弁護士は言った。
「貴方は有罪です」
 警察官は反論した。
「何故!? 私はやってない!!」
「貴方、三段論法ってご存知?」
「ああ知ってるとも!」
「その通り。じゃあこの結論、ご納得いただけるでしょう?」
「な、何でそうなるんだ?!」
「警察は政府の犬。犬は利口である。利口は犯罪を企てる……つまり、警察は犯罪者である――いかがかしら?」
「た、確かに……」
「罪を認めますか?」
「認めま――って、認めるわけないだろうが!!」
「やっぱり駄目?」
「駄目に決まってるだろう! 大体何でお前、俺の弁護人のくせに、俺を陥れるような真似してるんだ!?」
「あら、そんなの決まってるじゃない」
「へ?」
「私が弁護してるのは、貴方じゃなくて、私自身だからよ」
「……」
「さあ、罪を認めますか? 刑事さん」
「ああもう……どうにでもなれ……。認めますよ……これでいいんだろう!?」
 ここで弁護士は、勝ち誇った笑みを浮かべた。
「ええ。――では貴方を、偽証罪及び法廷侮辱罪で訴えます」
「は!?」
「貴方は嘘の証言をしましたね。やってもいないのに、やったと……。ここは法廷です。神聖なるこの場所で、そのような発言をすることは、同時に法廷侮辱罪にも問われます」
「なっ……お前が言わせたんじゃないか!!」
「言わせた? ご冗談を。貴方がご自分の口で、勝手に仰ったにすぎません。裁判官、弁護人からは以上です」

――数分後、閉廷を知らせる木槌が鳴り響いた。





















 
護士と刑事

















「津久井さん、お願いできるかな?」

 僕が恐る恐る尋ねると、津久井さんは勝気な笑みを浮かべた。
「勿論いいわよ! 津久井様に任せなさい!」
「……ありがとう」
 彼女の持つ、大胆不敵な強さ、輝きに、僕は強く惹かれていた。
 さすがは、法廷で弁論を振るうだけのことはある。法廷において必要なのは、勇気と度胸。彼女は、その全てを兼ね備えている。
「それに、義高君と二人で行けるなんて、すっごいラッキーだもん★ ユリエに自慢しよっとvv きゃは」
「萌……アンタ、今の状況分かってる?」
「津久井……麻衣を捜すことが目的なんだからね? しっかり頑張ってよ」
「んもうっ、分かってるってば! 義高君、私、ちゃんと頑張るから安心してね?」
「…ぷっ……あははははっ」
「あっ、何でそこで笑うの!?」

 思わず吹き出してしまう。
 彼女には、あともう一つ兼ね備えているものがあった。
  ――愛嬌――
 彼女の武器は、まさにこれだ。
 これは多分、この中の誰よりも彼女は持っている。
 憎めない、女の子特有の可愛さを、彼女は持っている。
 麻衣が津久井さんと一緒にいる理由が、何となく分かった気がした。

 でも僕は……完璧に彼女を――いや、この中の誰も信じられていない。






「じゃあ二人とも、入り口をしっかり見張っててくれよ」
「「了解」」
「じゃあ、行ってくるわね」

 僕たちは、懐中電灯を頼りに、暗闇へと足を踏み入れた。
 もう戻れない世界へ、足を踏み入れてしまったとも知らず……。

















「思った以上に、暗いな……」
「ええ……そうね……――きゃっ!?」
「えっ!? 津久井さん!!」

――ドンッ

「あっ!!」

――パリンッ

「か、懐中電灯が……」

 突然ぶつかられた僕は、その場で懐中電灯を落としてしまった。
 案の定それは……割れた。
 灯りがふっと消え、暗闇が広がる。

「津久井さん……大丈夫?」
 そう問いかけるも、津久井さんの姿がどこにあるのかは分からない。
 すると、微かに声が聞こえた。
「よ、義高君……痛たた……転んじゃった……」
「津久井さん、どこにいるんだ?」
「義高君こそ、どこにいるの?」
 どうやら、お互いがお互いを捜しているようだ。
 しかし、こうも暗いと、位置が確認できない。
「津久井さん、壁際かどうかとか、分かる? 近くのものに、触れてみてくれ」
「え? あ、ええっと……」
 言いながら僕も、手当たり次第、色々なものを触ってみる。
 すると、箱のような、箪笥のようなものに触れた。
「津久井さん!! もし、君が箪笥のようなもの触れたら、そこに僕はいるから」
「箪笥!? 分かったわ」
 津久井さんは、そう遠くないところにいるようだ。
 しかし、四方のどこか……までは分からない。
 僕は、その箪笥のようなものを触り続けた。すると、何か金属質なものに触れる。
「ん……これは……」
 形はよく分からないが、どうやら鍵のような、蝶番のようなものらしい。金属特有の匂いと、音がする。
 錆の臭いが鼻をつく。もしかしたら、かなり古いものなのかもしれない。
「鍵……か。中に何があるんだ……?」
 僕が、壁を叩いた時だった。

――ドンッ、ドンッ!!

「!?」
 突然、箱を内側から叩くような、蹴るような音が聞こえた。

「きゃーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
「津久井さん!?」

 それと同時に、今度は津久井さんの叫び声がした。
 しかし、依然として彼女の姿は見えない。
 
「何があったんだ!? 津久井さん!!」
 呼びかけてみるが、返事はない。

――ドンッ!! ドンッ!!

 何かがこの箱の中にいるのも事実。
「くそ……どうする……?」

 津久井さんの叫び声は、かなりのものだった。
 しかし、この暗さの中、彼女を見つけるのも中々難しい。
 かと言って、彼女の安否も気に掛かる。

 そしてこの箪笥のような、箱。
 この中には一体何がいるのか。
 こんなところに閉じ込められているのには、何らかのわけがあるに違いない。

 これはある種の賭けだった。
 津久井さんを見つける前に、僕が無事でいられる保障はどこにもない。
 逆にこの箱を開けても、中から猛獣のようなものが飛び出てくる可能性だってある。

 ここは一旦、津久井さんを捜すべきか?
 それとも、この箱の中を確認すべきか?

 悩んだ末に僕は…………


A,、津久井さんを捜そう
B、この箱を開けよう

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すいません。冒頭の掛け合いでの「三段論法」は、正式なものではございません。あれは、ただのこじつけです(笑
どうもいい言葉が思い浮かばず、あのように言わせてしまいましたが、「風が吹けば桶屋が儲かる」のことわざみたいな感じです。
あまり深く突っ込みはしないでくださいませΣ(^o^;)