「すまない!! 本当に申し訳ない!!」
帰りのタクシーの中、先輩は平謝りだった。
「いや、別にいいですけど……」
「俺はその……下戸なんだ。酒を飲むと、記憶が無くなってしまって……」
「そんな人が、あの街に出入りするのは間違ってると思いますけどね」
「せ、静……そんな言い方しなくても……」
タクシーの中、私を挟んで両隣に座った静と先輩。静は腕を組んで、そっぽを向いている。……何か怒ってるみたいだ。さっきから、先輩に対してキツイことばかり言う。
――――だからそれは、お前に晋也が破廉恥行為をしそうになったからだよ!! さっきの魔法、マジ殺意が見えただろーが!
「で、でも……オーナーに飲まされたんですよね?」
「ああ……ジュースだと思って、一気に飲んでしまったんだ……。まさかアルコールだったとは……」
先輩はネクタイを緩めながら、溜め息をついた。
――――ネクタイ緩めるのは……ちょっとだけ萌えかも……不覚だけど。非常に不覚ですけど!!
「先輩、さっきのこと何も覚えていないんですか? 自分が何をしたのか」
刺のある言い方で、静が言う。
「……全く何も覚えていないんだ。ただ、お前たちの態度から察するに……俺は多分、とんでもないことをしでかしてしまったんだろう?」
「ええっと……まあ……とんでもないと言えば……そうですか……ね」
確かにとんでもなかった。
オーナーとキスして、今度は私に抱きついてきて……。
うわ……思い出したら、何だかちょっと恥ずかしいんだけど……。
「あんなことしておいて、何も覚えてないなんて。先輩、一歩間違えば、犯罪になるところでしたよ?」
「は、犯罪……!?」
「ええ。俺たちの口からは言うのが躊躇われるような、数々の奇行……。先輩、あれは酷かったですよ」
「犯罪……」
追い詰めるような静の言葉に、先輩は段々小さくなってしまった。
犯罪……確かにまあ、犯罪にも発展しかねる……か?
「杉原先輩は仮にもまほアカの生徒会副会長です。こんなことがバレたら、ただじゃ済みませんよ」
静が追い討ちをかける。先輩は「うっ」と言葉をつまらせている。
私は……
1先輩を庇う
2静の言っていることは尤もだ
――――うーん……めっちゃ静に同意したいな。さっき晋也っぽい選択肢にしたし、ここは静に同意しておこう。
……可哀相だけど、静の言ってることはもっともだよね。
ていうか、まほアカは基本、高校生はアルバイト禁止なんだよね……静ってば、自分のことは棚に上げてるけど……先輩はあまりにもショックなのか、それにも気付いてないって感じ。でも、先輩ってば何も覚えてないんだもん! それはそれで、ちょっとショック……。
「まあ……お酒は飲まない方が……いいかもですね」
「そのっ……俺は一体、お前たちに何をしてしまったんだ!? 言うのが躊躇われるというのは……一体どんなことだったんだ?!」
「それは……」
ちらりと横目で静を見ると、彼はふっと流し目で先輩を一瞥する。うわ……何か、めっちゃ意地悪な感じ……。
――――うほっ! 流し目立ち絵、超素敵!! この暗黒加減が最高だわvvv
「そんなに聞きたいんですか? ご自分の痴態を」
「静っ」
「ち、痴態……なのか……」
「ええ。痴態も痴態でしたよ。俺は先輩に、ああいった性癖があるなんて知りませんでしたから、驚きました」
「せ、性癖!?」
先輩の声がひっくり返る。
私も思わず静に顔を向けたが、当の本人は全く意に介さず。涼しい顔をしている。
「杉原先輩のこと、尊敬してたのに。とても残念です。ねえ、?」
「へ?」
突然振られて、どうしたものかと困惑する。
そろりと先輩を見ると……今にも泣きだしそうな顔で私を見ていた。
――――メガネが泣いちゃうよ!? ギャハハハハハ!!!!(酷)
「あ、あははは……」
私は笑って、お茶を濁すことに決めた。
しかしその両隣では、白けた目元で先輩を睨み続ける静と、おろおろと狼狽しながら小さくなり続ける先輩がいることに変わりはなかった……。
駅に着き、それぞれの帰路に着こうという時。
静に呼び止められた。
「待って、もう遅いし家まで送るよ」
「え、でも……」
「遠慮しないでよ。今日は色々あって疲れてるだろうし、一人で帰すのは心配だよ」
静の言葉に甘えそうになった瞬間、隣からも声。
「……その、俺に送らせてくれないか?」
「先輩?」
「今日は迷惑掛けてしまったし……その、俺じゃ駄目だろうか?」
「いや、でも――――」
「何抜かしてんですか? キス魔は黙っててください」
「!?」
静がさらりとすごい発言をした。
私は思わず静の顔を見たが、やっぱり涼しい顔で微笑んでいる。先輩はといえば、あまりにも衝撃的な言葉が理解できなかったらしく、首を傾げている……。
「今、何て言ったんだ?」
「あれ? 聞こえませんでしたか。じゃあもう一度。キ――――」
「せ、静っ」
慌てて静の口を押さえて、その先を言わせないようにした。
静の瞳は、意地悪く細められている。静ってば、先輩のあれ……そんなに幻滅しちゃったのかな。
ていうかあれ……そう言えば今、私先輩にも送ってやるって言われた?
「、行こう?」
「……」
ええっと……これって……どうしよう。
静と帰るか、先輩と帰るか……選ばないと駄目みたいだよ〜!!
そんな時、駅前で誰かが手を振っているのが見えた。
あれは……
「ちゃーーーーーん!!!」
――――うわっ、スチルだ! 薫ちゃんが来た!! ここでスチル!? って感じだけど、まあいいや。きっとこれ、好感度高い子が出てくるんだろうな。「あれは……」の後、間があったし。ってことはこれが、楓ちゃんとか野中てぃーちゃ―とか、優子りんってこともあるわけ?? うーん。いつか再プレイしてみよ。
手を振っていたのは薫ちゃん。
人目も憚らず、大声で私を呼びながらこっちへ駆けてくる。でも、近づくにつれ、笑顔が一転、眉間に皺を寄せた。
「……って、邪魔者がいるってわけ」
「か、薫ちゃん、どうしたの?? こんな遅くに……」
「部活だよ♪ 来週からテストだし、今日がテスト前最終だったんだよ。だからちょっと遅くまで練習しててさ。その後飯食ってたら、こんな時間になっちゃって」
「そうなんだ。頑張るね〜」
「まあね。って、ちゃんこそ、何でこんな時間にこの二人と一緒なの?」
「ええっとそれは……」
私が言葉につまると、薫ちゃんに顔を覗き込まれる。
うっ……その顔を近づけないでってばぁ! 心臓に悪いんだって!!
「俺たちはデートしてたんだよ。そうしたら偶然、杉原先輩と会ったんだ」
「そうそう。そうなの――――えぇ!?」
思わず頷いてしまったが、慌てて静を見る。
ちょっと、待て! 確かにデートっぽいのはしてたけど……でもこれじゃあ……
「……何て言ったの? 俺、よく聞こえなかったんだけど」
薫ちゃんがにこりと笑い、ゆっくりと聞き返している。
でも薫ちゃん、目が笑ってないよ。
「あれ? 聞こえなかったの。じゃあもう一度。俺とはデ――――」
「静っ!」
またもや静の口を押さえる私。
はあ……何かこれってデジャヴ。
薫ちゃんは、目を見開くと、またもやにこりと微笑んだ。目は全く笑っていない。
「……ちゃん今、この人のこと、何て呼んだ?」
「え? 静のこと?」
私の返答に、薫ちゃんの瞳が赤く燃え上がったように見える。
え? 何か言っちゃまずいことだったの??
薫ちゃんはそのまま静に近付くと、笑顔のまま言った。
「……随分進展したみたいだね。どうやってここまで漕ぎ着けたわけ?」
「さあね? 俺とは、色々な関係があるんだよ。お前は知り及びもしない、色々なね」
「何だか今日はヤケに好戦的だね。ここにいる副会長さんが関係してるってわけ?」
「さあね。お前が出てくる場面じゃないってことだけは確かかな」
「うっわー、相変わらず燃やしたいくらいムカツクね」
「ハハハ、奇遇だな。俺は深海に沈めてやりたいって思ってるよ」
「アハハハハハ」
「ハハハハハハ」
――――出たっ!! 真っ黒対決part2!!
二人は笑顔で、とてつもない会話をしているような気がする。そんな二人を前に、私と先輩はおろおろするしかない。
二人の対話(?)はまだ続いている。
「大体、名前で呼び合ったくらい、何てことないじゃん。俺なんて、初っ端から名前呼びだったし?」
「ちゃん付けと呼び捨ては違うと思うよ? それに俺とは、二人でデートする仲だしね」
「デートなんて、ただ一緒に遊べば全部デートじゃん。そんなこと、自慢することでも何でもないんじゃない? 告白してる俺のが、何倍もリードしてるって感じ」
「その告白が無かったことにされてる時点で、もう見込み無いって分からないのかな? アウトオブ眼中、対象外なんじゃない?」
「自分こそ、やっとこさ名前呼びに漕ぎ着けたくらいで、いい気にならないでほしいんだけど?」
「お前よりは遥かに見込みありだと思ってるけど」
「アハハハ、大人しそうな顔して、ここまで言えるのは大したもんだね。見た目通りの腹黒ヤロウなんですね、静先輩って」
「ハハハハ、子供っぽい見た目と幼稚な言動のお前が、少し羨ましいよ」
「その薄っぺらい唇、縫い合わせてやりたいな」
「その減らず口、いつになったら叩けなくなるのか知りたいよ」
「腹黒越後屋」
ぴくっ。
「何? おサルの大将君」
ぴきっ。
「アハハハハハハ」
「ハハハハハハハ」
こ、効果音が入るほど、二人のトークは白熱してるみたいね……(汗)
何気なく見た時計は、既に23時過ぎ。そろそろ帰らないと、ヤバイよね。
いつの間にか、私を囲むようにして三人が立っている。
「、待たせてごめん。帰ろう」
「……俺に送らせてくれ」
「ちゃん! 俺が一番家近いし、俺が送ってあげるよんv」
静の家はどこなんだろう……近いのかな?
先輩は寮暮らしだから、私を送ったらめちゃめちゃ大変だよね。
薫ちゃんは知ってのとおり、私の降りる駅の二つ前だ。
うーん……誰と一緒に帰ろうかな。
1静と帰る
2先輩と帰る
3薫ちゃんと帰る
4一人で帰る
――――帰宅イベント来た!! 本当は静と帰ってあげたいところだけど……最近薫ちゃんイベント起こしてなかったし、逆ハー狙うならまんべんなく好感度上げないと駄目だよね! よし、ここは3で行くぞ☆ え? 晋也なんてスルーだよ。酔っ払いのキス魔には用無し!!
「じゃあ……薫ちゃん。一緒に帰ろっか」
「よっしゃーー! ちゃん、最高っvvv」
ガッツポーズを決めた薫ちゃんは、例の如く私に抱きついてくる。
あーもう……可愛いなぁ。
「ふう……宮田。きちんとを送れよ」
「分かってるよ!」
「……今日は本当にすまなかった」
「いえ、大丈夫ですから。先輩も気をつけて」
こうして私は、薫ちゃんと帰ることになった。
帰りの電車の中でも、薫ちゃんは私にべったりで、本当に心臓がバクバク。
いいよって言っても、家まで送るって聞かないし……。
「何かあっても、俺が絶対守ってあげるからね!」
そう言って、犬っころみたいな笑顔を見せられたら……断れなかった。
結局家の前まで送ってくれた薫ちゃんは、帰り際私を引き寄せると、軽く頬に唇を寄せた。
「お休み……」
「っ……/////」
真っ赤になった私は、しばらく玄関先で突っ立ってしまった。
んもう! 薫ちゃんのバカーーーー!!!
夜、ベッドに入って考える。
今日は1日、色んなことがあったな。
静と一緒にパフェ食べたり、杉原先輩の意外な一面を見たり、オーナーをカッコイイって思ったり……。うわわ、思い出したら顔が熱くなってきた……。
でも、完璧だと思ってた先輩に、あんな秘密があったなんて……ちょっとびっくりしたけど、逆に親しみやすくなったかも。
うん……。
そんなこんなで長かった一日は終わりを告げたのだった。
――――セーブしますか?
はいはい、しますよーv
おやすみなさい……。
――――第二章、終。
お、二章が終わった。
三章はフィーナル祭かな?? うーん……結構長いな……。ていうか色んな意味で濃い……。濃厚だ……。
ふわぁ……眠い……。
って、そうだ。さっきメールが着てたんだよね。誰だろ……。
――――
件名 テストのこと
本文 夜遅くにごめん。来週からのテストのことなんだけど、良かったら一緒に勉強しない?
の苦手な言語学Uの過去問が手に入ったんだ。
その代わり……ConpositonUを教えてくれないかな?、英語は得意だろ?
明日、明後日、の家行ってもいいかな?返事待ってます。
え……テスト???
私はカレンダーを見て、息を呑んだ。
ヤバイ……来週からテストだってこと、すっかり忘れてた!!
どうしよう!!! ノートすら集めてないんだけど……!!
しかも……うちに来る気?
この、乙女ゲーの館に? 秘密の花園に??
無理じゃボケーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!
でも、何て答える?
ていうか、過去問は私も欲しいし……うわーん、どうしよう!!
そうだ、このゲームを隠せばいいじゃん!! うん、私、ナイスアイデア!!
あーこうなったら、部屋大掃除しないと! うわーん、勉強もしなきゃだった!!
あーーー最悪―――――――――っ!!!!!!!
エピソード10に続く!