ときめいて☆魔法学園! 番外編〜2013 夏祭り〜




祭に来るのは久しぶりだ。

俺は昔から、あまりこのような場に来ることが無かった。
両親から止められていたのもあるが、それよりも前に、人が多い場所が好きじゃない。そして、誰かと共に行動するなんて、正直―――



―――反吐が出る。



それでも、今日はクラスメイトからの誘いにのっていた。
『優等生』である俺は、ある程度周りから浮かないようにもしなければならない。
いつも断り続けているから、たまには参加しないと印象が悪い。


そんなふうに思われているとも知らず、一緒に来た彼らは楽しそうにはしゃいでいた。

何を食べる

とか

可愛い女の子がいる

とか。


どうでも良いことを、ただ言い合う。

いったい何が面白いのだろうか。この会話に何の意味があるというのか。
全く理解できないまま、この時間がしばらく続くのかとうんざりしていた時、天からの助けが起きた。

俺以外のクラスメイトが、彼らの部活の先輩に捕まり、祭に着いた早々に連れ去られてしまったのだ。
一瞬のことに俺はしばらく呆気にとられていたが、いつまでもこんなことでは意味がない。
俺はもと来た道を帰ろうとした。

しかし、すぐに足を止める。人混みの中で見つけてしまったのだ。


彼女の姿を―――









「何一人で笑ってるの?」

「っ、高城君!?」

追いついてすぐ、彼女が少し微笑んでいることに気づいた。
俺の声に気づくと、慌てて顔を引き締める。そんな姿を可愛いと思うが、俺は呼び方が気に食わず、ニコリと笑って聞き返す。

「・・・『高城君』?」

「あ・・・静。」

彼女はすぐに気づいて言い直した。
まだこの呼び方に慣れていない様子で、耳を真っ赤にしながら、小さな声で俺の名前を呼ぶ。

「うん、。こんばんは。一人?」

「こんばんは。ううん、優子と一緒だよ。今はちょっと電話しに行ってるんだ。帰ってくるまで屋台でも見て回ろうと思って。」

「そうなんだ。ねぇ、ところで、今なんで笑ってたの?何か面白いものでもあった?」


今歩いている所には、特に特別なものはないはずだ。疑問に思い、聞いてみると、

「あ、ええと・・・ちょっと昔のことを思い出していた」

彼女は恥ずかしそうにという。

「昔のことって?」
「あはは・・・・あ!ねぇ、静は?一人なの?」

彼女は必死にはぐらかそうとする。そんなに言いたくないのか。少しむっとしたが、俺は代わりにちょっと意地悪をすることにする。

「いやぁ・・・」

俺は、少し言いにくそうな顔をして言う。すると、

「どうしたの?・・・もしかして、誰かと一緒?」

ほら、彼女はちょっと不安そうにする。他の女の子と来たのかとでも思ったのだろうか。
それに満足した俺は、

「実は・・・クラスのヤツらと一緒だったんだけど。ここに着いた早々部活の先輩に見つかって、皆拉致されていったよ・・・。これじゃあ何のために来たんだか。」

と苦笑しながら言う。
下手に長引かせて面倒なことになっても仕方ない。早々に誤解を解いておく。

彼女は『残念だったね』と言いつつ、それでもどこかホッとした様子ではにかむ。嫉妬でもしてくれたのなら嬉しい。

「ねぇ、静。それなら、私たちと少し回らない?まだ優子が帰ってこないけど。」

良いことを思いついたという顔で、彼女は提案してくれた。

「本当?そうしてもらえるとありがたいな。」

よろこんで、と俺はニコリと笑って返す。









「行きたいところはあるの?」

彼女の足は、先ほどから一つの方向に進んでいるようだ。

「うん、久しぶりにやってみようかと思って。」

と言うと、ピタリと金魚すくいの屋台の前で止まった。

「静はこれ、やったことある?」

「いや。やっているのを見たことはあるけど、自分でやったことはないかな。」

「そうなんだ。じゃぁ、一緒にやってみよう!」


はい、と彼女は俺に、お椀と道具(ポイと呼ばれるらしい)を渡してきた。

「これで金魚をすくって、お椀に入れるんだよ。紙が破れちゃわないように気を付けてね。」

そう言うと、彼女は早速沢山の金魚がいる水槽に向かった。


「よし、やるぞ!・・・あ!」


彼女が水槽にポイを入れた直後、なぜか早々に使用不可となった。


「え?、早すぎないか?」

「あ〜あ。残念!」


と言って彼女は店の人に道具を返す。でもその言葉とは逆に、どこか楽しそうだ。

「静凄い!もう5匹も掬ってる。」

やることが無くなった彼女は、嬉しそうに俺の手元をじっと見てくる。
俺は昔から器用だったため、比較的苦も無くなんでもできる方だった。
だからこの金魚すくいさえも、何とも思っていなかった。

それなのに、なぜだろう。

に褒められるのはなんとなく、嬉しい。俺は少しでも良いところを見せたくなり、金魚すくいに集中した。









「うわ、兄ちゃん。沢山掬ったね。これ全部持って帰るかい?」

結局俺はに応援された効果か、15匹掬い、16匹目を掬おうとしたところで紙が破けた。
全部をもらっても、うちには水槽がない。断るべきだが・・・。

「いや、俺は・・・は?欲しい?」

どうせなら彼女にもらってほしいと思い、聞いてみる。
彼女は少し考えて、2匹の赤と黒の金魚が入った金魚袋を受け取った。
俺たちは店の人に礼を言い、再び祭の中を歩く。







「本当にそれだけで良いの?」

金魚はもっと掬ったのにと聞くと

「うん、いいの。」

と彼女は嬉しそうに答える。

「うちにある水槽じゃそんなに沢山は飼えないし。それに、1匹じゃなければいいんだ。」

2匹だったら寂しくないよね〜と、金魚袋を軽くつつく。

「・・・昔ね、お父さんにねだって、よく金魚すくいやってたんだ。『絶対家に沢山つれて帰るぞ!』なんて意気込んでいたのに、
お父さんも私も不器用だったから、速攻で紙破ってたな。いつもおまけで一匹だけもらって帰ったんだけど、家の水槽は寂しくて、金魚はすぐ死んじゃった。
私はその度に泣いていたっけ。」


遠い目をして微笑む。先ほど一人で笑っていたのは、このことを思い出していたのだろうか。

「そう思うと、私だけじゃ確実にダメだったよ。ありがとね、静。」


ニコニコと笑いながら俺に礼を言う彼女に、俺もつい頬が緩んでしまう。


「静は?折角沢山掬ったのに、よかったの?」

「ああ、うち水槽無いし。俺じゃ面倒見れないしね。」

そっかぁと言うと、彼女はまた金魚と遊び始める。



何故、俺はこんなにも彼女に惹かれるのか。
彼女が才能ある人だということは知っている。が、果たしてそんなに夢中になれるほど優れた人間なのかということには疑問が残る。
実際、彼女の親友である三村より、一般的に容姿も頭脳も劣るのだろう(美人の種類が違うし、それぞれ得意分野が違うのでなんとも言えないが)。
なのに俺は、初めて会った時から彼女に惹かれていた。何故か目で追ってしまっていた。


彼女のふとした仕草や、小さな笑い声や、涙さえも。


全て自分のものにしたくて。





―――もういっそ、誰からも触れられない所に閉じ込めてしまおうか―――






「静、どうしたの?」

「・・・いや、なんでもないよ。」

彼女に声をかけられ、ハッとする。でも俺はそんなことおくびにも出さず、ニッコリと笑う。

このスキルは、小さい頃に身に着けた、俺の武器。

俺の唯一で、最大で、絶対の、武器。




「・・・ねぇ、静。」

「ん?何?」

俺はわざと屋台の方へ向いていた目線を、彼女の方へ戻す。彼女はそれを確認した後、金魚袋を見せて言う。

「この金魚たち、大切にするね。」

「うん」

「だから、来年またお祭りに来て、また金魚掬いしよう。水槽も少し大きくして、毎年、毎年、少しずつ仲間を増やすの。」

「・・・うん」

「そしたらきっと、楽しいね。もう、寂しくないよね。」

ぎゅっと、彼女は俺の手を握る。
ニッコリと笑って。それでも泣きそうな顔で。




ああ・・・今、唐突に答えが出た気がする。


彼女はまるで水面だ。


息苦しかった水中から見えた、希望の光。


キラキラと、包み込んでくれるような優しい光。


ずっと彼女を、彼女だけを待っていた気がする・・・心のどこかで。





俺は握られた手を持ち上げ、彼女の手の甲にキスをする。

「うん、来よう。この先、ずっと―――」













―――逃がさない。



――――本編へ続く?――――




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■管理人の徒然な一言■
せ、静様!? と、画面の前で慄いた方、貴方は正常です!(笑) ……どうしてこうなった? と青さんを小一時間問い詰めたのですが、どうにも話がかみ合わず(笑)静……いつの間に、いやここ数年の間に何があったんだ!? と頭を抱えた管理人です。黒化、しとる……(´Д‘;)ガーン
一体どれだけ心の闇を抱えてるんでしょうね、彼は。薫ちゃんもびっくりな闇っぷりに私はただただ慄きました。いや、好きなんだけどね。黒い子、大好き。静は私のお気に入りでもあり、これからバンバン活躍させてあげたいなーと思っているキャラであります。
ちなみに好きなセリフは「反吐が出る」です☆(笑) 静が冷笑と共に「お前のその溶けた脳、氷漬けにしてやろうか。少しはまともに機能するようになるだろう」と吐き捨てる構図フが何故か浮かびました。