分岐〜夕焼け小焼け、閃いて〜
「分かった!」
僕は思わず叫んでいた。
「ほほう……じゃあどういう方法か、説明してもらおうかのう」
おばあさんは僕を試すような視線を向けてきた。ここは一発ぎゃふんと言わせないとな。男義高! いざ参る!!(勝手に参れ)
僕は「げぼっ」と咳払いをすると、勝ち誇った笑みを浮かべ言い放った。
「ずばり! 先に注いだほうが後から選ぶ、ですね?」
良しっ。ずばり決まったな……。僕は続けた。
「つまり、この場合は二人ということが大きなポイントになります。三人だと一人が明らかに有利になってしまいますからね。
二人の時、先に注ぐ方が後から選ぶ様にすれば、どんないかさまもできません。万が一ズルをしようとしても不利になるのは前者の方ですからね。どちらかと言えば、後者の方が有利といえますが……。でも、この方法が一番公平だと言えると思います」
僕がここまで説明すると老婆はふっと息をついた。
「いや〜……見事じゃ」
「これくらい朝飯前ですよ」
僕がふんぞり返って高笑いをしている時、老婆が何か呟いた。
「――殿……やはりあなたの勘は正しいようですぞ……」
「えっ……今何か?」
「年寄りの呟きじゃよ。さあ、こんな所に留まっている暇はお主にはないんじゃろ?」
「あっ!! そうだ! 早く行かなくちゃ!!」
僕は慌てて今来た道を引き返そうとした……が、老婆に挨拶しようと立ち止まり振り返った。
「あの! 色々有難うございました!!」
「気をつけていきんしゃい」
僕はそのまま走りだしたが、何故だか老婆が気になり再び後ろを振り返った。そして驚愕した。
(!! ――嘘……だろ……!?)
振り返るとそこには老婆はもちろんのこと、店もまるで最初から何も無かったかのように忽然と姿を消していたのだ。
僕が呆然としている時遠くで「お主ならきっと……」と聞こえたような気がしたのだが、空耳だったのだろうか……。
僕は一抹の不安を胸に、またその不安から逃れるように全速力で山道を駆けて行った。今度は迷わない! と叫びながら……
――ここは露天風呂。
「それにしても……縁遅くない?」
華子が言う。
「うーん……連絡あってから随分経つよね。なんかあったのかな?」
私はそう言ってから思わず口を押さえた。何かとても嫌な予感がしたのだ。そして口に出してはいけないような、そんな気がした。
「麻衣ちゃん?」
千絵子が私を覗き込んできたので、私は必死に落ち着こうとした。だが、やはり気分が優れない。
「ごめん。ちゃっとのぼせちゃったみたいだから先出るね」
私はそそくさと脱衣所へ向かった。
浴衣に着替えながら私はふと思い出した。
(そういえば義高、無事かな……)
何だか色々と心配なことがあって、どうも落ち着かない。探偵であるが故、何か気がかりな事があるとどうにも落ち着かない体になってしまっていた。
しかし、実際の行動力が物を言うこの仕事。
「よしっ! ちょっとその辺を見てこよう!」
当然の事ながら、私は縁を見に行く事にしたのだった。まあ縁なら大丈夫な気もするのだけど……
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