――――秋
「優子、帰るよ」
「あ、待って」
恋人同士という間柄になって数ヶ月。
部員の皆には、すぐにバレてしまった。しかし、先輩は特に慌てるわけでもなく、にっこり笑って言う。
「そういうわけだから、野郎共は優子に必要以上にべたつくの禁止ね?」
「うわっ、愁ずりー!! 優子ちゃん独り占めかよ!」
「彼氏の特権なんでね」
「ちっ……」
「あはは……」
嬉しいような、恥ずかしいような気持ちが入り混じる。けれど不思議と、心が暖かくなった。初めて人を好きになれた……そう実感した。
愁……と付き合い始めて私は変わった。
今までは、ただ何となく付き合っていただけのクラスメイトとも、少しずつだが深く関われるようになった。しかも、誰も私の事を「冷めてる」なんて言わなくなった。まあ相変わらず、告白される日々は続いたし、断った相手からはそれなりの罵声を浴びせられたりしたけど……。
でも……
「優子、また告られてたな? 妬けるなぁ」
「……愁に言われたくないわよ。アンタだって、毎日のように告られてるくせに」
「そんなことないよ? オレ、そんなモテないって」
「ふーん。今日の昼休み、どこで何してたの?」
「今日の昼は…………生徒会室で書類整理を――」
「嘘。噴水前で女の子に泣かれてた――でしょ?」
「ぬわっ! 何でそれを!?」
「ほら、やっぱり。勘で言って当たるなんて……」
「……ハハハ」
「……はあ。女泣かせはタブーじゃなかったでしたっけ、愁先輩?」
「う〜ん…………でもさ、仕方ないよ」
――ぐいっ
「なっ……ちょ、ちょっと……!」
「オレには……優子がいるから」
「っ……」
「アハハ、優子真っ赤」
「……馬鹿っ……」
愁がいてくれるなら、こんなこと何でも無いと思えた。
今までは、誰かに振り回されるなんて真っ平ごめんだと思ってたけど、愁になら振り回されるのも悪くない。
「三村ってさ、最近明るくなったよね」
「え?」
私に向かって微笑んだのは、同じクラスの高城静。席が隣で、同じ水属性ということもあって、仲は良い。
「ハハ、変なこと言ったかな? 最初の頃に比べると、すごく話しかけやすくなったなって思ってさ」
「……そう?」
「うん。あ、もしかして……宮田会長?」
「うえぇっ!?」
動揺のあまり、素っ頓狂な声を上げた私に、高城は苦笑した。
何でコイツ、そのこと……
「アハハ、何でそんなこと知ってるの? って顔してるね」
私の心を読んだかのように、高城は言った。私はと言えば、どうしていいか分からず、ただ口をパクパクさせている。
「ほら俺、HR長務めてるじゃない? 生徒会室によく行くんだ。その時、たまたま君と会長が一緒にいるのを見かけて……クスクス、絵に描いたような相思相愛っぷりだね。やっぱり、噂は本当だったんだなって」
「う……あ、あの……」
私の言いたいことが通じたのか、高城は微笑んだ。
「安心して。誰にも言ったりしないよ」
「……ありがと」
「フフフ…お幸せにね」
高城にはバレてしまっていたけど、不思議と嫌な感じはしなかった。高城は絶対に言いふらしたりしないという、よく分からない確証があった。
高城は私にとって、まほ研の皆と並ぶくらい信頼のおける人物だったのだ。
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