ときめいて☆魔法学園! 番外編〜2013 夏祭り〜



「ちょっと優子を驚かせてみようかな」




私はお面屋さんに行ってみることにした。


そういえば、お面って買ったことが無かったな。小さい頃は光る腕輪やヨーヨー釣りに夢中だったし、大人になってからはもっぱらあんず飴、じゃがバター、たこ焼き、お好み焼き・・・。ダメだ、言ってて悲しくなってきた。

せめてわ・た・あ・め☆とか言ってみせるのが女子と言うものではなくて?さん!


自問自答をしながら、私は並べてあるお面を見てみる。


「わぁ、いっぱいあるんだなぁ」


そこにはカラフルで可愛らしいお面が沢山あった。最近流行っていると思われる、女の子のキャラクターや動物、戦隊もののお面。どれも小さくて、とても可愛い。


「お姉さん、どれにするかい?」

「う〜ん。迷っちゃうなぁ。ちょっとだけ人をビックリさせたいんですけど、どれがいいですかね?」


お店の人に声をかけられ、思い切って相談してみることにした。
普段私は買い物をするとき、人見知りが災いしてか店員さんに話しかけることができない。
折角話しかけてもらっても、「はぁ」とか「はは」とか曖昧に笑ってその場を過ごしてしまう。本当はもっと自分に似合いそうな服とか持ってきてもらいたいのに!

おすすめ品とかレアなものとか欲しいのに!慣れた人とは普通に話せるのけど、そこに行きつくまでに時間や勇気が必要で。そんな自分を少しでも変えたくて、
最近はできるところからレベルアップをする努力をしていた。これはその延長上のチャレンジ。お祭りのオジサンなら下手をしてもあまり会うこともないし、
面白いアイディアを出してくれるだろう。

可愛いキャラクターも良いけれど、今回の目的は優子をビックリさせることだもの。少しくらい変わったものの方がいいわよね。


「そうだな。じゃあこれなんかどうだい?君にとっても似合うと思うよ!」

『似合う』と言われて期待をしたおじさんがそう言って手渡してきたのは






「・・・ひょっとこ。」





ひょっとこ・・・。

確かに『ビックリさせたい』と言ったのは私。
でも『とっても似合う』ってどうゆうことなの!?

おじさん・・・この超人見知りな私が、リハビリのために頑張って声をかけてみたというのに。逆にトラウマになりかけたじゃないのよ。

先ほどよりテンションが下がり気味な私は、再び人混みの中を歩き始めた。まぁ、優子に見せるだけだし、ちょっと面白いかもしれないからいいか。
ひょっとこなら誰でも知ってるはずだしね・・・。
なんとかプラスに考えられるよう、私はひょっとこの顔を真正面据えて見つめあう。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・



・・・だめだ。




やっぱりどうしてもへこむ。これが私に・・・。

斜めにしても。

平らにしても。

どのようにしても御茶目な表情を変えない彼に居たたまれなくなってふと目をそらすと、視界の端で何かが通り過ぎるのが見えた。


「え?」


よく見ると、キツネの面を付けた男の人が、向こうの方へ歩いていく。

彼はチラリとこちらを見て、少しだけ面を上げると、クスリと笑った。
私からは口元しか見えなかったが、それは決して楽しそうな笑いなどではなく。

恐らくあれは・・・冷笑。


「でも、なんのための・・・?」


気づくと私は彼を追って走り出していた。









「はぁ、はぁ、はぁ・・・やっと捕まえた。」

「おお、息遣いが色っぽいねぇ」

「強制的に胴体短くしますよ?先生。」

「恐いって・・・ちゃん。」


追っている最中にキツネ面の正体が楓先生なことに気づいた私は、必死に人混みを避けつつ彼を追った。それゆえ今の私は息切れで死にかけている。
なのに楓先生を見ると、何故かゆるりと涼んでいる。あれだけ早く歩いていたというのに・・・これがコンパスの差だとでも言うのか(怒)。


「てゆうか先生、何で逃げたんですか!?」


私は先生に気づいてから何度も声をかけたのに、楓先生はまったくの無視。
おかげでこんな端の方まで来ることになってしまった。


「バッカお前!こんなところで生徒に捕まっちまったらナンパできねぇだろ?俺は今日、祭りを楽しんでる浴衣美人をひっかけて、楽しい夜を満喫するつもりだったのに。」

「う〜わ〜。なにそのオヤジ発言。ホント引くわ。」

「うるせぇな。大人だからいいんだよ。文句言うんじゃねぇ!それよりお前はどうした?高城達と一緒じゃないのか?」

「え、静?なんでですか?」


なんで今静の名前が出てくるの?不思議に思って聞いてみる。


「なんでってそりゃあ・・・。」

「静とは学校やバイトで一緒だけど、別段二人で遊びに行ったことはないですよ?」

「そう・・・なのか?」

「?そうですけど。何か?」

「コホンッ、まぁ良い。それで?じゃあ他の誰かと一緒なのか?」

先生は少し頬を染めて言う。なんだったんだろう?

「優子・・・三村さんと一緒です。もう少ししたら落ち合う予定なんですけど・・・」



―――ピリリリリリッ



突然私の携帯電話が鳴りだした。
私はすぐに通話ボタンを押して、会話を始める。発信者は優子。もう話し合いは終わったのかな。


「もしもし?」

『ごめん、。今どこにいる?』

「えっと、入り口の方だよ。」


楓先生を追っているうちに、何故だか最初に入ってきた入り口近くの広場にまで来てしまっていた。恐らく優子がいる場所とは真逆。

『じゃあ今からそっちに行くわ。』

「話し合いは終わったの?」

『ああ、うん。それでごめん、これからちょっと・・・』

「はいはい。じゃあここで解散にしようか。」


二人のお邪魔をするわけにはいかない。それに出口はいくつもあるはず。わざわざここまで来る必要はない。


『いや、そんなこと!』

「大丈夫だよ。後は帰るだけだし。」

『その夜道が危ないのよ!いい?すぐにそっちに行くから待ってて。一人で動いたりしないでよ。』

「本当に大丈夫だから。ちょうどさっき知り合いに会ったんだ。その人と帰るから問題ないよ。」

「おい、こら。勝手に決めてんじゃねぇ。」


すかさず苦情が出たが、今は無視を決め込む。


『えっ、その声まさか・・・?』

「うん、楓先生に会ったから送ってもらう。じゃあ、彼氏さんによろしくね!また学校で〜。」

『ちょっ、ゆ―――』



プツリと私は携帯電話を左手の指で切り、右手で先生の襟首をガシリと掴んだ。


「まさか、か弱い女子生徒をこんな夜道一人で帰す教員がいるわけないですよね?先生。」

「―――っるせぇ!俺はこれから女の子を―――」

「先生?教師を速攻クビにして、その後再就職が難しくさせる方法なんていくらでもあるんですからね?」

「だから恐いって・・・ちゃん。」


完全に私のKO勝ち。嬉々としながら、私は先生に夜道を送ってもらうことになった。









月明かりに照らされて、二つの影が並んで揺れる。

先程から会話は少なく、ただ二人が歩く音と、先ほどまで近くにあったお祭りの音が、小さく風に乗って聞こえてくるだけだった。
けれどもそれは決して居心地が悪いということはなく、むしろ私にとってはほっとするような、でもどこか少し寂しいような、そんな空間だった。

この“空間”が途切れてしまうのはわかっていたが、私はさっきから疑問に思ったことを聞いてみることにした。



「先生、教えてください。」

「ん?」



先生は遠くを見ながら、流すように答える。

「さっき、お祭りの中であった時、どうして笑ったんですか?」

「笑ったって?」

「・・・笑ったじゃないですか。キツネのお面を少しだけ上げて、口元だけで。」

「そうだったか?」

「そうですよ。私、その笑みが少し怖くて、思わず追いかけてきてしまったんですから。」

「おい。『怖くて』追いかけてくるっておかしくないか?」

「おかしくないです。私、冷たい感じがしたから、なんでそんなふうに笑われるんだろうって思ったんですもん。
追いかけてる途中で先生だってことに気づいて・・・。私、先生に何かしてしまったんでしょうか?」



「だから、生徒に気づかれたくなかっただけだって言ったろ?」

「だったらあんな笑い方はしないはずですよね。」


私は本当の答えが聞きたくて、まっすぐ先生を見据えて話す。
先生は驚いた顔をした後、目をそらし沈黙する。


「・・・ごめんなさい」


沈黙を続ける先生に、私は思わず謝ってしまった。


「無理に聞き出すつもりだったわけじゃないんです。先生にとって重要なことじゃないって思って。ただ、単純に疑問に思っただけだったんです。」

「・・・」


私はこの時、激しく後悔をした。自分の中では素直に聞いただけのことだった。でも、誰だって聞かれたくないことや、言いたくないことだって沢山ある。


そんなことも知らないで、他人の世界の中にズカズカ入って行ってしまった。私はこの沈黙に耐え切れなくなり、早々にこの場から離れることにした。
ずるいってわかっているけど、今の私には逃げることしかできない。


「せっ、先生。もうここまでで大丈夫です。私の家、もうすぐですし。ここまで来たら安心ですから。先生はもう一度お祭りに戻って、綺麗なお姉さ―――きゃっ」


早口で別れの挨拶をしようとした時、いきなり手を引かれ、急に視界が真っ暗になった。どうやら私は今、先生に抱き締められているらしい。


「せ!せせせせせんせぃ!?」


背や腰に回された先生の腕や、胸板や息遣いにドキドキして、私は大きく動揺してしまう。
しかし先生は何も言わず、しばらく私を抱き締めたままじっとしてる。


「・・・先生?」

「―――ごめん」

「え?」


何を謝られることがあったのだろう。謝らなければならないのは私の方なのに。先生は続ける。


「ごめん。いつか・・・いつかお前には、お前になら言える時がくるかもしれない。でも」

「・・・先生?泣いてるの?」


振り仰いだ先生の顔はいつの間にかキツネの面が被せてあり、表情が見えない。
しかし、声が少し震えているように聞こえた。そんな先生の姿を見た私は、気づくと先生の背中に腕を回し


「はい、良いですよ。今は何も言わないで。私、待ってますから。」


と答えていた。

私よりも十分大人な彼が、何故だか急に小さな男の子のように感じてしまって。私はぎゅっと先生を抱き締めた。





しばらく二人でそうしていたが、だんだんと恥ずかしくなってきた私は、自分の手を下げて先生から離れようとした。しかし、何故か先生は私の腰に腕を回したまま動こうとしない。

「せ、先生?」

「・・・」

「ちょっと先生。具合でも悪い?大丈夫?」


慌てて先生の様子を見ようとすると、フゥとため息が聞こえた。


「もうちょっとこのままで。・・・はぁ、女の体ってなんでこうやわらかいんだろうなぁ・・・。」

「!?」


ドゴッ


「〜〜〜!!」


すかさず私は先生のみぞおちに聖なる正拳を叩き込み、距離をおく。

「送ってくださってありがとうございました。ここで大丈夫ですから。それではさようなら。」

「悪かった。ごめん。謝るからちょっと待て。家まで送ってくから。」

「このまま一人で帰して何かあったら、寝覚めが悪いんだよ。」

「先生より危険な存在はそうそういないと思いますけど。」

「悪かったって。もう何もしないから。」


ほら、と言って、先生は手を差し出してくる。


「なんですか?」

「だから、こうするんだよ」

「なっ!」


またもや私は腕を引っ張られた。しかし今度は抱き締められるのではなく、ぎゅっと先生の手を握るかたちになっていた。


「こんなところ誰かに見られたら、先生速攻謹慎ですね。」


気恥ずかしくて、私はついそんな憎まれ口をたたいてしまう。
先生はそんな私に優しく笑って言う。


「ははっ、そうだな。まあそれならそれで」

「良いんですか?」

「その間、二人でどこか行くのもいいな」

「それ謹慎って言わないんじゃあ?」

「ようはバレなきゃいいんだよ。」

悪戯を思いついたように、楽しそうに言う先生がおかしくて。私は少し笑ってしまった。


「先生」

「なんだ・・・わっ!?」

「ふふ、驚きました?」


先生が前を向いている間に、先ほど購入したお面で驚かしてみた。どうやら成功したみたい。


「フゥ・・・あのなぁ、驚かすなよ。つかなんだそれ、ひょっとこ?」

「―――先生、私良いですよ。」


私はお面を付けたまま言う。


「え?」


先生は要領を得ないまま聞き返してきた。


「謹慎は嫌ですけどね。そのうち、どこかに連れて行ってください。先生と一緒なら、楽しいと思うから。」

「へ?」

「ダメですか?」

「ダメ・・・じゃないけど・・・いいのか?」

「はい、でも見つからない所ですよ?」

「―――あぁ」



先生の顔は良く見えないが、それでも嫌がっていないだろうということは声で分かった。

クスッ、お面を着けているからか、今日はなんだか普段の自分より素直になれている気がする。
しばらくはこのまま、ひょっとこさんの力を借りておこう。
じゃないと、私の気持ちが、先生に伝わってしまうもの。




月明かりに照らされながら、キツネとひょっとこは手をつなぎ、夜道を静かに歩いていくのでした。






後日

私の家の近所では、夜な夜な妖怪が徘徊するという七不思議が流行ったが、私は知らないふりをして通すことになった。

――――本編へ続く?――――


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■管理人の徒然な一言■
楓先生素敵過ぎる……! と通勤途中の電車の中で鼻血を噴きそうになった管理人です。楓ちゃん、カッコイイです。個人的に、キツネのお面ってすごく妖しげで好きです。まあ、はたから見たら、お面を被った変態とも思われかねない展開ですが、そこは二次元(笑)あ、ただしイケメンに限る! ですね。背景画像は、戦隊もののお面になっていますが、今はこんなお面しか売って無いですよね、お祭り。しかし、ひょっとこを選ぶ主人公に、生温かい目を向けたのは私だけじゃないはず。青さんの趣味は深海より深く理解が難しいです☆