ときめいて☆魔法学園! 番外編〜2013 夏祭り〜




「よしっ、じゃあとりあえず甘いものね。」

チョコバナナは後で優子と食べるとしても、やっぱり何か甘いものが食べたいな。
ということで、私は屋台が立ち並ぶこの道の一角を目指して歩き出した。









ふわふわ。

ふわふわ。


私はあの雲みたいにやわらかくて、口に入れるとふわっと溶ける触感が大好き。

小さい頃は良く買ってもらってたけど、そういえば最近は食べてなかったなぁ。久しぶりだと、ちょっと見方が変わったりして。

そんな調子で、うきうきとわたあめ屋さんの前に来ると、なぜか人だかりができていた。


「あれ?どうしたんだろ?」


野次馬根性がムクムクと出てきた私は、爪先立ちになって人々の間から様子を見ようとした。
が、やっぱり見えない。まあ、これだけ人がいれば難しいわよね。
仕方ない。頑張りすぎて怪我するのも嫌だし、わたあめは後にしてあんず飴でも食べに行きますか。
そうして踵を返そうとしたその時……。



「オ〜〜ホホホホホホホホホホホホホホホホホ!」




・・・?


なに?この聞き覚えのある、そして一度聞いたら100%拒否反応がでそうなこの笑い方は…?
嫌な予感がして、チラリと声がする方向に振り返ると、人垣の向こうからしたことがわかる。恐る恐るもう一度人々の間から中心を見ようとすると、
一瞬、よく知るあの人の顔が見えた気がした。


これはまずい。

見つかると非常にまずい。

こんなただでさえ見るものが沢山あるはずのお祭りの中で、人垣を作るなんて尋常じゃない。
そんな尋常じゃないあの人に声なんてかけられた日には、私も異常者仲間として周りから見られること必須!
私は普通の女子高生。それはなんとしても避けなければ。

この人垣があるうちに、ここを離れなければ!
そ〜っと屈んでこの場を去ろうとすると…


ムズッ


と襟を掴まれた。

・・・ですよね〜。

「こんなところでなにやってるのかしら?ちゃんv」

「オ…オーナー。こん…ばんは。」


恐怖のあまり声が震える。てゆうかさっきからギャラリーの目線が痛い。


「アンタ、今アタシがいるの見えたのに、知らない振りしようとしたでしょ?」

「そんな…滅相もない。」

「嘘ぶっこいてんじゃないわよ――――!!!!」

「すみませんでしたー!!!(泣)」


勢いに負けて速攻謝ってしまった。
うう・・・やっぱり見つかってたのね。
私だって一瞬見えただけだったのに。いったいあの人数の中でどうやって私を認識したのか。



恐るべし。オカマ。



「まあいいわ。どうせ、アタシと並んだ時に美貌の差が歴然になっちゃうから近づきたくなかったんでしょ?」

何を根拠に言うのか。
仁王立ちのオーナーは誇らしげにフフン、と鼻を鳴らして言う。


恐るべし。オカマ。



ちゃん?」

「オッシャルトオリデ」

思わずトメ吉さんのような話し方になってしまう。あれ、そういえば

「今日はトメ吉さん一緒じゃないんですか?」

あんな目立つ人、いつもならすぐ気づくのに。辺りを見回してもそれらしき人物が見当たらない。

「今日は休みよ。初孫が生まれたんですって。」

「へー、初……孫!?え、子供じゃなくて?」

「孫よ。」

「トメ吉さんっておいくつなんですか!?」

「ナイショ。」

いきなりの衝撃的事実!!
え、ボディーガードしてるってことは、そこまで年いってるわけじゃないよね。てことは相当若いときに子供ができて、その子供もまだ相当若いのでは。
下手すると私と同じくらいの人じゃないの。

そんなことをモンモンと考えていると、いきなり頭にチョップをかまされた。


「イタッ、何するんですかっ?」

「アンタ、アタシといるのに他の男の話なんてしてんじゃないわよ!」

「だからって叩かなくてもいいじゃないですかっ。てゆうか『ほかの男』って…。」

「何か?」

「男の自覚はあるんだ…」

「何か?」

「いえ、何も。」

「それよりアンタ、これからちょっと時間あるの?」

「え・・・まぁ・・・少しなら。」

「じゃぁ手伝ってほしいんだけど」

「・・・それって、その左手に持ってらっしゃるモノと関係あります?」


さっきから気にはなっていたけど、あえて触れていませんでした。
今、オーナーの手には、なにやら大きな物体が。それは


「このわたあめの処理を手伝ってほしいのよ。」


そう。
巨大なわたあめでした。
それは白・ピンク・黄・緑など、色々な色が混ざっていて、綺麗を通り越して若干気味悪くなっていた。人だかりの原因はこれか。


「わたあめ屋のおじさんに作らせてってお願いしたら、やらせてくれてね。調子のって色んな色使ったらどんどん大きくなっちゃって、観客まで出来てきたら
もう止められなくなっちゃって。だけど捨てるなんて失礼な話でしょ?だから一緒にこれ食べて頂戴。」

なんでそうなるまで頑張っちゃったんだろ、この人。まぁ、わたあめは最初から食べる気だったし、いいか。

「わかりました。じゃあ、そこのベンチで食べましょうか。こんな大きいの、この人だかりで食べ歩きなんかできませんもの。」

「それもそうね。そしたら、アンタこれ持って先行って食べてて。私は何か飲み物買ってくるわ。」









私は一人でベンチへ移動し、早速この巨大わたあめを食べ始めた。

「いただきま〜す。」

少し引っ張ると、スッと一口分のわたあめが離れた。そうそう。これなのよ。口に入れると、ふわっと優しい味がする。お腹なんて膨れないけど、食べるだけで幸せな気持ちになる。

「やっぱりいいなぁ」
ホクホクとしながら少しずつわたあめを減らしていると、熱視線を横から感じた。ふとそちらを見ると、小さい男の子がじーっと私を見ている。
いや、私じゃなくてこの巨大なモノの方か。



「食べる?」

「いっ、いらない!」



男の子はプイっと怒った声でそっぽを向いてしまった。う〜ん、余計だったか。
残念に思いながら、私は再び処理を開始した。けれど、また熱視線に気づく。
クスッ。もう、可愛いなぁ。私は男の子の前に移動してみる。

「ねぇねぇ、見てこの大きなわたあめ!これ私だけじゃ食べきれなくて困ってたんだ。もしよかったら、食べるの手伝ってくれないかな?」

「え?う・・・し、しょうがないな!いいよ!」

「本当!?ありがとう」


彼は言葉では嫌々だったけど、内心は嬉しそうだ。よかった。
巨大わたあめ処理班、メンバー追加です。



私と男の子は、二人で仲良くベンチに座って食べ始めた。
人数が増えたためか、着々と量は減り、通常のサイズより少し大きいくらいになった頃。
二人分の飲み物を持ったオーナーが帰ってきた。


「あら?、その子は?」

「あ、オーナー。おかえりなさい。巨大わたあめ処理班メンバー、最年少のマー君です。」

「は?」


オーナーに気づいた男の子(マー君)は彼(彼女?)見た途端、フイッと私の陰に隠れてしまった。


「あれ、どうしたの?」

「ふふっ、私の魅力が最大過ぎて照れちゃってるのね、可愛いv」

「大丈夫、怖くないよ。」

「シカトすんじゃないわよ(怒)。」


怯えたマー君をなんとか宥めようと、色々と声をかけていると、



「マー君!!」



ふと女の人の声が聞こえた。

「ママ!」

マー君はタッと走りだし、その女の人に抱き着く。


「どこ行ってたの?急にいなくなるから、心配したのよ。ずっと探してたんだからね!」

「うわ〜ん!ごめんなさい。」

男の子は緊張がほぐれたのか、わぁと大声で泣き始めた。
やはり迷子だったらしい。この人混みの中をうろうろするよりはと思い、一つの場所に居たのが功を奏したみたい。よかった。


「すみません、ご迷惑をおかけしました。」

「いえいえ。マー君、よかったね。」

「うん・・・。」


お母さんの腰に手をまわして目を真っ赤にしているマー君は、それでも私に「ありがとう」と言ってくれた。いい子だ
私はオーナーの方を振り返る。


「オーナー・・・。」

「そうしなさい。」

「・・・!はいっ。」


私は再度マー君の方に向き直り、彼の目線に合わせるため少ししゃがむ。


「ねぇねぇ、マー君。私もうおなかいっぱいだから、このわたあめ全部食べてくれないかなぁ?」
「えっ、いいの?」

「うん、もちろん。」

「そんな!とんでもないです。」


元気よく答えたマー君を、お母さんは慌てて止める。


「いいんですよ。実はさっきからずっと食べてて。もらっていただけるとありがたいのですが。」

「じゃぁ、その分お代をお支払いします。」

「大丈夫ですよ。捨てるよりは、食べてもらった方がいいと思ったので。もしよろしければ。」


お母さんは少し迷った後、

「すみません。ありがとうございます。マー君、お礼は?」

と言う。マー君は


「ありがとう!お姉ちゃん!」


と元気よく言うと、私の頬にチュッとキスをしてくれた。

「えっ?」「なっ!」


びっくりしている私とオーナーを尻目に、マー君はニコニコしながら手を振ってお母さんと一緒に去って行った。









二人の姿が見えなくなった後、私とオーナーはそのままベンチでお茶を飲んでいた。


「お母さん、見つかってよかったですね。」

「全然よくないわよ。」


はっ、そうだった。結局オーナーはわたあめを一口も食べずに終わってしまったのだった。


「ごっごめんなさい!結局私とマー君でわたあめ全部食べちゃいました!」

「全くよ!あんな大きいの一人で食べきれないとは思ったけど、まさか全部食べちゃうなんて!!つかそんなこと言ってんじゃなくて!」

「え?違うんですか?」

「なんでキスされて普通にしてるのよ?」

「なんでって、子供ですよ?しかも頬ですよ?」

「子供でも男は男よ!アンタもう少し身を守ること覚えなさい!これがアンタを狙ってるヤツだったらどうするのよ!?後で泣くのはアンタなんだからね!」

「え〜、でもお礼だったんだし・・・。」

「返事は?」

「はい。気を付けます。」

「よろしい。」


勢いに押されて返事をしてしまった。
というか、なんでこの人は子供相手にこんなにも怒ってるんだろう。まぁ、正論だけれど。


「クスッ。でも、これからわたあめを見る度に、今日のこと思い出しそうですね。」

ちょっとびっくりしたけど、嬉しかったな。これもいい思い出になりそうだ。

「・・・」



ふと時計を見ると、結構良い時間になっていた。

「すみません、もうそろそろ友達が戻って来そうですし、私も手を洗ってきたいので、これで失礼しますね。さっきからベトベトしてて(苦笑)。わたあめ、ごちそう様でした。」


ペコリと礼をし、そのまま立ち去ろうとする。すると、


「―――ちょっと、お待ちなさいよ。私のわたあめはどうしてくれるわけ?」


不機嫌が治らないオーナーが、触れられたくないところを指摘してきた。

チッ。だめか。


「えへへ、ですよね。じゃあちょっと代わりに一つ買ってきますので、ここで待っててください。」

そのくらい良いじゃん、と思ったけど、やはりあの量を勝手に食べ、しかも残りをあげてしまったのは私だもんね。仕方ない。まぁ、ちょっと嫌がらせに可愛い女の子の
キャラクターが描かれた袋に入ったわたあめでも買ってこようか。

そう思いつつ、わたあめ屋さんに行こうとすると、いきなり手首を掴まれた。



「ちょ、オーナー?なにす・・・ひゃっ?」



オーナーはグイと私を引っ張り、無言のまま右手で私の腰を抱き、左手で掴んだ私の手の指をゆっくりと舐め、最後に




チュッ




と頬にキスをし、「ごちそうさま」と言って人混みの中に消えて行った。










―――ピリリリリリッ、ピリリリリリッ―――




その場には鳴り続ける携帯電話と、呆然とするしかできない私だけが残る。




わたあめの見方が、完全に変わった夜だった。



――――本編へ続く?――――




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■管理人の徒然な一言■
オーナーとわたあめを貪ろう的な展開が、非常に美味しかったデスね。しかしながら、わたあめとオーナーをミックスしてくるとは意外でしたよ、ホント。オーナーの煌びやかでド派手な浴衣姿が目に浮かぶようです……(笑)そういえば、わたあめなんぞ、もう何年も食べてないことを思い出しました。また食べたいなぁ……とこれ読んですごく思いました。わたあめって、普通に買えたりするんだろうか(゚ε゚
)