『赤ずきん』――後編




 
しばらくたって、扉を叩く音がしました。

「おばあちゃーん、赤頭巾よ。開けて」
「開いているからは入っておいで」
「……?」

 
中へ入った赤頭巾は、訝しげにおばあさんを見ました。

「おばあちゃん、風邪でも引いてるの? 声がすごく低いけれど……」
「あ、ああ……。実は風邪を引いてしまってね……」
「大丈夫?」
「ああ、お前がもっと近くに来て、その可愛い顔を見せてくれたら、すぐに元気になりそうだよ」

 
おばあさん――狼は、にやりと笑うのを堪えながら言いました。人を疑うことを知らない赤頭巾は、そのとおりにしました。

「おばあちゃん? これで私の顔がよく見える?」
「うーん……まだ。もうちょっとこっちへ寄ってくれるかい?」
「うん……分かった」

 
段々と近付く赤頭巾に、狼はほくそ笑みました。

「今すぐにでも押し倒してやりたいが……まだまだ台詞があったな……ちっ」
「おばあちゃん?」
「あ、いや、何でもないのよ……おほほほ」


(三上のやつ、に何かしたら絶対許さない!)
(水野君、大丈夫だよ。きっと杉原君と笠井君が何とかしてくれるから)
(……そうだった。あいつらがいたんだったな)


 
……ほら次言って。赤頭巾は、おばあさんの耳に触ると尋ねました。

「ねえ、どうしておばあちゃんの耳は、こんなに大きいの?」

――さわさわ

「っ……、くすぐったい……」
「ねえねえ、おばあちゃーん?」
「や、やめろって……!!////」

 
おい三上。何身悶えてるわけ? 気色悪い。とっとと台詞言えよ。

「っ……分かってるよ! それはな、お前の声をしっかりと聞くためなんだ」
「ふーん……」

 
赤頭巾は、また尋ねました。

「ねえ、どうしておばあちゃんの目は、こんな
タレてるの? ちょっとエッチっぽいし……」
「ぶっ!! !? お前何言ってんだよ!」
「だ、だって……台本にそう書いてあったんだもん!!」
「何だってー!? おい椎名! 俺の台詞はどうなってる!?」

 
は? 知らないよ。僕、お前らの台詞の台本知らないし。適当にアドリブでやれば? 早くしろよ。
(三上せんぱーい! 先輩の台詞は『それは俺が
性欲の塊で、女と来れば見境いなく食いまくる狼だからだv』ですよ!!)

「バカ代! そんな台詞言えるか!!」
「亮……」
「ちっ……(こうなりゃヤケだ!) それはな、お前が……俺の理性を崩すからだ」
「えっ……」

 
三上……お前、何言う気?

「えぇっと……ねえ、おばあちゃん。どうしておばあちゃんの肩幅は、こんなにも広いの? そして、どうしてこんなに大きな手をしているの? 私よりもはるかに大きいよ」
「それはな……お前を食べるためだよ!!!」
「きゃーーっ」
「フフフッ、逃げられないぜ。たっぷり可愛がってやるからな」

――どさっ

「きゃぁっ」
「フッ……これも役得のうちってな……」
「ちょ、ちょっと亮!? こんなの台本に無か――」
……好きだぜ」
「わっ、ちょ、ダメ――――」

――どすっ どすっ どすっ

 
今すぐに、その汚い手をから退けろ。さもないと、次は本気でお前に命中させるよ。

「……椎名、お前ナイフ投げるのはヤメろ……」
「翼……(汗)」


 
こうして赤頭巾もまた、狼に食べられてしまいました。
 さて、この騒ぎを遠くで聞いていた猟師は、何とかして赤頭巾を助け出そうと思っていました。
 家に忍び込むと、何と狼は眠りこけています。


「ぐがー ぐがー」
「……早速
殺るか」

 猟師は懐からクナイを取り出すと、狼の膨らんだ腹を一気に切り裂きました。


「ぷはぁ! 助かったー!」
ちゃん、大丈夫だった?」
「うん、タッキーも。私が抱きつく形になっちゃって……苦しかったよね、ごめんね」
「ううん、全然。むしろ役得って感じだったよ」
「役得……?」
先輩、大丈夫でしたか?」
「竹巳! 助けてくれたのね! ありがとうっ!」

――だきっ

先輩……///」


(ああーー!! タクにちゃんが抱きついてるーー!! ずーるーいーー!!)
(笠井が照れてるの初めて見たな……)水野
(杉原君から、黒いオーラが出てる気がする……)
風祭


 
笠井……不可抗力とは言え、早く離れた方が身のためだよ? 渋沢と同じ末路を辿りたくなければね。ほら、も。とっとと進めるよ。

「あ、ごめん! 竹巳、話進めよっ」
「……ちっ」
「え?」
「何でもないですよ。話を進めましょう」

 
それでいいんだよ、それで。

「二人とも、狼の腹の中に石を詰めるの手伝ってくれますか?」
「「了解」」

 
猟師の指示通り、眠っている狼の腹に石を詰めまくる三人。

「よいしょ、よいしょ」
「こっちの岩も入れた方がいいよね、笠井君」
「そうだね。
もっと大きいのでもいいかもね」
「お、お前ら……!! 本気で石を腹の上に乗せんじゃねー!! 重てーだろーが(怒)!!」

 
狼の寝言は無視して、猟師を筆頭に三人はただひたすら石を詰め込みました。

、もっと大きな岩を
思いっきり投げ付けるように入れて」
「え……、こう?」

――がつんっ

「もっと。もっと
叩き付けるようにして」
「わ、分かった。――えいっ!」

――どごぉっ!!

「ぐへぇっ!!」
「あ、亮!? やだっ、ごめん!!」
「あ、死んだ
死んだね
「二人とも!?(滝汗)」

 
こうして狼が寝ている(?)間に石を腹に詰めた三人は、狼が起きるのを小屋の外で待ちました。
 そして、しばらくして……



「ふあぁ、よく寝た。そろそろ消化も終わった頃だろうし、家に帰るか」

 
立ち上がった狼は、腹の重さにふらつきました。

「なっ、何だこれは? 腹が死ぬほど重い……!! ていうか痛い!!」

 
部屋で転げまわる狼の前に、赤頭巾たちが現れました。

「お前ら、どうしてここにいる……俺が食ってやったハズなのに」
「竹巳が助けてくれたのよ。狼さん、お腹大丈夫?」
「あなたのお腹には、沢山の石が詰まってるんだよ」
「すぐに殺さなかっただけマシだと思ってくださいね、三上先輩。もっとも、今すぐにでも
逝かせてあげますけど」
「どうでもいいが……笠井、お前俺に恨みでもあんのか……?」
「いえ、別に。全くもってそんなこと、微塵もありませんよ。多分」
「多分かよ……」

 
赤頭巾は言いました。

「もう人間を襲わないって約束するなら、狼さん、助けてあげるよ」
……」

 
優しい赤頭巾の言葉に、狼は頷きました。は微笑みましたが、背後の二人は面白くなさそうな顔です。ま、そうだよね。三上、ここは最後まで悪役らしく、華々しく散ったら?

「そうですよ、三上先輩。どうせなら今すぐにでも人間を襲ってくださいよ。
即効射殺しますから」
「どうせ石ころ取り出すとき、またお腹裂くんでしょう? だったらそのまま放置すれば、すぐに
逝くんじゃない?」
「お前らの方が、どう考えても悪役だろ……」


 
結局、改心した狼は、もう二度と人間を襲わないと誓い、何とか命を守りきりました。
 赤頭巾が家に帰ると、
何故か母親がいなくなっていましたが、おばあさんと猟師が一緒に暮らそうと誘ったので、特に問題はありませんでした。
 
さて、最後だね――



「翼!?」
の未来は、僕がいただいたから」

――ひょいっ(抱き上げ)

「えっ!?」
「てめっ、椎名! 何で最後にてめえが出てくんだよ!? ありえねーだろーが!!」
「椎名さん、手裏剣投げますよ?」
「抜け駆けするのは良くないんじゃないのかな?」

「フン、ナレーターの特権は上手く使わないとね。

――赤頭巾はある日、突然目の前に現れた謎の怪盗に、身も心も奪われてしまいました。のち、二人は深く愛し合うことになるのですが……それはまた別のお話。

、しっかり掴まってろよ?」

「ちょ、ちょっと翼!? えぇーーーっ?!」
「フフッ……And that’s all(おしまい)!」


(あらあら翼ってば、最後の最後で一人勝ちしちゃったわね)
(大丈夫ですよ、西園寺監督。笠井君と杉原君がいるし、翼さんも本気じゃないだろうし)
(うふっ、風祭君、こめかみに青筋が立ってるけど?v)
(……嫌だなぁ監督。気のせいですよ、気のせい)
(うふふふふふ)
(あははははは)
(……風祭も、実はアイツらと同類か……?)水野
(何だかそんな気がするな……)天城
(うぅ……っ、追いかけたいが、腹が痛てえ……!! くそ、笠井と杉原のヤツ! ぜってーぶっ殺してやる!!――あいてててっ!!)
(うふふっ、次回も楽しくなりそうねvvv)



『こんな終わり方、赤ずきんじゃなーーいっ!!! 翼のバカーーーーっ!!』



 おしまいv(消えろ)


前編/目次

 
 
ええっと……大失敗!!(土下座)ホントすいません、としか言いようが無いです。こんなのどこが御伽噺なんだよ!? メルヘンちっくさの欠片もねーよ!! ッて感じです。
 allとか言いつつ、めちゃキャラ偏りまくりですしね……(-(ェ)-メ) しかし、無謀にも、まだまだ続きます、このシリーズ(まだ続くのか!?)
 西園寺の笑顔が、次回、さらなる悲劇(喜劇?)を呼び起こす……!? 宜しければ、次回『眠れる森の美女』でお会いできることを願いつつ……☆

2006,8,5 桃井柚