遠距離恋愛なんて、この6年間を思えばなんてことは無い。
 メールや電話もあるし、何より翼に対する「愛」がある。
 
 翼の声を聞けば、嫌なことや辛いことも乗り越えられた。
 翼の活躍を聞けば、私も頑張ろうと思えた。
 私たちは繋がっている。
 たとえ遠く離れていても……。


 そして4年後。
 私たちは、それぞれの夢を現実に変えた。



夢追人〜yumeoibito〜


4


「ん……」
「起きたか?」
「あれ、私……」
「楽屋で眠ってたから、そのまま運んできたんだぞ? もうしばらくかかるから、このまま眠ってなさい」
「うん……ごめんなさい」
「いや、気にするな。ツアーは体力使うからな。お前の体が第一だ」
「……ありがと」
「お前のマネージャーだからな、俺は」

 どうやら私は、あのまま眠ってしまっていたらしい。
 今は車で移動中のようだ。
 明日はまた、今日以上のハードスケジュールをこなす。

 試合……どうだったんだろう?
 寝惚けた頭で、そんなことを考える。

 多分きっと、彼は勝っただろう。
 翼に負けは似合わない。
 彼には勝利の栄光が相応しい。


――重ねたくて 触れた唇まで
   また届くのは 次の夏ね




「ごめん、翼……突然仕事が入っちゃったの……」
「そっか……なら仕方ないね」
「本当にごめんね……」
「いいよ、気にするな。…………」
「ん……」
「……好きだよ」
「…私も、翼が好きだよ……」


 最初のうちは、私の方が会えなくなることが多かった。
 でも翼は、何も言わずに微笑んでくれた。
 優しく口付けて、愛を囁いてくれた。

 でも、段々と……翼自身も忙しくなって、時間を作ることが出来なくなっていった。
 私が何とかオフを取れても、翼は試合が入ってしまうことも多くなった。
 会うことが難しくなり、電話やメールでのやり取りが主になってきたのはいつからだっただろう。
 ……それすらも出来なくなって「テレビ越し」に相手の近況を確認するようになったのはいつから?
 
 そういえば私、どれくらい彼に会ってないんだろう……。






「ほら、。もうすぐ始まるぞ。準備は出来てるか?」
「うん、大丈夫」
「よし、ここが終わればあと少しだ。頑張れよ」
「はいっ」

 歓声が聞こえる。
 皆が私の歌声を待ってくれている。
 私は期待に応えなければいけない。
 
 たとえそれに、虚しさと淋しさを感じていても…………

『――辛くない(辛いけど)……言葉にすれば よりつらくて……あぁ ココに冬の切なさ 呼び寄せられたなら…』

 貴方に会えなくて淋しがってる私なんて、誰も求めていないんだから。
 皆が望む「」を見せなきゃいけない……

『――いつでも傍で 他愛もなく話したい 夏にかなえて 二人で過ごす白い夢……』

 だってそれが……私の……夢だから…………

「――――っ!?」
「っ…………」

 あ……れ…………
 倒れる……?

「きゃーーーっ!? ちゃん!!!」
「大丈夫!?」



 目の前がフェードアウトしていく瞬間…

 翼に会いたい……と思った。



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