エピソード10 『お久しぶりです、脇役デバるの章★』





「はい。じゃあ、あの針が“5”のところに行ったらテスト始めます。」

…………はい。


 テストです。
 て・す・と★うふっ
 って現実逃避してる場合じゃなかった。

 皆さん。お久しぶりです。ええと・・・何ヶ月ぶり?長らくお待たせしました。です。
 やばいのよ。やばいの!!!! 
 のっけからこんなんで、申し訳ないんだけど、最近ホントにテストって言葉を忘れてたのよ。気づけば連載ストップしてる間にテスト始まっちゃってるし!(あと1分30秒で)

 え?

 前回言ってた、レシカ(死語)との「放課後だぞ☆ラブラブ勉強会」はどうしたかって?
 いや、忘れてたわけじゃないんだけど。
 聞きたい?


1、 うん。聞きたい。
2、 え、別に結構です。


 ん。見てる人への選択肢がこれってのが良いね。
 でも、選択肢はナシ。
 強制的に聞かせちゃいます。もうすぐテスト始まるけど(正確にはあと1分で)。

回想スタート!!

キーンコーン・・カーンコーン


「ということで、ここまでがテスト範囲です。テストに出るのは授業中に強調していたとこですが、その前後も分かってないと解けませんから。まんべんなくやってくるように。以上です。」

―――最低。それって150ページ以上あるじゃないの・・・。

〜」
「あ、。」
「今日の勉強会なんだけど・・」

 はっ!そうだわ!!私にはがくれる過去問っていう強い味方がいるんだったわ!
 そうよ。そのためにあの乙女の花園を昨日、目一杯片付けたんだから!


 
・・・・・・・・・・・・・・・・ほんと・・・・・・・大変だった・・・・・・・・・・・。


 だってまず乙女ゲームでしょ?漫画だって軽く300冊以上はあるでしょ?挿絵が入ってる小説だってあるし、
同人とか、18き・・・・・げふんっ
 とにかく、貸し倉庫借りたいくらいだったわ。

「うんっっ、もう行く???今日の授業聞いてたら、やっぱり範囲広かったね☆と勉強できるから、なんとか大丈夫そうだけど・・(> з
 自分で言っててキモイ

「あぁ・・・そのことなんだけど・・・。」
「?」
「ごめん!!実は今日、授業前に俺、『男子A』に怪我させちゃって。かなり辛そうだから送っていこうと思うんだ。だから、今日の勉強会は中止にしてもらっちゃだめかな?勿論昨日言ってた過去問は渡すよ!」
「え?」

――マジで!?昨日勉強もしないで、徹夜で部屋片付けたっつのに!!??
  奥から出てきた漫画の誘惑にも耐えつつ掃除してたのに!!!!????
 ・・まあ・・・怪我させちゃったなら仕方ないんだろうけど。

「そ・・・そう。じゃあ明日も?」
 私はちょっと残念そうに俯かせた。
「うん。しばらくは一緒に帰れないんだ。悪い。」
「・・・わかった・・・」

 ちぇ、折角言語学教えてもらえると思ったのにな。唯でさえヤバイのに、くっそ〜〜『男子A』め!男なんだから怪我くらいなんだってのよ。唾つけとけば治るのが青春ってものでしょ!?
 はっっ、でもダメダメ!ここでブツクサ言ったら女が廃るわ。可愛いところを見せなくちゃ。

「でも、良くなったら、今度駅前のカフェに連れてってね?」
 ちょっと控えめに可愛く笑って、“物分りのいい娘”を演じる私。しかしその目にはちょっとだけ透明な涙がキラリと光る。

「うん!ごめん、ありがとう。。」

 はそう言ってやわらかく微笑むと、優しく私の左手を握ってくれた。
 私の頬は熱くなり、も顔を少しだけ赤くしてくれてる。

 ちょっと・・・嬉しいかも。なんてゆうの?心が少し通じ合った感じ?
 今の私達の周りには、シャボン玉が飛んでいる事でしょう。
 いつものドキッて感じのも良いけど、こんなほっこりした雰囲気って割と好きかも・・・。

「よし・・・「〜〜!」」

んぁ?

 何?今私達とってもいい雰囲気なんだけど。
 私はから見えない方向に向いて、舌打ちする。

「『男子A』!」

 はすぐに返事をする。
 そうか、あの人が『男子A』なのね。怪我させちゃったっていう。

「悪い。すぐ行くからちょっと待って。、じゃあこれ過去問のコピー。ホントにゴメン。それじゃあ、また明日!!」
「う・・・うん」

 有無を言わさず私に過去問のコピーを渡すと、急いで『男子A』の許へ走っていった。
 一瞬、私と男子Aの目が合い、私は『の彼女』として軽く微笑み会釈をした。


 が!!!
 その『男子A』から私に返ってきたのは微笑みでも会釈でもなく、フフンという馬鹿にしたような鼻での笑いだった。

「ごめん、『男子A』。」
 帰り支度をして男子Aの許に戻ったは「行こう」と促す。
 それに嬉しそうに答える“男子A”。

 楽しそうに帰っていく二人を見送りながら私は、何が起こったか分からずにいた。

 そして数十分後、教室には右手に目薬を握ったまま、1人で帰ろうとする私がいた。



――回想終了


 ちょっと酷くない?結局その次の日も私1人で帰って、妙に片付いた部屋で、1人で勉強したのよ?
 どゆこと?

 なにあいつ。男子AだかBだか知らないけど、この私に喧嘩売ってんの?私が何したって言うの?
 ああぁぁ、マジ腹立ってきた。
 こんなんじゃぜんっぜん集中できないよ!










 しゅうちゅう・・・・?


 うはっっっ!!!!

 やばい!気づけばあと30分しかないじゃない!なにやってたの私!しかも今苦手な言語学のテストじゃない!
 おのれ・・・・『男子A』・・・・・私のテスト時間を潰しやがって。



 とりあえず私は回想後、必死にその時間のテストの用紙を殴り書きで黒く・・・いや灰色・・・?位にしていった。





キーンコーン・・・カーンコーン・・・・・


!」
「あっ、。」

 ドキンッ

 す・・・すごい。何その微笑みは!?
 今物凄いキラッキラの微笑を喰らいましたけど?

 なんか・・・恋する乙女みたいな・・・?
 てゆうか、私より可愛いんじゃね・・?


?どうしたの?」
「えっ?ううん。何でもない。、テストどうだった?」
「あぁ、まぁなんとかね。」
「私だめだったぁ・・。がくれた過去問があったから何とか少しは埋まったけど。今回あんまり勉強してなかったしなぁ。」
「僕もあんまりやってなかった。」
「英語はできた?」
「え?あぁバッチリ!『男子A』が送ってくれたお礼にって教えてくれたんだよ。あいつ結構英語得意みたいで。教えるのも上手くてさ、助かったよ。」
「ふっ・・ふぅん・・・。」

 なんか・・・なんだろ・・・この気持ち?
 悔しいの?
 教え方がAの方が上手いって言われてるみたい。でもちょっと違うような・・・?
 それだけじゃないような・・・?

 えっと・・・

!!」

――――ドンッ!!

「きゃっ!?」
「あっ、悪い!」
!平気?」
「う、うん。大丈夫。ありがとう、。」

 急にぶつかられて尻餅をついてしまった私に、が手を差し伸べてくれる。ビックリした。何があったの?

「本当にゴメン!ちょっとバランス崩しちゃって。えっと・・・?」
「あぁ、『男子A』。この娘は 。俺の彼女。、コイツ『男子A』。俺が怪我させちゃった奴。」


 おまえか!!!A!!


「どうも、『男子A』です。 ぶつかっちゃってごめんね。」
「いいえ、大丈夫ですよ。です。宜しくお願いします。」
「敬語なんて止そうよ。ちゃんって読んでも良いかな?」
「え・・・ええ。」
「へぇ、可愛いね。近くで見るの初めてだけど、、本当にお前の彼女?」
「うるさいよ。で?俺に何か用があったんじゃないのか?」
 は少し頬を赤くして言う。
・:*:・°★,。・:*:・°☆・:*:・°★,。・:*:・°☆・:*:・°★,。・:*:・°☆・:*:・°★,。・:*:・°☆・:*:・°★,。・:*:・°☆
「そうそう、今日ちょっと寄りたいところがあるんだけど、いいか?」
「あぁ、お前の怪我が平気なら。」
「悪いな、何か奢るから。」
「ばか、そんなの気にするな。俺が怪我させちゃったんだから。」
・・・」

・:*:・°★,。・:*:・°☆・:*:・°★,。・:*:・°☆・:*:・°★,。・:*:・°☆・:*:・°★,。・:*:・°☆・:*:・°★,。・:*:・°☆


 ・・・・・・・・・・なに?このカポーみたいなお二人さんは?
 しかも何気に二人とも美少年だったりするし。
 え?私ひょっとして俗に言うお邪魔虫だったりなんかしちゃったりしますか?



・・・・・・・・・・いやいやいやいやいや。まてまてまてまてまて。

 彼女は私よね?二人は男同士よね?


・・・・っよし!

「ね・・ねぇ?」
「ん?どうしたの?。」

 四つの不思議そうな瞳に見つめられながら、私はおずおずと気になっている事を聞く。

「ちょっと気になったんだけど、は結局『男子A』君の何処に怪我を負わせたの?」
「え?あぁ・・これ。」

 そう言って彼が見せてくれたのは

――――左腕だった。

「う・・・で?」
「いや、正確には指。バスケして遊んでて、俺が強く『男子A』にボールを投げつけちゃったんだ。それでつき指を通り越して骨にヒビが入ったんだ。固定するために腕まで包帯巻いてるの。」

・:*:・°★,。・:*:・°☆・:*:・°★,。・:*:・°☆・:*:・°★,。・:*:・°☆・:*:・°★,。・:*:・°☆・:*:・°★,。・:*:・°☆
「そうなんだ。良いって言ってるのに、送っていくってうるさいんだよ。」
「なっ、最初お前がうるさく『責任取れ!!』って言ってきたんだろ??」
「あんなん冗談だったのに。律儀に送ってくれるわけよ。」
「なんだよーー!!」

・:*:・°★,。・:*:・°☆・:*:・°★,。・:*:・°☆・:*:・°★,。・:*:・°☆・:*:・°★,。・:*:・°☆・:*:・°★,。・:*:・°☆


 ほんとどうにかしてください、このバカッポーを。
 じゃれ合う男同士を目の前で見せられる私の気持ちにもなってください。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・美味しすぎる。


 いや、違う!!
 つか左指にヒビが入ったくらいで何送り迎えしてもらってんだよA!!今時女の子でさえそんな生ぬるい事言ってる奴いねぇよ!!!
 私昔、バスケで右の中指にヒビ入ったけど、普通に鉛筆持ってたよ?(あまり真似しないで下さい。)

 まさか。Aに
狙われてる?


「じゃぁ、。また夜電話する。」
「えっ。」

 不意に来たのでちょっとビックリしちゃった。
 あんなバカッポーのやり取り見た後だから、尚更ね。

「ダメ?テストであんまり話せなかったろ?」
「ダッ、ダメなんかじゃないよ!ちょっと考え事してて、反応が遅れちゃったの。そだね、うん!嬉しい・・。待ってるね。」

 フフン、ざまあ見ろ『男子A』。ちょっと位私のといい雰囲気作ったからって
調子乗んなよ?

 私は横目でチラッと天敵の顔を見る。
 すると・・・


 
メメ、メッチャ見てる!!!Aが私のことメッチャ見てるよ!!恐い!睨んでるんだけど!?
 本当に!?ホントに狙いなの?


「じゃぁ、俺達もう帰るから。またね、ちゃん・・・。」
「またあとでね、。」

 ニヤリと笑う『男子A』とにこっと笑う
 そんな二人に微妙な笑顔を見せつつ・・・

 私の頭の中は妄想と言う行為でフル稼働していた。



 今日は少し風が強い。さっきから窓がガタガタ言ってるし、小さな小石もぶつかっているみたい。
 テレビでは台風が近づいてるって言ってた。
 テスト日ということで、今日は少し早めに帰れたので、早速私はゲームの準備をする。


『男子A』


 普通こーゆー話って、ヒロインに格好良い男が迫ってくるものじゃないの?それか可愛い女の子の恋敵出現!!そして、それで主人公とその彼氏の関係に危機が生じる・・・みたいな。
 それを、ライバル男だし、そいつ名前ないし。

 適当すぎる・・。
 
いや、ネーミングセンスが無さ過ぎる。

 せめてアンソニーくらい付けてあげたって良いのに・・・。
 まぁ私には存在そのものが余計だから関係ないけど。



ジリリリリリリ・・・・・カチッ

「う〜〜ん。」

 よく寝た。昨日は疲れきって、そのまま制服のままベッドで寝てしまった。
 静と薫ちゃんの、あのちょこっと黒いトークを聞けば、誰だって疲れちゃうよ。


―――ちょこっと?

 
今日は休日。といっても、もうそろそろテストだから遊ぶ暇なんて無くて、勉強しなくちゃなんだけど・・・・。
 今日の予定はどうする?

――午前中、午後中の予定を決めてください。


―――うわぁ・・・もう一年くらいこの話やってるはずなのに、初めて休日が出た気がする!もっ・・もちろん気のせいだよね!!?
えと、行く場所をこの中から選べばいいのかな?

1. 公園
2. 図書館
3. 商店街
4. 自宅



―――午前と午後は分けるでしょ?テストは実技と筆記があるとして、まず実技は・・・公園?

――午前→公園に行きます。

―――午後は筆記の勉強?形から行けば図書館か自宅だよね。自宅で勉強すれば、一番進むんだろうけど・・・イベント無いとね。

――午後→図書館に行きます。

「よしっ、じゃあ今日はこのスケジュールね!」


朝ごはんを食べて、私は少し歩いたところにある、広い公園に着いた。
その公園には芝生が広がっていて、所々で家族がピクニックを楽しんでいる。

「ここなら少しくらい魔法を使っても怒られないわよね。」

樹に囲まれた、ちょっとした広場を見つけた。周りからはあまり人目に付かず、お昼寝するにも良いかもしれないわ。
端のほうに荷物を置くと、早速練習に取り掛かる。

学年代表になりたいなんて、そんなおこがましいこと言わない。でも、やっぱり人に見せるからには良い状態を見てほしい。

「え〜と・・・何を練習しようかな?」

折角時間を割いて練習するんだから、効率的に進めたいよね!

どうする?

1. 防御魔法を練習する
2. 攻撃魔法を復習
3. 回復魔法を練習しよう


―――迷うね。多分主人公、攻撃力は強いけど、戦闘に必要なその他の魔法苦手でしょう?防御は一切ダメって言ってたし、回復もリラクゼーション的なものしかダメっぽいしなぁ・・・。
 ・・・よし、ここは回復魔法にしてみようかな。防御ってよりも回復を強くして、一緒に戦う人に優しくするの!!それで、
さん・・・いや、!!君のおかげでまた戦えるよ。君の魔法って思うだけで、心も軽くなるよ!!(キラリ)」
とか静に言われて、二人して甘い空気に包まれながら、肩(もしくは腰)に
手をまわされて(※ここ重要)合わせ技なんかしちゃったりなんかして!!!!!
 
キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!


「落ち着きなさい、。」

 今は何を練習するかを考えてたはず。妄想している場合じゃないわ!!
 そう自分に言い聞かせ、私は星の術者専用の教科書を開いた。

「えーと、なになに。120ページ。星の力を借りる回復・・・」

ふむふむ・・・・・小惑星である、冥王星の力を借りて回復を行います。冥王星は破壊と再生を司り、その力は対となります。・・・つまりは破壊力が大きいと、回復力もまた大きいってこと?



―――主人公、バッチリじゃん。怪力だからね。


「でも回復って難しいのよね。力があれば良いって物じゃなくて、あくまで生きているものへの魔法だから。失敗したらとんでもない事になっちゃう。」

そう、要は技術と魔力の両方が不可欠なのだ。


―――音楽と同じね。どんなに優れた楽器でも、演奏者が下手だと台無しになってしまう。

「ヒーリング系なら得意なんだけどなぁ〜」

周りは人がいるところから少し離れていたため、私の愚痴は空しく木々に吸い込まれていく。

「ええと、『手で回復させる対象に触れ、呪文を唱えます。この時、対象と波長を同調させ、回復した後のイメージをしながらゆっくりと唱える事が重要になってきます。』か。
 ・・・・・しまった!!回復させる相手がいないんじゃ意味が無いじゃない!私怪我したり、疲れたりしてないし!!こんなんじゃ呪文の唱え方とかしか練習できないわ!」

怪我するのは嫌だし、かといって運動するのも嫌よね。


―――うわぁ、私とおんなじ。『THE ノープラン』。これでやる気なくして、お昼寝とかお菓子食べ始めたりとかしちゃうんだよね。

どうする?
1, このままお昼寝
2, 違う魔法を練習する
3, そのまま回復の練習をする


―――う〜ん。わかんないなぁ。1ってゆうのはないとしても、2と3のどちらかは、誰かに遭遇しそうなんだよね。えぇいっ、いいや。そのまま両方やるなんてメンドクサイ!3!!3で行きましょう!!

「こうなったら意地よ!自分のニキビでも直してやろうじゃないのよ!」

―――うわぁ地味

「地味とか言わない!」
周りを見ても怪我をしている人なんていないし、例え何かあっても練習台になってくれる人もいないだろうしなぁ。
「よし、まずはニキビを治しましょう。対象となるニキビに触って、呪文はそのまま『再生』って言うだけね!」


―――あ、ここは普通のRPGみたいに『ケア』とか『ヒール』とかじゃなくて日本語なんだ。

「でもいくら練習とはいえ、年頃の乙女ですもの・・・いきなり顔に魔法かけるのは勇気いるわよね。」

そう、やっぱり恐い。大した魔法でもないけど、自分の、ましてや顔なんかに早々実験なんてできっこないわ。

「う〜〜ん・・・。こわい・・けど、このままじゃ何もかわらないし。
うん!謹んでやらせていただきます!」


―――えっ、マジでやるの??これってそのまま病院に直行する事になるんじゃ・・・?いや、楓ちゃんと何かあるのかしら??
どっちにしろ、この主人公無茶苦茶だわ・・・。

「集中して・・・・『さい・・・』」

ガサガサガサガサッ

「きゃぁっ!!!???」

 ドスンッという音とともに、目の前が真っ暗になった。どうやら回りにあった木々の上から何かが落ちてきたらしい。体に痛みは無いけど、何か重いものが乗っていて、動けない。
 ああ。
 今日はついてないわ。


「す・・・すいません。」

 上から男の人の声がする。どこかで聞いたことがある声と、覚えのある香り。
 これは・・・

「野中先生・・・?」
「えっ、さん!?」

やっぱり、野中先生だった。


―――おっ、画面が変わった!ってキャーーー!!!のっ野中先生に押し倒されてるーーーー!!!
   解説します。今私(主人公)は野中先生が覆いかぶさる形でそう!
押し倒されているんです!!
   日が遮られてて、ちょっと顔が見難いけど、
“あの”野中先生に迫られてるーーー!!(大きな勘違い)

「大丈夫?けっ怪我は!?」
「平気です。何処も痛くありません。」
「よかったぁ。」
「それより先生・・・。」
「ん?」
「そ・・・その・・・・もし宜しかったら・・・」
「?・・・・・あぁ!!ごめん!」

 そう、ちょうど私は野中先生に押し倒されている状態で仰向けに倒れていて。それに気づいた先生は素早く私の上から『ズザザザッ』と音を立てて退いた。


―――チッ

「本当にごめんね。木の上で昼寝してたら、寝ぼけて落ちちゃったみたいで。」

 野中先生は頭を掻きながら、恥ずかしそうにしてる。
 私より大人の人なのに、耳を真っ赤にしながら目を逸らしているその姿はとっても可愛くて。
 思わず頭を撫でてしまいそうになる手を慌てて引っ込めた。

「って先生!!??手から血が出てます!!!」

 よく見てみれば右手から結構な量の血が出てる!!どうやら落ちた時に出来た傷から見たいだけど

「わぁ!ホントだ!!どうしよう!!」
「どうしようって先生!!とりあえず止血!給水場に行きましょう!!」

 こうしちゃいらんないわ!とりあえず洗ってから止血しなくちゃ!!
 私は急いで先生の左手を取り、引っ張ろうとする・・・と?

「まっ待って!!」
「えっ!?」

 ぐいっと逆に先生に引き留められてしまった。

「どうしたんですか?!早く・・・!」
「そんなに急がなくても大丈夫だよ。それより、さっき木の上にいるとき、下のほうから聞こえてきたんだけど?」
「え?」

 !!!そうだった。私回復の練習をしようとしてたんだった。でも・・

「それとこれとは別です!まだ1回も使ったこと無いんですから!初めは恐いから、自分で怪我した時に練習しようと思ってて。今回だってニキビ治そうとしてたんですよ!」
「女の子なのにそれはダメだよ!失敗して逆に傷ついちゃったらどうするの?嫁入り前の子が!!
しかも顔になんて!!」
「嫁入り前って・・・。大丈夫ですよ。自分の責任で痕が残るなら、悔いはありませんし。逆にその傷ごと愛してくる男性を探しますよ。
 私にとっては他の人に迷惑をかける方がよっぽど恐いです。」


―――そうだよね。この主人公バカ力だし、逆に悪化させる可能性のほうが大だもんね。

「僕は大丈夫だよ、さん。目の前に恰好の練習台があるんだ。使いなさい。それに僕としては早く治してもらいたいんだ。もともと血の気が多いほうじゃないしね(苦笑)」
「でも・・・」
「じゃぁ、失敗したらさんがお嫁に貰ってよ。僕だって痕に残ったら貰い手無いもん。」
「せっ先生!!」
先生だったら、皆喜んで嫁でも婿でもなりますって!!
「ほら」

 そう言うと野中先生は怪我をしている右手を私に差し出した。傷はそんなに深くないけど、早く治したほうが良さそう。血を見るのは苦手だ。
 でも私はそれより、こんな時に不謹慎かもしれないけど、先生の腕の太さに見とれてしまった。
 いつもニコニコ笑ってて、優しい先生。見た目細いから気がつかなかったけど、やっぱり男の人なんだ。筋肉もちゃんと付いていて、私のそれよりもしっかりしてる・・・。

さん?」
「あっはい。本当に良いんですか?」
「うん、もちろん。」
「じゃぁいきます。」
「はい、お願いします。」

―――集中―――

 手で回復させる対象に触れ、呪文を唱える。この時、対象と波長を同調させ、回復した後のイメージをしながらゆっくりと唱える。

 人の体なんだもの。失敗は出来ない。
 そう考えるとどうしても手が震えてしまう。
 大丈夫。大丈夫。
 そう頭の中で繰り返すけど、私の鼓動はどんどん速くなっていく。
 嫌だ、変な汗が出てきた。

 頭には先生の怪我が大きくなってしまう映像が出てきた。

さん」

 ビクッとして先生を見た。するとそこには驚くほど優しい、穏やかな先生の顔があって


――――――はい、先生


『再生』

 途端に先生の腕と私の手の間に、暖かい空気がうまれた。
 薄い緑色の光を放ちながら、その腕はゆっくりと、確実に傷を小さくしていく。
 魔法を切らさないように必死になりながら、一方で「青系に光ると思ってた」なんてぼんやり思う私に驚いてもいた。


―――ちょっとした腕の傷治すだけなのに、なんでここまで大げさなのか

さん、ありがとう!」
 野中先生の傷はすっかり治り、気が抜けた私は抜けた腰を休めていた。
「いえ、成功してよかったです。」
「初めての割には出来が良くて、僕驚いちゃったよ。」
 そういいながら野中先生は嬉しそうに自分の腕を撫でる。
 良かった。本当に。
「今度の試験も大丈夫だね。」
「そんなこと・・・」
「聞いたよ、この前の授業。大活躍だったらしいじゃない?」

 げっ
 地面をクレーターにしちゃったヤツだわ

「私バカ力なんですよ」
「バカ力だけだったら、あんな風にはできないよ。結局君は、ちゃんと相手を避けて穴を空けたみたいじゃないか。けが人もいない。コントロールもちゃんと出来てる。」

 なんか―――照れる。こんなにまっすぐに褒められる事に慣れてないもの。

「あ・・・ありがとうございます。」
「頑張りなさい。さっきみたいに落ち着いてやれば、きっと上手くいくよ。」
「はい。」

 不思議―――先生と言われると、何だか本当にやれるような気がしてくる。


「さてっと、そろそろ行かなくちゃ」
 すくっと立ち上がって、野中先生はズボンの汚れを落す。私ももう立てるみたいだ。
さん、怪我治してくれてありがとね。」
「いいえ、お礼を言うのは私のほうです。ありがとうございます。」
 にこっと先生が笑うから、私も思わず嬉しくなる。
「野中先生?」
「ん?」
「さっき、寝ぼけて木から落ちたって言ってましたよね?」
「う・・・うん。」
「でも私が魔法を使おうとしてるの分かったんですよね?」
「・・・・・・うん??」

「先生?」
「・・・・・・・・・・うん。」

「ありがとう」


 なんだかモジモジしてる先生が可愛くて、お礼を言った私は走ってその場を後にした。
 日頃ああやって、ちゃんとお礼を言う事が無いから、やっぱり照れてしまう。
 今度から、きちんと言葉にしよう。
 出会う人に感謝をしよう。

 一つひとつの出来事を大切にできるもの―――――――







 1人残された野中はふと思った。


「・・・・倒れなかった。」






 ふぅ、午前終わった。
 とりあえず休憩。ってえ?なんか外暗いんだけど?

 気がつけば辺りは暗くなっていた。もう日が沈んだのね。
 とりあえずセーブして


ちゃっちゃらっちゃらっちゃらっちゃ〜〜♪(ときまほのOP曲)

「あっ、から電話だ。はいは〜い?」



「――――もしもし?ちゃん?」



 耳鳴りがした―――――



 

 エピソード11へ続く……?



 2008/1/19 青さん作(柚校正)