序章〜歯車〜




 都内某喫茶店二人の男が、声を抑えて話している。

「この前の計画が、会議で本決定した」

「そうですか……」

 そう呟いた男は、溜め息と共に大きく肩を落とした。

「まあそう落ち込むな。彼なら平気だろう」

「………」

 上司らしいもう一人の男は、煙草に火を点け吹かす。

 白い煙が二人の男を隠すように、纏わりついた。

 男は顔を顰めながら、言った。

「それで、それはいつ決行されるんです?」

「まだ分からない。ただ分かっているのは、近々という事。そして彼がそれに選ばれたという事だけだ」

「こんな事……意味あるんですか?」

「さあね……上が決めたことだ。私たちには到底理解できないよ」
 
 男は思う。あいつはこれを乗り越えることができるのだろうか、と。


「もうこれ以上は知ることはできないだろう。私たちは彼を見守ってやるしかないんだよ……分かるだろう?」

 考え込む男に、上司らしき男は言った。

「分かりました……」

 男はそう言うと、そのまま立ち上がり店から出て行った。

 もう一人の男は、何も言わずに見送った。そして呟く。

「そういえば、今回はもう一人いるのか……」


 歯車が確実に狂いだしていた。




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