―――「メフィストです。よろしくお願いします。」
今日も私は店の外でチラシ配り。
唯でさえ外は店の中より寒いのに、『一人』ってだけで余計に寒い。おまけにこの辺りはギャンブルの街だけあって、ちょっと危ない。さっきから恐そうな男の人もウロウロしてるし・・・。
そりゃぁ前回のバイトの時、お皿沢山割っちゃって、ずっと店の外でビラ配りだって言われたけど〜!!ちょっとは戻してくれるって期待してたのになぁ・・・。あ〜ぁ。やっぱりさっきのアレが悪かったよね〜。
―回想―
「ハァッ、ハァッ、ハァッ・・・・」
やっと着いたぁ。良かった、オーナーはまだ来てないみたい。
「もぅ、高城君。あのままずっと走るんだもん。」
息も絶え絶えに、私は高城君に抗議する。
「え?急ごうって言ったのはさんじゃなかったっけ?」
意地悪そうな顔をして、高城君は笑いながら言ってくる。
「そうだけど〜〜!!」
「あ、オーナー来たみたい。」
誤魔化された。
キキッ
私達の丁度目の前で、高そうな外車が止まる。するとガチャッとドアが開き、スーツを来たマッチョの外国人が出てきた。
「え?高城君、オーナーが来たって言ったよね?」
「うん。言ったよ?」
「違う人の車なのでは・・・?」
「いや、オーナーだよ。」
マッチョの外国人がスタスタと私達の前に来て、ドアを開ける。すると・・・
「二人とも、良い心がけね。アタシが着く前に待ってるなんて。」
―――ぅぅうおおぉぉなあぁぁぁああああ!!!!
SP!!??SPっすか!?あんた一体何者なんですかーーー!!!???
「オーナー!!??」
薄い紫色の着物を着たオーナーがゆっくりと出てきた。
着物のことは良く知らないけど、一目見ただけで良いものだってことは分かるくらい素敵。帯締めやちょっとした小物も凝っていて、傍から見ると『銀座のママ』だ。男だけど。
「ビックリしました!!その方はSPか何かですか?」
「・・・まぁ、そんなところね。トメ吉って呼んであげて☆」
「オーナー・・・いくらなんでも可哀相ですよ。」
明らかに日本人じゃないのに、しかもこんなにマッチョなのに・・・。よりによってトメ吉・・・
「嫌ですよね?」
私は思い切ってトメ吉さん(仮)に聞いてみる。
すると彼は言った。
「ホンミョウデス。」
「えぇ〜〜!!??ほっ、本当ですか!?」
「なぁに?アタシ、嘘は言わないわよ。」
「へぇ・・・それはそれは。あの私、 っていいます。よ・・・よろしく、トメ吉さん・・・。」
「コチラコソ。」
トメ吉さん・・・。良い人だけど、まっちょ。
失礼なことを聞いてしまった手前、気まずい。しばらくは近づかないでおこう・・・。
「それはそうと・・・。」
「へ?」
なんだろう?
呼ばれてオーナーの方を見ると、物凄い形相でこっちを見ている。
「アンタ、いい根性してるじゃあないの?」
「何がですか?」
ん?なんだろう?私何かしたかな?嫌な予感がする。
「アタシの静に手を出すんじゃないわよーーーーー!!!!」
ドカーーーンッッッ!!!!
いきなり私の横に何かが落ちてきた。よく見てみると、さっき近くにあったゴミ箱?
「・・・っオーナー!!なんて事するんですか!?危ないじゃないですか!!」
当たってたら私、今頃死にはしないかもだけど、確実に大怪我はしていたと思うの。
「いつまでアタシの静と手を繋いでるのよ!?」
「!!??」
そういえば一緒に走ってきてずっと今まで・・・・手を繋ぎっぱなしだった!!
「ごっごめん!!」
「いいえ。」
私はパッと高城君の手を放す。恥ずかし〜〜!!何やってるんだろう、私!!……ってあれ?「いいえ。」ってことは・・・
「高城君、もしかして気づいてた?」
「うん。」
「なんで言ってくれないのよ!?」
「だって、いつ気づくのかなって気になったし。それに・・・」
「・・・それに?」
「さんの手が柔らかかったから。」
「たっ高城君!?」
「キエーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「!?オッ、オーナー!?」
「オチツイテクダサイ!!オーナー!!」
暴れるオーナーを必死に止めるトメ吉さん。オーナーから死に物狂いで逃げる私。そしてただ笑っている高城君。
―回想終了―
「あれじゃ、しばらくは高城君の居る店の中では働かせてもらえないよね・・・。」
しばらくはっていうか、一生ダメかも。車でも危うく、私だけトランク行きになるところだったし・・・。それにしても、オーナーの力は凄かった。まっちょのトメ吉さんを、いとも軽々と投げてしまったんだもの。
恐るべし!!オカマの嫉妬!!
「許してもらえないならせめて、速く終わらせるっきゃないよね!!」
私はさっきの3倍増しの営業スマイルをし、再びメフィストのビラを配り始める。
「お願いしまーす☆」
「メフィストで〜す☆☆」
「カジノがお楽しみいただけマ〜〜ス☆☆☆」
「美少年と美味しいお酒いかがっすか〜〜〜☆☆☆☆」
あれ?段々と言葉がおかしくなってきたぞ。ま、いいか。
しばらくそんな風に仕事をしていた。
うんうん、今日はいい調子。今のところは何も問題は起こしてないわ。もちろん、仕事が始まってからだけど・・・。
「こんばんは〜〜!!メフィストです。」
「よろしくお願いしま〜す。」
「ビラちょうだい。」
きた!!!自分からビラを貰いにくるなんて!!
私は飛びっきりの営業スマイルを、その人にかます。
「はい!!どーぞ・・・!!」
げっ!!
「へ〜〜え。メフィストねぇ。」
何この人!!??
その人は、思わずそう思ってしまうような人だった。
歳は多分、30代前半。長髪ってのはまだ良いわ・・・。けど・・・・・
けど!!!
服装がタンクトップと短パン(陸上選手のような)なんです!!!!
その人を見た瞬間、私の中で、サーっと血の気が引いた。
なになに!!??この人!!私唯でさえ長髪嫌いなのに、タンクトップで短パンかよ!!生足かよ!!!
しかも全く筋肉付いてないし!!私の中で、タンクトップを着る人はナルシストって決まってんのよーーーー!!!
―――いや、偏見だから
私が一人でぐるぐる考えている間に、短パン男は続ける。
「カジノよりは競馬の方が良いが・・・こ〜んな可愛い娘がいるんじゃ、行かなくちゃなぁ。」
そう言うと、短パン男は私の体をじーっと見つめる。
何なのこの人!?何してる人なの!?ってゆうかキモイ!!菌が!!菌が移る!!
―――何気に失礼だな、この主人公。
――どうする?
1、 叫ぶ
2、 攻撃
3、 耐える
―――う〜ん。叫ぶのが一番良いのか?いや、そしたら私、唯の変人だし。耐えるっていうのは、そのまま何されるか分かんないし。あとで泣き寝入りするのはイヤだし!!でもまだ何もされてないのにいきなり攻撃ってのも・・・。え〜〜い!!女は度胸よ!!!
よし!!ここは思い切って魔法で攻撃よ!!
早速呪文の詠唱に取り掛かる
「……星屑よ……」
―――え?いきなり魔法で攻撃なの!?しかもこれって昨日(前回)やった、中位魔法の詠唱じゃないの?たしか結構威力あって、床にクレーターができたんじゃなかったっけ?こんないきなりぶつけちゃっていいのかしら・・・?
「……降り・・・」
「イデデデデッ!!??」
「え?」
突然、タンクトップ男のうめき声が聞こえた。
「!?」
見ると、男の手がひねり挙げられている。
「杉原先輩!?」
「なっ、なんだお前!!?」
「・・・彼女、嫌がってるのが分からないのか?」
突然現れた先輩が私とタンクトップ男の間に入る。なんで先輩がここに??って思うが、聞ける雰囲気ではないのは分かってる。私の場所から先輩の顔は見えないが、その声色とセリフから、相当な表情で男に睨みを利かしている事が読み取れる。
そう。私は今、杉原先輩に護られている。
「いきなり割って入ってくるんじゃねぇよ!!殺されてぇのか!!」
そういうと男は無事な、ブンッと片方の手を杉原先輩に向かって振り上げる。
「きゃあ!!」
先輩が殴られる!!私は恐くて、思わず叫んでしまった!!
「・・・・・・・」
?今、先輩がボソボソっと何かを呟いた気がしたけど・・・?
「うわぁ!!??なんだ??」
急に男が叫ぶ
「何で俺の手、切れてんだ??」
杉原先輩に向かっていた拳が力をなくし、動きを止める。よく見ると、血はあまり出ていないが、少し大きな傷が出来ている。
凄い!!今のってやっぱり詠唱してたんだ。あまりにも短くて、小さい声だったからなんて言ってるか分からなかったけど、それでもちゃんと成功してる。
「魔法で“かまいたち”を起こした。」
先輩は淡々とした口調で言う
「・・・今すぐここを立ち去るか。それとも土の下に埋まるか・・・・選んでもらおうか?」
・・・先輩の声は冬の北風のように冷たく、私も思わず息を飲む。
「・・・・うっ・・・・うわぁ!!!」
すると男は恐くなったのか、大声で叫び、脱兎の如く走り去っていった。
「・・・・さすが陸上選手(勝手に決め付ける)。見事なクラウチングスタートだったわ。フォームも綺麗。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「はっ!!杉原先輩!!」
そうだった!!タンクトップ野郎に感心している場合じゃない。
「先輩!!危ないところを有り難うございました!!」
「いや・・・それより、怪我は無いか?」
「はい!!先輩に助けていただけたので大丈夫です。」
私は慌てて身なりを整える。
「さて、じゃあこんな物騒なところで何をしているのか聞こうか?」
「えっ!?」
ヤバイ・・・そうだよね。助けてもらったんだもん。言わなきゃダメだよね。でも・・・
「せっ・・・先輩こそこんなところでどうしたんですか?まだ制服のままだし。この辺りに用事でも?」
「それはお前が・・・って話をそらすな!!」
だめか・・・。やっぱり先輩、簡単には流されてくれない。
「うぅ・・・バイトですよ。」
とりあえず嘘はついてないよね。
「・・・・本当か?」
「ほっ、本当ですよ!!」
先輩は疑わしそうな目を向けてくる。
「ここでアルバイトさせてもらってたんです。良い客引きになるって。」
「じゃあ何でここなんだ?危ないって事は分かっている筈だろう?!」
「そ・・・それは」
ここはギャンブルの街。色んな人が集まる場所。当然ながら、繁華街として危ない事は十二分に起こり得る。でも・・・・言えない・・・。オーナーに借金があって、返すためにアルバイトをしてるなんて。
「先輩だって!!こんなところ学生が歩く場所じゃない事は分かってる筈です!!どうして一人で歩いているんですか?まさか・・・?」
もっ、もしや一人でギャンブルとか・・・クラブとか?そんな!!杉原先輩に限って!!・・・でも・・・・。
「・・・・・っお前が見えたからだよ!!」
「え?」
先輩の顔が赤くなる。
「学校から帰る途中、高城とが・・・その・・・手・・を繋いで車に乗っていくのを見たんだ。それで、どうしても気になって・・・。すまない・・・。」
「ちっ、違うんです!!高城君も同じ所でバイトしてるんですよ!!」
「高城が?」
先輩誤解してる!!ちゃんと説明しないと!
「はい。それでこの辺りが物騒って言ったオーナーが、いつも私達を車で迎えに来てくれるんです。今日も一緒に待ち合わせに向かっていたんですけど、私が車に轢かれそうになったのを高城君が助けてくれたんです。そしてそのまま気づかずに走っちゃってて・・・。」
恥ずかしい〜〜!!アレ見られてたなんて!!
「そ・・・そうだったのか。」
「でもそれで私達を追ってきてくれたんですか?」
「い!!いや!!なんか着物を着た女性が暴れてたようだったから。」
「そっか。心配してくれたんですね。ありがとうございます。」
「いや・・・その・・・ああ。」
先輩は目をそらして、ツィッとメガネを上げる。耳まで赤くなっているのは何故だろう?
―――先輩!!杉原先輩!!アンタヤバイよ!!見事にストーカーだよ!!
主人公を追っかけてきちゃったんでしょ?しかも主人公気づいてないけど、働いている間ずっと見ていたんじゃないの?間違いないよ!!
でも良いわ。今回だけは許してあげる。だって!!静と手を繋いでたの見て嫉妬したって事でしょ?オーナーが暴れてたのを言ったのだっ
て、明らかに付け足したし。もうこの、オタンコナスメガ!!可愛い〜〜!!
「コホンッ・・・それより・・・。」
「はい?」
先輩が一つ咳払いをして言う。
「言っておきたい事がある。」
「なんでしょう。」
改まってなんだろう?
「さっき、君はあの男に何の魔法を使おうとした?」
「え?」
あの男って、さっきのタンクトップ男のことだよね?
「流れ星・・・ですけど。」
何かいけなかったかな?
「あの魔法は上・中・下。どの位のレベルのものだ?」
「中位魔法・・・です・・・。」
「そうだな。」
何?先輩はいったい、何が言いたいの?
「。俺は安易に魔法を使う事を、あまり良いとは思わない。」
「え・・・?」
その言葉を聞いて、私は
「な・・・んでですか?私、危なかったのに。先輩は安易って言いたいんですか!?」
思わず語尾が強くなってしまった。
だってそうでしょ?私、危なかったのに!!
先輩・・・どうして?
どうしてそんなこと言うの?
私は力をなくし、そのまま地面に座り込んでしまった。
「先輩はあのまま、私が襲われても良かったんですか?」
どうしても泣いているような声になってしまう。だって恐かったんだよ?力だって、男の人になんか敵うわけないし。一人の私を、いったい
誰が助けてくれるっていうの?
「・・・っ違う!違うんだ!!」
先輩が苦しそうな顔で言う。
「すまない・・・。泣かないでくれ、。俺はお前が襲われても良いなんて、絶対に思わない!!」
先輩がしゃがみ、まっすぐ私の目を見て言ってくれる。
彼の手が私の涙を拭ってくれた事で、始めて自分が泣いてしまっていたのが分かった。
「俺が言いたいのはそういう事じゃないんだ。」
とりあえず落ち着けと言われ、私は先輩が貸してくれたハンカチで涙を拭う。
そのハンカチは先輩の匂いがして、何だか私を安心させてくれる。
先輩の風のような、優しくて、とても暖かい匂い。
「すみません、先輩。私、頭に血が上っちゃって。」
「いや、俺こそ悪かった。」
「いいえ・・・。」
「あのな・・・。」
先輩は躊躇いがちに言う。
「俺が言いたいのは、俺たちのこの『魔法』の恐ろしさを知っていて欲しかったんだ。」
「・・・魔法の・・・恐ろしさ・・・」
「あぁ・・・」
ゆっくりと、一つひとつ言葉を選びながら・・・。
「俺たちは魔法を使える。それはもう体の一部として、何かを守ったり、作ったりする為に使う事ができる。ただ・・・皆が皆、使えるわけじゃない。」
「はい。」
確かに、魔法を使える、使えないというのは遺伝であったり、突然変異などで変わってくる。世の中全ての人間が使えるわけじゃない。
「だからこそ魔法を使えない人にとって、使える人は脅威なんだ。“魔法を使える”という事で、何の武器を持たなくても、普通の人と公平ではなくなってしまう・・・わかるな?」
「はい。大昔にもそれで戦争が起こったと、以前にも習った事があります。」
そう、今よりずっと、ずっと前の話。
魔法使いを妬んだ、魔法を使えない人間が起こしたちょっとした悪戯がきっかけで、全世界に広まった戦争。それまで内に秘めた思いが、一気に爆発し、多くの人が涙を流した。
もうあんな事を起こしてはならないと、沢山の人が反戦デモを行い、意見を交わし、協力し合って終わらせた。
「君はまだ魔法についての倫理の授業をあまり受けていないかもしれないが、初等部からこの学園で学んでいる人間は、繰り返し教育を受けている。その位、『人に向けて魔法を使う』ということは重いことなんだ。」
「はい。」
「説教臭くなってしまってすまない。でも、魔法は体に負担をかけるし、そんなに軽く使って欲しくなかったんだ。」
「・・・ごめんなさい。」
止まった涙が、また込み上げてきた。
「ごめんなさい、先輩。私、何にも分かってなかった。ただ、一つの道具としてか見てなかった!!私はあの男の人に言い寄られただけで、実際には触られても居なかったのに、いきなり中位の魔法を使おうとしました!!」
「ああ。」
「叫ぶでも、逃げるでも、沢山選択肢があった筈なのに!!」
「そうだな。もちろん、本当に必要な時は自分の身を守るために、迷わず魔法を使ってもいいと思う。ただ、君にはもう少し、周りを良く見て、ものを判断する力が必要なのかもしれないな。」
そう言うと先輩はとてもやさしい顔で私の頭をなで、「恐かったな」 と言ってくれた。
―――カランカランッ
「いらっしゃいま・・・さん!?」
「高城君・・・。」
私達は一旦お店に入った。今あった事をオーナーに報告する事と、腰を抜かしてしまった私が休むためだ。
そう・・・緊張が解れた私はあの後、そのまま腰を抜かして立てなくなってしまったのだ。
だから・・・・
「!?アンタどうしたのよ!?美少年にお姫様抱っこなんてされて!! キィーーー!!!悔しい!!何でこの子ばっかり!!??」
「イタタタタタ!!」
私は杉原先輩にお姫様抱っこをされた状態で、嫉妬したオーナーにホッペを思い切り引っ張られる。痛いわ恥ずかしいわで、私の頭は今パニック状態!!
「とにかくこっちへ。いったいどうしたの?副会長まで、なぜここに?」
そう言って高城君は冷静に私にイスを差し出してくれ、何が起こったかをたずねる。
「じ・・・実は、かくかくしかじか・・・・。緊張が解けて腰を抜かしてしまったみたいで。」
誰か・・・誰か私に穴を!!穴を掘ってくれ!!
「なるほど。やっぱり女一人を外に居させるわけにはいかないわね。少し考えなくちゃいけないわ。」
いつも直ぐ暴れる人だけど、やっぱり経営者。考え込む姿はやはり大人。でも・・
オーナーがチラリと私を見る
「しっかし・・・」
ニヤリと彼女(彼)が笑う
「二人が車に乗るのが気になって追ってきたなんて、がアタシの店に来た時と同じね。この子と違って暴走はしなかったみたいだけど。」
「・・・暴走したのはオーナーだったんじゃ・・・」
「何か言ったかしら、ちゃん?」
「ナンデモアリマセン。」
恐いよ、オーナー。ニッコリと微笑まないで下さい。
「もう平気なの?さん。」
高城君は私に水を差し出し、気遣ってくれる。こんな時、やっぱり優しいんだなぁって思う。
「うん、大丈夫。先輩に助けてもらっちゃったし。」
「・・・そう。」
あれ?表情が暗い。やっぱり、また心配かけちゃったかな?さっき高城君に助けてもらって、直ぐのことだもん。気をつけるって言っておいて私ったら。
「ごめん・・・ね?また心配かけちゃったね。」
「本当だよ。さっきに続いてまた?」
「・・・うん。」
あぁぁ、自己嫌悪。今度こそ高城君に怒られちゃった。
「本当に・・ごめんなさい。」
しゅんとしてしまう。何だって私はいつもこうなんだろう。その時は用心しようって思うのに、少し経てば、また同じ事を繰り返す。進歩が無い。
「ああ〜〜っごめん!!」
「ぉえ!?」
ビックリした!!なにやら高城君は自分の髪の毛をクシャっと掴み、困った顔をしている。
「違うんだ!!さんに当たるつもりはなかったんだ。ごめんね。俺が責めたいのは、俺自身。」
「え?なんで高城君が責められなくちゃいけないの?高城君は何もしてないじゃない!!」
「何もしてないからだよ。」
「?」
意味が分からない。何で何もしてないから怒られなくちゃいけないのかな?
「・・・さんが危ない目にあっていたのに、俺は店の中で仕事をしてた。ここが危ない町だって分かっていた筈なのに、一人で外に行かせてしまった。何も出来なかったんだ!!それが俺にとって、とても悔しい・・・!!」
高城君・・・・
―――キャー!!キャー!!殺し文句!!奥さん!!殺し文句が出ましたよ!!??どうしよう!!如何したら良いのかしら??こっここここのままゴールイン!?
1、「有難う。とても嬉しいよ。」
2、「大丈夫だよ。心配ないって!!」
3、「私、あなたが好きなの・・・。」
―――って選択肢かよ!?
つか3!!私の心を読んだの?今ここで告白しちゃって良いの?もうハネムーンですか?はいはいはい。テンション上がってきましたよ?うおおぉぉぉ!!!
コンコンッ
『〜〜?』
げっ!!お母さんだ!!
私は慌ててゲーム画面を隠す。ヤバイ!!こんなところお母さんにだって見せらんない!!
だって静が!!静が顔赤らめてるんだもん!!しかも選択肢もゴールイン的なものが混ざってるし。そして、また散財した事を責められたくは無い。
「どっどうぞ」
『入るわよ』
カチャリ
「何?」
『あんた何一人でさっきからドタドタやってるの?五月蝿いから静かにしなさい!』
「ゴメンゴメン。そのうちダイエットにボクシングでも始めようかと思って・・」
そう言いながら私は必死にそこにあった布と体でゲーム画面を隠す。音は既に消した後だ。
『あら、良いわね。その時はお母さんも誘って?最近ウエストが気になってね。でも、暴れすぎて壁とか壊さないでよ?直すの大変なんだから!』
「はいはい。」
パタンッ
・・・・・・・・・・・っ焦ったぁ!!!もう少しでバレる所だった!!
前に朝の五時くらいまでゲームやってたら大きい地震が来て、お母さんにバレて大変だったんだよねぇ・・・(実話です)。慌てて起きてきたら、娘がゲームしてるんだもん。怒られた、怒られた。それ以来私が遅くまでやろうとすると、すぐ止めさせようとしてくる。あんまり興奮してらんないわ。静かに、静かに・・・。
「有難う。とても嬉しいよ。」
―――げっ!!勝手に押されてる!!今の騒動で、いつの間にか決定ボタン押しちゃってたんだ!!なんだよぅ。折角3のゴールインにしてみたかったのに!!勿論ダメな選択肢だろうから、セーブしておいて・・・。あ〜ぁ。まぁ、いいか。三つのうち、1が一番まともっぽいし。2は何度も心配かけてるのに、心配ないって言っちゃったら今度こそだめな気がする・・・。
私は高城君の目を見つめ、なるべくハッキリと言う。
「そんな風に思ってもらえる私って幸せ者だね。」
「あまり、無理はしないで?」
「うん、ごめんなさい・・・。」
にこりと笑うと高城君は安心したのか、微笑み返してくれた。
その時、私の胸が微かにトクンッと高鳴ったのは気のせいだったのかな?
「ところで、オーナーと副会長。何だか静かじゃない?」
「え?・・・そういえば。」
すっかり忘れてたけど、そういえば高城君と二人で話し込んじゃってた。ごめんなさい先輩、オーナー!!初対面の人同士で放置プレイしちゃったよ。
―――放置プレイって。
「オーナー?副会長?何処行ったんだろう?」
私達は二人を探す。おかしいなぁ、さっきまでここに居たはずなのに…… あれ?バーの方に人影かある!なんだ、二人とも居るじゃない
「高城君、二人とも居たよ。オーナー、杉原先・・・」
「?どうしたの、さん?二人は・・・・え!?」
そこで見た光景を、私はずっと忘れない。
だって私達が見たのは・・・
―――え?何があったの?
その時スチルが現れた。そこに現れたのは・・・
キ ス を し て い る 男 と オ カ マ
―――母さん、私、今まで色々な乙女ゲームをやってきたけど。
女 の 子 が 男 の 子 を 落 す ゲ ー ム で 、 男 の 子 同 士 が く っ つ い て る 所 な ん て 始 め て 見 た よ 。
エピソード9に続く……の!? ねえ!? 青さん!!!Σ(|||´■`|||;;Σ)!!!→、心の叫び……
うおーい!!こんなところで代わりやがってぇ!!(爆笑)私は一体どうすりゃいいんだよーーーー(>_<)前代未聞のバトンタッチ劇ですね、コレ。
マジで続き書く自信ありません……o(llllll _ _llllll)oショボーン