ちゃーん! こっち向いてーーっ」
「きゃーーっ、超可愛い!!」
「アンコール!! ちゃん最高!!!」

 スポットライトの光を浴びて、ファンへ笑顔を振りまく。
 皆が私の歌を聞いて、笑顔を見せてくれる。
 沢山の歓声が、全て私という個人に向けられている。

「皆ーっ、ありがとう!!…………」

 こんな風になれて、とっても嬉しい…はずなのに。
 これ以上の幸せなんて、考えたことなかったのに……。

「あ……ちゃん、泣かないで〜っ!!」

 何故か涙が零れた。

 どうしてだろう。
 どうして私は、泣いているの?

「――っ、お前の歌は最高やで!」
「これなら歌手も夢じゃねえよ」
「マジでうめえしな!」


 思い出される記憶。
 ああ、そうか。

「……お前の歌、好きだよ」

 あの日々が……もう戻ってこないから。
 だから私…寂しいんだ。





 
夢追人〜yumeoibito〜





 アンコールを終えて、楽屋に戻った私。
 机は、沢山の花束やプレゼントで埋め尽くされている。

「お疲れ、。移動まで少し時間あるから、休んでなさい。今、何か飲み物貰ってくるから」
「うん……そうする」
「ほらほら、アイドルがそんな暗い顔しちゃ駄目だろ? いつも笑顔で明るいのが『』なんだから」

 私の肩を軽く叩くと、そのまま部屋から出て行く。
 彼は私のマネージャー。今の私の、一番の理解者だ。

「……アイドル、か」
 携帯を開き、閉める。

 着信は……無い。
 あるはずはないのに、確認してしまうのは、もう癖になっているから。
 いつも持ち歩いている鞄から、小さな写真立てを取り出し眺める。

『祝! 高校卒業☆ +翼+おまけ(笑)』

 マジックで書き込みがしてある写真。
 そこに写るのは、屈託ない笑顔。
 皆に抱きつかれ、困ったように微笑む彼。その隣で、破顔しているのは私。

「……翼…………」
 ぽそりと呟いて、溜め息をつく。


 分かってる。
 彼は今、世界相手に戦っている真っ最中だってこと。
 そして私も、日本を横断するツアーの真っ只中だってことも。

 お互いがそれぞれ、小さな頃からの夢を叶えた時。
 翼は笑って、私は泣いた。
 その時は、何も不安なんて無かった。
 これからも、二人は今まで通り。
 お互いを助け合って、支えあって生きていける、そう信じてた。

 でも現実は上手くいかなくて。
 仕事が忙しくて、ロクに連絡も取れない。
 ファンとマスコミの目が怖くて、会うのも一苦労。
 
 会いたい。
 でも会えない。

 備え付けられたテレビを電源を入れる。
 すると、画面いっぱいに広がった愛しい顔。
 胸が、どくんっと跳ね上がる。

『椎名選手は、今回も鮮やかなプレーが光りますね!!』

 リポーターの言葉と、翼の顔。
 そのどちらもが、とても近くて遠い……。

 そう。
 私たちが気兼ね無く会えるのは、ブラウン管越しに見えるお互いの姿だけ。
 翼がシュートを決めれば、私はコンサートを大成功させた。
 私のCDが売れれば、彼の活躍が大きく取沙汰された。
 私と翼を繋ぐのはそれだけ。
 本当は誰よりも近くて、深い存在だったはずなのに。
 今は多分、ファンとの距離よりも遥かに遠い。

 気付けば私と彼の間には、大きくて分厚い壁が出来てしまっていた。


 ねえ翼……
 貴方は今、何を想ってる?


――いつでもそばで 他愛もなく話したい
   夏に叶えて 二人で過ごす白い夢・・・



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あまりにも短編にしては長く書きすぎてしまいましたので……やむを得ず分けました(汗)
言い訳とお詫びは最後に!(逃