こんなはずじゃなかったのに……。

 だってこんなの、おかしいでしょ……?




















  












「ごめん皆。やっぱり僕、一人で行くよ……」

「そう……」

 落胆したような声で呟く吉野さん。しかし、僕はやっぱり誰も信用できないんだ。

 それに、皆を危険な目に遭わせたくない。

「仕方ないよね……私たちじゃ、義高君の足手まといになっちゃうかもしれないし」

「そうね。義高君、気を付けてね」

「うん……。でも、皆の気持ちはとても嬉しかったよ。ありがとね」

 僕の言葉に、吉野さんが悲しそうに言った。

「……北林君。本当に一人で行くの?」

「うん……」

 僕が俯きがちにそう言うと、彼女はロザリオを握り締める。

「後悔……しない?」

「……」

「本当に……いいの?」

「……ああ」

 何だか、吉野さんの方が悲痛な表情を浮かべているのが、妙に不思議だった。

 行くのは僕なのに……。

「そう……気を…付けて……」

「吉野さん……あ、そうだ、これ」



 僕は、ポケットから吉野さんから借りていたロザリオを取り出す。

「ありがとう。これ、返すよ」

「あ、でも……」

「君たちも、危険なことには変わり無いから。きっと、そのロザリオが守ってくれると思うしね」

「北林君……」



 彼女はそれきり、何も言わなかった。

 ただ、手の血管が浮き上がる程強く、ロザリオを握り締めていた……。















「じゃあ、行ってくるね」

「義高君、本当に気を付けてよ!」

「ああ、分かってるよ。じゃあ」



 三人が見守る中、僕は暗闇へと足を踏み入れた――その瞬間、とてつもなく嫌な感じが襲った。

「っ!?」

 しかし、何があるわけでは無い。

 立ち止まった僕に、津久井さんが不安げな声を上げた。

「義高君……どうしたの?」

「い、いや……ちょっと悪寒がして……――でも、平気だよ! じゃあ、後は頼んだよ」

 僕は恐怖心を消すため、敢えて奥へと突き進んだ。

「えっ!? 嘘……っ!! きっ、北林君!!!!!!」



 後ろで、悲痛な叫び声で僕を呼ぶ吉野さんの声が聞こえたが、振り返らずに進むことにした。







































「ゆ、縁?」

「突然叫んだりなんかして……どうしたの?」

「ロザリオが……割れた……っ……」

「ロザリオが割れた……? あっ、本当……」

「きっ……きたっ……北林…く…んっ…」

「でも、それと義高君がどう関係あるの?」

「神は……彼を見捨てたのよ……――彼はもう、ここへ戻ってこられない…!!」

「何言ってるのよ、そんなわけな――」

「違う……!! あれは違う……この世のモノじゃない!!」

「縁……」

「二人には聞こえなかったの!? 見えてないの!?」

「ちょっと縁! 落ち着いて説明してよ!! 一体何のこと!?」

「北林君が入った壁よ!! 
沢山の悲鳴とうめき声が聞こえてたでしょ!?」

「縁、アンタ何言って――」

「だから一緒に行こうって言ったのに! 北林君が、一人で行くって言った瞬間、
彼の肩を何十もの手が、掴んでた……!!!」

「なっ……!?」

「縁……冗談キツイわよ……?」

「冗談……? ――これを見ても、まだ冗談なんて言える?」

「……壁?――――っ!?」

「う……そ……でしょ……?」

「そ、そんな…………」



































――パリンッ



「え……」

 突然、懐中電灯が切れた。というか、弾けた。

 真っ暗闇になってしまい、僕は慌てる。

「っ……何も見えない……これじゃあ捜索を続けるのは無理そうだな……一度引き返すか」

 今来た道……と言っても、ほんの数メートルのはずだが、僕は仕方なく引き返すことにした。






「おーい皆ー…………あれ? 入り口ってこんなに遠かったっけ?」

 数メートルしか進んでいないはずなのに、何故か入り口に辿り着けない。

 何故……?

「おかしいな……こんなに広かったのか? おーい吉野さーん! 津久井さーん!」

 呼んでも返事が無い。

「…………秋山さん!!」

 ただ、静寂が広がるだけだった。

「一体どうなってるんだ……ここは」

 その時だった。






































「いらっしゃい……」



































 耳元で声がした。






 振り返らなくても、分かる。

 そして、振り返ったが最期……ということも。






「あ、ああああ……!!!」



 しかし、心とは裏腹に顔が勝手に動く。



 嫌だ……やめてくれ……。

 誰か……助けて……。






 そして、ソイツと目が合った瞬間、僕は絶叫した。



















「うわぁああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」





































「こんなことって……」

「入り口が……
無くなってるなんて……」

「――!? 北林君!? 北林君!!」

「縁! どうしたの!?」

「きっ、北林君が……義高君がぁっ……!!」

「縁っ! 縁ってば……!!」



「嫌っ……嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!













































――本当の恐怖は、今、その幕を開ける……















――終――




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 お疲れ様でした。そして、残念です(え)これは、いわゆるバッドエンドです。あらら……。

 このお話は、シリアステイストギャグ風味。多分、このエンドは結構異色な感じがすると思います。 何てたって、ホラーですから(笑

 でも、この話の台詞中に、この物語の謎を解く鍵が実は隠されてたりします(お)

 よーく考えて読んでいただくと、一箇所……または数箇所、「あれ? ん?」と思うところがあると思われます。

 いや、普通に読めば気付かないかもしれないんですが、よく考えると「あれ?」となるハズです(笑 まあ、どうでもいいんですけどね。

 てなわけで、アナタの選択では、まだまだ事件の真相には辿り着けないようです。達成率はここまでで約40%!! す、少ない!!

 もうホント、長編なので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。

 ではでは今回はこの辺で。貴方の推理で、是非、事件を解決してくださいね。

 またの挑戦、心よりお待ちしております。



2006.6.16 桜山荘総支配人(桃井柚