ときめいて☆魔法学園! 番外編〜2013 夏祭り〜




「縁日の中を歩いてみようかな。」

私は屋台の間をゆっくりと歩くことにした。

屋台の明かりに照らされて、人々の楽しそうな顔がいくつも浮かび上がってくる。

こう見ると、色んな人がいるんだなぁ。
小さい子を連れた家族、友達同士で来ている子たち、初々しいカップル、おじいちゃんとおばあちゃんのご夫婦・・・。
あ、よく見ると手をつないでる!あの御年になって、あんなにラブラブでいられるなんて素敵だなぁ。

ご夫婦は、私の行く先を歩いていく。
会話をしながら、楽しそうに、ゆっくりと、手をつないで歩く。
その姿は本当に幸せそうで、見ているこっちまで嬉しくなってしまう。

私は将来、あんなふうに一人の人をずっと愛し続けることができるのかな。
自分一人が生きるので精いっぱいな私に、誰かのために生きることなんてできるのかな。






いつか、遠い未来―――







「かーのじょっ!一人?俺と遊ばない?」

まぁ、少なくてもこの人相手にそれは無いけどね。


折角のいい気分が一瞬で台無しになる。
もう、ナンパ男よ。女の子誰かれ構わず誘うのやめてくれないかな。私は将来の夫について妄想中だったのよ!!(怒)
相手にするのも面倒くさいし、妄想の続きをしたかったので、私は早歩きをして振り切ることにする。

「ちょっ、ちょっと!」

ナンパ男は慌てて私の後を追いかけてくる。

「待ってよ!」

しつこいなぁ。無視されてる時点でダメだって分かってくれないかなぁ。私はさらに速度を上げる。

「ちょっと!待ってってば!―――ちゃん!!」
「え・・・?」


振り返るとそこには、必死になって私の後を追ってくる薫ちゃんがいた。









「もう、ちゃん俺の顔も見ないでどんどん歩いて行っちゃうんだもん。」
「ごめんごめん。本当にナンパかと思って。お祭りって多いじゃない?一人だったし危ないかなと思って。」

プリプリと怒る薫ちゃんに謝りながら、二人で縁日の中を歩く。
さりげなく少し前に出て、私を歩きやすくしてくれるところに『男の子だなぁ』と実感する。

根本的に、この子は優しいんだ。


「まあいいけど。それより、ここには一人で来たの?誰かと一緒?」
「優子と来たんだけど、今電話しに行ってるの。戻ってくるまでブラブラしてようかなと思ってたんだ。」
「静先輩は?一緒じゃないの?」
「え?優子と二人だよ?」
「・・・そっか。良かった。」
「何が?」
「なーんでも無いよ!」

それより、と彼は話題を変える。

「さっきみたいに、一人でいるときはフラフラしないでくれる?俺だったらよかったけど、本当にナンパに捕まることだってあるんだからね。」

薫ちゃんは腰に手を当てて、いかにも先生のように言う。

「う゛・・・ごめんなさい。」
「今度からは優子先輩の近くにいるか、じゃなかったら俺を呼んで。」
「え?」
ちゃんみたいに可愛かったら、男がほっとかないよ。危ないから俺が守ってあげる!」
「そんな、私なんて・・・」
「返事は?」
「でも」
「『うん』って言わないとこのままキスするよ。」
「うん!」

薫ちゃんがずいっと私の顔に近づいてくるので、私は反射的にそう返事をしてしまった。
申し訳ないとは思ったけど、このままだと本当にキスされかねないのでとりあえず言うことを聞いておこう。


「よし!じゃあ優子先輩が帰ってくるまで、俺が付き合ってあげるよ。何かしたいことある?」
「したいこと?う〜ん・・・」

キョロキョロとあたりを見回す。お祭りなんて久しぶりに来るから、何があるのか分からない。何か時間がつぶせるもの・・・あ!

ちゃん?」


―――その時、私は一目で恋に落ちた。

フワフワのモコモコの、真っ白いクマの大きなぬいぐるみが私のことを見ている。



☆。.:*:・'゜★。☆。.:*:・'
早くここから連れ出して!
僕と一緒にあ・そ・ぼ☆
☆。.:*:・'゜★。☆。.:*:・'



頭の中で、私がクマと一緒にコサックダンスをしている映像がスローモーションのように流れる。

「あのクマが欲しいの?」
「え・・・ううん。そんなこと・・・」

私はクマから聞こえる幻聴に必死で耐えながら、崩れそうになる精神を表に出さないようにしようとする。が、そんな努力も虚しく

「じゃあ俺が捕ってあげるよ!」

そう薫ちゃんは宣言すると、スタスタとクマが飾ってある射的屋さんに歩いて行ってしまった。
あ゛ぁぁ・・・やってしまった。こんなお祭りでのベタな展開、自分で引き起こすことになるとは・・・私最低。
激しく後悔しながら、私は薫ちゃんを追いかけた。



「はい、じゃあ10発ね。頑張って彼女に良いところ見せてやんな。」

屋台のおじさんから道具を借り、薫ちゃんは

「まかせとけ!さぁ、やるぞ〜!」
と意気込んで準備をしだした。

“彼女”と言うおじさんの言葉にドキリとしたのは、どうやら私だけみたい。薫ちゃんは気にせず、的に集中する。


パンッ!パンッ!パンッ!


コルクを詰め、狙いを定めて撃つ。


繰り返し。


繰り返し。


やはり大きなクマはそのお店の目玉らしく、的には重りがついているらしい。先ほどから当たってはいるものの、棚から落ちる気配はない。

「ちょっと、おっちゃん!これ全然動かないよ〜!ズルしてるでしょ。」
「何言ってんだ!そこをどう落とすかがこのゲームの鍵なんじゃねぇか!格好いい所見せれなくて、焦ってんのか?」
「そんなわけないでしょ!!」

薫ちゃんは、このおじさんと知り合いなのかと思わせるくらい楽しそうに話している。
この人の凄いところは誰とでもすぐに仲良くなれてしまうところだ。
ただでさえ人見知りな私は、彼のそんなところを心から尊敬することができる。


パンッ!パンッ!パンッ!


「う〜ん、あと4発。」
「あの、薫ちゃん。無理しなくても。」

申し訳なく思った私は、思わず言ってしまった。しかし薫ちゃんは

「そんな格好悪いことできないでしょ。あ!じゃあちゃんやってみる?」

いきなり私の方に振ってくる。

「私!?ダメダメ!やったことないし!」

ただでさえ不器用な私が射的なんて!と遠慮なく辞退するが、薫ちゃんは引かない。

「じゃあなおさら!意外といけるかもしれないし。ビギナーズラックがあるかもだよ。」

そう言うと、私に銃を渡してくる。うう、こーゆうの苦手なんだよなぁ。余計なこと言うんじゃなかった。

後悔先に立たず。

私は観念してしぶしぶ銃を受け取る。

「このコルクを銃口に詰めて・・・。そう、ギュッと。それで、台の上に体を乗せて、なるべく銃の先と的が近づくようにして・・・」


ちょっと待って。


これ、教えてくれるのは良いんだけど、薫ちゃんが近い!!
銃を持っている私を、まるで後ろから抱き締める形になっている。
薫ちゃんは気にせず続けるけど、私の方は心臓がおかしいくらいにドキドキして、もう射的どころではなくなっている。

ちゃん?大丈夫?」
「ヒェッ!?だ、大丈夫。それで?」
「うん。それで、狙いを定めて撃つ。」
「う、撃つ!」

パンッ!

カタッと音がして、キャラメルが落ちた。

「おお、当たったじゃん!やるねぇ!」

このぶきっちょ大魔王の私が的に当てるなんて!!奇跡が起きたよ!お母さん!
初めてやった射的で、的に当たるというミラクルが起こり(大げさなと思うでしょうが、私にとっては本当に珍しいことなのだ)、嬉しくなった私はもう一度、
今度はクマに挑戦してみることにした。

コルクを詰めて、台に体を預けてなるべく前に乗り出し、的を絞る。
薫ちゃんがまた後ろで私の体を支えてくれるから、手元がブレなくて済む。狙いを定めて・・・


撃つ!


パンッ!









結局、薫ちゃんは最後の2発で小さなクマのキーホルダーを、私はキャラメルをもらって射的屋さんを後にした。
生まれて初めてのミラクルを体感した私は大満足だったんだけど、薫ちゃんは、私にクマのぬいぐるみをあげたかったのだと、しょんぼりしている。

「こんな小さなクマじゃさぁ・・・あ〜あ。格好良い所見せたかったのになぁ。」

はい、と言って私にキーホルダーを差し出す。

「もらって良いの?」
「あたりまえだよ。俺がこんな可愛いの持ってたって仕方ないでしょ。」

ぷぅっと頬を膨らませて薫ちゃんは言う。

「・・・じゃあ、遠慮なく頂きます。嬉しいな。でも、かえってこっちの方が持ち運びに便利でよかったかも。これならずっと一緒にいられるね!ありがとう。」

と私は言い、受け取ろうとする。しかし、急に薫ちゃんはキーホルダーを引っ込めてしまった。

「薫ちゃん?」

何故?と薫ちゃんを見る。すると彼は目を閉じ、スッとクマを口元に寄せ、




チュッ




とキスをした。

「かっ、薫ちゃん!?」

薫ちゃんはニコリと笑って

「うん。ずっと、ず〜っと一緒だよ!!」

と言い、ビックリしすぎて動けなくなった私の左手を取り、そのクマをギュッと握らせる。

「ほら、次は何をしようか?」

薫ちゃんは再び歩き出す。

「う、うん。えっと―――」


私はどんどんと熱くなっていく左手から意識を逸らすように、辺りの屋台を見回す。

すると、先ほどの老夫婦がまた見えた。
やはり仲良く手をつないで、楽しそうに話している。




いつか・・・いつかあの夫婦のように私も手をつなげる日が来るのかな。

いつか・・・少し先の未来、このクマがあの人の手に変わるのかな。




そんなことを想像しながら、私は前を歩く彼のことを追った。



――――本編へ続く?――――




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■管理人の徒然な一言■
なんかさ、本編ではアレであれれな感じの薫ちゃんが、普通の男子高校生っぽく描かれていて、ほろりとしましたね(笑)この青臭い展開がイイよ! 私は射的をやったことが無いのですが、実際景品ゲットてかなり難しいですよね? てか無理そう。……てかさ、皆魔法使えるんだから、魔法で獲っちゃえば良かったんじゃ……とか夢も希望も元も子もないことを考えてしまった……(´Д‘;)