あれから数日、私たちはまた日常に戻っていた。
 テストの結果は、まあまあだったけど、学年代表には程遠くて……まあ、選ばれるわけもないんだけど。

 薫ちゃんはと言えば、やっぱり肋骨にひびが入っていたみたいで……今は療養中。近くの病院に通院している最中だ。
 そして私は、彼の付き添いをする日々を送っている。

「大分良くなったけど……やっぱりちょっと、痛むなぁ……」
「仕方ないよ。でもさ、お医者さんも言ってたじゃない。あと少し我慢すれば、もうすっかり完治するでしょうって」
「まあね。早く治したいよ、マジで」
 薫ちゃんはそう言って、私を抱き寄せた。
「……早く治さないとオレ、欲求不満で死にそう」
 ふわりとかかる熱い吐息。
 ぞくりと背筋が震える。
「……で、でもさ、本当に残念だったなぁ」
「何が?」
「だって薫ちゃん、折角フィーナル祭の学年代表に選ばれたのに。肋骨にひびが入ってなかったら、出場できたのになって」
「……そんなこと言ったらちゃん、静先輩が落ち込んじゃうんじゃない?」
「せ、静のせいにしてるわけじゃなくって……」
 慌てる私に、薫ちゃんは笑みを零す。
「アハハ、ウソだよ。ホントは、ちゃんがオレの心配してくれてすっげえ嬉しい。それに……静先輩にはちょっと感謝してるし」
「え?」
 意外な言葉。
 薫ちゃんは私を抱き寄せたまま、静かに言う。
「……代表に選ばれたのは、オレの力じゃないから。ちゃんから奪い取った力で選ばれても、何の意味もないしさ」
「薫ちゃん……」

 彼はもう、私から力を奪うなんてことはしない。
 きっと、二度と。

「それに、喧嘩で負けたオレの方を、ちゃんは選んでくれたわけだしv 男は強いだけじゃないって感じ?」
「……ぷっ、何それ!」
 思わず噴き出した私に、薫ちゃんも笑った。

 ああ、私はこの笑顔が好きなんだ。
 見ていると、こっちまで楽しくなるようなそんな笑顔が。

 しばらく笑い合った後、薫ちゃんはそっと私に呟く。
「治ったその時は……おとなしくオレのモノになってね?」
「薫ちゃん……っ……」
 私は思わず薫ちゃんの胸を叩いてしまった。
「いってぇ!!」
「きゃっ、ご、ごめん!! つい……」
「いててて……ちゃんってば、ホント容赦ないんだからー」
「薫ちゃんがそういうことばっかり言うからでしょ! もうっ……んっ!?」

 言葉の最後は、薫ちゃんによって呑み込まれる。
 茫然とする私の耳元で、薫ちゃんが甘く囁く。

「次はキスだけじゃ済まさないから」

 真っ赤になった私に、薫ちゃんは悪戯っぽく微笑んだ。

――――( ゚∀゚)・∵ブハッ!! あーあ、薫ちゃんはキス魔だなー! でも色々萌えるから許す。何か台詞が萌えるから許す。ていうかこれ、もうエンディングなのかな!?


 これからきっと、もっとドキドキすることがある。
 楽しいこと、嬉しいこともきっと沢山ある。
 そのたびに私はもっと、この笑顔を好きなる。
 今よりずっと、もっともっと、好きになるんだ。

「……薫ちゃん」
「ん?」
「大好き」


 ずっと一緒に生きていきたい。
 いつまでも、この笑顔と共に――――。


――――ちゃらら〜♪
 ときめいて☆魔法学園! 
〜Staff〜






――――エンディング!!!!(号泣)つ、ついにここまで辿り着いたーーーー!!! やりましたーお母さん!! 小悪魔ヤンデレを落としましたぜーーーーーーっ!!!!! わーいわーい!!!ァ '`,、'`,、'`,、'`,、(´▽`) '`,、'`,、'`,、'`,、 長かったよぉ……!! でも、中々薫ちゃんルート、良かった気がしてきた!! ヤンデレありで、黒豹変とかビビったりしたけど、でもまあ最終的にはハッピーエンドになって良かった良かった・:*:・°・:*。・:*:・°'☆♪
ああ、感動した!! 何ていうか、シナリオにじゃなくて、
私に?(おい) よくここまで投げ出さずに頑張ってプレイしたってことに感動したよ!!。・゚・(ノД`)・゚・。(自画自賛)万歳私! ばんざーい!!
 でも……あの後、静とかオーナーとかどうなったんだろ……。まあ、落としたキャラ以外は、基本いつの間にかフェードアウトだよね、乙女ゲーって(ホントに!)いつの間にか、あれれ? どこ行ったー!?みたいな展開ありがちだよね。まあ、それがイイところでもあんだけど。あくまでも、主人公×相手の世界に入り込むっていう感じで。
他の負け犬はどっか行け的な非情さが、イイんだよ(最低)
……ん? あれ、まだ続いてる……!?






――――二年後

――――おおっ、お約束、おまけ的な後日談がついとるのね!!

「えぇっと……確か今日の講義はこっちで……ってあれ? 何でここの道に出ちゃうの?!」
 
 この4月から私もついに大学生。
 運よく、まほアカの大学部に進学することが出来たんだけど……広大な敷地に、私はいつも迷子になっていた。
 高校の時は、校舎が一つしかなかったら良かったんだけど、大学は講義ごとに建物が全然違って……もうどこよここは!!(泣)

「お姉さん、迷子ー?」
「え?」

 気付けば私は、高等部の敷地に迷い込んでしまっていたようで。
 数人の生徒たちが私を囲んでいる。
 こ、こいつら……不良?

「へえー、結構可愛いじゃん。大学の人?」
「ねえねえ、暇なら俺たちと遊んでくれませんかー?」
「お姉さん、ボク達に色々教えてよ♪」

 ヘラヘラと笑いながら肩に回された腕に顔を顰めながら、私は言った。

「君たち、まほアカ高等部の子たち? 今、授業中でしょ。こんなとこでサボってて平気なの?」
「べっつにー。授業なんてかったりーし。それにオレら、これでも結構エリートで通ってんの!」

――――ボワッ!

「きゃっ」
「驚いた? オレ、炎使いのエリート♪ お姉さんもさ、あんま生意気なこと言っちゃうと、その綺麗な服、焦げちゃうかもよ……?」
「ちょ、ちょっと……やめてよ!」
「おい、お前! 氷で縛っとけよ」
「きゃっ、ちょ、やめなさい!!」

 身体を、氷の枷で拘束される。
 身を捩るも、炎を顔の前にチラつかされ、思うように動けない。

 もう、何で朝からこんな目に遭わなきゃいけないの〜〜っ!!
 思わず、攻撃力最大魔法の詠唱を始めようとした瞬間――――。

「――――お前ら、何やってるわけ?」

 怒気を孕んだ低い声が響き、目の前が真っ赤に燃え上がる。
 次いで響く、喚き声。

「うわっ!? な、何だ!!」
「あちっ!! げっ、服が焦げてる!!」

 ゆらりと炎が揺れ、間から見えた姿に私は目を見開いた。

「誰だよアンタ!! 邪魔しやがって」
「てめえっ!」

 殴りかかろうした男をさらりと交わし、彼は静かに言った。

「女の子相手に魔法使って乱暴しようとするなんて、お前ら全員退学」
「うっせーな! てめえ、何様のつもりだよ!!」

 その言葉に、彼の瞳が紅く強く輝いた。

「お、おいお前……もしかしてこの人……」
「あ? 何だよ、何ビビって……!?」

「威勢がいいのは悪くねえけど、お前らはやり過ぎだ」

 カッと、周囲の温度が一気に上がり、パチパチと火の粉が舞う。
 彼――――薫ちゃんは、薄く微笑んで言った。

「地獄の業火を味わえ――――煉獄」

――――グワワァァァアアアアアァアアアァアアアアァァッ!!!!!!

 彼らへ向かって、炎の渦が生き物のように向かっていく。
 彼らはなすすべもなく、そのまま炎に呑み込まれる。

「ぎゃぁぁっ!!! 熱い!! 死ぬぅっ!! すいません、すいません!!」
「こ、殺さないでくれ……!! 頼む!!」

 冷たい瞳を向けたまま、薫ちゃんは彼らに向かって笑い掛ける。

「安心しろよ。一応ここは学校内。オレは校則遵守の立場にいるからさ。殺したり出来ないの」
 顔は笑っているけど、言ってることが無茶苦茶怖い……!!
「だからさー、お前らは命拾いしたってわけ。良かったな」
 息も絶え絶えになりながら、不良の一人が問う。
「アンタ……一体、誰……」
 すると、その仲間が泣きそうになりながらその男に怒鳴った。
「誰じゃねえって!! お前、この人は……」
 その怯えように満足したように、薫ちゃんはにっこりと笑った。

「宮田薫センパイ。現、生徒会長サマだよ」

――――ぐはぁ!!( ゚∀゚)・∵ブハッ!! 薫ちゃんが生徒会長になっとるーー!!(嬉々)

 その笑みに、私は魅入られてしまって。
 不良たちは真っ青になって、その場で震えていて。
 炎がすっかり消えた頃には、不良たちの中に、私たち二人だけ無傷で立っているという、何とも不思議な構図が出来上がっていた。

「あ……もしかして貴方も……去年の生徒会役員だった……?」

 不良の一人が、震えながら私に向かって言う。
 私はにっこり笑って言った。

「あら、覚えてくれてた? ふふっ、元生徒会役員のです」

――――主人公、お前も生徒会に入ってたのかよ!! さしずめ会長は静だったのかな??(静に未練)

「宮田会長の彼女さんって噂……マジ――――ぎゃっ!?」
 薫ちゃんが、座り込んだ不良の隣で、炎を塊を浮かべている。
「そう。お前はオレの大切な可愛い彼女に手を出そうとしてたの。これ、大罪。死刑確定くらいの勢い。分かるよな?」
 がくがくと、首を振る不良クン。
「まあ、お前らまだ1年と2年だろ? 今日だけは許してやるよ。とっとと授業に戻れ」
「は、はひっ!!」
「但し……次にまた、授業中にこんなことしてるの見掛けたその時は……」
 炎が、猫のような形になってうねりを上げた。
「跡形もなく消し潰すからそのつもりでいろよ?」

「「「す、すいませんでした!!!!」」」

 不良たちは、逃げるようにしてその場を去って行った。
 
「……さて、今度はこっちにお仕置きしなくちゃな」
「え!? な、何でよ」
「だってってば、いくら教えても、何度言っても、一向に方向音痴癖治らないし。そのせいで、今だって襲われそうになってるし」
「こ、これは不可抗力だよ! そ、それに、こんな奴ら、私一人で何とか出来ちゃうも――――んっ」
 私の言葉を遮るように、薫ちゃんは私を抱き締めた。

 2年前のあの頃は、まだ私と同じ目線だったのに。
 抱きすくめられた先には、しっかりとした胸元があって。
 最近私は、薫ちゃんにドキドキしっぱなしだった。

「……ごめんなさい。心配掛けて」
「……そんな風に謝られたら、許すしかないじゃん」
 拗ねたような声に、私は冗談ぽく言う。
「いつも見回り御苦労さまです、生徒会長様」
「ったく……」

 見上げた先の精悍な顔つきに、ドキドキが止まらないのは私の方だ。
 私を見下ろした彼は、困ったように笑った。

「……マジで頼むよ。こんなんじゃオレ、職権乱用して大学部に入り浸りたくなっちゃうよ」
 その言葉に、今度は私の方が困ってしまった。
「ダメ! まほアカの生徒会長って、すっごいステータスなんだから。逆に大学部なんて来られたら、私の方が心配だよ」
「……何それ? それってもしかして、妬いてるってこと!?」
 嬉しそうに目を輝かせる恋人に、私は拗ねたように頬を膨らませた。
「当たり前でしょ! 薫ちゃん、自分の人気分かってないの!?」
 何だか立場が逆転してるけど、それどころじゃない。
 薫ちゃんは、おどけたように続ける。
「いやいや、まあそれなりにはあるって知ってるけどさ。でも、ちゃんに妬いてもらえるなんて、感激しちゃって♪」
「もー!! 薫ちゃんのバカ!!」
 ポカポカと薫ちゃんの胸を叩き、私は後ろを向いた。
 すると、ギュッと後ろから抱き締められる。
「ごめんごめん。もうホント、可愛いんだから」
「そんなことばっか言って! 年上をからかうんじゃないのっ/////」
「……待ってて」
「え……?」
「きっとすぐに、ちゃんに追いついて……追い越してみせるから」
「……」
ちゃんが、全てオレに委ねたくなるくらい……大人のイイ男になってみせるからさ」

 回された腕に、力がこもる。
 きゅっと音がするくらい、胸が締め付けられる。

「……ずっと待ってるからね」

――――スチルキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!! めっちゃ薫ちゃんカッコイイんですけど……!! 主人公を後ろから抱き締めてる、この身長差に果てしなく萌える( ゚∀゚)・∵ブハッ!! うっはーーー!!! 薫ちゃん、めっちゃ大人びたなぁ!!! なんちゅーかお姉さん、ホント感無量っす。・゚・(ノД`)・゚・。 あうあう、薫ちゃん最高だよ!! アンタ最高だよ!!!


 本当は、もう十分なんだよ。
 でも、敢えて私からは言わない。
 薫ちゃんが本当の意味で、自分自身を認められるまで、ずっと待ってるから。

 いつか、自信満々で私に「オレに全て委ねて」って言ってくれる日を、ずっと、ね……?


 Fin.

『Ending---ずっと』


 ゲームクリア、おめでとうございます!!
 このゲームは、マルチエンディングです。
 これ以外にも、沢山の展開があなたを待っています。
 是非、違った展開もお楽しみ下さい。

 ☆サウンドルームが開きました
 ☆CGルームが開きました
 ☆イベントルームが開きました
 ☆ヒントコーナーが開きました

 ではでは、引き続き『ときめいて☆魔法学園!』をお楽しみください。


――――おぉっ! エンディング終わった!!(*^ー')b ん……? ヒントコーナー?? 何だそりゃ。とりあえず、今日はこのヒントだけ見てから止めるってことで。
 あ、タイトル画像が、薫ちゃんになってる……!! しかも、めっちゃカッコイイんだけど!!
 白薫ちゃんと黒薫ちゃんが上下逆さまで映ってる!!(分かりますかね?この構図w)トランプみたいな、アレですよアレ!! ギャーッ、なんかもう、ホント薫ちゃん萌える〜〜〜〜(´艸`)
 で、ヒントコーナーね。よし、ぽちっとな。



「皆さん、ときめいて☆魔法学園!をプレイしてくださって、ありがとうございます。フィーナル国立魔法アカデミー高等部教師、野中です」

――――きゃーっ! 野中ティーチャーだ!! ヒント部屋は野中先生ご担当っすか!?

「そして、この部屋に来ていただいているということは、貴女はもう、一度ゲームをクリアなさっているということですね? おめでとうございます」

――――いやー、ありがとうございます!☆

「以下の項目から、知りたい内容を選択してくださいね」

1、エンディングについて
2、キーシナリオについて
3、その他

――――とりあえず、上から順に聞いていこうっと☆

「エンディングについて、ですね? まず、このゲームには沢山のエンディングが用意されています。数にして……50程度、でしょうか」

――――多っ!!( ゚∀゚)・∵ブハッ!! そんなあんのかよ!?

「でも、全てが良いエンディングだというわけではありません。中には、バッドエンドと呼ばれるものや、悲しいものもあります」

――――えぇ……もう既に、一度バッド見ましたよ……涙

「是非、色々試してみてくださいね。ある程度エンディングを集めると……くすっ、イイことがあるかもしれません」

――――な、何ですかそれ!! いいことって何!? ……ああ、これだけかぁ。くっそー、次2をぽち!

「キーシナリオについて、ですね? このゲームには、いくつかのキーシナリオというものがあります。このキーシナリオは、ある条件を満たした時に発生するシナリオで、これによってエンディング、または各ルートに大きな影響を与えます」

――――ふむふむ、それで?

「キーシナリオを通った場合、通常シナリオだけでは到達出来ないエンディングや、攻略出来ないキャラを攻略出来るようになったりします。キー、つまり『鍵』の役目をそのシナリオが果たすのです。各キャラ同士の過去の因縁や、意外な接点などが明らかになったり。是非、何度もやり込んで、色々試してみてくださいね」

――――なるほど。何となく分かるような気がする。多分、楓先生とカマとかだよね? 薫ちゃんルートなのに、あの二人出張るなぁ……って思ってたけど、あれがいわゆる鍵だったのかも! じゃあ何だ。1週目じゃあの二人は落とせなかったのか。そういうことならもしかして、薫ちゃんのさっきのエンドも、お兄さんフラグ立てたり色々したからこそ出来たエンディングだったのかも!? なーんか燃えてきた!! よし次、最後その他!

「その他……ですね。じゃあ、貴女だけにこっそりとお教えしましょう」

――――ドキン!! 先生、その囁きはちょっと反則です!!

「このゲームは、大きく分けて二つの分岐があるのにお気付きでしょうか? 比較的穏やかなルートと、波乱万丈……場合によっては、貴女にも危険が迫るようなブラックなルート。物語の中盤までの選択で、どちらかに分岐していきます」

――――や、やっぱり……!! 薫ちゃんとか、逆ハー狙いで途中蔑ろにしたり、キーシナリオ出し過ぎたせいで、きっとブラック編へ行っちゃったんだろうなぁ(;´▽`lllA``  まあ私としては、黒い方が好みだったりするからいいけど(笑)あれ、でも静も真っ黒だったよね……? 私って、何か無意識のうちに、真っ黒い選択肢ばっかり選んでたのかしら……(汗)
 
「キャラによって、内容は様々ですが……ごほん。まあ、その……かなり危険な状況や関係に陥る場合があります。ですので、出来る限り穏やかな日々を過ごしたい方は、なるべく柔らかい選択肢を選ぶことをお勧めします」

――――……もう遅いですよ、野中先生(´∀`)でも、ということは……野中先生! あなたもブラックになったりしちゃうんですか!? そんな穏やかな顔で迫ってきて、実は豹変しちゃう系なんですかぁ!?

「え……僕、ですか? ……フフ、それは、プレイしてからのお楽しみです」

――――( ゚∀゚)・∵ブハッ!! 何かエロい!! そこはかとなく『豹変オーラ』が漂ってます!! ぎゃー、何か野中先生、ヤバイです!!

「あぁ、そろそろお別れのお時間のようです。次は是非、本編の中でまたお会いしましょう。……それでは、また」

1、帰る
2、もう一度聞く

――――いやー、何か超満足した!! お腹一杯です私(*´3`) 今日はこの素晴らしき想いを胸に眠りにつきたいと思います。グッナイ――――

――――♪ ♪ ♪

 ん? こんな夜中に電話!?
 しかも知らない番号だし……何?

「もしもし……」
「もしもし、ちゃん?」
「アンタ……A!?」
「声だけで分かるなんて、俺たちも仲良くなったなv」
「仲良くした覚えなんてない!!」

 
何でコイツから電話が掛かってくるんじゃ!!
 イライラし始めた私に、Aは相変わらずの口調で言う。

「あのさ、アンタもしかして、週末のアレ、行きたいとか思ってるだろ?」
「週末のアレ?」
「アレだよ、アレ」

 一瞬、脳裏にチラついた場所を掻き消し、私は冷静を装った。

「な、何のこと? 全然意味分かんないんだけど?」
「まーたそうやって隠そうとする。無駄だって言ってんのに」
「何が無駄なのよ!! 一体何!? はっきり言え!!」
「だからさ、オタクの祭典あるんだろ?」
「( ゚∀゚)・∵ブハッ!!」
「アンタ、一々反応が面白いよなぁ」

 Aの言葉も、右から左へと出ていく。

 ああ、そうなのよ!
 今週末は、私が行きたくて行きたくて、でも一緒に行ける人がいなくて断念せざるを得なかった、あの祭典があるんです〜〜〜〜!!!
 一人で行っても平気だろうけど、流石にその勇気はなく。
 夏コミくらいの規模なら辛うじて一人でも行けるかもしれないけど、秋の今(連載して初めて明らかになる季節w)に開催されるのは、
『乙女ゲー専門イベント』、トメ●ットなのだ。一人で行くのはとっても憚られる……。いや、楽しいかもしれないけど! でもでも、そこまで踏み切れないジレンマが〜〜〜〜〜。・゚・(ノД`)・゚・。

「……おい、おい、? 聞いてる?」
「ああ……でもなあ……いやでも、行くのはタダだし……いやでも……」
「おい、ちょっと」
あ”? 何よA。アンタのせいで、また私の決意が揺らいだじゃないの!!」
「プッ! ホント、アンタのその豹変ぶりすげーよな」
「うっさい!! 何度言えば分かるの? 女はね、好きな人の前だと皆可愛くなるものなの! 嫌いなヤツの前で作る必要なんて無いでしょ!?」
「あーハイハイ。それでさ」
「人の話を最後まで聞けーーーーっ!!!」

 受話器の向こうで、Aの楽しげな笑い声が響く。
 ああ、何で私、こんな夜中に、よりによってコイツと電話なんてしてるんだろう……。
 せっかく人が、イイ気分で眠りに就こうと思ってたのに、コイツのせいで全てが台無し! 薫ちゃんの萌えが、薄れてくじゃないの!!

「もう、アンタのせいで全部が台無しよ! 邪魔しないでよ、バカ!!」
「ああ、大方ゲームでもやってキャーキャー言ってたんだろ?」
「ぐっ……(何故分かる!?)」
「ときメモの女向けとかやって、キャーキャー言ってる女って意外と多いしな。別にいいじゃん」
「……な、何よ。いきなり……」
「いや、別に。そんな隠すもんでもないだろって言いたいだけ。俺だって時々、ゲームするし」
「え!? アンタもやるの!? 乙女ゲーを!?」
「いや、流石に乙女は無いけど。つーか、嬉しそうな声出し過ぎ」
 何だ、てっきりAも乙女ゲーやるのかと思っちゃったじゃん!!(照)
 でも、恥ずかしさよりも何だか少し、親近感が湧いてきたように思うのは気のせいだよね……。
「悪かったわね……」
「いや? ……そういう声も出せるんだな。楽しそうな声、すっげえイイ」
「なっ……////」
「可愛い。俺と話す時、アンタいっつも不機嫌モードだからさ。これでも結構傷付いてるんだけど」
「そ、それはアンタが私に……」
「ま、いいや。これからもさ、時々はそうやって楽しそうに笑ってよ」
「な、何言ってんの……そんなの、無理……」
 でも、強く言えないのは何でなんだろう。
 思ったより、嫌じゃないのも何でなんだろう。
 よく分からない感情が、私の中で生まれてくるのが分かって……私は戸惑った。
「……無理じゃないよ。可愛いとこ見せてよ…俺にも」

 ドキンドキンドキン。
 いきなり、心臓が早鐘を打ち始めた。
 
 な、何で……!?
 私、どうしてコイツ相手に……。

「あ、そうだ。それでさ、本題なんだけど」
「……え? あ、ああ、早く言ってよね」
 早鐘を打つ胸を押さえながら促す。
「そのイベント、一緒に行ってみない?」
「………………………………
は?
「だから、アンタが行きたいそれ。一人じゃ行きにくいんだろ? なら一緒に行ってやるよ」
 Aの言葉に、私は頭の中が真っ白になった。
 心臓は、さっきよりもあり得ないくらい激しく脈打っている。
「あ、ああああああんた!! 自分が何言ってるのか分かってるの!?」
「うん? だから一緒に行こうって」
「で、で、でももももっ、あそこに来るのなんて、9割は女の子だよ!? ていうか乙女だよ!? もしかしたらちょっとヤバめなおっさんとかだよ!? アンタそんなところに行く自信あるの!?」
「別にいいじゃん。皆好きで来てるんだろ? 男とか女とか、関係ねーし」
「いや、だけど……」
「俺のことはいーから。アンタが行きたいのか行きたくないのか、それだけで決めなよ」
 また、胸が跳ねる。
「そんな……」
 鼓動が煩い。
「……行くの? 行かないの?」
 どうしてAは、こんなことを言うの?
「私は……」
 素のままの自分で付き合える相手なんて、女友達でもそんないないのに。
「ねえ……
 コイツなんて、本当にムカつくヤツで、私の敵なハズなのに。

「………………行きたい」

 どうして私は、こんなに楽しいんだろう……。

「おっし、じゃあ決まり。時間とか待ち合わせとかはまた今度な。じゃあ、お休み」
「あ、ちょっ」

 切れた電話から聞こえるツーツーという音に、私はしばし呆然としていた。

 私……とんでもない約束、しちゃった……?




エピソード14へ続く!