ときめいて☆魔法学園! 番外編〜2013 夏祭り〜
ベンチで休憩
「あまり遠くに行かない方がいいよね。」
私は近くのベンチで優子の帰りを待つことに決めた。
先程から我慢してきたけど、少し足が疲れてきていた。理由は、慣れない履物―――下駄。
実は私も優子と同じように、浴衣を着て来ていたのだ。
彼女の落ち着いた雰囲気のそれとは違い、私のは白地で撫子がいくつも描かれている、“女の子”といった感じの浴衣だ。
大人っぽくはないけれど、小さな花が踊っているようで可愛く、私の大のお気に入りなのだ。急に出してほしいと母に言ったときは随分嫌な顔をされたけれど、
いざ着付けが始まると私よりも夢中になり、髪型やら小物やらを選び出して収拾がつかなくなったところを私が止めるまでになった。まあ、楽しかったから良かったけど。
下駄もそんな中の一つ。こんなにあったのかと思うくらいの数があり、浴衣に合ったものを選ぶまで随分時間がかかった。何回も履いて脱いでを繰り返し、
結局外に出る頃には少し足が痛くなるくらいだった。今は親指と人差し指の付け根が赤くなっていて、できれば歩きたくないくらいだ。優子が来るまで、ちょっと休んでいよう。
私は下駄を脱いで足をプラプラさせながら、うちわを使って涼む。だらしがないとは思ったけど、まあいいや。知ってる人がいないことを祈ろう。
「?」
・・・ワオ。
そう思った途端に、声をかけられた。多分この姿を一番見られたくなかった相手に。
「杉原先輩・・・」
「こんなところで、一人でいったい何をしてるんだ?」
「こんばんは。優子と来てるんですけど、今ちょっと別のところに行ってて。その間休憩してようかな〜なんて・・・」
私はニコニコしながら、そ〜っと足を下駄に戻しにかかる。
「なるほど。で?その恰好は?」
「あ・・・はは。休憩の一環で・・・。」
「休憩の一環で年頃の娘が足をブラブラさせていたわけか?」
「えへへ・・・」
「えへへじゃない。はぁ・・・大方、下駄に慣れなくて足の付け根でも痛むのだろう?少し見せてみろ。」
「えっ!?ちょっ!いえ、良いです!」
私は慌てて足を引っ込める。確かに痛むけれど、先輩に足を見せるなんてできっこない。
「遠慮するな。絆創膏なら持っている。」
「いや、そうゆうことじゃなくて!」
「これから三村と店を回るのだろう?足が痛むと楽しめないぞ。」
「それまでには治りますから。」
「そんな短時間で治るわけないだろう。」
「そこは根性で」
「―――いいから動くな」
「・・・はい。」
杉原先輩が低い声を出したので、私はとうとう観念しておずおずと足を差し出す。
休憩したためか、さっきより少し改善はしていたものの、やっぱりこれで歩くのは厳しいみたい。
男の人に足を触られたことなんかないし、とても緊張はするけど、これ以上先輩を煩わせるわけにはいかない。大人しく言うことを聞いておくことにする。
先輩はベンチに座っている私の前にしゃがみ込み、私の足を手で取る。
「っ!」
思わずピクリと動いてしまうと、クスリと笑う声が聞こえた。
「そんなに緊張するな。絆創膏を貼るだけだから。」
「・・・すみません」
いや〜〜〜!!恥ずかしい〜〜!!私一人で意識しちゃってバカみたいじゃない!
どうにか意識を他に逸らせようと、私は自分の足ではなく、先輩の方を見てみる。先輩は応急処置をするため、私の足に視線を落としているから、目が合うことはない。
この機会だから先輩のことをよく見てみることにした。
いつも先輩と話すときは私が見上げることしかないから、今日の上から見るこのアングルはなかなかのレアだ。
こんな所にホクロがあるんだとか、綺麗な灰色の髪が風に吹かれてサラサラと揺れているところとか、普段知らないことを一つずつ見つけられるのは、なんだか嬉しい。
私はふと、一つの欲求にかられた。
「先輩。」
「なんだ?」
私の足に絆創膏を貼りながらも、先輩は答えてくれる。
「あの・・・お願いが・・・あるんですけど。」
「言ってみろ。」
こんなこと言ったら怒られるかもしれないけど、ダメもとで言ってみよう。勇気を出して、私は続ける。
「頭、撫でてもいいですか?」
「はっ?」
先輩が思わず顔をあげたため、バチリと目が合ってしまった。
恥ずかしくなった私は、視線を横に逸らせ、それでも言葉を続ける。
「だって、先輩の髪、サラサラしてて気持ちよさそうなんですもの。」
「いや、お前の髪の方が綺麗だろう。」
「自分の髪の毛触っても全然面白くないですよ。それに先輩の髪は短くて、悔しいけれど私よりツヤツヤしてて・・・ダメですか?」
じっと先輩のことを見つめてみる。こんなチャンス、今を逃したらもう無いもの。少しくらい大胆になってみてもいいよね。
すると先輩は、少し悔しそうにしながら「好きにしろ」と再び私の足に視線を落とした。
やった!正義は勝のよ!←
お許しをもらった私は、そっと先輩の髪の毛を触ってみる。
見た目通りツヤツヤで、見た目以上にやわらかかった。
その感触がとても気持ちよく、私は何度も撫でる。
「なんか、不思議な感覚だな。」
「不思議、ですか?」
「お前にこんなふうに頭を撫でられる日が来るなんて、思わなかった。」
やばい。つい己の欲望のままに突っ走っちゃったけど、考えてみれば普通男の人の頭撫でるなんて、失礼な話だよね。
「ご、ごめんなさい!つい気持ちよくって!嫌、でしたよね!」
「嫌じゃ・・・ないけど。」
「・・・けど?」
先輩は手を止め、少し考えるふうにして、それから言う。
「ああ、嫌じゃないな。これは・・・『気持ちいい』だな。」
「『気持ちいい』ですか?」
「そう、ほっとする。」
先輩はそう言うと目を細めて、微笑んだ。
ふいにそんな顔を見せるから、なんだかこっちが恥ずかしくなってきちゃって。私は手を引っ込めて、また下を向いた。
「なんだ、もうやめてしまうのか?」
「あ、は、はい。もう充分です。」
「残念だな。」
「え?」
フッと笑って、先輩はできたぞ、と私の足を離した。
「あ、ありがとうございました!」
「いや、痛くないか?下駄、履いてみろ。」
私はそっと下駄を履いてみる。うん、丁寧に応急処置がされているから、全然痛くない。
「はい!大丈夫です。これなら歩けそうです。」
カラコロと、私は少し歩いて見せる。
「なにかお礼を・・・あ、ラムネでも飲みませんか?」
「いや、もう帰るからいい。気を付けて回れよ。」
「でも、何もしないんじゃ申し訳ないですから。」
「俺が無理やり絆創膏を貼っただけだ。申し訳ないとかは無い。」
「でもでも!!」
先輩は困った顔で私を見る。
でも本当に助かったから、やっぱり何かお願いをしたい。
私が一歩も引かないという態度を示したからか、先輩は一つため息をついた。
「フゥ。・・・じゃあ、一つだけ。」
「はい!なんでも言ってください!」
「っ、・・・いや、そんな顔で見られても。」
「はっ、そうですよね。失礼しました。」
いけない、必死になりすぎて先輩のことガン見しちゃった。慌てて少し肩の力を抜く。
先輩は少し間をおいてから躊躇うようにして私に言う。
「・・・本当にいいのか?」
「わ、私にできることであれば。」
お金とかじゃなければ、ですけど。今月赤貧なので。
「じゃぁ・・・・・・」
「え?」
先輩の声が小さくて、聞き逃してしまった。
「先輩、すみません。聞こえなかったのでもう一度お願いします。」
「っ!」
何度も聞くのは悪かったけど、内容が分からず安請け合いをするのは良くないよね。今度はちゃんと聞き取れるように少し近づいてもう一度聞いてみる。
すると先輩は黙り、何かを考えた後、少し小さいけれど、もう一度、今度ははっきりと言ってくれた。
「また今度、今日みたいに頭を撫でてもらえるか?」
「へっ?」
ちょっとびっくりして先輩を見ると、先輩の顔は真っ赤になっていた。
「い、嫌なら・・・良いが。」
「嫌じゃないですよ!ただ・・・」
「・・・ただ?」
「そんなことで良いんですか?」
「ああ、そうしてくれたら、嬉しい。」
普段は寡黙で、表情の崩れない先輩。
でも、そんな先輩だからこそ、私は色んな顔を見てみたくなる。
泣いたり
怒ったり
笑ったり
喜んだり
ほんの些細なことでも
一つひとつを
一瞬一瞬を
大切にしていきたい。
「じゃぁ、その時は言ってくださいね!いつでも馳せ参じますから!」
「なんだそれは。忍びみたいだな。」
フッと。ほら、また優しい目をして私のことを見つめてくれる。
その顔を見ると、私の方が嬉しくなってしまうから。
先輩、約束します。
私はいつでもあなたの傍にいます。
だから、少しでも疲れたら
私に、私だけに、沢山甘えてくださいね。
――――本編へ続く?――――
■管理人の徒然な一言■
晋也が久々にまともに描かれていて、本当に晋也?と疑ったもう一人の作者です。ごめんなさい。そして、ベンチの背景画像が見つからず、何かそれっぽく合わせたけど別に晋也だからいーやとか思ってないからね! 晋也の好感度アッププロジェクト開始してますからね!"((((
´,,_ゝ`)))) そんなこんな、現実では今年は花火大会にも行けてまてんな管理人でした……。・゚・(ノД‘)・゚・。