第16章<全分岐共通>〜を集めて推理せよ!〜









 私たちは嫌な予感を胸に、須山の部屋の前に立ちすくんだ。
 部屋の中からは、物音すらしていない。
「須山……」
 私は呟き、部屋をノックしようと扉に触れた。
 だが、扉は少し開いていたらしく、嫌な音と共に奥へと動いた。
「鍵かかってなかったのか……」
 小倉先輩が言った。
 私は後ろを振り返る。
 そこには黙って頷く義高の姿があった。
「開けるわ……」
 私は勇気を振り絞り、ドアノブに手を掛け、そのまま一気に開け放った。






 何でもない普通の光景。
 普通によく見る光景がそこにはあった。
 
 机の上に、吉文は突っ伏していた。
 寝ているように。
 彼の右手にはしっかりと携帯が握り締められている。
 メールの途中で寝てしまったように見える。
 しかし、机の上、吉文の前にはビンが倒れており、中からラムネのようなものが零れ出ているようだった。

「す、須山ぁ……!?」
 岸谷さんが怯えながら言った。
 吉野さんが吉文に駆け寄り、「きゃあっ」と悲鳴を上げた。
「吉野さん!?」
僕は吉文に近づこうとしたが、秋山さんに急に腕を掴まれた。
「秋山さ――」
「義高君……嘘よね?」
 彼女の手は震えており、僕はその手を振り払うことはできないと思った。僕は黙って、唇を噛んだ。
「縁……」
 麻衣が言った。
 吉野さんは、吉文の脈を取ると首を力なく振った。
 麻衣は「そう……」とだけ呟くと、下を向いた。
 すると今まで黙っていた先輩が、吉文に近づいた。
 そして驚きの声を上げた。
「おい……須山は――」
 一間置いた先輩は、僕らを見ながら叫んだ。
「自殺したんだ!」
 僕は先輩の言葉が一瞬理解できなかった。
 自殺……?
「一体どういう事なんですか!?」
 僕は思わず声を荒げた。
「メールに……遺書があるんだよ!」
 先輩はそう言うと、吉文の手から携帯をそっとはずし、その内容を声に出して読み始めた。



『――件名 皆へ

 今回の事は、俺が全て独りでやった事です。
 関係ないメンバーまで巻き込んでしまって、本当に申し訳なく思っています。
 でも俺は取り返しのつかないことをしてしまったと後悔の念に悩まされ、責任を取ることにしました。
 皆さんさようなら  そしてごめんなさい

                                      須山 吉文 』



「――だそうだ……」
 先輩は言った。
「そ、そんな……! 須山が犯人だったなんて……」
「嘘でしょ? ――だってそうしたら千絵子は……!」
「……須山が犯人だったって言うの……!? 皆を殺した殺人鬼だって言うの!? 須山は自殺したの!?」
 吉野さんに続き、秋山さん、岸谷さんがそれぞれ震えながら言った。
「……」

 麻衣は黙っていた。
 僕も黙っている。これはどう見たって……――!

僕らはふとお互いの視線に気付き、そして順に言った。
「これは自殺なんかじゃないわ」
「吉文は殺されたんだ。自殺を装わされてね」

 僕らの言葉に、他のメンバーは眼を見開いた。
 先輩の手から、吉文の携帯が音を立てて落ちた。






 先輩の手によって、吉文は布団に寝かされた。
 あの状態じゃ、あまりに酷いという事になったからだ。
 僕らは吉文を見つめ佇む先輩を遠くに見ながら、部屋の入り口付近で立ち竦んでいた。
「本当に……本当に須山は殺されたの?」
「ああ。おそらくね……」
 秋山さんの、何とも言えない言葉に僕は頷く。

 ――証拠はあれだ。

「でもこの遺書は!? 須山が打ったんじゃないって言うの!?」
 岸谷さんがまた金切り声で叫んだ。
「遺書は分からないけど、彼が自殺でないことは確かだ。理由はそれだよ」
 僕はそう言うと、吉文が突っ伏していた机を指差した。
 ――机の上の薬らしきビン。
「あれはたぶん睡眠薬か何かだろうけど、あれ、どこか不自然だと思わないか?」
 僕が逆に問いかけると、岸谷さんは「えっ!?」と戸惑った。僕は続けた。
「皆、普通薬を飲むときどうする?」
「え――普通に飲むわよ? 水で――……あっ!」
 吉野さんが小さく声を上げた。
 どうやら皆気付いたようだ。麻衣だけは特に驚くことも無く、静かに頷いた。
 僕は三人娘の顔を見ながら言った。
「そう。つまり薬を大量に飲んで死ぬのだとしたら、それなりの水が必要なんだ。しかしここには水は愚か、コップすらない。よって自殺の線は消えると言えるだろ?」
「須山……頭を強く何かで叩かれたみたいだ。すごい腫れてるし、少し出血している」
 先輩が遠くから言った。
「そうか! つまり吉文の本当の死因は、撲殺だったんだ! 彼は何者かに襲われたんだ。自殺じゃなったんだよ」
 僕がここまで言うと、今まで黙っていた麻衣が口を開いた。
「ユリエ……遺書も須山が打ったんじゃないっていう証拠があるの」
「……何なの?」
「――須山は左利きよ? 右手であんな長い文章打つはずないわ」
「!!」

――そうか!
 言われて見れば、吉文は右手に腕時計をしていた。
 通常時計は、利き腕とは逆に着けるものではないか。
 こう考えれば、左利きだったと言われても頷ける。

「そうよ……確かにあいつは左利きだった。千絵子と同じだった……」
 秋山さんが呟くと、岸谷さんもようやく納得したらしく、口を噤んだ。
「でも、須山が自殺じゃないとすれば……真犯人がいるっていう事だよな?」
 先輩は吉文から離れ、僕らを見て言った。
 僕は目を閉じて頷く。
「はい……残念ながら」
「そうか……でも一体誰なんだ? 犯人は何故こんな事を……」
 僕は何も言えなかった。
 犯人の動機はもはや誰にも分からないんじゃないか? 
 動機が分かれば、犯人も分かるのだろうか……。
「とにかく! もう少しで警察が来てくれるんだし、もうみんな離れるの止めようよ。下で一緒にいれば安全じゃない!」
 岸谷さんに続き、秋山さんと吉野さんが言った。
「そうね。もうこの際犯人と一緒にいることになっても、みんな一緒にいれば、犯人も手出しはできないものね」
「それが一番いいわ……この中の誰が犯人だとしても」
 僕は「……そうですね」だけ言うと、皆を部屋から出るように促した。

 犯人は何が目的だったのだろうか。
 吉文を犯人に仕立て上げた犯人の真意は――

 部屋を出る時、僕はふと思い出した。
(そういえばあの時……確かどこかの部屋が開いた音がしたよな――)
 あれは犯人が吉文の部屋に侵入した事を表しているのだろうか。それとも、既に犯行を終えて部屋に戻った事を表しているのだろうか。……どちらにせよ、この中に犯人がいる事には変わりないのだ。







 談話室に戻った僕らは、今か今かと警察を待っていた。
 時を刻む音が、静かに響く。
 時刻は午前八時。今頃テレビでは「占い」をやっている頃だ。……きっと僕の運勢は最悪に違いない。

 ――プルルルッ プルルルッ

「!?」
 僕の携帯が突然鳴り響いた。慌てて着信を取る。
「もしもし!?」
『北林、悪い! ヘリの用意が遅れてまだかかりそうだ! あと一時間半はかかる!』
 受話器からは、大塚先輩の焦りの混じった声が聞こえた。
 何でこんな時に!? と思ったが、大塚先輩を責めても仕方ない。
「分かりました。先輩……もう一人――吉文…須山が殺されました……」
『何っ!? 分かった! なるべく早く着くようにするから!!』
 大塚先輩はそう叫ぶと、ブチッと音を立てて電話は切れた。
 ふと皆の視線が僕に注がれていることに気付く。
「……ヘリの到着が遅れるらしい。着くのは……九時半頃だって」
「そんな! まだ一時間半もあるなんて……」
 僕は「一時間半なんてすぐだよ」と言ったが、皆は更に落ち込むばかりだった。出るのは溜め息ばかりである。
 堀之内さんの言葉を思い出した。

『犯人は多分……』

 君は一体何に気付いた?
 どうして犯人が分かったんだ?
 僕が見ていなくて、君が見たものは何だ?
 僕たちは何か、重大な見落としをしているのかもしれない。






 私はさっきからある事が頭から離れない。

 ――萌の着メロ

 何故か、違和感があるような気がしてならない。
 千絵子の言葉を思い出す。
 千絵子はどうして犯人が分かったんだろう。
 私が気付かなかった何かを、千絵子は気付いた。それは一体何なんだろう。
 千絵子は気付いた。その兆候は――千絵子に何か異変はなかった?
 もう少しで何かを思い出せそうな気がする。重要な何かを……

「義高。ちょっといい?」
 義高に声を掛けると、彼は予測していたように立ち上がり、私を部屋から出るように促した。皆はもうどうでもいいといった感じで、誰も気に留めてはいないようだ。
 私は皆を一瞥しながら、義高と部屋を出た。
 犯人がこの中にいるなら、今は何もできないはずだ。
 皆が一緒にいる今、犯人は何を思い、何を考えているのだろう。
 私は思案を巡らせながら、義高の後を歩いた。
 彼は一体どこに行くつもりなのだろう? 私はてっきり部屋で話すのかと思っていたのに。
「麻衣、気になっている所を全てチェックしておかないか?」
 突然、義高が振り向いた。
「え?」
 私が聞き返すと、彼は言った。
「もうすぐ警察が来る。そうしたらきっと、犯人は雲隠れしてしまう。犯人はそれを狙っているんだ。警察じゃあ犯人を挙げられない。そうなれば犯人は……この事件は迷宮入りだ」
「……」
「それだけは……それだけは避けなくちゃいけない。今まで犠牲になった皆の為にも」

 犠牲…………――――!!
 私はここで、ある事に気付いた。

「千絵子は、犯人が分かってしまったから殺されたのね!」

 そうだ。
 千絵子は犯人に気付いたことを、犯人に知られてしまった――――ということは……
 私はもう一つ気付く。
 当たり前のことが、大きなヒントになる。
 千絵子が犯人の名を挙げようとした=千絵子の知っている人物。つまり、犯人は間違いなく私たちの中にいるということを。
 最初から……外部犯なんて在り得ないのだ。千絵子はあの時、犯人を言うのを躊躇った。きっと、犯人を言えなかった……言いたくなかったんだ。
 それは……私たちの中にいたから――

「義高、とりあえずブレーカー室に行ってみない?」
「うん。僕も気になっていたんだ」
 私たちは早歩きで、ブレーカー室へと向かった。
 警察の到着前にカタを付けなければならない。
 事態は一刻を争っていた。












「ここか……」
 僕らは『電気管理室』と書かれた扉の前に立っていた。中からは、何か機械が動いているような音がしている。
「とりあえず中に入ってみよう」
 麻衣はそう言って、扉を開けた。

 中は薄暗く、黴臭い感じがした。僕らは急いで、ブレーカーの主電源を探す。
「あ! これ!!」
 僕は麻衣を呼ぶ。
 ブレーカーの主電源らしきそれは、スイッチ部分が見事に外れていた。もちろん一階の主電源だ。主電源の割には、あまり頑丈ではなかったようだ。二階の主電源を見ればそれはよく分かった。したがって今修復する事は無理なようだ。
「これが外されたのは……私たちが二階に上がった後ってことよね?」
 麻衣が言った。
 しかし僕はこのブレーカーの周りを見て、ある事に気付いた。
「いや、そうとも限らないよ。これ、あるトリックが使ってあるみたいだ」
「トリック?」
「ああ。これだよ――」
 そう言って、僕は近くにあった非常用の懐中電灯で床を照らした。
「え――? これは……」
「そう。砂だ。正確には小石なんかも混じっているみたいだけどね」

 床には、砂と石が散らばっていた。しかもかなりの量が。
 その周りには、料理人などしか使わないであろうアルミ製の……理科で使った漏斗と言えば分かるだろうか。それが転がっていた。そして、それと同様に大き目のバケツもあった。こちらは中に沢山の砂利が入ったままらしい。

「義高……トリックが分かったわ」
「うん。多分あの方法だろうね」

 僕らはそのまま部屋を後にした。
 犯人はさすがに用意周到だ。あの方法なら、あの時一階のこの場所にいなくても、ブレーカーを落とすことができた。これでアリバイを作ったわけだ。
「次はどこへ?」
 僕は少し考えて、「宴会場へ行こうか」と言った。麻衣は無言で頷いた。









 宴会場に着いた。
 僕らはもう一度、お茶等の道具の周りを調べた。何か手がかりが残ってはいないだろうか?
「ねえ……ちょっと気になるんだけど」
 机周りを調べていた麻衣が言った。彼女は手に、アイスボール(氷の入った入れ物。主にバー等で使われる)を持っている。
「それがどうかしたの?」
「これ、中、空だったのかな?」
「え?」
 麻衣はそれを机に置いた。
 アイスピック(氷を砕くきり)がカランと音を立てる。
「氷、沢山あったじゃない? それが全て無くなってるの。おかしくない? 誰がそんなに氷を使ったって言うの? 少しは残っていたはず。そうしたら溶けて水になっているはずだわ。でもこの中身は空」
「そうだな……誰かが――犯人が何かにこれを使ったのか?」
「そう考えるのが自然かも。でも何に使ったのかしら……」
 そう言った麻衣の表情が、一瞬強張った。そして、息を呑む仕草をする。
「まさかっ……!」
「どうした!?」
「義高……やっぱり私たちは、思い込みに囚われていたのかもしれない……」
「それってどういう意――」
「思い出して。私たちが一番初めに見たあの現場の様子を」

 僕は麻衣の視線に急かされながら、あの時の状況を振り返った。

――益子君の死。
 あの時は何が起こっていたのか理解するまでに時間がかかった。
 確か、部屋は密室だった。窓の鍵は内側から掛けてあったんだから。
 それから……彼の胸にはナイフが刺さっていた。赤い血が印象的だった――……!?
「そうか!!」
 分かった。氷の行方が。
「思い出したみたいね」
 麻衣は縁側に向かう。
「まっすーの浴衣――上半身が濡れていた。あれはきっと氷が溶けたものなんだわ」
「うん……でも何のために?」
「……血を目立たせる為かしら? あるいは別の理由があるのかもね……」

 ――別の理由
 他に何かあるのだろうか。
 そうだ。
 犯人は何かを隠すために氷、いや、水を撒いたのかもしれない。でもそれは何だ?
 
 僕はその時、昔習ったことわざを思い出した。そして気付いたのだ。
 僕は思わず叫んだ。
「麻衣! ――敵は本能寺にあり――だ」









 私は彼の言葉の意味に戸惑ったが、すぐにことわざだと理解した。
「つまり、敵の本当の目的は別の所にある、というわけ? でもそれは一体――」
「カモフラージュさ」
「カモフラージュ?」
 私は聞き返した。
 義高は、犯人が一体何を誤魔化そうとしていたと言うのだろうか。しかし、彼は意外な言葉を返してきた。
「ねえ麻衣。最後に……もう一つだけ確認したいことがあるんだ。いいかい?」
「? いいけど……」
 私は何故か、義高の表情に翳りを見たような気がした。義高……?
「麻衣、二階へ行こう」
 私は、彼の考えが分からなかった。二階に行く理由が……。
「ちょっと待って。皆の様子を一度見に戻らない?」
 私は急に皆が心配になり、これを提案した。が、返ってきた言葉がまたも不可解なのだ。
「平気だよ麻衣……心配いらない」
「……?」
「とにかく二階へ行こう」
 私はもはや反論する事も叶わなかった。



 私は前を行く刑事を、不安な瞳で見つめた。
 彼は二階で何を確かめるつもりなのだろうか。
 彼の後姿からは、何も読み取れない。不安は募るばかりだった。

 二階に続く階段を上がる前、私はやはり談話室を確認しようと義高をそのままに、一人、部屋を覗きに戻った。
 部屋は特に変わった形跡も無く、皆は席に着いたままのようだった。時々ではあるが、話し声も聞こえている。どうやら無事なようだ。
 私はホッと息を吐くと、義高の元へと急いだ。
「麻衣、皆は?」
「うん。平気。何も変わった事は無かったみたい」
「そうか……」
 義高はそう言って、階段を上がり始めた。私も無言でその後に続く。
 階段の途中で義高が呟いた。
「麻衣……二階に行ったら、君は自分の部屋に戻って、もう一度一人で推理してくれないか?」
「え――?」
「それでもし…………犯人が分かったら、僕の部屋へ来てくれ」
「で、でも……」
 私は焦った。
 突然何を言い出すのだ。この人は。
「僕はこれから、ある事を確かめる。麻衣も……いや、僕の推理が正しければ、君も僕と同じ結論に行き着くはずなんだ」
「義――」私の言葉を遮るように、彼は言う。
「頼む。今はまだ…………君に僕が考えている事を話すことはできない」
「……義高」
 彼の表情には、悲痛さが滲んでいた。私はもう何も言えなかった。

 何を…………義高は何を考えたって言うの?
 私に言えないって一体……。

 気付けば私たちは二階に着いていた。
「麻衣」
 無言のまま部屋に入ろうとすると、義高に呼び止められ振り返る。
「――思い込みを捨てる……この言葉を忘れないで」
「……分かったわ」
 そう答え、静かに部屋の扉を閉めた。

 扉を閉めた私は、どうしたらいいのか分からなかった。
 ただ、義高の顔と言葉だけが脳裏に焼きついて離れない。

『君に話すことはできない』
『この言葉を忘れないで』


 ――義高……
 あなたは何に行き着いたの?
 千絵子と同じ人に行き着いたの?
 だから言えないの?
 ねえ……どうして……






「麻衣……ごめん」
 僕は扉の前でそう呟いた。
 しかし、僕の口からは言えない。
 言えないんだ……

 僕は自分の部屋に戻った。そしてそのまま布団に倒れこみ、仰向けになると天を仰ぐ。
「死神……お前が言っていた意味がようやく分かったよ。何でもっと早く気付けなかったんだろうな……」

 全ての謎が分かったわけではない。
 これが正しいのかも分からない。
 でも――僕の中で一つの結論が出た。
 ただしこれには、決定的な証拠がなかった。
 麻衣……
 もし君が、僕の知らない何かに気付いてくれたとしたら……
 僕は心の中で祈った。






「ああー! もう悩んだって仕方ないじゃない! 推理よ、推理!」
 私は髪を乱暴に掻き上ながら、布団にバタンと倒れた。そしてそのまま手帳を開く。
「……最初から確認するしかないよね」
 私はとりあえず全ての事件を振り返ることにした。

「うーん。手がかりゼロって感じ♪」
 私は可愛く言ってみた。ただ何となく。
ふざけている場合ではないのだが、分からないのだから仕方ない。
「もう! 刑事はもう分かっているのよ?! なんで義高に分かって私に分からないのよ!」

 私は自分にマジ切れしていた。これでいいの!? 伊達に推理小説マニアじゃないでしょ? こんなトリックくらい見抜けなくて、特捜課が勤まるかってのよ!

「思い出すのよ。何か手がかりがあったはず……」
 自分に言い聞かせるように呟いた私は、目を瞑り記憶の糸を手繰っていった。

 頭の中に記憶の断片が散らばっている。
 それらは一見、何の繋がりも無いように思える。

 でもそれは違う。
 全ては一つに……繋がるのだから……――

 そう思った途端、記憶の欠片が繋がっていく。
 まるで――パズルのように―― 

「!!!!」

――まさか!! ……そんな!

 私は自分の推理に愕然とした。
 義高と同じなのかどうかは分からない。そしてこれが正しいのかも。
 でも私にも一つの結論が出た。しかしそれを証明するためには、自分の記憶を頼りに、ある事を確かめなくてはならない。
「嫌だ……こんな結末……」
 携帯を片手に、義高の部屋へと急いだ。
 
――犯人が分かったら、僕の部屋に――

 悪夢の終わりが近づいていた。




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共通ルートの最後です。この先は、今までの分岐によって、結末はがらりと変わりますので……。
さて、物語もいよいよラストスパートですよー。