たまにはさ、こんな時間があってもいいんじゃない?



 たまには…ね。


































  
閑話

























 僕と麻衣は談話室へと向かっていた。

 辺りは依然として闇に包まれている。

 麻衣は浴衣が寒いのか、自分を腕で抱くようにしながら歩いていた。

 僕は自分のスーツの上着を貸した。彼女は「ありがと」と言ってそれを羽織った。

 周りを見渡すと、ここにはまるで僕達の他には誰もいないような気がしてくる――不気味な程の静寂に息が詰まりそうだ。



「………」



 僕達は歩いている間無言だった。

 僕は麻衣に話したい事が山のようにあったが、今は言う気が起こらなかった。

 麻衣もおそらく、聞きたい事、話したい事があるに違いない。

 しかし僕らは、あえて話さないのだ。

 きっと話す事、聞く事が怖いのだ。真実を知ることが怖い。だから何も言えないし、何も聞けない。今だけは――…






 暫く歩くと、誰かの話し声が聞こえてきた。どうやらこの近くの部屋かららしく、段々と近づいているようだ。

「誰だろう?」

 僕が初めて沈黙を破り言った。

 麻衣は少し考え込んでから「華子と……先輩かな?」と呟いた。

 すると突然部屋が開き、僕らは反射的にその部屋の向かい側の部屋に隠れた。

 何故隠れてしまったのか、僕ら自身謎だった。

 僕らは部屋の入り口付近に身を寄せながら、こんな自分自身へ大きな溜め息を付く。間もなく扉は閉まってしまった。



「部屋にいるのは……やっぱりあの二人だわ」

「一体どうしたんだろう?」



 僕らは少しこのままここで、様子を伺う事にした。幸い、ドアは完全に閉まっていなかったようで、微かに懐中電灯であろう光が漏れていた。

 僕らは扉を挟んで向かい合いながら、静かに息を潜め二人の会話に耳を傾けた……。






「――先輩……私、怖いです」

「……」

「……まっすーや佐田達があんな風な事になって、次は自分のような気がして仕方ないんです! 私たちが一体何をしたの?! どうしてこんな目に遭わなきゃいけないの……」







(秋山さん……)

 今の言葉を聞いた麻衣は、不安げに言った。



「何……? 佐田達がどうかしたの……?」

「麻衣……後で……後で全てを話すから……」



 僕はこれしか言えなかった。

 今ここで話してはいけないと思ったのだ。麻衣は不安げな表情のまま黙った。






「――犯人の目的が何なのか、それは俺にも分からない。でも俺は、このままみすみすやられる気は毛頭ないよ。俺は絶対に生き残る」

「先輩は……強いですね。私は生き残れる自信がありません……先輩ならきっと生き残れますね」






「華子……」

 麻衣が呟いた。

 その心の内は計り知れない。秋山さんの悲痛さがひしひしと伝わってくる言葉だった。






「そうだな……確かに秋山一人じゃ無理だな。だから俺がついていてやるよ」






「えーっ!?――んむぐっ」



 僕は思わず叫んでしまった。が、幸い麻衣が咄嗟に僕の口を押さえた為、二人には気付かれなかった。






(告白(?)現場を初めて見てしまった……)



 僕は全身真っ赤になりながら、麻衣に言った。

「どっ、どうしようっ!? 僕達ここにいていいのかなぁっ!?」

「……義高……なんでアナタが真っ赤になってるの……υ」

 麻衣は僕を呆れ顔で見つめた。

 でも僕は告白現場なんて初めて見たわけで。緊張するのも無理ないと思うんだけど……。麻衣は平気なのか?

 僕は思い切って麻衣に言った。

「麻衣は緊張しないの!? 慣れっこなの? ねえ?!」

 僕は矢継ぎ早にまくし立てた。

 すると麻衣は一言「静かにしなさい」と言って、僕から離れた。(僕の口を押さえた時にこちらに移動していた)

 僕は「……はい」と答えるしかなかった。僕らはまた、耳を傾ける。






「俺はお前が犯人だとは思ってない。信用できる。お前は俺の事、信じられるか?」

「もちろんです! 私はずっと、先輩の事を信じてます!」

「秋山……ありがとう」

「こっちこそ……本当に嬉しいです」







 この言葉を最後に二人の会話は終わったらしい。

 僕は二人が見えなくなったと同時に、興奮しながら一気に喋った。

「なっ、なんかすごいね! ドラマみたいだったね! なんかB級のアクション映画見るよりも、よっぽどスリル満点だったよ! く〜っ、いいもの見た〜っ! ねえ麻衣?」

 しかし、麻衣は僕の話なんて全く聞いていないようで、何か考え込んでいた。

「麻衣……? どうかしたの?」

「うん……ちょっとね」

 そう言った麻衣の表情はとても複雑そうで、僕は心配になった。何か悩んでいるみたいだ。

「良ければ話してくれないかな?」

「えっ……」

「なんか話すだけでも楽になるかもよ?」

 僕はどこかで一度は耳にするであろうこの台詞を、それっぽく吐いた。

 麻衣は一瞬の躊躇いの後、ぽそりぽそりと話し始めた。

 僕の台詞は間違ってなかったんだ! 僕は嬉しくなりながら麻衣の話を聞いた。



「あのね……好きだったんだー、先輩の事」



 へー、そうなんだー。って、ん? 先輩が……好き!?

「えーーっ!? 嘘ッ!??」

 僕はショックで叫んだ。

 だって仮にも僕の未来のパートナーになる人が、あんな得体の知れない人を好きだったなんて! 

 これは僕に対する裏切りだ! いや、神への冒涜にも値する! 酷い! あまりにも酷い! むしろ醜い!!



「義高? おーい?」

 横で手を振っている麻衣が見える。僕は麻衣を見つめて言った。

「可哀相に……」

 麻衣は頷いて、僕の肩を掴んだ。

 ああ……泣くのかな? 泣きたいの? 泣きなさい、好きなだけ。ティッシュとハンカチはいつも三枚ずつ持っているから。いつでも泣けるようにねっ!(オイ……)

 僕が準備していると麻衣は言った。

「義高もやっぱそう思う? 可哀相だよね……縁」



――はっ?

縁……? 



「って、吉野さんかよ!? なんで!?」

「何でって……縁ってさ、先輩の事好きだったじゃない?
 だからねー。なんか華子も縁もどっちも応援したいんだけど、なんかやっぱいざこうなると可哀相な気がするのよね〜……って義高!?」

 ――僕は気が抜け、その場に倒れた。



 何だよ。こういうオチかよ。麻衣じゃなかったのか……。

 まあ目の前に僕みたいなかっこいい人がいるのに、まさかないだろうとは思っていたけどね。

 でも少し(いやかなり)冷や汗掻いたよ?……吉野さんって、小倉先輩の事好きだったんだ。

 僕はてっきり――が好きなのかと思っていたよ。なーんだ。ちょっとがっかりだな〜……(――にはお好きな名前を入れてね)



「どうしよ……」

「まあしょうがないよ。こればっかりは」

 僕はもうどうでも良くなって適当に言った。

 気が抜けたのと、吉野さんの好きな人が――じゃなかったからだ(そんなに大事なのか?)

「そうだよね……私たちがどうこうできる問題でもないしね」

「うん。まあなるようになるよ」

 僕はそう言って立ち上がった。そろそろ戻った方がいいだろう。

「そうだね。聞いてくれてありがと」

「いえいえ。じゃあ戻ろうか」






 こうして僕らはまた歩き出した。

 しかし、こんな状況でする話じゃなかったよな……今までの話って。人が死んでいる時に、恋愛とか何とか言っていていいのだろうか……。

 ちょっと罪の意識を感じた僕だった。

 つーか、こういうのを俗に言う『出歯亀』って言うんだよな……?




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*後書き*

閑話休題ってことで、ちょっとした番外編を加えてみました。
義高の言う通り、こんな状況で、そんなこと思ってていいのかよ!? って感じですがw
桃井は実際、デバガメってやったことないので、イマイチよくわかんないですけど、多分きっと楽しいんでしょうね(おい
扉を開けたら、男女二人のカポーが仲良く寄り添ってて、思わず「あっ!」と叫び、扉を閉めて逃げ帰ってきたことはありますが(え
というわけで、次回以降、やっとこさ、刑事と探偵のタッグが始まります。いや、コンビ?
何はともあれ、二人で掛かれば、スピード解決!? ……にはならんのだなぁ、あはは(llllll´▽`llllll)