第15章〜再会と






 僕が部屋から出ようとした瞬間、皆の部屋が一斉に開いた。
 皆は部屋を出て、僕らの所に集まってきた。
「これで連絡が取れるね!」
「うん! もう安心だね」
「――まだ安心はできないわ……」
 振り返れば秋山さんが一足遅れて部屋から出てきた。
「華子! どうだった!?」
 麻衣が駆け寄った。
 秋山さんは浮かない顔で言った。
「とりあえず麓の警察に事情を説明したんだけど、どうにも信じてくれないのよ! 橋が落とされたって言っても、それじゃあ行けませんね〜って言われたのよ?! 私が気違いだと思ったみたい!」
「警察がそんな対応を!?」
 僕は思わず叫んだ。
 警察がそんな事をしてどうするんだ!? そんな奴等が警察やってるなんて許せない。
 僕は怒りで我を忘れそうになりながら、携帯を取り出すと警察に繋いだ。

『はい? こちら桜都警察ですが』
「もしもし、東京警視庁捜査一課の北林と申しますがっ」
『け、警視庁!? は、はい! 何でしょうか!?』

 警視庁の名が出ただけでこれかよ―― 僕は半ば呆れながら続けた。

「今さっきそちらに、女性の方から緊急の連絡があったと思うんですが?」
『へっ? あ、ああ……確かにありましたけど……悪戯かと思いまし――』
「こんな早朝から悪戯なんてする奴がいるんですか!?」
 僕は電話越しに怒鳴った。何て奴なんだ! 死ね!
『い、悪戯じゃないんですか!?』
 警官は慌てたようだった。声が上ずっている。
 僕は追い討ちを掛けるように言った。
「ええ、もちろんです! 今僕自身その中にいるんですからね!」
『そ、そんなっ! す、すぐにそちらに向かいます!』
「急いで下さい! もう既に何人もの死亡者が出ているんです!」
『ひいっ! 分かりました!! すみませんでした!!』

 ――プッ――ツー――ツー

 僕は溜め息を吐きながら、電話を閉じた。
「今から地元の警察が動くよ。でも、ここに来るにはヘリが必要だ――警視庁にも連絡してみるよ」
「やっぱり私の話は信じてなかったのね!? 何て警察なのかしら!?」
 秋山さんは相当怒っている。
 僕だって怒っていた。本当はもっと怒鳴ってやりたかったけど、ここでそれをやったら奴等と同じだ。それは駄目だ。
「僕もあんな奴らを警察だなんて認めたくないよ」
「私も同じ警官として、恥ずかしいわ」
 僕が吐き捨てるように言うと、麻衣も冷たく言った。
 僕らの言葉に秋山さんは大きく頷いた。そして「会ったら一発お見舞いしてやる!」と指を鳴らしていた。さすが総長、カッコイイです! 肝が据わってます!
「義高。警視庁に連絡しないと」
 麻衣に促された僕は、急いで捜査一課に電話を掛けた。コールの途中で麻衣が「私もいること上に伝えて」と囁いた。

『はい、もしもし。こちら警視庁捜査一課』
「もしもし! 北林です!」
『北林! お前今どこにいるんだよ!?』
「その声はもしかして、大塚先輩っ!?」 

 僕のこの言葉に、ここにいた全員が反応した。
「「「大塚(先輩)〜っっ!!?」」」
「えっ? 何?!」
「大塚って、大塚陽先輩!?」
 麻衣が叫ぶ。麻衣の背後では、秋山さんと岸谷さんが目を見開いていた。吉野さんはお得意の呪文を唱えている。
「う、うん。そうだけど……」
 僕は皆の反応に怯えながら、びくびく声で言った。
「ちょっと替わって!」
 そう言ったのは秋山さんだった。
「えっ、あ、あの、ちょっ――」
僕が何かを言う前に、彼女は僕から携帯を奪い取った。
「もしもし! 秋山です! 秋山華子です! ……ええ、はい! 事情説明は、岡野麻衣に替わります!」
 とても親しげな口調で、秋山さんは麻衣に携帯を手渡す。一体……?
「……お電話替わりました。大塚先輩お久しぶりです――岡野です」
『岡野……。今、一体何が起きてるんだ!?』
 受話器越しに聞こえる大塚先輩の声。
 麻衣は僕たちを一瞥すると、深呼吸をして言った。
「私たち元バド部メンバーは……今、殺人事件に巻き込まれているんです!!」
『な、何だって!?』
 大塚先輩の驚きの声が、なお一層大きく響く。そりゃあ当然だろう。久々の後輩からの連絡が殺人事件の連絡なんて。
「私たちは昨日から同窓会の為、桜都に来ているんです……はい。そこに桜山荘という旅館があるのをご存知ですか?……そうです。その桜山荘、実は華子の伯母が経営しているんですよ」
『ええっ!? 本当かよ?』
 先輩はここでも驚いていたが、一体何に驚いたのか僕には分からなかった。
「それで、私たちは桜山荘の別館を貸し切っているんです。本館とは少し離れた所にあるんですが……」
『場所は大体分かった。で、今の状況は!?』
「はい……今までで既に六人が殺害されました」
『!? 何だって!? 六人って……』
「……益子、永田、佐田、菅、堀之内……そして――」

 麻衣は僕と吉野さんに視線を向ける。
 僕らは顔を見合わせると、黙って頷いた。
 麻衣はそれを合図のように言った。
「津久井です……」

「津久井が!? そんな――津久井もなの!?」
 岸谷さんが叫んだ。
 秋山さんは俯き、先輩は押し黙った。

 もう隠せない。仕方ないんだ。
 ごめんね、皆。
 ごめん津久井さん……。

 大塚先輩は言葉を失っているようだ。
「大塚先輩……私たちはまだ、犯人を見つけられていません……至急応援と救助を要請します。……ええ、分かりました。ちょっと待ってください。今替わります」
 麻衣は僕に、携帯を手渡す。先輩が僕と話したいのだろうか?
「せ、先輩……」
『北林……事情は後で聞く。とりあえず今から応援に向かうよ』
「ありがとうございます。それと先輩、本館と別館を繋ぐ橋が犯人によって壊されてしまったんです。だから、ヘリでお願いします。あと警部補……いえ、警視に『特捜課の岡野も一緒にいる』と伝えてください」
『分かった…………もうしばらく、俺の後輩達を頼む――』
「はい……もちろんです」
 大塚先輩の口調は、いつもと違って切羽詰まっているようだった。
 後輩思いの先輩……きっとそれが先輩の本当の姿なのだと今更ながらに思う。
 電話を切ろうとした時、ふいに誰かに腕を掴まれた。
「ちょっと俺にも話させてくれ」
 小倉先輩だった。
「……大塚。久しぶりだな」
 しばらく大塚先輩と話した後、小倉先輩は僕に電話を返した。何を話していたのかは謎だ。
「あいつも、俺の後輩なんだ」
 すれ違い様に先輩が言った。
「そうなんですか!?」
 僕はあの大塚先輩が、年上にぺこぺこしている姿を想像して、思わず吹き出した。
(似合わなねーーっっ!! てか、ありえねーーっ!!)
 僕は心の中で大爆笑していた。(状況考えろよ)






















 私たちはすっかり安堵していた。
 もう助かった気でいたのだ。



 私たちはしばらく大塚先輩の話で盛り上がった。
 大塚先輩がまさか刑事になっていたとは……と、皆は興味津々な表情で話している。
 私はと言えば、実際に会話をする機会はなかったが、一応その存在は風の噂程度に知っていた。
 もっとも、彼が義高の先輩だったということは知らなかったが。つくづく、運命とは不思議なものだと感じる。
 先輩は、お得意の『必殺殺人スマッシュ!』とか『秘技! ドライブ乱打!』とかで、犯人を逮捕しているのだろうか? バドミントンを駆使して戦う刑事なんて、想像もしたくない……。

 私たちはそんなくだらない事を考え、大事な、本当に大事な事を忘れていたのだ。
 何故今まで気づかなかったのか、不思議な程だった。
 どうして、嫌な予感がしたのにそれを忘れてしまったのか。
 感覚が麻痺していたのか。
 助かるという喜びで恐怖を忘れたのか――こんな言葉は言い訳に過ぎないのに……。

「そういえば……ねえ……」
 ユリエが小さく言った。
 そして彼女の次の言葉に、私たちは愕然とした。

「須山は? ……あいついないよ?」

 私たちは、彼の存在を忘れていた。
 そして後悔の渦に見舞われるのも、そう遠くはないと、この時私は薄々感じていたのかもしれない。

 ――悪夢はまだ、終わってはいなかったのだ。




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15章です。ついに、終盤戦も終わりに近付いて参りました。実質、あと数話で終わります、多分(おい)今回も全ルート共通です。なのでまたリンクが……(汗)
さて、須山は一体どうなっているのか……想像は易いですが。全体的に危機感薄すぎだなぁと自分で書いておきながら痛感。こいつら、警察かよ? みたいな。でもまあ、最終的にはちょこっと成長している二人に会えることを今から祈っているところです(えぇー? てか、大塚さん、声でかすぎですよね……。そうなんですよ、彼は麻衣たちの高校時代の部活の先輩っていうわけです。やっと謎が一つ出せた(笑)世の中、人と人の繋がりって、ホント運命的なものを感じる時が多々あります。