。どういった基準でこう決まったのかは謎だけど……。
 拠点地のロンドンには、私と大地と克朗が残ることになった。大地は、皆から送られてくる資料などの分析を担当し、克朗はその他の雑務全般をこなす。二人は私のボディーガードも務めてくれるらしいから感謝だ。

 そして……私の担当は「研究所との接触」。
 つまり、両親と会う約束を取り付けること……だった。

 しかし結果は……冒頭の通り。
 両親は、一週間前から他国に出向してしまったらしい。そこは勿論、玲さんとお兄が逃げ出したとこに違いないし、場所なら玲さんに聞けば分かるだろう。でも、結局は侵入できなければ意味がないのだ。そのために、私という駒があったのに……。

「結局役立たず……はぁ……最低……」

 期待をしていたわけではなかったが、やっぱり落胆は隠せない。

「でも……」
 メモを握り締め立ち上がる。

「ここで諦めるわけにはいかないよね……」







「ただいま……」
「お帰り、どうだった?」
、帰ったのか」
「……」
 出迎えてくれた克朗と大地に、私は頭を下げた。
「ごめんっ……! 私、失敗しちゃったの……」

 事のいきさつを話すと、二人は頷いた。
「そうか……それは残念だったな」
「ふむ……研究所のガードは、思っていた以上のようだ」
「本当にごめんなさい……私がもっと上手くやれば良かったのかもしれないのに……」
 俯いた私の肩を、克朗が軽く叩いた。
「何落ち込んでるんだ。お前のせいじゃないだろう?」
「でも……」
が落ち込む必要は無い。手段が一つ減っただけだ」
 大地はそう言うと、パソコンを操作する。
 すると、画面に結人の顔が映し出された。
 インターネット電話で繋がっているようだった。

「若菜、何だ?」
『不破か! そっちの状況はどうかなって思ってさ。あ、いる?』
「結人!」
 画面の向こうで、結人が手を振っていた。
『おーv 久しぶり!! 元気か? こんなにもに会わなかったの久しぶりじゃね!? あー早くお前に会いたいぜっ。なあ、一馬? 英士』
 結人の後ろから、一馬と英士が身を乗り出している。
『こら、結人っ、ちょっと退けって!……、体調とか平気か?』
、大丈夫? 渋沢に変なことされたりしてない?』
 一馬と英士の言葉に、思わず苦笑する。相変わらずだなぁ……と。(というか、克朗が哀れ……)
 私は、画面の二人に言った。
「二人とも……元気そうで良かった。私は大丈夫だよ。……でもね……」
 両親と会うことに失敗してしまったことを打ち明ける。
「……本当にごめんね……私、こんなことしか出来ないのに……」
『何言ってんだよー! それだけで十分だって!』
『そうだよ。が気にすることじゃないよ』
『お前は……いてくれるだけで十分っていうか……////,』
『きゃっ!! かじゅまがクサイ台詞吐いてまちゅよー!?w』
『ゆ、結人! 俺はそんなつもりじゃ……!!』
「一馬……」
 
――――ザザザザァァァ

「ん? 他からも通信が入っている」
 大地がパソコンを操作すると、別ウインドウで今度は亮・誠二・竹巳が現れた。そしてそのまま、次々とウインドウが現れる。
「み、皆!!」
 気付けば、画面は他国に散らばったメンバー全員の顔を映し出していた。
 私たちは唖然となりつつ、画面を見つめる。

ちゃん、今の話聞いちゃったよ』
「誠二……」
ちゃん、落ち込むことなんてないんやで? 僕ら、そんなことちっとも気いせんし』
『そうやそうや、はいてくれるだけでいいんやってv りんご王子も言っとったしな』
『り、りんご王子って俺かよ!?』
 光徳とシゲが笑いながら言うと、一馬が顔を真っ赤にしてうろたえた。あ、本当にりんごみたい……。
、俺様がお前の血を吸って、忘れさせてや―――――って、うおぉ!?』
『あ、すみません。手が滑りました』
『いやタク……それ足だよ……(涙)』

 いつも通りの掛け合いに、心が軽くなっていく。

さん、落ち込まないでください! 皆がいれば、何とかなりますよ』
『将君の言う通り。僕たち皆、仲間だしね』

 優しい言葉が、心に染み渡る。

『ったく……、お前のバックには誰が付いてると思ってるわけ?』
「翼……」
『メフィスト・フェレスっていう、ヴァンパイアが大勢いるんだよ? のカバーくらい、どうってことないね』
「でも、私……」
『それに、こんなことは予想済みだったし』
「……え?」
 思わず目を見開いた私に、翼はウインクした。
『最初から、こうなることは予想してたんだよ。だから敢えて、僕らはお前の傍から一端離れた。敵に気付かれないためにね』
「……」

 開いた口が塞がらないとはこのことだろうか。
 画面の向こうで微笑む天使……のような悪魔様には、私の失敗も全て想定の範囲内だったらしい。

『……ごめんね。でも、保険をかけておくのは、物事を進める上で重要だからね。勿論、上手くいくに越したことなかったけれど』
 そう言って薄く微笑む英士も、私はただ見つめるしか出来ない。
 
 そうだった……私が共に行動しているのは、伝説の悪魔様達だった。
 一人間の私ごときが、何もする必要はなかったのかもしれない。

『でもこれで、僕たちが取るべき行動は一つになったね』
『そうだね。まあ、当初の予定通りってことかな』
 翼と英士の言葉に、画面に映る面々は頷いた。
「……もしかして……」
、今から説明するよ。ヴァンパイア・プロジェクトをね――――』

 私が失敗した今、残された手段はただ一つ。

――強行突破

これしかないのだ……。






「……本気?」
 私は半ば放心しながら翼の顔を見つめた。
 翼は、何でもないことのように笑う。
『俺たちの力を最大限に生かした……失敗は許されない、危険極まりないプロジェクトだよ』
『ククッ……いいんじゃねえ? 常に危険と隣り合わせに生きてきたんだ。今更始まったことじゃねえしな』
 柾輝の言葉に、直樹が頷いた。
『そうやそうや。それに、俺たちにはこういう方法が一番合ってるやろ! 突撃するのが一番手っ取り早いで』
『確かに、サルに頭を使う仕事は向いてへんわ』
『何やて!? シゲ、もういっぺん言うてみ!』

 まるで、そうすることが決まっていたかのような口ぶり。
 最初から、この計画を実行する気だったのだろうか。
 玲さんに会って、全てを知った時から…………?
 
 考えたところで、彼らの思考は分からない。
 でも……これだけは言える。
 彼らはきっと、私の安全を最優先してくれているのだ。
 私をロンドンに置いて、敢えて研究所とコンタクトを取らせた。この行動は失敗に終わってしまったけれど、彼ら的にはそれで良かったのだ。自分たちと私の関係を掴ませないためにも、敢えてこうする必要があったのだから。あくまでも私は、お兄のことで両親と話したいだけ……それを強調させようとしている。

 自分たちに何かあっても、私と繋がってることを気付かせない。
 それは全部、私のため。
 私の……未来のため…………。


 溜め息をついて、俯いていた顔を上げる。
 画面に映る吸血鬼たちは、皆不敵な笑みを湛えて私を見つめていた。

『……ファウスト、このミッションにお付き合いいだけますか?』

 鮮やかな紅の瞳が、私を射抜く。
 有無を言わせない、力強い輝き。

『ファウストとメフィストは一心同体の関係。ファウストの意が、我々の意思そのものとなるのです』

 ファウストは、メフィストを使役する。
 でも……その魂(こころ)はメフィストのもの。
 つまりは、メフィストの意がそのまま、ファウストの意になるということ……。

『我々と共に、吸血鬼革命を起こしていただけませんか?』

 革命には、勢いが必要。
 そして、それを作る仲間も。

 幸い……全てが揃ってる。

『ファウスト、決めるのは貴女です』

 完璧に固められた外堀。
 一片の隙間も無い。
 私が拒否する理由も、問題も、何も残っていない。
 用意周到もここまでくれば、大したものだ。

 決めるのは……貴女と皆は言うけれど。
 その顔には、不安の欠片も見えない。
 全てを先読みして、思い通りに進めて。
 なのに、最終決定権を私に委ねてくれる皆は、心底ズルイと思う。

 爛々と輝くその瞳には、私が頷く未来しか見えていないくせに。

 でも……その瞳に囚われてしまったのだから仕方ない。
 契約を交わした瞬間から、私の心はメフィストのもの。

 ……逆らえないんだもん。


 私は皆に負けないくらいに、思いっきり微笑んだ。
「その計画……承認します!」

 皆の瞳が、より一層の輝きを増した。



 ……大丈夫。きっと全部上手くいく。
 皆の笑顔が、この先の未来を示しているって信じてるから……。




to be continued...?


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大変長らくお待たせいたしました! 吸血鬼輪舞曲、連載再開しました★★★これからは、もうめちゃ更新しまくる予定なので、どうぞ宜しくお願いいたしますvvv 今回の吸血鬼計画、一体どんなものだったんでしょうか?? 後々、この計画がお話のキモになる(?)ので、色々想像してみてくださいね(おい)結構、話が飛び飛びで進んでいきますが、まあ夢小説のお約束って感じで大目に見てくださいませ(苦笑)
次回は、いよいよ決行前夜!?(超早っ)お楽しみに……(。'(エ)-。))-☆