エピソード4:『男と女とオカマ』
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
交差点を抜け、駅前の車道に向かう。
多分ココでいいんだと思うんだけど・・・
「あ、さん! こっち」
「高城君っ……ごめんね、遅くなって」
「ううん、大丈夫だよ。まだオーナーも来てないしね」
「良かった……」
私は胸を撫で下ろす。
オーナーが来ていたら、半殺しにされていたところだ。
考えるだけでも身震いしてしまう。
「ははは、そう硬くならなくて平気だよ。オーナーもああ見えて、本当はすごく優しい人だから」
それは高城君だからです……という突っ込みは、あえて心の中にとどめておく。
「でも、私にバイトなんて務まるかな……」
「大丈夫だよ、2週間しかないしさ。そんな難しいことはやらされないと思うし」
「うん……頑張らないと」
「一緒に頑張ろう」
そう言って微笑む高城君。
改めて見ると、やっぱり相当カッコイイと思う。
サラサラの黒髪
深海色の瞳。
整った顔立ち。
どれを取っても、そこらのアイドルに引けをとらない。
モデル並みの容姿を誇る、フィーナルの期待の星。
何かホント、出来すぎてるよね・・・。
――あ! 桃色のフィルターが高城にかかってる!! 主人公のビジョンなわけね……。
「さん?」
「え、ああっ、ごめん」
こんなスゴイ人と一緒にバイトが出来るだけでも、実はスゴイラッキーなんだよね。
あー、私ホント最近生活が目まぐるしいわ・・・。
――プップップッーーー
「あ、オーナーが来たみたいだよ」
「うっ」
思わず身構えてしまう。今日は一体、どんな嫌味とお小言を言われるのだろうか(姑かよ)
――ういぃぃん
車のウインドウが開き、どこから見ても綺麗な(でもど派手)お姉さんにしか見えないオーナー(オカマ)が顔を出す。
「おはよ、静。遅くなって悪かったわね」
「いえ、大丈夫ですよ」
「そう? ……フン、アンタもちゃんと来たのね」
「は、はい……頑張りますので、宜しくお願いしますっ」
精一杯の気持ちを込めて、頭を下げて挨拶。
「……やる気はあるみたいね。いいわ、二人とも早く乗って」
あれ? 特に突っ込まれなかったよ??
私が面食らっていると、高城君に小声で囁かれた。
「ね? 大丈夫だったでしょ」
「う、うん」
「何してるの二人とも! 早く乗りなさい」
「は、はい!」
オーナーって、実は思っていたよりも良い人なのかもしれないな。
――ていうかよ、お前がいきなり魔法ぶっ放しちゃったんだしね。ありゃ誰でもキレるわよ・・・。
「さ、早く支度してね静。もうすぐ開店よ」
「はい」
Mephisto(メフィスト)に着いた途端、オーナーは高城君を急かす。
時刻は午後5時半。開店は18時だ。
「じゃあさん、また後でね」
「うん!」
ロッカーへ駆け込んで行く高城君を見送っていると、オーナーが言った。
「さて……アンタには、何をやらせようかしらね」
「……もう雑用でも何でもやらせていただきます」
頭を垂れてそう呟くと、オーナーは苦笑した。
「フフフッ、殊勝な心がけじゃないの。ま、もう昨日のことは水に流してあげるから、アンタももう気にしないこと! いいわね?」
「えっ」
思わず顔を上げる私に、オーナーはびしっと言い放つ。
「勘違いしないでよ! だからって、ちゃんとバイトはしてもらうからね。みっちり、しごいてあげるから、覚悟おし!!!」
「ひぃっ……」
「おーほほほほっ。久々に楽しくなりそうだわー」
「お、鬼……」
「ん? 何か言った?!」
「いえっ、何でもございません」
やっぱりオーナーは怖いです。
でも、何だか私も、少しだけ楽しくなってきたような気がします。
少しだけ……。
――カマ、中々イイ奴じゃないの。うんうん。主人公はそのうちこのカマにハマっていくんだわぁ。M気が目覚めるとか?
ま、どっちにしろイイ男なことには違いないんだし。ま、逆ハー狙いでコイツも落としてみよっとw
「じゃあとりあえず、これに着替えて」
渡されたのは、バーテンの格好だ。
白いワイシャツに、黒い短めのネクタイを合わせる。
黒いタイトミニのスカートに、足首くらいまでの長い黒いサロンを巻き完成。
あ、黒ストッキングも履くみたい・・・。
「よしっ、こんなもんでいいかな?」
鏡の前で、全身をチェックする。
ネクタイよーし。
サロンはこれでいいかな?
髪の毛は一つにまとめておこうっと。
うん、何とかそれらしく見えてる……ハズ。
「オーナー・・・着替え終わりました」
「ん?」
恐る恐る扉を開け、オーナーに見せる。
無言のまま私を見るオーナー。
思わず、後ずさりしそうになるほど、私は気まずいんですが……。
「あ、あの……」
「へぇ……中々様になってるじゃない」
「へ」
「これは……ウフフ、イイ客引きになりそうよ」
にやりと不敵な笑みを浮かべたオーナーに、私は引きつり笑いを浮かべるしかなかった。
――ぬおっ、何でここでスチル。てかカマ、お前ヤバイ美形だな。お前で十分客引きできんだろうよ。あと静もいるんだしさ。主人公用なしだっつーの。
「とりあえず、店出るわよ!」
「えぇ!? 私もですか?」
「もちろんよ! アンタ、実は結構スタイル良かったんだじゃない。これなら、男の客を呼び込めるわ!」
「えぇ!? 何言ってるんですか! 私はトイレ掃除とかでいいんです! フロアなんて無理ですよ!!」
「えぇーい! つべこべ言わずにさっさと来る!! そもそもアンタに拒否権なんてもんは無いのよ!!!」
「そ、そんなぁ……」
私は無理矢理オーナーに引きづられ、結局初日からフロアに出ることになってしまった。
「あ、さん」
「静、今日からこの子の面倒見るのアンタの仕事ね。適当に手伝わせてちょーだい」
「え、フロアってことですか?」
「そうよ。ま、何かあったらすぐヘルプに来るから、とりあえず静に任せるわ」
「分かりました。さん、そういうことだから」
「え、あ、うん……」
「じゃあ静、後はよろしくね。あと10分で店開けるから」
「はいオーナー」
オーナーが出て行った後、高城君は締めかけだったネクタイを締め直す。
「フフ、オーナーも思い切ったことするな……さん、フロアの仕事は結構大変だよ?」
「うん……私、本当に不安なんだけど……」
私が俯くと、高城君は慌てて言った。
「ご、ごめん。不安煽った? でも大丈夫! 俺の後について、少し手伝ってくれるだけでいいから」
「でも、私……」
「大丈夫、俺がついてるから」」
――どきゅーーーん☆(胸を射抜かれた音)ぐはぁっ!!!!!!!
きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!
「俺がついてるよ」攻撃来たーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー☆☆☆
「へっ!!/////」
私は、思わず顔を上げて、まじまじと高城君を見つめてしまった。
彼は、いつも通りの笑顔を浮かべている。
ユニフォームがばっちし決まっていて、本当に非の打ち所の無い彼。
そんな彼に「俺がついてるよ」なんて言われてしまった私は、もう何ていうか、どうにもならないですよ……!?
「が、頑張ります……/////」
「うん、頑張ろうね」
ダメだ私。絶対ミスしそうです……。
「さて、じゃあ開店準備を手伝ってもらおうかな。さん、こっちに一緒に来てくれる?」
「は、はい!」
ああ、神様。私、今日何も起こさずに帰れるかとてつもなく不安です・・・。
――そうだろうね……羨ましいぜ、主人公。私が代わってやりたいよ!!! うわーん! 私も静と一緒にお仕事しーたーいーーー!!
――開店……
と同時に、沢山のお客さんが入店してきた。高城君は慣れた様子で「いらっしゃいませ」と挨拶をしている。私もそれに倣い、頭を下げた。
「フフ、いい感じだよ。その調子で俺の真似をしてね」
「う、うん」
「やあ静、久しぶりだね」
突然、紳士風のお客様が高城君に声を掛けてきた。
「平松様、お久しぶりです」
「ははは、相変わらずいい男だな、静は」
――え!? これってあれですか!? 男娼を買――(自主規制)
「平松様には敵いませんよ」
「ふふ、切り返しも上手くなったもんだな。今日はビリヤードをやりに来たんだ。良かったら後で相手をしてくれないか?」
――……本当にビリヤードのお相手だけ…? ねえ、静をどうにかしようってんじゃないわよね!? このじじい。
「ええ是非、お相手をさせてください」
「ああ、楽しみにしてるよ。じゃあまた後で」
「はい。ごゆっくりお楽しみください」
そう言って頭を下げた高城君に、私も慌てて頭を下げる。
「以前、よく通ってくださったお客様だったんだ。久しぶりに来店されて、驚いたところだよ」
「そうなんだ・・・」
それよりも、高城君の応対に私は驚いていた。
言葉遣いもそうだけど、何よりもあの応対の仕方。
相当慣れてないと出来ないはずだ。
とてもじゃないけど、いつもの高城君からじゃ想像もつかない。
いや、すごい似合ってるけどね……。
「そういえば……さん」
「え?」
「すごい似合ってるよ、その格好」
「えっ?!」
思わず耳を疑うが、高城君は続ける。
「オーナーがフロアに出した理由、想像付くな……」
「え、えぇっ……」
――『アンタ中々様になってるじゃない』
『これはイイ客引きになるわ』
オーナーの言葉が思い出される。
あ、高城君に何か返事しないと……
1、その理由を尋ねる
2、「私が可愛いってこと☆?」とぶりっ子してみる
3、「え? 高城君のボディーガードだよね?」
――何じゃこの選択肢は!!! なめとんのかーーー!? てかよ、まともなの1だけじゃん。他はおかしいだろどう考えてもさ。
2は……あり得ないな。でも、高城はに似てると考えると、案外ぶりっ子に弱かったり??
いやいや私、一体何を考えてるの! そもそもゲームの世界の話なのに、とか出てくるのはおかしいでしょ!? もーー嫌!!
でもなぁ、自分よりも遥かに優秀な方のボディーガードなんて、冗談でも言いたくないし・・・。
あーーーーもういいや! 2!! 2に決めた!!! えーーーーーーーーーいっ。ぽちっ
私はつい調子に乗って、手を前で組んで言った。
「それって、私が可愛いってこと?☆」
語尾を上げると同時に、首を傾けて上目遣い。うん、一度こういうギャグやってみたかったのよ。
「えっ」
案の定高城君は、鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔をしている。……ちょっと人選誤まったかしら・・・?w
「……」
そのまま何も言わない高城君に、さすがの私も焦った。やばい!! 絶対引いた!!
慌てて取り繕いを試みる私。
「な…なーんてね、あははは。冗だ――」
「うん、可愛いよ」
……はい?
今何か言われた……?
「あの……ちょっと今、幻聴が聞こえたんですけど……」
「さんは可愛いと思うよ?」
「What!?」
思わず飛退く。いや、あり得ないんですけど。
「はは、英語? さん、発音いいなぁ」
いや、そんなところじゃないですから。発音とかないですから。てかアナタ、爽やかすぎですからーーー!
「た、高城君、あの、私ホントふざけて言っただけだから! ごめんなさい、ホント馬鹿なこと言って!」
もうわけも分からず謝ってしまった。
だってさ、もう謝るしかなくね? これ。
「いや、本当可愛いよ。いつもとは違った感じだったけど……ふふ、俺はそういうさんも結構イイかなって思うよ」
「ぶはっ!?」
思わず吹き出した。頭の先からつま先まで真っ赤になってると思う。へそで茶を沸かせちゃうよ! あーヤバイ、頭ショートしてきた……。
「あはは、さん。顔、真っ赤だよ?」
「だだだだ、だって、だって、だって!!!」
「はは、さんって面白い子だなぁ」
いや、面白いのはアンタだけですから。私今、ちょっと軽く死にそうですから。
――静……アンタ、ホントに!? てか何このゲーム!! 制作責任者って誰!? 何でこんなに似てるの!?
もしかしてモデルって……なわけないけど!! もう何これ。ホント、ワケ分かんない!! 私やばいよ!!
「た、高城君……私、ちょっとお手洗いに……」
眩暈のする頭を抱え、絞り出すように尋ねる。とにかく一旦、頭を冷やさないと……。
「あ、お手洗い? あそこの突き当たりを左だよ」
「ありがとう……ちょっと行ってきます」
天然な高城君とお仕事……
色んな意味で、心臓がもたなそうです……私。
この後は、案の定最悪だった。
お皿は割るわ、お客に水はかけるわで……。
もちろん、オーナーにはお説教を小一時間くらいましたよ……とほほ。
――『!! アンタって子は、何回言ったら分かるの!? お皿何枚目だと思ってるの!?』
『罰として、明日からずっと、開店前は外でビラ配りね!! 全部裁けるまで、入店禁止! いいわね?』
ビラ配りの刑に処せられました……。はぁ……。
高城君が色々フォローしてくれたけど、何だかただ迷惑かけてるだけって感じで。
「……このままやってけるのかな〜」
微妙な気持ちのまま、私の初バイトは終わったのでした。
――家。
「はぁ……今日はホント疲れたなぁ」
今日は一日色んなことがあったな。
朝は――薫ちゃんに……告白されたんだっけ。
放課後は――杉原先輩とメガネ屋に行って……それで、先輩が助けてくれたりして……。先輩、カッコよかったなぁ。
夜は――高城君とオーナーとアルバイト。初バイトだったけど……疲れたなぁ。というか高城君って、ホント天然だ……。
セーブする??
――イエス。もちろん。てかこれ、逆ハールートいけてるのかな?
「今日は、皆と仲良くなれた気がするよ」
――お、このコメントこそまさしく皆の好感度が上がった証拠かね? やったー☆
♪〜♪〜♪
「あ、優子から電話だ」
――え? こんなイベントもあるの??
「もしもし、優子?」
「、こんばんわー」
「こんばんは☆」
「今ね、テレビで――」
「うん――……」
〜楽しい時間が流れて〜
「じゃ、そろそろ切るね」
「はいはい、また明日ね」
「あ、。そういえば、アンタ。今、宮田薫といい感じでしょ?」
「え?!」
「ウフフ、何か噂になってるわよー?」
「えぇっ!?」
「年下狙いかぁw あ、そうそう。部長とも仲良いんだって?」
「えっ!?」
「フフ、部長もやるわねw これをきっかけに、是非部活に入部してよ〜!」
「あ、あはは。考えとくね」
「お願いね! あ、そうそう。ちなみに、宮田薫はのこと『ちゃん』、部長は『』って呼んでるみたいよ」
「へぇ、そうなんだ」
「じゃ、また明日ねー! お休みー」
「うん、お休み」
――おー、情報屋の友人からの電話。もしかして、ある程度好感度が上がってくると、こうやって電話で教えてくれるのかも!! 便利。
「さて、もう寝よう……お休みなさい」
――よし、今日はここまでで終わろうっと。