第14章 「新コンビ結成?」



「「何だよこれ!?」」


 この二人の声がハモるのはもう何度目だろうか。蒼ざめた表情で、心なしか震えながら書面を食い入るように見つめる義高と巴里。

――――辞令書――――

 ふらついた足取りで、壁に持たれかかる巴里。白い肌から、血の気が引いている。
「……まさか……どうして、こんな……」
 握り締めた書面には、紛れも無く『特捜課』への異動命令が記されている。それはいい。それは、彼が望んでいたことだったのだから。
 その向かいで、頭を抱えて座り込む男――――義高。彼は、この世の終わりのような悲壮に満ちた表情で、天を仰いでいる。巴里同様、書面を握り締めながら。
「そんな……こんな馬鹿げた結末が許されるものか……! あぁ神よ……!!」

 そんな二人を、面白そうに見つめているのは砂原。彼が二人に、書面を渡した張本人である。書面には、形は違えど「特捜課東京支部は、北林義高と佐伯巴里の二人で受け持つこと」と記されていた。そこに、麻衣の名は無い。

「二人なら、きっと上手くやっていけるって言ってたよ、彼女は」
「アイツ……! 何バカなこと言って――――」
「警視!! 彼女は!? 麻衣は一体!!」
 砂原はクスリと微笑むと、もう一枚の書面を手にした。
「彼女は今日付けで、警視庁捜査一課、私の配下に入ることになった」
「「なっ!?」」
「これは、彼女が望んだことだ。そして、しかるべき手続きと上からの承認を持って、それが受け入れられた。この意味は分かるね?」
「……ボクはすぐにイギリスへ戻ることになってる。どっちにしろ、コイツと組むなんて無理だろ!?」
「その心配には及ばない。スコットランドヤードには、私から話を付けておいた。当分は向こうに呼ばれることもないだろう。荷物も、数日中には日本に全て届く」
「ぁっ!?」
 口をパクパク開けながら、声にならない声を上げる巴里。いつもの余裕綽々な態度はどこにも無く、見ている側が哀れに思うほどに狼狽している。義高でさえも、砂原の対応には言葉を失っていた。
「アイツは……今どこにいるんだよ……」
 ぐったりとした様子で呟く巴里に、砂原は微笑む。
「彼女には今、休暇を取らせているよ。今回の事件の疲れがあるだろうし、判断を怠ったことに関して、反省させる意味も込めてね」
「僕たちに……拒否権は無いんですよね?」
 義高が、半投げやりな口調で問う。その瞳には、既に諦観の色しか見えない。
「するのは自由だ。しかし、拒否した先にあるのは一つしかない。それはお前たちも分かっているだろう?」
「「……」」
 穏やかに語る砂原だが、その瞳は冷たい。拒否した先にあるのは「辞職」のみ。それを表しているかのような瞳だった。義高は「聞くまでもなかったか」とでも言いたげに、肩を竦めてため息をつく。
「とりあえず……話は麻衣が復帰してからだ。それまで僕は、特捜課を守らなきゃいけない」
「守る? オレとお前であそこを回すっていうのかよ?」
「仕方ないだろ! 僕だってお前なんかと一緒にやりたくない。でも、僕たちに拒否権なんてないんだから。とにかくやるしか無いだろ!?」
 義高がそう怒鳴ると、渋々といった様子で巴里は押し黙った。やるせなさが、辺りに漂う。
「やる前から出来ないと決め付けるなんて、お前のプライドが許さないんじゃないのか?」
 軽い調子の砂原の言葉。しかし、言われた本人はいつもの皮肉で返すことはしなかった。代わりに、今にも爆発しそうな怒りを込めた瞳が、砂原を射抜く。
「……そうやって、何でも分かったような口振りが気に食わないんだよ。オレのことなんて、何も分かって無いくせに偉そうに……!」
 身を翻し、その場から立ち去る巴里を、慌てて追う義高。しかし彼は途中で振り返ると、少しだけ怒気のこもった瞳を見せた。
「……兄弟って、そんな探り合うような関係じゃないんじゃないですか?」
「……何が言いたい?」
「別に。僕はただ、兄弟だからって何でも分かるわけがないって思うだけです。お互いが分かり合おうとしなければ、ただの他人と変わらない……そう思うだけです」
 それだけ言って、走り去る義高。
 残された砂原は、しばらくそこに立ち尽くしていたが、やがて苦笑にも似た溜め息を吐き出すと、壁にもたれ掛かった。
「……そうかもな…………」






 麻衣の事務所にやって来た二人は、部屋を見回す。
 そこに、麻衣の面影は残っていなかった。デスクなどはそのままにしてあったが、麻衣の私物は一つも無い。ただ薄っすらと香る、彼女の残り香だけが部屋に漂っているだけだった。

「本気……なんだ……」
「どうして……アイツが特捜課を辞めるんだよ……」

 手持ち無沙汰で部屋を歩き回っていた巴里は、ふと机の上に置かれた手紙に気付く。字からすぐに麻衣が書いたものだと悟り、封を開ける。どうやら義高と巴里に向けて書かれたものらしい。義高もそれに気付き、二人で手紙を覗き込む。






「……ホント、勝手なことしてくれるよ」
「ああ……麻衣にはいつも、振り回されてばっかりだ」

 そう言い合う二人の顔は、思いのほか晴やかで穏やかだった。
 二人はお互いの顔を見合うと、どちらからともなく笑い出す。

「っ……ふふっ……あははは……まさか、お前と組むことになるなんて……ありえなさ過ぎて、笑えてくるよ……!」
「ククッ……フフッ……ホント……どんな拷問だよ、コレ……ハハハハッ」

 ひときしり笑い合った後、義高が言った。
「……一応、これから宜しく。とても不本意だけど」
 皮肉めいた笑みを浮かべ、巴里が言う。
「フン。せいぜいボクの足だけは引っ張らないようにしろよ」
「それは僕の台詞だよ!」
「怒鳴るなアホ。近所迷惑だろ」
「むっかー!!」


 男二人の、騒がしくも楽しい(?)日々は、今始まったばかり……?



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 はいはい、随分お待たせしておりました続探です。今日から毎日更新しますよーv(もう最後まで書き終わってるしね)随分引っ張っておいてこんなんでごめんなさいですm(。_。)m ペコッ でもでも、一応頑張ってますので、大目に見てやってくださいませ。
 今回は犬猿コンビの悲喜劇part2ですかね? しっかしまあ前回からこの二人、本当によく喋りますね!! うるさいですねー(お前のせいだろ)基本的に、男がベラベラ喋るのは好きじゃありませんが、何故か私の書く子たちはみんなお喋りです……。何故だ。
 さてさて、楽しくも騒がしい日々が始まった二人。一体どうなるんでしょうね? 案外すぐに決着着いたり? ではでは次回をお楽しみに☆

2007/11/25 柚