ときめいて☆魔法学園! 番外編〜2013 夏祭り〜
彼と私の本音
一旦入口へ戻ってみよう。
私は人の波を掻き分け、入口を目指す。
立ち並ぶ露店。
はしゃぐ人々。
……ときまほでもこんなシーンあったな。今、私、夏を謳歌してる! 迷子ということは、この際置いておこう。
しかし、進んでも進んでも、中々入口は見えてこない。進んでるようで、実はあんまり歩けてないのかもしれない。
前を行くカップルが、楽しそうに笑い合っている。
それを見たら、途端に不安が押し寄せてくる。
「、A……どこなの?」
「!」
振り返ると、息を切らしたが立っていた。
「!」
「良かった、見つかった」
「ごめんね、私、はぐれちゃって……」
「こっちこそ、ちゃんとついてられなくてごめん! 思った以上にすごい人だね」
「うん……でも良かった。に会えて」
「俺も……このまま会えなかったらどうしようって思ったよ」
そう言って、は手を差し出した。
「お手をどうぞ、お姫様」
「はうっ……!」
私は思わず慄いた! というか、立ち眩んだ。
その辺のブ男がやったら「ざけんな!」と殴ってやるとこだが(酷過ぎる)、がやると様になり過ぎるから困る。現実にこんな男がいるのだから、二次元もびっくりだ。
本物の王子様のようで、もはや眩暈がする。はあはあ、動悸がヤバいです……!!
おずおずと手を差し出すと(手汗が気になるけど……)、は柔らかく微笑んだ。
――――もう、誰このイイ男! 私の彼氏ですけど? それが何か?!
それからは、Aを探しながら、お祭りを練り歩いた。
Aを探す……なんて建前で、その存在は私の中からは最早消えかけていたが(酷過ぎる)
金魚すくいにチョコバナナ、お面屋さんにたこ焼き、焼そば。
は、いつもより沢山食べていた。
「ぷっ、、ほっぺにチョコついてるよ」
「えっ、本当に?」
「ほら、ここ」
ハンカチでの頬を拭うと、は照れたように俯いた。その照れ顔だけで、ご飯3杯いけますって……!!
「なんかごめん。俺、一人ではしゃいで、カッコ悪い……」
「えっ!? 全然、そんなことないよ! 私もすごく楽しいよ?」
「俺、あんまりお祭りとか来たことないんだ。しかも、彼女となんて、実は初めてで……嬉しくて、つい……」
――――( ゚∀゚)・∵ブハッ!!
な、何この子!! ありえない可愛いんですけど……!!
見ました!? このはにかみ笑顔!!
見ました!? この照れ顔!!
ああ、神様……私、今なら死んでも後悔はありません……!!
今のセリフと表情だけで、萌え死ねます……!!
私はここが自分の部屋じゃないことを心の底から悔んだ。
この萌えを! このときめきを!! この喜びを心の底から表現する場所はうちしかないのに……!!。・゚・(ノД`)・゚・。
照れながら、頬をかく仕草をする。
私は鼻血が出そうになるのを、何とか必死にとどめる。
ダメだ……理性、飛びそう……!(おい)
にこにこしながら私を見つめるに意識を失いそうになりながらも、何とか笑顔を返す。
「がそんな風に思ってくれて私も嬉しい! 私も彼氏とお祭りなんて初めてで、ちょっと緊張してたんだよ」
「も初めて?」
「うん、が初めて」
「そっか……そうなんだ……」
三次元では(おい)、間違いなくが初めてだ。
二次元では、ちょっと数えきれないくらいお祭り行ったけど。
つい昨日も、六回くらいお祭り行ったけど。
六股とか、普通にしてるけど。
現実では、一筋で、浮気なんてするわけもない。
というか、よりイイ男を見たことが無いから、そもそも浮気という概念すら理解出来ない。
は、私とのやりとりで更に気を良くしてくれたのか、その後もすごくはしゃいでいた。
普段はおっとりとして、あまりはしゃいだ姿は見たことが無かったけど……こうやって見てると、にも色々な表情があるんだなと思う。
今、私の前にいるは、普段よりも明るくて、お茶目で、可愛いかった。
ふと思う。
……こんな風に、まだまだ私の知らないの一面もあるのかな、と。
が知らない私の一面があるように、私の知らないも……。
「やーっと見つけた! 探したよ、二人とも」
突然肩を叩かれ、驚いて振り返ると、そこにはさっきはぐれたAの姿があった。
「……なんだ、まだ帰って無かったのか」
冷たく言うに、Aは泣き真似をした。
「酷いなぁ! そんな邪険にしなくてもいいだろ」
「うるさい。俺は今日はと二人でお祭りに来る予定だったんだ。デートの邪魔、するなよ」
「はうあぁっ……!!」
ぶわっ……!!。・゚・(ノД`)・゚・。
Aをさも邪魔だというように扱うに、私は嬉し涙(心の)が止まらなかった。歓喜の舞が心の中で始まる。
過去、散々色々な女共に、私がヤキモチを妬き続けてきたことが、何だか全て報われたような気さえする。
今一番のライバルは、こいつAなのだ。
の一番の友達で、のことが好き(多分)なコイツと私は、恋敵なわけで。
「ふふふっ、。A君はのことが本当に好きなんだね? ちょっと妬けるな」
私はかなり優越感に浸りながら、ちらっとAを見てやる。
A、分かったでしょ? は私の彼氏なの! アンタの出てくる幕は無いの!
Aはと言えば、呆れたような顔で私を見る。
「あのさ……前から言おうと思ってたんだけど、ちゃん、本当に勘違いしてるわけ?」
「何のこと?」
「いや、だからさ……俺がのこと――――」
「あああああああ!!!!」
Aの言葉が消え去る。
というか、周りから音が消えた。
私の目は、射的屋に鎮座するある一点に釘付けになっていた。
「あ、あれは……」
大きなくまのぬいぐるみが、私に手を広げて笑い掛けている。
そして、いつの間にかくまちゃんとコサックダンスを……というのは、昨日やったとき☆まほ番外編の薫ちゃんルートの私だ。
現実の私は、大きなくまのぬいぐるみの隣にある、新作乙女ゲーの初回限定版に目を奪われていた。
あれは、私が予約日を間違えていて、泣く泣く初回限定版を手に入れられなかったやつだ。
何故、こんなものが、このお祭りの、しかも射的の景品として鎮座しているかなんてどうでもいい!(いいのか)
とにかくアレが欲しい! 欲しい!! 欲しい!!!
「へえ……大きいくまだなあ」
は、私があのくまを見つめているのだと勘違いしているようだった。
……確かにくまのぬいぐるみも可愛いし、欲しいと言えば欲しいのだけど……でもやっぱり、今はあちらのゲームが……ごにょごにょ……。
「なあ、。射的対決しよーぜ」
Aがそんなことを言い出す。
「対決? 俺とお前が?」
「ああ。どっちが早く、ちゃんの欲しいものを獲れるか」
は少し考えた後、私へ向き直った。
「、何が欲しい?」
「え……わ、私?」
本当はくまのぬいぐるみの横にある、新作ゲームが欲しいのだけど……!!
ここはあえて、ぬいぐるみって言うべきだよね?!
……くっ、無念!!
「えっと……あ、あの、くまのぬいぐるみが欲しいな!」
にっこり微笑んで、私はあのくまに手を振った。
つぶらな瞳と目が合った。
『ウソつき〜! ホントはボクの隣のゲームが欲しいくせにぃ』
……幻聴が聞こえてきたけど、気にしないことにしよう。
くまちゃん、黙ってなさい。
私は乙女なの。女優なの。
乙女は時として、涙を飲んでも守り通したいものがあるの……!!。・゚・(ノД`)・゚・。
「ぷっ……」
Aが私を見て吹き出す。
その顔は、意地悪く笑っていた。
……絶対バレてる。
「あのクマね……よし、。敵は強敵だ。ここは共同戦線といこうぜ」
「……確かに。仕方ない。やろう」
二人はそう言って、射的屋のおじちゃんにお金を払い、銃を手に取った。
そして、同時に銃を構え、くま目掛けて打ち始めた。
「す、すご……」
目の前で繰り広げられているのは、乙女ゲーもびっくりな光景だった。
二人の射的の腕は最早プロの域で、今のところ全てあのクマちゃんに的中している。
「こりゃ、相当の手練れだね、兄ちゃんたち」
「いや……なんかすごすぎますね……」
おじちゃんが、困ったように頭をかく。
「実は白状しちまうが、もともと十発じゃ落ちないように作ってあるんだよ。でも……二十発当たったら、落とせるかもなぁ」
そして、ニヤリと笑って私に親指を立てた。
「しかし姉ちゃん、大人しそうな顔してこんな兄ちゃんたちはべらせるなんて、やるねぇ」
私も何となく、親指をグッと立ててみた。
うん、なんか私ってすごいかも!?
そんな中、Aの声が聞こえる。
「ちっ……玉切れか」
「……俺、あと一発」
がちらりと振り返る。
その瞳は、不敵に輝いていた。
――――ドキンッ
この顔は、がテニスをしている時に見せる顔だ。
勝ちを確信した時に見せる、迷いの無い瞳。
私はこの瞳に、何度、何十回、何百回と恋してきたのだ。
そしてまた、今も――――……
「、必ず獲ってみせるから」
そしてそのまま、迷いなく引き金を引いた。
――――ごろんっ!
クマが他の景品たちも巻き込んで、盛大に崩れ落ちた。
何時の間にかできていたギャラリーから、盛大な拍手と歓声が巻き起こる。
「キャー! すごーい!!」
「カッコイイーーー!!」
「すっげーな、あの兄ちゃん達! てかイケメン!」
ギャラリーと歓声も聞こえていないような素振りで、とAは2人でクマを抱え上げると、私にクマを抱きつかせた。
「ほら、ちゃんの欲しかったクマだよ」
「のコレクションに加えてあげて」
「あ、ありがとう……!!」
二人の息の合ったコンビネーションに、私はただただ感心していた。
Aの「欲しかった」は妙に変な言い方だったけど!
最後に撃ち落としてくれたのはだったけど、Aの力が無ければこのクマは獲れなかった。
私はクマを胸に抱きながら、二人を見つめた。
「ちぇっ、結局がいいとこ取りかよ」
「ふふっ……まあ、獲れて良かったな。も喜んでくれたみたいだし」
――――ねえ、あの子、あの2人とどーいう関係??
――――彼氏? でも2人?
――――羨ましい!! てかずるーいっ!
――――どっちも超イケメンだよね!? 芸能人とかなのかな??
周りから、黄色い声と悲鳴にも似た声が聞こえてくる。
……ふっふっふ、負け犬どもめ、羨ましがるがいい!(極悪顔)……私、どんどん性格悪くなってってる気がするけど気のせいだよね?
でも、そういえば結構Aもイケメンの部類に入るのよね。
と比較したら、そりゃあ天と地程の差があるけど?(あくまでの個人的感覚)
でも……一般的にはきっと、イケメンなのだと思う。
――――ねえ、どっちがタイプ?
――――私はねえ……やっぱり、あっちの、優等生っぽい雰囲気の方かな? 色素薄ーい! 肌白ーい!! マジ美形過ぎるよ〜。
――――えー! 私は、ちょっとラフな感じの方が好みかなー。あの着崩した感じがたまらな〜い!
――――でもどっちもカッコイイよね! いいなー! うちの学校にもあんなイケメンがいて欲しい!!
うん。Aの方が好みって言ってる子もいるみたい。
「? どうしたの、ちゃん」
「……別に、何でもない」
……私、何考えてるの。
Aがイケメンだとか、そんなことどうでもいい。
私は一筋なんだから!
ひとしきりクマとふかふかして、私たちは射的屋をあとにした。
『あーあ……乙女ゲーマニアの部屋でボクはクッション代わりにされるのかぁ。これからの人生、憂鬱だなぁ〜』
クマの泣き事には気付かないフリをして……。。。
****
「ちょっと、休憩しようか」
がそう言って、神社の境内を指差した。
特に異論もなく、私たちは石段を登る。
「、大丈夫?」
「うん」
がさりげなく手を差し出してくれる。
もうさ、こういうさりげない気遣いが、本当に出来る男だよね、って!
境内は、人もまばらで静かだった。
近くの石段に、並んで腰を下ろす。
「ふぅ……結構疲れたなぁ」
「ふふっ、A君と、すごかったもんね」
あの後、とAは色々なバトル(?)を繰り広げた。
金魚すくいやヨーヨー釣りでは、どっちが多く獲れるかを競い合い(結局獲れ過ぎて、全部返却する羽目に……)、わたあめ屋さんではどっちが綺麗に大きく作れるかを競い合って(結局大きくなり過ぎて二人とも、地面にわたあめを落としていた……)いた。
そのたびに、ギャラリーがすごいことになって、私は優越感のような、疎外感のような、不可思議な気分を味わっていた。
二人はきっと、すごく良いライバルで、友達で。
楽しそうに競い合う二人をみて……少しだけ、寂しいと思った。
その一番の理由は……が、私には見せないような顔をAには見せていたからだと思う。
あんなに闘士剥き出しで、子供っぽい姿を私は今まで見たことが無かった。
でも、は……すごく楽しそうだった。私といる時よりも、ずっと生き生きしていたように見えてしまった。
――――も……無理、してるのかな……。
そんな私の想いを知ってか知らずか、二人はまた何か小突きあっている。
苦笑しながら空を見上げると、大輪の華が咲いた。
「わあっ!」
「お、花火かぁ」
「綺麗だね」
胸を打つような重みのある音に、私は何故だかとても切なくなった。
――――人は皆、別の顔を持っている……
それは知ってる。
……それを私は、隠している。
でも……の別の一面を見た時、私はそれをもっと知りたいと思った。
そして、私以外の人に、その顔を見せている事実が……とても寂しい。
――――でも、やっぱりまだ私は……
しばし花火に魅入った後、Aが突然が飲み物買ってくると言って階段を駆け下りていった。
と二人、花火を見上げる。
「……綺麗だね」
「うん……」
の手が、私の手に重なる。
顔を上げると、が優しく微笑みながら私を見ていた。
さっきまでなら、ここで興奮して騒ぎまくるところなのだけど(脳内で)、何だか今はそんな気分にはならなかった。
黙ってそのまま、と見つめ合う。
「……俺、今日、本当に楽しかった」
「……」
それは、私と一緒だったから?
それとも……Aと一緒だったから?
「?」
「……あ、ううん。何でもないよ。私もすごく楽しかった。クマちゃんも可愛いし!」
ぎゅーっとクマを抱き締めると、が笑った。
そして、そのまま私はに抱き寄せられた。
「好きだよ」
頭上で、花火が舞い上がった。
の鼓動と、私の鼓動と、花火の音が重なる。
触れ合った唇から、の熱が直に伝わる。
……心臓が壊れそうだった。
「……Aがいなければ良かったのに……」
「……?」
「……アイツ、多分――――……」
花火の音にかき消され、の声が良く聞こえなかった。
でも、切なげに眉根を寄せるは、とても必死な様子だ。
「ねえ……前にも言ったかもしれないけど……Aのこと、好きになったりしないよね?」
「、だから、それは――――」
「分かってる。はずっと、俺の傍にいてくれた。ずっと……ずっとだけが……。でも、最近何だかすごく不安なんだ。アイツは、の心に入りこんでいきそうな気がして……」
花火が舞い上がる。
見つめ合った視線が、絡まる。
「……俺は、とずっと一緒にいたい。離したくない」
「私はの彼女だよ? ずっと一緒だよ。今までも、これからも」
「……Aには絶対、渡さない。は俺のだから。他の奴には絶対渡さない」
そう言ったの瞳は、今まで見たことが無い瞳だった。
静かなのに、とても重く強い瞳。
「ねえ……私は今も昔も、以外見えてないんだよ? これ以上、どこまで好きになればいいの?」
「……まだ、足りないんだ。もっと、もっと好きになって欲しいんだ。……俺なしじゃいられなくなるくらいに」
「っ……」
乙女ゲーまんまの殺し文句。
でも、今はそんな風に喜べなかった。
まるで私の心の中を見透かされているようだったから。
に、全てを話せたら、この気持ちはなくなるのだろうか。
後ろめたいような、この気持ち。
でも……まだ、私にはそんな勇気……ない。
「……そんなの、もうとっくだよ」
そう言って、笑うことが今の私の精一杯――――。
***
しばらくして、Aは戻ってきた。
手には缶ビールと缶チューハイ。
「ほい、好きなのどーぞ」
花火を見つめながら、アルコールを流し込む。
はもう、さっきのような瞳はしていなかった。
Aと二人で、缶ビールを煽っている。
――――まだ、足りないんだ。
の言葉が、頭の中でリフレインする。
あれは、の本心なのだろう。
普段見せない、彼の心からの言葉。
だから、あんなに響くんだ。
じゃあ私は?
私の言葉は?
「……ウソじゃない」
そう、ウソじゃない。
に向ける言葉は、全部私の心からの言葉だ。
なのに、何故だろう。
どうしてか、最近胸に痞える。
ウソをついているような気持ちになる。
きっとそれは……
「ちゃん、こっちで一緒に呑もうよ!」
「、こっちおいで」
……に全てを話して、嫌われないでいる自信が、私には無いんだ――――……
****
「いやぁ、呑んだな〜……ひっく」
「うっぷ……呑み過ぎた……」
「大丈夫? 二人とも……」
結局あの後、気付いたら何缶も空けていて。
気付けば夜もすっかり更けてしまっていた。
「……じゃあ、私はここで」
「え? 送って行くよ」
の言葉に、私は苦笑して首を振る。
「そーんな酔っ払いに送ってもらう方が、よっぽど心配です! A君、を宜しくね?」
「ちゃん、マジで一人で大丈夫?」
「大丈夫! お祭りから帰る人たちの波が出来てるし、平気だよ。じゃあね」
心配そうな二人に背を向け、私は一人駅へと歩く。
胸の前には、二人がくれたクマ。
「……クマちゃん、私やっぱり、あの時ゲームが欲しいって言えば良かったのかな」
クマは何も言ってくれないけど、つぶらな瞳が全てを物語っていた。
何となく、ため息が出る。
駅に着き、財布を出そうと立ち止ると、後ろから誰かに名前を呼ばれた。
「ちゃん!」
振り返ると、さっき別れたハズのAがいる。
「A? どうしたの?」
するとAは、鞄から何かを差し出した。
「なっ!? こ、これって……」
差し出されたのは、クマの横にあった、私が欲しかったゲームだった。
「ホントはこれが欲しかったんだろ?」
「ちちちち、違うよ!? クマが欲しかったの!」
つい、バレバレのウソをついてしまった。
でも、Aは私の言葉を聞き流すかのように肩を竦める。
「はいはい、そういうことしておくよ」
「だから、本当に――――」
尚、悪態を付き続ける私の言葉を遮るように、Aは私の手にゲームを押し付けた。(正確にはクマに対してゲームを押し付けていた)
「これは俺がたまたまもう一回射的やりたくなって、たまたま取れちゃった景品で、たまたま俺はやらないゲームだから、貰ってくれたら嬉しいんだけど?」
「……」
「いるんだろ? 欲しいよな?」
「……欲しいです」
「素直でよろしい。ほれ」
Aは私からクマを取り上げると、代わりにゲームを手渡した。
「はうあぁ……」
……ああ、これよ、これ! 私が欲しかった初回限定版パッケージ!
初回限定版には、ドラマCDとサントラも入ってて、ファンなら絶対買いたいやつなのよ〜!!
感動で動けない私に、Aは笑った。
「気に入ったみたいだな?」
「うん!! 本っ当にありがとう! 私、これずっと欲しかったの! 予約日間違って、買えなかったやつで!! 本当に嬉しいっ」
Aはクマの腕を持ち上げ、私の頭にぽんっと置いた。
「…そうやって、素直に笑ってる方がずっといいって。好きなもの好きって言ってる時が、やっぱり可愛いし」
クマの柔らかい手が、私の頭を撫でる。
「な、何言ってんのよ……」
「俺は別に気にならないけどね。むしろ、意外性があって良いと思うしさ。それに……は、そんなことでアンタを嫌いになったりしないだろ」
――――ズキン
Aの言葉に、胸が痛んだ。
私は……Aのように、のことを信じられてないんだ。
Aは、のことを信じてる。
私よりも……。
「……かも、しれないね」
ぽつりと言った私の頭を、クマは撫で続ける。
……何だか、ちょっと泣きそうだった。
「まあ……さ。他に話せるヤツいないなら、俺に話せばいいんじゃない?」
「え?」
「俺、ゲームとか結構詳しいし、好きだし。アンタが好きなジャンルも……まあ興味はあるし」
クマが私の顔の前で首を傾げた。
「の前で猫被るためにも、素でいられる場所作った方がいいんじゃないの?」
「だからって、貴方の……」
「別に無理にとは言わないって。余計なお世話だろうしね。ま、気が向いたらでいいからさ。あんま無理すんなよ」
クマが私の前で、両手を挙げる。
思わず、笑みが零れた。
「……ふふっ」
さっきまで泣きそうだったのに、いつの間にか私は笑っていた。
「あはははっ、このクマちゃん、本当に可愛いね……あははははっ」
「確かに……コイツ、愛嬌ある顔してるよな」
「ふふふっ、A、クマの扱い上手過ぎ!」
「そうかー?」
Aはクマを持ち上げながら、色々なポーズをさせては首を捻っていた。
Aとクマのコンビ……結構いいかもしれない。
「ねえ……A」
「うん?」
「……ありがとう。私、アンタといると……すごいラクで…色々、妙なテンションになるよ」
「へえ?」
「でも! は私のだからね!」
「……は?」
「だから、には手を出さないで! いくらアンタがと仲良くても、のことは渡せないから!」
「……あのさ、アンタ、あれだけ恋愛ゲームにハマってるのに、どうトチ狂ったら、そーいう結論に至るわけ?」
Aの顔は、何か奇妙なものを見ているかのように歪んでいた。
「だって、私とアンタの共通点なんてだけじゃない。しかも、わざわざ見せつけるかのようにといちゃついてたりしてたじゃない!」
「いちゃつくってね……俺、そういう趣味無いんだけど」
Aはさも心外だとでも言いたげに、大きなため息をつく。
え? 狙いじゃなかったの?
「狙いじゃなかったの……? でも、じゃあどうして私に一々絡むの? 私たち、今まで面識も無かったし……」
「俺は、ずっとちゃんのこと知ってたよ」
「え!?」
Aからの思いもよらない発言に、私は後ずさった。
「や、やっぱりとの仲を妬んで……」
「いやいや、だからどうしてそういう方向に行くんだよ」
「だって! 程カッコイイ人だったら、男が狙いにきてもおかしくないし!」
「アンタの発言が一番おかしいってことに、何で気付かないんだよ……」
いよいよ話がおかしな方向へ進んできた。(ほぼ自分のせいで)
Aは狙いじゃない?
そして、私のことをずっと知っていたという。
一体、どういうこと……?
「ずっと私のこと知ってたって……」
「の彼女ってことで、結構目立ってたし。前にも言ったけど、バイトに行く途中でアレ系な店に出入りするアンタをよく見掛けてたから」
「それは言わないで!」
「ふぐぅっ!?」
思わずクマの手を掴んで、Aにアッパーを喰らわせてしまった。
あの時のショックが、フラッシュバックする。
どうして、コイツに……。
「いてぇな……。まあ、そんなんでいつか話しかけようって思っててさ。……だいぶ時間かかったけど、ようやくこうして話が出来る仲にまでなれたってわけ」
にっこりと笑うAに、私は軽く寒気を感じた。
……コイツ、絶対裏ある!(;´∩`)
私には分かる! コイツも私と同じで、何か隠してるに違いない……!!
「な、何が目的なの……!?」
冷や汗が流れる。
「目的……ね……」
Aは少し考えるような仕草をして、それからじっと私を見た。
「な、何よ……」
「……いや、ホント、パッと見全然オタクには見えないなって」
Aのぶしつけな視線に思わず顔を背けると、クツクツと笑う声が聞こえる。
からかわれてるの? それとも、何か試されてる?
耐え切れなくなって、思わず睨み付けると、Aはポンっと手を叩いた。
「そうだ。アンタがやってるゲームでさ、実際みたいのっている? 何か、普段優等生ぶってるけど、実は腹黒い感じの」
「ぶっ!!」
私は駅だということも忘れ、その場で噴いた。何かを。
こ、こいつは一体何を言い出すの!?
確かにいるけど……似てるキャラが。
昨日、いきなり裏の顔を見て、ちょっとドキドキしてたりしますけど!?
今までも、と静の言動が被ったりして、おかしくなりそうだったりしてましたけど!?
「ちゃん、動揺し過ぎ。……ていうか、そんなにっぽいキャラがいるわけ?」
「ちちちちち違うわよ! 断じていないわよ、そんなすごいキャラ!! 静はに似てるけど、でも静は魔法がすごくてあのあの――――」
「へえ? 魔法使いなわけ」
「ぎゃあ!」
「名前は静……ね。ふーん。魔法使いの静ってのがにそっくりなんだ?」
「ちちちちち違うわよ!!」
しどろもどろになる私に、Aは大笑いだ。
「あははははっ! 、顔真っ赤! どんだけ動揺してんだよ」
「っ〜〜〜〜〜〜!!!!!」
「まあ、それだけ気に入ってくれてたら、製作陣も大喜びだよな。きっとおまけ配信とか、ファンディスクとかの製作考える甲斐もあるよ」
おまけ配信……昨日のアレがまさにそうだった。
「おまけ……今だと夏だし、夏祭りとかが舞台の話になりそうだな」
「ぶはぁっ……!!」
私は駅だということも忘れ、その場で吐いた。何かを。。
こいつ……ホント、一体何者なの……!?
にも思ったけど、何か私の情報どっかに流れてるわけ!?
ときまほって、ホントどこの誰が作ったゲームなの!?(汗)
「え? もしかして……夏祭りビンゴ?」
……もう、何も返す気力が無かった。
私は茫然とAを見上げる。
「アンタは私を……どこまで追い詰めれば気が済むの……」
「追い詰めてる気なんて無いんだけど……」
Aに悪気があるのか無いのかなんて知らない。
でも、私はコイツに、既に二回程致命傷を喰らっているのだ。
もう、そろそろ本気で心が折れそうだった。
「……もう帰る。今日はありがとうさようなら」
「あ、おい!」
Aにグイッと腕を引かれ、そのままクマと手を繋がされる。
「アイツが、ちゃんのために獲ったんだ。……持って帰りなよ、ちゃんと」
「あ……」
ショッキングな出来事が多すぎて、クマちゃんのことをすっかり忘れていた。
我ながら酷い。
「……ごめん」
「いや……」
何となく、お互いが無言になる。
この空気に耐えられず、私は「バイバイ」とだけ言って踵を返した……ハズだった。
改札に向かおうとしたが、Aは私の腕を掴んだままだった。
「ちょっと、離して――――」
最後まで言えなかった。
Aの胸に顔を押し付けられる。
……え? 私、Aに抱き締められてる……?!
「……今だけ」
「え……?」
「今だけ……ここを、ゲームの中だと思ってほしいんだけど」
「……は?」
Aは一体何を言ってるのだろう。
……頭、大丈夫?
「俺の作った世界は、アンタのためにあるんだよ」
……頭が混乱してくる。
私はどうして、Aに抱き締められてるのだろう。
「俺はただ、自分の才能を試したかっただけなんだ」
「あの、何言ってるの……」
「それなのに……いつの間にか、俺の方がどっぷりハマってて……」
ここまで言うと、Aは我に返ったかのように私を離した。
「……悪い。今の忘れて」
そう言って、Aは少しだけ眉根を下げて笑った。
「……もう一回、アンタとの出会いからやり直せたら……俺はきっと……」
「A……あの……」
「――――なーんてな。ちょっと今、アンタの好きな展開っぽかっただろ?」
「は?」
「冗談だよ、冗談。驚いた? さて、お遊びはこのくらいにしてそろそろ帰るかな」
「ちょっとA!?」
「色々参考になった。ありがとうな、」
そう言って、Aは歩いて行ってしまった。
残された私は、人々の好奇の眼に晒されながらも、じっと立ちつくしていた。
――――冗談だよ、冗談。
Aはこう言ったけど……それはきっとウソだ。
……だってAの手は。私を抱きしめていた間、ずっと震えていたのだから。
Aはきっと、何かを隠してる。
そしてそれは、私が義高に知られたくないのと同じように、Aにとっても知られたくないものなんだろう。
口元へ寄せた手からは、Aの残り香が微かに香り、私をより複雑な気持ちにさせる。
「A……アンタ一体、何を隠してるの……?」
私の呟きは、駅のざわめきにかき消された。
――――本編へ続く?――――
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……と、彼氏編と謳いつつ、Aとのラストっていう何ともアレな感じでお送りしました。美味しいところは、彼氏さんにあげたつもりなのですが、いかがでしたか? 個人的には、彼氏さんは天然腹黒王子かと思ってます。腹黒さを自覚してない腹黒というか。本能で腹黒くなれるというか……怖いですね。Aは何かを隠してるようでしたが、一体何を隠してるんでしょうね。それはきっと、今後の本編で少しずつ明らかになる予定ですのでお楽しみに(いつになるのやら)
今回、缶ビールやらチューハイやら出していますが、私たちの中では、主人公たちは大学3年くらいを想定して書いていますので、二十歳越えはしてます。あしらかず。そのため、まあ、色々やることはやってると思いますので(おい)そういった少し大人な感じの展開や描写も書いていければいいなーと思いつつ……次がいつになるのやら、ですね。
しっかし、A編と比べるとかなり長くなってしまった……。短くまとめるの、苦手です。・゚・(ノД‘)・゚・。