「おい、不破。こっちは出来たぜ」
「ふむ。では行くぞ」

――――ピピピピピピッ

『セキュリティシステム、解除しました』

「ククッ…データ読み取り完了ってな」
「バックアップも完了した。今、プリントアウトして出す」
「すごい……」

 目の前で繰り広げられる、鮮やかな技に感嘆のため息が出る。
 私の背後で、同じくため息をついたのは誠二と結人。

「お前ら……何でそんなこと出来んだ??」
「俺、ぜーんぜんっ、分かんないけど!!」
「結人はコンピューター勉強するの嫌がって、全然しなかったからでしょ」
「うっ……(汗)」
「誠二、今の世の中ハッキングくらいは普通のことなんだよ」
「え!? そうなのっ!?(汗)」
 二人は、英士と竹巳に突っ込まれて小さくなっている。
ハッキングが普通って言うのは、ちょっと言い過ぎだと思ったけれど……お兄のことを思い浮かべると、何も言えない。だってお兄はハッキングして、組織の中からデータを盗み見ていたのだから。

、プリンタから資料を取ってくれ」
「あ、うん」
 大地に促され、プリンタから映し出される用紙に目をやる。それには、建物の内部構造及び地図が描かれていた。
「これって……研究所内の?」
「そうだ。今、三上と二人で研究所と繋がっている組織のコンピューターに侵入して、データを盗み出した」
「流石に研究所に直接ってのは無理だったけどな。まあ、地図が手に入ればこっちのもんだ」

――――ピピピピピッ

 電子音と共に、画面上にウインドウが弾き出される。亮がパソコンに向き直ると、ウインドウに映像。

「…椎名か」
『どう? 何か進展はあった?』
「今、研究所内部の構造図と地図を盗み出したとこだ」
『へえ…結構やるじゃん。見直したよ』
「けっ、お前に見直されても嬉しくも何ともねえよ。それより、お前らの方は何か掴めたのか?」
『まあね。とりあえず、玲と連絡が取れた』

 翼の言葉に、皆の顔色が変わる。真剣味を帯びた、鋭い表情。私は、それに続く言葉を待った。

『玲たちは、現段階で集められる薬の材料は全部集め終えているらしい。今は、僕たちとほぼ同じように情報収集をしてる』
「監督は今どこに?」
『生憎、固定した住居はないってさ。各地を転々としてるらしいよ。で、連絡は全て『ある掲示板』を使うことにした』
「掲示板……?」
 英士が訝しげに聞き返すと、翼の後ろからシゲが顔を出した。
『裏世界の掲示板や。俺らが情報を買っとる奴らが使うてるとこにあるんやけど、すごい色んな仕掛けがしてあってな。そこを使えば少なくとも研究所にバレることはないやろってわけや』
『それに、もしバレたとしても、僕らだって本名書き込むわけやないし、暗号で書けばそうそう分かるもんでもあらへん。下手に電話やメールするより、よっぽど安全な方法っちゅーわけやね』

 ノリックが付け足すと、柾輝が笑った。
『ま、次に掲示板に書くことは一つしかないけどな』
『つまりは決行日時っちゅーことやな』

 直樹の言葉に、思わず息を呑む。

 決行……その言葉には、どれだけの意味と意義があるのだろう。
 心の中で神妙に頷く。

「そっちの状況は分かった。お前らは今……フランスか。じゃあ、3日以内にロンドンに戻ってこいよ。全員揃い次第、今後のことを決めようぜ」
『了解。あと……
「?」
 突然名前を呼ばれて、思わず顔を上げる。
 画面に映った5人が、私の顔を見つめている。
 しばらくして、翼が口火を切った。
『……お前の兄貴とは、連絡が取れなかった。玲とは別行動を取ってるらしい。両親に会いに行ったって……』
「両親に……?」
『ああ。そんでなの両親が出向したっちゅう研究所を突き止めたんやけど……今、そこ、外部との接触を一切絶ってるらしいで。せやから、正直な話、の両親が本当にそこにいるかも怪しいんや。研究所が隠してる可能性もあるしな』
 シゲの言葉に、私は先日の電話を思い出した。
 あの電話の限りでは、確かにあの人たちも詳しいことは聞かされていない……というような印象だった。隠しているのかもしれないが、正直そうは思いがたい。本当に何も知らされていないようだった。
「そうかも……しれないね」
 呟いて、俯く。

 玲さんとは別行動を取ってるお兄。無事なんだろうか。
 お父さんたちに会いに行ったって……一体どうするんだろう。お兄は追われている身なはず。なのにどうして……。

「ほら、元気だせよ」
 突然頭を誰かに撫でられ顔を上げる。
「亮……」
「翔なら心配ねえよ。あいつは、俺たちよりもよっぽど不死身だ。……って、、お前が言ったんだろーが。お前が一番に信じてやらなくてどうすんだよ」
「…………」

 そうだ。お兄は、私のために今まで頑張ってくれてきたんだ。
 いつだって、私のことを最優先してくれた。
 そんなお兄を信じなくてどうするの?
 お兄が大丈夫だって言えば、きっと大丈夫。今までも、きっとこれからも……。
 お兄に不可能なんて無い。妹の私が、一番良く知ってるじゃない。

「翔はこんなとこでくたばるほどヤワじゃねえよ。俺が保障してやる」
 そう言ってニヒルな笑みを浮かべる亮に、私は微笑んだ。
「……うん」
 すると、画面の向こうで、大げさな咳払いが聞こえる。
『あー、ごほんっ。あの君ら……今、一応電話中やってこと覚えとる?? ちゃん、三上君、僕たちの存在、忘れんといて』
「あ、ご、ごめん……」
『いや、はええんやで。悪いのは旦那や。ちょっと一人でええとこ取りすぎやないの? あぁ、俺もを慰めてやりたかったわ〜』
「あははは、シゲ、ありがとう。翼も、皆も……気を使わせてごめんね。でも、私は大丈夫だよ。お兄のこと、信じてるしね」
 そう言って笑えば、画面の向こうにも笑みが広がった。
『……今からそっちへ向かうから、お前ら皆、身辺整理しておけよ。じゃあ、また後で』

 通信が切れると、しばしの静寂。
 翼の言葉を、誰もが反芻しているのだろう。

『身辺整理しておけ』

 この言葉が意味するのは、決戦の準備をしろということ。
 本当に最後の戦いが始まろうとしているのだと思わざるを得なかった。





Chapter3: We swear in the previous night of the decisive battle.






 三日後、翼たちは約束通り戻ってきた。
 そして今、私たちは全ての準備を終え、作戦の最終確認をしている。

 決行は明日。
 もう……後戻りは出来ない。

「……確認はここまで。これはあくまでも予定だし、実際は想定外のことが起きるだろうから、この限りではないよ。臨機応変に各自対応しろよ」
 翼の言葉に、皆が頷く。
 確かに、作戦は練るに越したことはないけれど、未知の空間に突入するのだから、臨機応変さが一番重要だろう。
「データを取り出すことが最終目的だ。パソコンの扱いに長けてるヤツに、これを渡しておく」
 亮はデータ解析用のフィルム、フロッピーなどの入ったケースを、翼・大地・英士・竹巳・シゲに手渡した。
「……これで、全ての準備は整った。玲たちも、僕たちの書き込みを見てるだろうし、もう後には退けない。お前ら、覚悟は出来て…………って、聞くまでもなかったか」
 翼が苦笑したから、私も思わず笑ってしまった。
 だって、誰もが不敵な笑みを浮かべているんだもん。
 不安の欠片も見えない、爛々と輝く紅い瞳。

 本当に……怖いもの知らずな人たち。

「フフッ……じゃあ、全てに決着が着くことを祝して、乾杯でもしようか」
「クッ、前祝いってとこか? 俺たちも余裕なもんだな」
「ほな、厨房組みに任せてもらいまひょか。ほれ、サル、ポチ、タッキー、行くで!」
 シゲの掛け声と共に、キッチンには入っていったコックたち。
 私たちはテーブルのセッティングを始めた。

、クロスの端引っ張ってくれるか?」
「あはは、こういう仕事は管理部門担当だよねv あ、竹巳、お花はこの辺でいい?」
「うん。あ、水野、クロス皺寄ってる」

 こんな風に、大勢で食卓を囲むことの楽しさを知ったのは、つい最近。
 皆と出会って、その明るさや優しさに触れて。
 お兄と二人の食事も好きだったけど、沢山の笑顔に囲まれた賑やかな食卓はとっても素敵。
 
 しばらくすると、香ばしい良い香りが漂い始めた。
 大きなお皿に盛られた料理が、飾ったテーブルに所狭しと並べられる。
「どうや! 結構な自信作のオンパレードやでv」
「うわぁ……美味しそう!」
 コック担当の四人が、素晴らしいチームプレーで、あっという間に美味しそうなオードブルを作ってくれた。
 そして、私たちの手にはワイングラス。
「今日はやっぱり……そうだ、お前は何が飲みたい?」
「え? 私……?」
「そう。やっぱり、祝いの儀には、ファウスト様を立てないとね」
 悪戯っぽく言う翼に、私は肩を竦めた。
「じゃあ……翼が私に最初に作ってくれたアレ。Aphrodite〈アフロディテ〉がいい」
「……かしこまりました。お前ら、アフロディテを人数分作ってくれる?」
「任しときv シゲちゃんたちが最高の美の女神を作ったるで〜!」

 アフロディテは、美の女神。
 そのカクテルは、本当に品のある美しい朱色……。
 私は、皆の秘密を知る夜、これを翼に作ってもらって……その時から、このカクテルの虜になった。

「アフロディテは、ロゼワインをベースにしたカクテルや。オレンジや木苺、ライムジュースなんかも混ざっとるで」
「そうなんだ……わあ、スゴイ綺麗……」
 シゲが注いでくれたアフロディテは、前に翼が作ってくれたのよりも赤かった。
 でも……その深みが増したその色は、私たちの絆が深まったことを表しているようで……何だか少し嬉しい。そんなわけ、ないんだけど。
「ちょい、ロゼ多めにしてあるのは、よく眠れるようにやでv」
 シゲがウインクする。
 そんなちょっとの気遣いが、私の心を温める。
「はい、皆さんの分も出来ましたよ」
 コックの皆が、それぞれのグラスにカクテルを注いで回る。
 アンティーク調の明かりに照らされたそれは、何とも言えない色香を醸し出している。カクテルに色香……と思うかもしれないが、それくらいに美しいのだ。

「それじゃあ……乾杯しようか。時からの解放を祝して……」
「フフッ、永遠という名の呪縛からのね」
「長い歴史に終止符を、だな」
 英士、翼、亮はそれぞれのトレードマークの薔薇を掲げた。皆はグラスを手に持ち、胸の前に構える。私も慌ててそれに続く。
「皆、グラスは持ったか? それじゃあ、俺たちの明日に……乾杯☆」(キャプスマ)
「渋沢……俺たちの明日って(汗)」
「だーもうっ! ほらお前ら、乾杯っ!!」

――――カチンッ

「あははっ、乾杯」
 私はグラスを煽る。
 その味は、喩えようも無いほど美味しかった。一杯だけで、全身に心地よい気だるさが染み渡るような、不思議な感覚。

「ふぁ……何だか、私……酔った……かも……」
、俺様が支えてやろうか? 遠慮せずに飛び込んで――――」
「退けよ三上。、こっちへ来な」
「ふぇ……」
 まともに立つことすら出来なくなった私は、翼に促されるままにソファーに横たわった。翼は笑いながら毛布を掛けてくれている。
「フフッ……美の女神に酔った?」
「う……ん……そう……みたい……」
「…………僕たちは、お前を絶対に守ってやるから」
「つば……さ……」
「だから、今夜はゆっくり休みな。何も考えずにね……」
「あ……」
「……お休み、…………」
「…………」

 お休み、翼……皆……。

 心地よいまどろみの中、私を見つめる沢山の優しい瞳を感じた。
 慈愛にも似た、穏やかな眼差し。
 それはお兄のようでもあり、また全然違う誰かのようでもある。
 穏やかさと激しさが入り混じった、深い深いもの……。

 それに気付いたと同時に、私は深い眠りへと落ちていったのだった。






「……寝たよ」
 立ち上がった翼が、静かに呟いた。
 それを見た三上は、自嘲気味にこぼす。
「俺たちも随分、演技が上手くなったもんだな」
「400年も生きてれば、当然でしょ」
「英士は、400年前から演技上手かった気が……」
「何か言った? 一馬」
 眠るを見つめながら、シゲがグラスを傾ける。
「即効性の睡眠薬……まあ、俺らには効かへんかったみたいやな」
「不老不死が睡眠薬だけ効いたら、笑えないね」
「そうやけどな。しっかし姫さん、にコレ作ったことあったんやな? 抜け駆けしとったんなんて、ズルイやん!」
「抜け駆け? 僕はただ、お客としてアイツをもてなしただけだよ。アイツのこと、何も知らなかった時だったしね」
 淡々と告げる翼。
 しかし、その顔は至極嬉しそうに見える。柾輝がおかしそうに笑った。
「ククッ、翼、顔緩んでるぜ?」
「……柾輝、うるさいよ」
「へいへい。すいませんねー」
「ったく……」
 柾輝を睨んだ翼は、グラスを一気に煽った。
 その光景を見守っていた渋沢は、軽く溜め息をつき、軽く手を打った。
 その合図に、皆静かにグラスを置く。

「……を眠らせてまで話したかったことは、唯一つしかない。明日はいよいよ、最終決戦だ。ただその前に、もう一度俺たちの中で確認しておきたいことがある」
 一呼吸置いて、渋沢は続ける。
「もう一度、各自に問いかけてほしい。俺たちの目的は何なのかということ。そして、のことを……」

 ソファーで寝息を立てるを、吸血鬼たちは見つめた。
 その表情は様々であったけれど…………でもきっと、思いは同じ。考えてることは、皆同じに違いないのだ。

「俺は……を守りたい。あいつは、大切なもののために頑張ってる。俺たちの長い人生に比べたら、まだまだ短い人生だけれど……あいつの意思と決意は、俺たちのそれに匹敵するほどに強い。俺は、そんなを尊敬してるんだ……。だから、俺は……」
「水野……俺も同じ気持ちだ。は、本当に頑張ってる。一緒に過ごして、の強さを肌で感じた。正直俺があいつの立場だったら、きっとあんな風に笑えない。あんな真っ直ぐに生きられない」
 水野と一馬の言葉が、部屋に響き渡る。
 この二人の言葉は、ここにいる皆の言葉でもあった。
 そんな言葉を受けて、皆それぞれ、呟くように零す。
「……はイイ女だぜ。聡明で強くて、この俺様を真正面から見据えてくる……魅力的な女だ」
「フフッ、でも照れ屋で純情なんですよ」
「からかい甲斐があるよね」
「うわ君ら、結構なSやね……。笠井君とタッキー君て、あんま繋がりないと思ってたんやけど、実は仲良しなんや?」
「「うん、そうだよ」」
「……ハモらなくてもええやん(汗)」
「あはは……でも、僕も……さんを助けてあげたいです。さんが僕たちのために、頑張ってくれているように、僕たちも……」
「……そうやな。アイツは、ファウストに相応しい女や。アフロディテが、あそこまで似合う女もそうそういやへん」
「ああ! は、俺たちと契約を交わした、たった一人の聖女やからな」

 皆が口にするのは「を守りたい」ということだけ。
 にとって、彼らがかけがいの無い存在であるのと同じように……彼らにとってもは、たった一人のファウストなのだ。

「……お前ら、本来の目的を忘れてないよね? 元の身体に戻ること、これを達成するんだよ? 分かってる?」
 呆れ顔で言う翼。しかし、すぐにため息ともつかぬ苦笑を漏らす。
「……まあ、こっちも既に、本来の目的に加わってるけどね」
 そして寝ているに近付くと、その髪を撫で、掬い、そっと口付ける。
「最初はただの、利害一致〈契約〉だったのにね……」

 利害一致、ギブアンドテイクの関係。
 それがいつしか仲間になった。
 と出会って、不死の呪縛に一筋の光が差し込んだ。

 もしあの時、が兄を捜しに来なかったら。
 もしあの時、に秘密を知られなかったら。
 もしも……の兄が、クローンじゃなかったら。

 これは単なる偶然じゃない。全て必然だった。
 会うべくして、この時代、あの場所で、彼らと彼女は出会ったのだ。

 自分たちの不運を呪い、時代を憎み、闇へと紛れ、ただ「普通」に戻るためだけに生きてきた数百年という時。
 あまりにも長く、途方も無かった。
 辛さも感じなくなり、この身体が普通になったのはいつだっただろう。
 でも……そんな過去が、何も思い出せなくなるくらい、と過ごした時は鮮やかだった。
 今までの思い出とも呼べぬ時の流浪が、モノクロに思えるほど、との思い出が、ビビッドに刻み込まれている。
「そう言えば俺……最近、血飲んでないけど……平気かも」
 誠二の呟きに、周りも一瞬ハッとなる。
 しかし、すぐにその理由に行きついた。

 心が満たされているから?

「……通常じゃ、考えられないことだが、どうやらそれしか考えられないようだ。精神は肉体に多大な影響を及ぼす。俺たちの精神が、血液を欲する禁断症状を抑制していると言えるか」
「俺たちの身体の方が、よっぽど考えられねーしな。今更何も驚かねーけど、やっぱはすげーってことだ!」
「yes!」
 
 ファウストがメフィストに与えたものは、あまりにも大きい。
 そう思うと、言いようのない愛しさが込み上げてくるのだ。

「……もう後には退けない。これが最後の晩餐になる」

 立ち上がった翼の瞳に、薄っすらと影が射した。
 しかし、その裏には煌々と輝く紅が覗いている。様々な感情が、その瞳には宿っていた。

「お前らとは……もうどれだけの時を一緒に過ごしたのか分からないけど……まあ、結構楽しかったよ」
「椎名………」
 翼が何を言おうとしているのかを感じ取った渋沢は、瞳を揺らした。
「翼さん……」
 風祭は、拳を握り締めた。
「餞別は、の寝顔っちゅーとこやな……」
「クッ……俺たちは全員、あの約束を守り切ったんじゃねえのか? ファウスト様には手を出さないっていう、ままごとみたいな約束をよ」
 そう言って、皮肉っぽい笑みを浮かべた三上は、に近付いて頬を撫でた。
「あの手の早い三上先輩が、ほんっとーに、ちゃんだけには大人しくしてったすよね!俺、びっくりしたもん!」
「うっせーな……コイツに手でも出してみろよ。アイツに一瞬で消されるぜ」
しかしながら、毒づいたその表情は穏やかで。
「確かに……翼の遺伝子持ってんなら、やりかねないな」
「柾輝……喧嘩売ってんのか?」
 両手を挙げて、降参のポーズを取る柾輝。そんな様子を見て、英士は苦笑した。
「……俺たちは、ファウストのモノだからね。何人だって、手出しは出来ないよ」

 明日で全てに決着が着く。
 この悪夢のような日々が、終わりを告げる。

 それが、どういった形にせよ……。


「俺も……まあ、お前らと一緒にいるのも、悪くなかったぜ? 退屈とは無縁な生活送れたしな」
「はは……そうですね。俺も、色々楽しかったですよ」
「タク……俺たち、一体どうなっちゃうんだろう……」
「藤代……そんな顔するな。まだ、何も始まっていないんだ。考えるのは、その時でいいだろう」
「キャプテン……」

 不安が無いわけではない。悪い想像をしないわけでもない。
 ただ、もう前に進むしか道はないから。
 ここまで生きながらえて、やるべきことはただ一つだけだから。

「さよなら……だな」
 一馬の呟きに、結人が無言で肩を組んだ。
「そうだ…な」
 俯いていた顔を上げた竜也は、泣き笑いのような表情を浮かべている。
 皆も、同じような表情だった。
 しかし、すぐに不敵な笑みを浮かべて言い放ったのは……翼。

「さよならするのは、『今日までの俺たち』に――――だろ」

 驚いて目を見開く者。
 彼と同じく、不敵な笑みを浮かべる者。
 無言で頷く者。
 沢山の反応の後、誰かが「ぷっ」と吹き出した。それを皮切りに、笑い声が広がっていく。

「くっ……あはははっ……ははははっ」
「ふふっ……はははははっ……そう……っ……だね……ははははっ……」
「クククッ……違いねえな……」
 
 こうやって笑えば、不安も飛んでいく。
 仲間と笑い合えば、心が軽くなってく。

「……アハハハッ、俺たち、やっぱ最高だね!」
 一緒に笑い転げながら、翼は目尻に浮かぶ水滴を拭った。

 辛くない別れなんて無いはずなのに。
 何故かおかしくて……涙が出るから。
 彼らは笑い続ける。
 夜が明けるまで……。


 そして……最後の晩餐は終わりを告げた。
 決戦前夜の誓いと共に……。




 to be continued......?


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 吸血鬼輪舞曲、ついに決戦前夜に突入です! 今回のテーマは、キャラが皆で笑い合う……なわけもなく、決戦前夜に誓い合うです。ヒロインを守るため、自分たちの未来のため、先へ進むことに決めた彼らの行く末は……? と、切なさ全開でお送りしました★★★
 次回以降、最終回まで一直線です。実質後数話で完結ですので、もうしばらくお付き合いいただけたら嬉しいです。