――――サイレンが鳴り響く。


『緊急事態発生! 緊急事態発生! 被験体、310-G、417-Kが逃亡中。全所員は作業を中断し、直ちに被験体の身柄の拘束をせよ! 繰り返す――――』


「リーダー! 奴ら、ディスクを奪って逃走しています!」
「くっ……逃がすな! 必ず捕獲しろ!! 場合によっては、殺しても構わない!!」
「はっ!」
「ディスクだけは、何としてでも取り返すんだ!!」





 Prologue: The secretly maneuvering shadows.





「っ……はあっ……思ったより、警備体制万全じゃない……っ」
「くっ……さすがは、世界屈指の研究施設ってとこか……」

 沢山の足音とアラートの中、息を殺して状況を窺う影が二つ。
 壁に寄り添い、チャンスを見計らう。

「フン……さっきまでは所員だったってのに、ちょっと噛み付いただけで『被験体』扱いとはな」
「ふぅ……まったくだわ。私なんて、何十年ここで働いてると思ってるのかしら? ま……いい足枷にされてたわけだけど」
「でも、丁度良かったんじゃない? 必要なものは、ほぼ全て揃ったし」
「……そうね。あとは、運次第ってとこかしら」
「フッ……俺たち、悪運だけは最強だろ?」
「ふふっ」

 白衣姿の男女。
 女性はポケットから、リモコンのようなものを取り出すとスイッチを押す。すると、そのリモコンのタイマーが点滅し始める。

――――残り3分。

「……失敗は出来ないわ。気を引き締めて頂戴」
「誰に言ってるんだよ。それはこっちの台詞」
「……強気なところも、ホントそっくりね」
 笑みを浮かべた相手に、彼は苦笑した。そして、白衣に潜ませた医療用メスを数本、指先に構える。
「あら……いつの間にそんなもの用意したの?」
「備えあれば、憂いなしって言うだろ?」
「うふふ……素晴らしいわ」
 そう言って、自らの太ももに忍ばせた拳銃を構える美女。その姿に、彼は呆れた声を上げる。
「……アンタこそ、いつの間にそんな物騒なもの用意したんだよ……」
「大丈夫よ、これ、麻酔銃だし」
「そういう問題じゃないんだけど……」

 足音がまばらになる。
 アラートは依然鳴り響くが、喧騒が遠ざかる。

――――残り2分。

 二人はお互いを見やると、同時に頷いた。
「とりあえず、私はあの子達に会ってくるわ。約束の場所で落ち合いましょう」
「ああ……頼むよ」
 淋しげに俯いた彼に、彼女は溜め息を零す。

――――残り1分。

「ねえ……やっぱりアナタが会いに行ったら? その方が……」
「いや、いい。俺はこのディスクを死守する。それに……」
 ここで一度話を切ると、彼は笑みを浮かべた。
「アンタには世話になってるからね。これで借りは一つ返したってことで」
「……分かったわ」

――――残り30秒。

「アイツには……『心配するな』って伝えておいて」
「ええ……必ず」

 二人は互いに背を向け、その時を待った。

 そして――――……


――――ドッカァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!


「うわぁっ!? この爆発は一体……!!」
「だ、誰か消炎装置を……!! 早く――げほげほっ!!」
「げほっ!! ぼほっ!! 煙に気を取られるな!! 奴らの思う壺だぞ!!」




 爆音が響き、粉塵が舞い踊る。
 辺りは一面、灰色の世界と化している。


「気を付けてね、翔君」
「……玲さんもね」



 振り返らずに、そう呟き合って。
 二人はお互い、逆方向に駆け出した。





――――とある国で起きた、この出来事は……
 “世間的には”ごく小さな、“その世界的には”とてつもなく大きな事件の幕開けであった――――。





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ヴァンパイア・ロンド、ついに本編に戻ってまいりました☆お待たせしましたーvvv
第三部は、タイトルの通り「動乱」です!!動きます、めっちゃ話が進みます!!とりあえずはプロローグです。序章ですね。でも名前変換無いですね……ごめんなさい!!とにかく怒涛の章になると思いますので、皆様全速力でついて来てくださいまし♪(ありえねー