ときめいて☆魔法学園! 番外編〜2013 夏祭り〜
隠せない心
とりあえず、奥の境内へと向かった。
ここなら人もまばらだし、電話もし易いはず。
続く石段を、慣れない下駄で何とか上がり切った瞬間だった。
「え!? ちゃん!」
突然視界に、Aの姿。
「A……!? って、わっ、やばっ!」
「おっ、おいっ!?」
私はまさかのAの登場に驚き、思わず後ろに仰け反ってしまった。
その拍子にバランスが崩れ、下駄が片っぽ脱げてしまった。
さらにそのまま身体が後ろに傾き……
「ぎゃっ、ぎゃーーーーっ!!!!」
ヤバイ! 引っ繰り返る!!
そう思った瞬間だった。
「!!」
Aが私の手を思いっきり引っ張った。
そしてそのまま、Aの胸に引き寄せられる。
心臓があり得ないくらいドキドキしている。
恐怖と緊張で、背中を冷や汗が流れた。
「……危ないなぁ。気を付けろよ……」
「う、うん……ごめん……」
ドキドキが止まらない。
でも……この音の出所は私だけじゃない。
Aのそれも、私と負けないくらいに早鐘を打っていた。
「……はあ……心臓に悪いよ、ったく……」
「……だって、びっくりして……まさか、アンタがこんなところにいるなんて思わなかったから……」
どうしていいか分からず、悪態をついてしまう。
顔を背けるようにすると、Aの腕が目に入る。
Aの腕は、色白のと比べると、もうちょっと日焼けしていた。
それを見たら、胸のドキドキが更に高まってしまった。
どうしよう……こんなドキドキして、絶対変に思われる……!!
放して……と言いそうになった瞬間、スッと身体が離れた。
Aは少しだけ困ったように笑って、私の手を引く。
「さて、に連絡つくまで、こっちで少し休憩するか」
私は頷くしかなかった。
※※※
Aに手を引かれるまま、私達は境内近くの石段に腰掛けた。
涼しい風が通り過ぎる。
下から祭囃子が聞こえる。
提灯の灯りが、ぼんやりと並ぶ。
何だか、少しホッとして、胸の鼓動も治まった。
「ぷっ」
Aが笑った。
「、今、このシチュエーション、マジで乙女ゲーだ! とか思ってるだろ?」
「は?!」
「顔に書いてあった。大方昨日だって、ゲームに夢中で電話出なかったんだろ?」
「な、何言って……」
――――どうしてこいつには、全部バレてるんだろう……!?(涙)
私は涙を堪えて(悔し涙だ)、キッとAを睨み付けた。
「おっ、怖い。……まさか図星?」
「うるさいなーっ! いいでしょ! 私が家で何して過ごしてようが、あんたには関係ないし! ゲームと現実重ねて何が悪いのよ! 何も問題ないわよ!」
「いや、だいぶ問題だと思うけど……」
Aが呆れたように言った。でも、その顔は笑ったままだ。
もう、本当に嫌味な奴!!
「あんたって、ホントに女優だよな。前も言ったけど、の前と全然違うじゃん」
「だから言ってるでしょ。あんたの前で、どうして私がかわい子ぶらなきゃいけないわけ?」
私といえば、自棄になっていたせいで、いつもよりもかなり饒舌になっていた。
何だか日頃言えなかったことまで、どんどん溢れてきていた。
「大体ね、あんたなんかに分かるわけ無いわよ。私がどれだけ努力して、苦労して、涙して……の彼女になったか!」
「な、涙……?」
「そうだよ! は見ての通り、完璧な王子様! イケメン、性格良し、頭よし、背も高くて、運動神経も抜群で非の打ち所がないの! 私たち女子皆の憧れの的だったの!」
「ほうほう」
「私だって、最初は遠目で見てるしか出来なかったんだよ……でも、このままじゃいけないって思って……」
乙女ゲーの主人公だって、色々努力していた。(比較対象がそもそも別次元というところで、既に間違っているという指摘は置いておく)
その当時ハマっていたゲームの主人公は、冴えない地味な女の子だった。でも、カッコイイ男の子たちと出会って……変わりたい、この人達と釣り合うようになりたい、もっと綺麗になりたい! って、努力して見事最後は意中のメンズと結ばれる話だった。(ありきたりだ、という指摘も置いておく)
単純かもしれないけど、私はその時その主人公に自分を重ねていたのだ。
おとなしくて、目立たない私。
お洒落や恋愛に興味が無いわけじゃないけど、現実世界では特に何も意識していなかった私。
何も手に入れられない、掴めない私。
だから……私も変わらないといけないんだ。
乙女ゲーに憧れてるだけじゃ、ダメなんだよ……!
「……乙女ゲームが、私に勇気をくれたの」
Aは思いの外真剣に私の話を聞いているようで、何だか恥ずかしくなってきた。
「って……何話してんのかな、私。はい、お終いお終い。こんな変なこと、何で私……」
「いいから。続けてよ。もっと、のこと、聞きたい」
――――ドキンッ
いつか感じたあの、嫌な胸の痛みが走る。
私は……私のことを、本当の私のことを、最近誰かに話しただろうか?
は?
とは私、いつも何を話してるんだっけ?
あれ……思い出せない……。
Aは、真剣な表情で私を見つめている。
気付いたら私は、勝手に話し始めていた。
「……乙女ゲームに憧れてるだけじゃ、何も手に入らない。沢山ゲームやってるうちに、そう思うようになった。だから、ゲームだけじゃなくて、現実でもやれるところまで頑張ってみようって、そう思った」
「うん」
「ホントに自分でもビックリするくらい色々頑張ったんだよ。メイクの研究、ダイエット、ヘアスタイル、制服の着こなし……とにかく、に釣り合うように、せめて私にも目を向けてもらえるようにって、文字通り死ぬ気で努力した。勉強だって勿論 !よりも成績良くなったら、もしかしたら話しかけてもらえるかもしれないじゃない?」
「ちゃん……」
「だから、頑張って頑張って頑張って……友達って呼べるくらいになれた時は、本当に嬉しかったな。……まあ、その後がさらに血の滲むような日々だったんだけどね!」
そうだ。友達までは良かった。それ以上を目指すとして、ただ純粋に頑張るだけでは無理だと気付くのに、そう時間はかからなかった。
「ふふっ……自分でも性格悪くなったなぁって、最初はちょっと凹んだよ。友達を利用したり、必要だと思ったら、好きでもない男の子にも積極的に近付いて、少しでもに関われるようにしたりね」
「げっ、それ、マジで悪女だな! お前」
「ふんっ、何とでも言いなさい!……まあでも……は、誰とも付き合わなかった。告白された数知れず、振った数知れずの難攻不落の完璧王子様だったんだから」
「でもあいつ、振ったことにも気付いてなさそうだよな」
「そう! そうなの! の態度を前に、皆勝手に玉砕してくの!!」
――――私には無理だ。
――――この人には相手にしてもらえない。
皆勝手に判断して、離れてく。
だからは、すごくモテているのに、すごく……すごく傷付いてた。
「告白するチャンスをうかがってた時にね、ふと気付いたの。皆が勝手に近付いてきて、勝手に離れてく。それって、実はすごく悲しくて、寂しいことなんじゃないかなって」
「……そう、かもな」
「私はのこと好きだったし、もし振られてしまうことを考えると、すごく怖くなったけど……でも、それでも、の前から勝手にいなくなったりしないって決めた。
そんな決意が神様に通じた……なんて夢みたいだけど、その後から、何となく皆近付いてこなくなったの。私はそのまま何となくの側にいることが出来て、も私のこと少しは特別って思ってくれるようになったみたいで」
「……で、最後はあいつに告られた?」
ちょっとだけ茶化すような声音でAが言う。
私は笑った。
「うん! 私、何か感動しちゃって。思わず泣いちゃったんだ。そしたらね、が言ってくれたの。『ずっと……だけが、俺のそばにいてくれた。本当に嬉しかった』って」
Aは何も言わなかった。
そして、ただ一言、ぽつりと言った。
「……本当にアイツのこと、好きなんだな」
そして、今まで見たことないほど優しく、微笑んだ。
「っ……」
キュッと音を立てて、胸が鳴った。
なんて顔して、笑うのよ……。
私が何も言えないでいると、Aの手のひらが軽く私の頬に触れた。
「話してくれて、ありがとな」
「え……」
その時私は初めて、自分が泣いていることに気付いた。
「え!? あ、あれ……ご、ごめん! ……私、なんで……!」
Aは優しく微笑んだまま、すっと私の頬に指を滑らせ、涙を拭った。
そんなAを見つめながら、そう言えば、の前で泣いたのはあの、告白された時以来だな……とどこか遠くで思った。
※※※
時間にして、15分くらいだっただろうか。
あの後は、Aも何も話さなくて、二人無言で座り込んでいた。
でも、不思議と気分は落ち着いていて……とても楽だった。
そんな時、誰かが石段を駆け上がってくる音が聞こえ、顔を上げるとそこには息を切らせたがいた。
「こんなところにいたのか……探したよ」
「ごめん……携帯が繋がらなくて、ここで少し休もうと思ったら、先に……」
Aに視線を向けると、悪びれた様子もなく、Aは笑った。
「ここなら電話繋がるかもだろ? そう思ってたら、後からちゃんが来てさ。せっかくだから、ちょっと話してたとこ」
「……、行こう」
「え? う、うん」
にぐいっと手を引かれて、無理矢理立たされる。
がこんなに強引なのは珍しい。
「、そんな怒るなよな……」
Aが少しだけ苦笑いして、黙って後をついてくる。
……なんか気まずい。
「、こっち」
「あっ」
早足で、人の波を縫うようにして進む。
はずっと、無言だった。
気付くとAとはそのままはぐれてしまい、と2人無言のまま露店を巡る。
「あの、……」
「……あいつとは、何話してたの?」
耐え切れずに声を掛けると、後ろを向いたまま、が言った。
「俺、が1人で迷ってるんじゃないかって、すごい心配で……でも、まさかアイツといるなんて思わなかったよ」
「……」
振り返ったは、不機嫌そうに眉をしかめていた。
(○゚∀゚)ガハッ∵∴
のしかめっ面なんて、見るの初めてかも!?(馬鹿)
変な感動に打ち震えている私には気付かず、は続けた。
「は、俺の彼女なのに」
そして、俯いてぼそりと言う。
「は俺のものなのに」
(○゚∀゚)ガハッ∵∴
こ、これは…もしかして嫉妬してくれてる??
「もしかして……ヤキモチ?」
「……うん」
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
ヤキモチ妬かせてらしい、私!! やったわ!! やったわー!!
興奮冷めないまま、私は笑った。
「あのね、。A君にはね、がどんなにカッコ良くて、素敵な王子様かってことを自慢してたの!」
「え?」
「女の子には、中々彼氏自慢てしにくいから……ついつい熱弁振るっちゃった。A君には、本当にのことが好きなんだなって呆れられちゃったよ」
「……」
「それより!! こそ、ナンパとかされてない?!」
「へ?」
間の抜けた声を上げたに、私はずびしっと指を指した。
「へ? じゃないよ! 1人にしておくと、すぐ女の子達で周り溢れちゃうんだよ?」
「そんな芸能人みたいなこと、あるわけないよ。は俺を過剰評価し過ぎだよ」
そう言って、穏やかに微笑む彼氏。……この天然め。
「でも……なんか嬉しいな。が彼氏自慢なんて。ヤキモチ妬いたおかげで、いいこと聞けた」
「もうっ……ヤキモチなんて、私は毎日妬いてるんだから!」
「がヤキモチなんて妬く必要ないのに。俺はそもそも、以外は好きにならないよ。第一、そんなにモテないから」
「……どの口がそんなことを言う?」
思いっきり、の頬を抓り上げる。
「いひゃいよ!」
そのままむにーっと引っ張って。
の柔肌を堪能してやった。
「もうっ、もうちょっとは自分のこと分かってよね!」
「はははっ、ごめんごめん。でも、俺にこんな風に接してくれるのも、だけだから」
そう言って笑うは、本当に楽しそうで。
その笑顔を見ていると、私は本当に幸せだなって思える。
それからは、二人ではしゃぎながら、露店を廻り直す。
「うーん、美味しいっ」
チョコバナナを頬張る私の隣で、がわたあめにかぶりつく。
……うん、甘いお菓子に甘い二人。
どんな乙女ゲーに負けず劣らずの素晴らしい甘い展開だわ!(嬉々)
一通りの露店を見終わり、自然と足が出口の方へ向かい始めた頃。
ふと視線を感じて、パッと顔を上げると、がキツネのお面を被っている。ドキンッと心臓が跳ねた。色々な意味で。
「ど、どうしたの?」
「これ、さっきを探している時、小さな男の子がくれたんだよ」
「そうなんだ……」
一瞬、楓ちゃんのキツネのお面がフラッシュバックしたけど、気のせいってことにしておこう。うん。
それに……
「似合ってるかな?」
片方の顔を隠すようにキツネのお面を弄ぶ。
その表情はいつもに比べるとかなり妖艶で……思わずごくりと唾を飲み込んでしまう。いやいや、決して変な意味ではなく! 決して決して断じてそんな邪な気持ちとかじゃなくて!! って私誰に向かって言い訳してるんだろう……。
とりあえず、似合い過ぎててどうにかなりそうです私。
お面被っても絵になる色男……はあ、もうダメだ。カッコ良すぎるよ、。。。
「うん……あり得ないくらい似合って……ます……」
俯き加減でそう呟くと、ふっと目の前が陰る。
キツネのお面で私を隠すように、そっと伸ばされた腕。
柔らかく触れる唇。
「……こんな風に触れ合いたいと思うのも、だけだよ」
「っ……」
「ねえ。もっと一緒に……もっと、に触れたい……」
「あ……」
「……いい?」
「うん……」
腰に添えられた腕の力が思いの外強くて、私はと密着するような格好になる。
の腕は、心なしかいつもより熱くて……私の体温も、上昇を始める。
――――なんじゃこのドギマギ展開(CERO「C」な展開!!)は!!!!
心臓が破裂するわ!!!!
ってば、今日は本当に色々大胆で困る……。
祭囃子が遠ざかる。
灯りがぼんやりと、闇夜に溶けていく。
段々と、人がまばらになっていく。
そう言えば、Aはどうしたんだろう。すっかり忘れていた。(酷い)
あれから特に、連絡もない。
「ねえ、。A……君は……いいのかな?」
「――――いいよ、あんな奴。にちょっかいばかり出して、俺正直、ちょっと腹立ってるんだ」
「……」
いつもなら、脳内で激しく萌え転がるところなのに。
何故だろう。今は、そんな気分にならなかった。
何となく、Aのことが気になる。
……何だかAとの時間はとても……。
「?」
立ち止った私を、不思議そうな顔で見つめる。
私も、を見つめ返す。
、私は無理なんてしてない。
貴方が好きっていう気持ちに偽りは無いから。
だから……
「、大好きだよ」
「……浴衣着てそのセリフは反則。……後で後悔しても知らないよ?」
ゆっくりと、しかし力強く、は私を抱きしめた。
その流れに身を任せるように、に更に身体を寄せた。
この先の甘い時間に想いを馳せれば、この胸のモヤモヤもきっと溶けて無くなる。
浴衣を脱げば、今のこの、緩やかに私を締め付ける胸の疼きも、きっと一緒に取り去れるはず。
――――……お願い。私を、今まで通りの私でいさせて。
そんな想いを胸に、私は恋人の与えてくれる甘美な時に、身を委ねるのだった。
――――本編へ続く?――――
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……はい、A編ですが、彼氏といちゃついて終わるという展開で、何ともアレです。でも、Aとの距離がぐっと近付いた感じしませんか? ……え、しない? そうですか……。
私は、Aが好きです(笑)これからもAをどんどん出張らせようと思うのですが、青さんいかがですか? あ、もちろん彼氏くんも好きですよ。主人公は二次元も三次元も充実してて、ホント羨ましい限りですよね。リア充爆発しろ!(´∀`) 彼氏さんは、Aと主人公の関係にやきもきしてるみたいですが、このままだとAに靡くのも時間の問題!? とまあ、続きは本編で。