第七章 「爆走! カー(?)チェイス!





「うぉぉぉぉぉ〜〜!!」

 僕は今、風になっていた。いや、正確には風のように爆走していた。
 白いボディが、日の光に照らされて輝きを放つ。ハンドルを握る手にも、自然に力が入る。しかし、横を通り過ぎる車やバイクからは、怪訝な目で見られているようだ。

『おいおい兄ちゃん、頭大丈夫かー!?』

 そんな野次が飛ぶのも、これが初めてではない。しかし僕は、それを無視し続けただただ走り続けているのだ。
 白いバイク……いや、正確には白い自転車を、あり得ない速さでこぐ僕の姿は、まさしく白い天使に見えただろう。いや、白いET? 白い魔女? あ、僕は男だから魔男か? どうでもいいな、そんなこと。

 とにかく僕は、警察が巡回用に使うチャリで、車道を劇的な速さで飛ばしている。
 途中、何度か人や動物を弾き飛ばした気もするが、そんなこと僕の知ったことではない。僕の目には、現金輸送車強奪事件しか映っていないのだから。
 しかし、かれこれ三十分は走っているが、一向にそれらしい車を見つけることはできない。車なら、無線で色々と知ることができたのに……そう思うと、巴里の憎さが倍増する。
「クソっ……一体どこにいるんだよ」
 そう悪態をついた時だった。ポケットの携帯がけたたましく鳴り出したのだ。僕は片手でそれを取り出すと、自転車をこぐスピードを少し緩めながら電話に出た。

「はいっ……北林ですが」
『北林っ、お前今どこにいるんだ!?』
 大塚先輩からの電話だった。僕は息を乱しながら、道路脇にあった看板の住所を告げる。
「○×台御園、二丁目交差点です」
『でかしたぞ! 輸送車はちょうど今、お前のいる道路に入ったところだ!』
「ほ、本当ですか!?」
 大塚先輩の言葉に、僕は一気にやる気を取り戻した。ここで犯人を捕まえられれば、僕の手柄になるし、何よりもあの巴里をぎゃふんと言わせられる。
「必ず捕まえます!」

 半ば叫ぶように答えた僕は、交差点にチャリを寄せ、現金輸送車が来るのを待ち構えた。
 逃亡中の犯人のことだ。信号無視、スピード違反で来るに違いない。
 僕は、一般人に被害が及ばないように、回りの警官に協力を求め、一般車両の通行止め、注意を呼びかけるなどの行動を開始したのだった。





――――15分後……

「遅い……」
 いつまで経っても、現金輸送車がやってくる気配はない。それどころか、通行止めにしているため、回りからのブーイングの嵐の対応に、皆が困り果てている始末だ。
「北林刑事、もうこれ以上の通行止めは、大きな混乱と問題を起こしかねないと……」
「でも……」
「これ以上は、一般人を抑えられません」
「……」
 肝心な大塚先輩からの電話は来ない。それどころか、こちらから架けても一向に繋がらない。
 確かに、これ以上の規制は交通状態を悪化させるだけだろう。僕が諦めて、規制を解くように指示を出そうとした時だった。
「北林刑事! 今本部から連絡が入りまして、この交差点の一つ前の三叉路で現金輸送車を強奪した犯人が……」
「何だって!? 犯人がどうした!?」
 僕はその警官の肩を掴むと、その先を促した。
「は、はい。犯人は四人組で、全員凶器の類を所持しているらしいです。今、佐伯巴里という刑事が、一人で犯人と交渉中だと――」
「なっ……!?」
 僕は思わず自分の耳を疑った。
 佐伯巴里!? 巴里が一人で犯人と交渉中だって!?
「す、すぐに交通規制を解除! ただし、三叉路への通路は引き続き通行止めを!」
 警官に指示を出し、僕は慌てて自転車に飛び乗った。






「っ……」
 現場に着いた僕は、今度は自分の目を疑った。
 銃と思しき物を所持した男が二人、ナイフを持った男、鉄パイプを持った男の計四人に、巴里は囲まれていたのだ。
 周りには、その光景を固唾を呑んで見守っていると思われる、大塚先輩と白瀬さんがいた。
 二人とも神妙な顔つきで、ただただ巴里を見つめている。誰も僕が着いたことには気付いていないようだ。

――――巴里を助けなければ……

 そうは思うも、一体どうすればいいのだろう。
 突然乱入するのは返って危険だろう。犯人を下手に刺激せず、安全に逮捕できる方法なんてあるのだろうか。
「どうしよう……」
 僕があれこれ逡巡していると、今までずっと沈黙していた巴里が、口を開いた。
「そろそろ約束の時間なんだけど……どうやら交渉は決裂みたいだね?」
 交渉? 何のことだ? 
「あったりめーだろ!? 罪を軽くしてやるから大人しく捕まれだぁ? はいそうですね、って捕まる奴なんているわけねーだろ! お前馬鹿なんじゃねぇの!?」
 ああ、なるほど……と僕は納得する。
 一応そうやって、犯人を自首させようとしたのか。巴里のことだから、また偉そうに言っただろうが。まあ、こんなんで自首するような奴らなら、最初から強盗なんかやらないだろう。それはきっと、巴里も分かっている。
 ここからどうやって話を進めるのか気になった僕は、しばらく様子を見ることにした。
「ふーん、そりゃあ残念だね。せっかく罪を軽くしてやれたのに。ま、ボクとしてはお前らがどうなろうと、知ったことじゃないから別にいーけどね。じゃあ約束どおり、さっさと捕まえさせてもらうよ」
「何偉そうなこと言ってんだよ! てめえみたいな女男に、何が出来るんだ? 大体お前みたいなのが刑事なんてことが信じがたいんだよ! せいぜいそのキレイな顔を生かしたお仕事でもしてな」
「確かに……こんだけキレイな顔してれば、女は愚か、男だって寄ってくんじゃねー? 俺、結構タイプかも……」
「ぷっ……お前そっちの気あんのかよ?」
「お前ら、今がどういう状況か分かってんのか……?」
 四者四用の台詞に、僕は思わず吹き出しそうになった。一体どういう成り行きで、この四人で強盗なんて企てたのか、とても気になるところだ。
 僕がそんなことを考えていると、珍しく黙って聞いていただけの巴里が、聞いた人間を凍らせるほど冷たい声で言った。
「……人を見かけで判断しない方がいいよ」
 巴里がそう呟いた途端、一番やかましく騒ぎ立てていた男が、ふわっと宙に浮いたかと思うと、そのまま地面に叩きつけられた。
「ぐわぁっ!」
 白目を剥いて倒れている男を一瞥すると、巴里はその横で下卑た笑みを浮かべている、ちょっとやばい感じの男へ向き直った。周囲は、一体何が起こったのかさえも理解できていない状態だ。
 実際この僕でさえ、巴里の動きが鮮やかすぎて、さっきは何が起こったのか理解するまでに時間がかかった。要するに、巴里は背負い投げの要領で、煩い大男を投げ飛ばしたのだ。巴里め、武道にも通じていたのか……。
「へへへ……怒った顔も、キレイだねえ」
 青ざめながらも、尚こんなことを言う男に、巴里は満面の笑みを浮かべて言った。
「もっとキレイな世界に逝かせてやるよ」
「ひっ……ぐひゃぁっ!」
 そしてやっぱり、さっきの男同様に天国へ逝かされてしまったようだ。
 天使のような微笑を浮かべながら、容赦のないその立ち回りはまさしく堕天使……いや、悪魔そのものだった。
「つ、強すぎる……」

 僕は呆気にとられ、ただ呆然と見ていることしかできなかった。
 白瀬さんなんて、頬を高潮させ、目を輝かせている。
 大塚先輩は、もはや廃人のように口を大きく開け、生気の抜けたような顔をしている。

「Which?(どっち)」
 手をパンパンと叩きながら残りの二人に目をやる巴里は、心底楽しそうに見える。
 しかし、どうやらさっきの二人のような単純な相手ではなかったようだ。

「……さすが刑事サン。アイツらを一発でノックアウトなんてね。でも、俺はそうはいかないですよ」
「二人を一気に相手、出来るかな?」
 そう言うと、二人の男は巴里を挟んで、それぞれ銃とナイフを構えた。
 場の空気は、一瞬にして氷つく。しかし、巴里はこれにも全く動じていないようだ。
「お前らみたいな素人、五人がかりで向かってきたとしても、負ける気がしないね」
 挑発とも取れる巴里の言葉に、一瞬眉をひくつかせたが、それでも冷静さをキープする二人。やはり、前の二人よりは使えるようだ。
 そして、銃を構えている方の男が、静かに言った。
「刑事サン? 確かに、俺たち二人でもアンタには勝てないかもしれない。でもね――」
 ここで男は、ナイフを持っている男へ目配せした。
 すると、何とその男は突然、ある一点目指して走り出したのだ。その先にいたのは……


「白瀬さん!?」
「えっ……きゃ、きゃーっ!」


 何と、あまりにも興奮していたためか、大塚先輩から離れ、犯人の近くにまで出てしまっていた白瀬さんを、ナイフを持った男が後ろから羽交い絞めにしたのだ。
「なっ……お前!?」
 さすがの巴里も、これは予期せぬ出来事だったらしく、動揺が伺えた。
「この可愛いお嬢さんの恐怖に歪んだ顔なんて、見たくないですよね? 俺たちはただ、このまま逃がしてほしいだけなんですよ。彼女に無駄に危害を加えるつもりもないですし。刑事サン次第で、事は穏便に片付くんです」
 あくまで穏やかに、それでいて強気で語る犯人を前に、僕らは動くことが出来なかった。巴里は、その青い瞳を怒りで輝かせるかのように、犯人たちを睨みつけているが、動けないことには変わりない。
「……人質取るなんて、随分えげつないね? 力で勝てないから、女を盾にするなんて最低」
「フフッ……知的でしょう? さあ、早く道をあけてください。大丈夫。この女性は必ず無事にお返しいたしますよ。無事に逃げられると確信したらね……」
 そう言って、手にしたナイフを白瀬さんの頬に当てる犯人A(勝手に命名)は、とても冷たい目をしていた。思わず身震いしてしまうほどに。
 僕は一体どうすればいいのだろう……。
「さ、佐伯さんっ! ごめんなさい……私のことは気にしないでこいつら、蹴散らしちゃってください!!」
 そう気丈に叫ぶのは白瀬さん。元はといえば、彼女が一人でいたりしなければ、巴里が窮地に立たされることもなかったのだ。
 しかし、起きてしまったことは仕方がない。どうにかして、彼女を助けなければ。僕は、大塚先輩に歩み寄った。
「先輩……どうしましょう」
「北林!? お前も来てたのか……見ての通り、万事休すだよ。ったく、どうしてこいつらに関わると、ロクなことが起きないんだか……。白瀬のアホ、俺の忠告全く聞かないから、こんなことになっちまったんだ」
「ああ、何かいい方法がないかな……こんな時、ヒーローが現れて、僕らを助けてくれたらいいのに……」
「おいおい……現実逃避するには、まだちょっと早いだろ。大体そんな都合よく、ヒーローなんかが現れるわけな――――
キキキキキキキーーーーッ!!!!!!!――――うおぉっ!?」

 先輩の言葉が掻き消されるほどのブレーキ音が聞こえ、何事かと思い、音のする方角に目をやる。
 それはまさしく救世主と言えるであろう人物……正確には車が、猛スピードで近づいてきていた。

「な、何だ!?」
「お、おい! あの車、こっちへ突っ込んでくる気じゃあ……」 
 さすがの犯人も、この奇行には心底驚いているようだ。
 無理もない。巴里や先輩、白瀬さんも呆然としている。
「ちょ、ちょっとあんたたち! このままここにいたら、間違いなくあの車に轢き殺されるわよ!?」
 白瀬さんの焦った声が響く。
 しかし、僕は焦っていなかった。あの車は、普段から見慣れているからだ。しかも、僕が心から信頼している人物の車なのだ。
「麻衣! 麻衣が来た!」
 僕は思わず叫ぶ。その声に真っ先に反応したのは巴里だった。
「――――Good timing!」
 巴里が呟いたとほぼ同時に、麻衣が車のウインドウから顔……いや身を乗り出した。どうやら、運転しているのは違う誰かのようだ。
「巴里っ! 伏せて!!」


――パンッ、パンッ


 麻衣の叫び声と同時に、犯人たちのうめき声が聞こえた。
「ぐあぁっ」
「いでぇっ」
「きゃあっ」
 二人とも、腕を押さえており、武器を落としてしまっている。その反動で、白瀬さんは解放され、彼女は地面に倒れこんだ。
 僕は一体今、何が起こったのかさっぱり分からず、ただ立ち尽くしていた。しかし、麻衣の二回目の叫び声で我に返る。
「巴里っ!!」
 巴里は上体を低くしたまま犯人たちに近づくと、さっきの二人同様、背負い投げをぶちかました。もちろんそのまま奴らは昇天したようだ。
 近づいてきた車のスピードも一気に下がり、結局僕らの五メートル前ほどで停車した。そして中から出てきた人物に、僕は心底驚いた。

「け、警視!?」
「やあ、皆。ご苦労様」

 運転席から優雅に降りてきたのは、砂原警視だった。そしてそれに続くように助手席から降りてきたのは、麻衣だ。
「ふぅ……間一髪。皆、無事??」
「麻衣! どうして君がここに?」 
 僕の質問に、麻衣は軽くウインクをして答えた。
「私を見くびってもらっちゃ困るわよー。私も一応、警視庁特別捜査課の刑事なんですから」
「麻衣……」
 面食らって、動けないままの僕を半ば押しのけるようにして割り込んできたのは、勿論奴だ。
「二人とも、今回は礼を言うよ……サンキューな」
「巴里、私も前よりは成長したと思わない!?」
「ああ……お前も努力したんだね」
「うん!」

 そう言って笑い合う二人の間には、僕には無い絆のようなものがあるように見える。第一あの巴里が、他人を褒めたりするなんて考えられない(偏見)
 確かに麻衣の活躍はすごかったけど、それでも……。

「フフッ……北林、お前が今何を考えているか当ててみようか?」
「警視……」
「あの二人には何かがある、そう思ったんじゃないのか?」
「……」
「……あの二人の間には、私でさえも知りえない何かがある。正直言えば、巴里が私よりも麻衣に心を許しているのは、少し妬けるね……」
 そう言って二人を見つめる警視の瞳は、色々な感情を映し出していた。
 普段、何を考えているか全く読めない警視のこんな表情は、本当に珍しい。僕は初めてこんな警視を見た。
「!?」
 突然殺気を感じ辺りを見回すと、さっき昇天したはずの二人が、武器を取り直して二人目掛けて突進してきている所だった。
 腰が立たなくなって座り込んでいた白瀬さんが、我に返ったように叫ぶ。
「きゃーっ! 佐伯さん、そこの女刑事さんっ、逃げてくださいっ!」
「麻衣―っ!」
 僕もほぼ同時に叫び、麻衣を助けようと走り出した……が、警視と大塚先輩に、これまたほぼ同時に止められた。
「な、何で止めるんですか!? 二人が……」
「いいから、黙って見ているんだ」
 いつになく真剣な表情の警視に、僕は動きを止めた。大塚先輩も、神妙な面持ちで二人を見つめている。

「死ね、女!」
 そう言って飛び掛からんとする犯人に、麻衣はくるっと向き直る。そして、一言。
「しつこい男はモテないよ?」

――――パンッ パンッ

「ぐっ」
 バタンと大きな音と共に、一人が地面に突っ伏した。麻衣は……撃ったのか!?

――――パシンッ

「っと…気、抜くなよ」
「あ、ありがと巴里……」
 見れば、巴里が麻衣を殴ろうとしたもう一人の犯人の腕を掴んでいた。そして、満面の笑みを浮かべた奴も一言。
「監獄でじっくり後悔しなよ」

――――ドスッ

「ぐはぁっ!」
 白目を剥いて泡を吐き倒れ付すもう一人の男。巴里は……殺ったのか!?

「ごめんね?」
「悪いね」

 全く悪びれた様子もなく、あの世へ行きかけているであろう犯人に笑いかける二人は、ある意味とても恐ろしかったがとても美しかった。変な意味ではなく、強さが放つ輝き……のようなものを、二人は発している。

「麻衣、まだまだ甘いね。オレがいなかったら、お前、ただじゃ済まなかったよ?」
「あはは……精進しまーす……」
「ったく……でも、相変わらず……射撃の腕は健在だね。あの短時間で二発も、しかもちゃんと外さず撃てるなんてさ」
「これくらいしか誇れるの無いからね。練習は欠かしてないよ」
 そう言って、巴里に笑いかける麻衣。ふと、僕は麻衣と目が合った。

「麻衣……」
「義高、警視、すぐに救急車を手配してください。私が撃った犯人は、火傷を負っていると思いますし、巴里が投げた方は……見たままなので」
「火傷……?」
 僕が訝しがりながら聞くと、麻衣は苦笑しながら言った。
「うん。さっき撃ったのは、モデルガンの一種で、実際に弾なんて入ってないの。でも、ちょっと改造して、弾を塩に替えてあるんだ」
「塩?」
「そう、塩。塩はね、ある一定の温度が加わると、凄い硬くなって熱くなるのね。その性質を利用して、弾替わりに使ってるの。これで撃つと、死んだりなんて絶対しないし、でも塩が弾けて皮膚は火傷を負うくらいの威力がある。至近距離で撃てば、皮膚の中に塩が入り込んでかなり痛いから、中々武器としては使えるってわけ」
「……」
 麻衣……君は一体どこでそんな知識を、と思わず突っ込みたくなったがあえて止めた。今はそれどころじゃないと思ったこともあるが、彼女が射撃が得意だなんて全く知らなかったことに、大きく落胆したということの方が大きかった。


 二〇××年現在、日本の銃刀法は少しばかり改正されていた。
 昔は銃及び刀などの凶器を所持、または持ち運ぶことは法律で禁止されていた。しかし現在では、特定の職務にあたる者、またはライセンスを持った人なら、銃器や刀を所持携帯することが可能となっている。勿論、理由なき発砲や、私闘での武器の乱用は厳罰に処せられることになるが、それでも警察官及び刑事のある一定階級以上の者、または特別に許可をもらっている者ならば、止むを得ない場合や緊急事態において、銃器の使用がある程度認められるようになったのである。警察官を狙った犯罪が増え、発砲が許可されていなかったためにその尊い命を失った同胞達の追悼の念を込めて、このように法律が改正されたというのが本当のところであろう。なので、射撃の訓練はまさに実践さながらのモノとなっているのだ。
 射撃にはランクがあり、全部で六段階に分かれている。S・A・B・C・D・Eである。僕のランクはB。ライセンス取得の、ギリギリラインだ。ちなみに、大塚先輩はAだ。あの人、運動神経や反射神経とか身体能力がすごい高いから、当たり前と言えば当たり前かもしれないけど……でも、警視庁でAランクを持つ人間は、そう多くない。先輩の唯一尊敬できるところかもしれない。
 砂原警視はどうだったっけか……確かあの人もAだった気がするが。でも、噂によると……本当はSランクだとか言われていた気がする。まあ、警視のことだから、何かろくでもないことでも考えているに違いない。
 麻衣……。彼女は、特別捜査課という特異な部署に配属されているためか、射撃訓練場で会う機会が一度もなかった。しかも、誰も彼女について話をしている者がいなかったため、麻衣の射撃の腕前を知ることもなかった。まさか、あれほどの腕前だったとは……。案外、彼女が特捜課に配属されたのは、当たり前のことだと言えるのかもしれない。あの腕前は、上手いなんてもんじゃない。あれはまさしく、Sランククラスだ。


「義高……大丈夫?」
「え……あ、ああ。麻衣って、射撃が得意だったんだね。僕、全然知らなかったよ」
「うん……アハハ。何か話す機会逸しちゃって。私、これだけは自信あるんだよね」
「そうなんだ……」

 何だか、今更ながらに僕は相棒のことを、何一つ分かっていなかったんだと思い知らされた。
 相手のことを知り尽くすことが、相棒だとは思わないけれど。
 でも……。
「ほら、何ぼさっとしてんだよ。救急車が来るまでに、コイツラの最終的な拘束、その他やることあんだろ?」
「!」
 大塚先輩にどやされて、思わず我に返る。
「す、すみません! すぐに……」
「……? ほら、行くぞ」
「はい……」


 そうは言ったものの、どうも二人が気になって仕方がなかった。
 僕は気を失った犯人たちを調べながら、微笑み合う二人を目で追っていた……。




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義高、暴走……もとい、爆走の回ですwいやー、コイツマジで危ないっすよね。車道を警察が爆走(しかもチャリ)しちゃいかんでしょ?と突っ込みたくなる気持ちを抑えて(いや、抑えてないか)書きました。ていうかあり得ない? 今回、やっとこさ微妙なアクションシーンを取り入れてみましたがいかがでしたかね?ていうか、義高は見てただけですけど(爆)巴里っ子と麻衣のコラボでお送りしました。射撃と武道?和洋折衷ですなー。あ、塩が弾丸の代わりになるっていう話は、「リボルバー」というお話より頂戴したネタです。念のため……。
さてさて次回は、やっとこさ探偵視点に戻るか……な?