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人生は、選択です。
人は皆、選ばなかった方の人生を、捨てているのです。
そして僕が選ぶのは――……
両手に花を
僕は迷った末、先に箪笥の中を確かめることにした。
津久井さんの安否ももちろん気に掛かるが、下手に動くと余計に分からなくなるだろう。
「誰かいるのか!? いたら扉を二回叩いてくれ!!」
――ドンッ、ドンッ
僕の言葉が伝わったことを示すように、扉が鳴った。
間違いない。誰かが中に入っているのだ。
ここで僕は閃いた。
「……もしかして!! 麻衣!? 麻衣じゃないのか!?」
――ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!!!!
一際強く、扉が鳴る。
僕は確信した。
「麻衣なんだね!! 今開けるから、ちょっと待ってくれ!!」
すると、今度は途端に静かになる。
間違いない。麻衣がこの中にいるんだ。
「くそっ、この蝶番さえ取れれば……」
僕は、箪笥から一歩下がると、麻衣に向かって叫んだ。
「麻衣!! ちょっとだけ、奥の方に下がっててくれ!!」
そして僕は、思いっきりその蝶番を蹴り上げた。
――バキーンッ
金属音と共に、それは飛んでいった。
それと同時に、扉が「バンッ」という音を立てて開き、ごろんっと何かが転がり出てきた。
慌てて駆け寄り、手探りで確認する。
「よひははっ!! ほほはわっへふほぉ!?」(訳:義高!! どこ触ってるの!?)
「麻衣!!」
僕は彼女の顔を探り当て、口に巻かれているタオルのようなものを剥ぎ取った。
「ぷはぁっ……く、苦しかったぁ……!!」
「麻衣!! 無事だったんだね! 良かった……」
「義高ぁ……ロープも外してもらえる?
「分かった」
手探りでロープを何とか外す。
「よし、外れたよ。大丈夫かい??」
「うっ……義高ぁっ!!」
「おっと……」
僕にしがみつく麻衣。
彼女は、微かに震えている。
こんな暗闇の中一人で、どれだけ心細かったことだろう。
僕は、彼女の背中を擦りながら、「もう大丈夫」と繰り返した。
「義高君……麻衣、見つかったの!?」
「津久井さん!!」
津久井さんの声が、聞こえた。彼女も無事だったらしい。
「大丈夫か!? 何があったんだ?」
「ご、ゴキブリみたいなのが顔に飛んできて……それで、ちょっと気を失ってたみたい……あはは――あ、懐中電灯」
――パッ
津久井さんの声と共に、灯りが点く。
灯りに照らされた僕らを見た津久井さんは、溜め息をついた。
「……お二人さん、随分仲がよろしいのね」
「「え……?」」
津久井さんの声に、同時にはもる。
すると、麻衣が飛退くように僕から離れた。
あ……そうか。今僕ら、抱き合ってたのか……――って!? えぇぇぇっ!!!!
ぬわぁ~~~っ!!!!!(意外と純情な男)
「も、萌も無事だったのね!! 良かったーーっ」
そう言って、津久井さんに駆け寄った麻衣に、津久井さんも苦笑した。
僕は依然、身悶え中だ。
「お互い、悪運は強いみたいね」
「残念ながら、ね」
笑いあう二人を見て、僕は安堵の溜め息を漏らす。
二人とも無事で、本当に一安心だ。
やっぱりあの時、先に箪笥を開けることを選択して良かった……と、心から感じる。
「さあ、二人とも。とりあえず話は後で。まずはここから出よう」
「うん」
「ここ、黴臭くて嫌だわ……」
二つの花を両隣に、僕は光の射す入り口へと進んでいった。
――途中、ふと思う。
ゴキブリか……僕が津久井さんの立場でも、きっと卒倒していただろう。
やっぱり先に、麻衣を見つけて良かった……と。
「吉野さん、秋山さん!! 麻衣、見つけたよ!!」
こうして僕らの、短くて、長い捜索は、幕を閉じたのだった。
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*後書き*
人生は選択。ホントそう思います。選ばなかった方を捨てている。これも本当。
でも、通常は捨てた方の人生は知らないまま終わります。それを両方楽しめるのが、小説だったり、ゲームだったりするのです。