――日差しの中 影を捜している
   あてもわからず 昼が下がる



「大人の階段登る、君はまだシンデレラさっ、幸せは誰かがきっと運んでくれると信じて――――ひっ!?」

 視線を感じ、振り返れば沢山の顔。
 思わず素っ頓狂な声を上げる私。
 しかし、沢山の顔たちは、自分たちの状態を保つのに必死なようで……誰も私が振り返っていることに気付いていない。

「うわわっ、ちょ、柾輝押すなっちゅーねん!!」
「いてっ! 兄貴、出すぎだって!!」
「ロクが下がりすぎなんだろ!」
「アンタら、静かにしないとバレるぜ?」
「……ていうかもう、バレてるよ」

 あ、気付いた子がいた。
 固まった私に向けられる、五つの顔。突然のことに、思考が一瞬ストップする。

 この人たち……誰?

「……アンタ、隣のクラスの奴だよね?」
 美少女……と呼ぶに相応しい風貌の子が声を掛けてきた。いやいや、男の子なんだけど。
 確か彼は、隣のクラスの転入生で名前は……椎名君? 「ジャニーズ系が来た!!」って皆が騒いでいたのを覚えている。こんな近くで見たのは初めてで、噂通りのカッコ良さに呆気に取られた。
「本物だ……」
「毎日ここで歌ってるのもアンタだろ?」」

 ん? ……歌――――!?

 彼の言葉で、一気に思考が覚醒する。
 もしかして(いやもしかしなくても!)……聴かれてた!?

「あわわあわわああ――――」

 どうしよう!
 あり得ない恥ずかしい!!

「おいおい……大丈夫か?」
 色黒の子が心配そうに呟くが、私はそれどころじゃなかった。

 屋上で歌ってたのがバレてたなんて!
 しかもそれを、こんな大勢に聞かれてたなんて!!
 どうしようっ、穴があったら入りたい!!!

 声にならない声を上げながら、私は思わず後ずさっていた。
 五人はきょとんとした顔で私を見ている。
 フェンスを背中に感じ、人生の終焉を悟った私。
 どうしよう……マジで死にたいんですけど……っ!!(泣)

 すると、椎名君が近づいてきた。
 私はあわあわと狼狽するばかりで、どうしようもない状態だ。
 彼は私の顔をまじまじ覗き込むと、ぷっと吹き出した。

「ぷっ……あははははっ!」
「……へ?」
「あははははっ……アンタ、その百面相どうにかならないの? ははははっ」
「え……百面相?」
「さっきから、真っ赤になったり真っ青になったり……っ……面白い奴っ……あはははは!」

 お腹を押さえて笑う椎名君。
 そんな彼の後ろで、笑いを堪えている四人。
 あの私……そんなに爆笑されることしましたっけ? ていうか確か今、本気で自殺を考えたんじゃなかったっけ?

「あ、あの……」
 耐え兼ねた私に、彼は涙を拭いながら言った。
「アンタ、サッカー部のマネージャーやらない?」
「……は?」
「思ってた以上にアンタ面白いし。僕、アンタのこと気に入ったから」
「へ? あの……」
 頭が混乱して、事態がよく飲み込めない。
 そんな私を見て、色黒の子が笑った。
「どうやらアンタ、うちの大将に気に入られちまったみたいだぜ?」
「え? 大将?」
「そうみたいやな。ま、仲良くやろうでv」
「えぇっ?」
「ハハ、ご愁傷様だな」
「え、な、何?」
 次々と告げられ、差し出される手。
 もう、何が何だか全然さっぱり分からないんですけど……。
 
 でも……

「もちろん、断ったりしないよね? ――
 私に向かって手を差し出しながら、にっこりと微笑んだ椎名君。

 何で私の名前知ってるの? とか、見ず知らずの(?)私を誘うのは何で? とか色々思うことはあったけど……。

「わ……分かりました……?」

 何故か私は、その手を取ってしまったのだった。


――――これが彼らとの出会い。



 
夢追人〜yumeoibito〜


2

――どこにいるの? 肩を並べてても
   とめどなさげに 厚さ欠けて



 彼らは毎日、屋上で授業をさぼっていたらしい。
 私はもちろん、休み時間や昼休みにちょこっと来ては、歌を歌っていただけだけど。彼らとは扉を挟んで反対側で練習していたこともあって、全然気付かなかった。
 そんなわけで、彼らは毎日私の歌を聞いていたらしい。そしてああやって時々、私を観察していたと言うのだから何とも微妙だ……(恥ずかしいのを超えて、もう吹っ切れた?)

 前に一度、翼に問いかけたことがある。

「どうして私をマネージャーにしたの?」
「お前の声、大きくてすごくよく通るだろ? マネージャーには必要不可欠なんだよ」
「でも、それだけじゃ…」
「ないよ、もちろん。お前、毎日腹筋鍛えてるだろ? あと、持久力もあるよね」
「え! 何でそんなこと……」
「お前が一人で腹筋やってんの、見たことあるんだよ。あと、マラソン大会はいっつも上位に入ってる。声も出せて、体力と根性がある。お前はマネージャー体質だったってわけ」
「……」

 何と言うか、言葉が出ない。
 そんなに観察されてたなんて……何だか本当に、不可思議だ。
 そんな私に、翼は笑った。

「でも一番の理由は……お前の歌声に、俺たち皆が惚れたからだよ」
「っ!?」
の歌声は、本当に綺麗だからね」
「…あ…ありがとっ……!!」


 歌声が綺麗。
 そう言って彼が笑ってくれたから、私は彼らのためにマネージャーを頑張ろうと思った。
 
 
――遠くない(近くない)
   思うほどに 遠く感じてる
   今 ここに 冬の景色を呼びよせられたなら




 彼らの夢はサッカーで世界を目指すこと。
 私の夢は、歌で世界を目指すこと。

 私たちは常に、お互いを支え合って頑張ってきた。
 翼たちが試合で負けた時は、マネージャーとして励ました。
 私がオーディションを受けて落ちる度、彼らに励まされた。

 いつしか私の夢に「彼らの夢の実現を間近で見ること」が追加された。
 それを言ったら翼は「じゃあ僕は、お前の一番最初のファンになってやるよ」と笑った。


――いつでもそばで 他愛もなく話したい
   閉じた瞳は 記憶を強く見せるのに
   二人の時は とても短く作られ
   夏にかなえて かなうはずない雪の夜…




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