――あれから二ヶ月が経って。



「優子ー、おはよう」
「おはよう」

 4月の半ば。私は二年生になっていた。
 愁からは依然、何の連絡も無い。
 淋しいけれど、愁のことを信じられる自分がいる。
 杉原先輩のおかげだ。
 あの人の言葉のおかげで、私は彼と自分の気持ちを信じられている。離れていても、繋がってるんだって信じられる。

 そんな杉原先輩も、三年生。まほ研の部長、生徒会副会長に就任した先輩は、去年以上に多忙な生活を送り始めていた。
 私の一番尊敬する先輩だ。

「三村、この資料なんだけど」
「ありがと、高城」

 高城とも、幸運なことに同じクラスになった。いつも一緒に行動するというわけではないけれど、何となく高城といると心が落ち着く。
 一瞬、何を考えているのか掴めないこともあるけど、それでも嫌な感じはしない。
 彼は私の良き理解者だ。

 ふと校庭を眺める。私は思わず目を疑った。
 オレンジがかった真っ赤な髪。赤銅色の瞳。あれは……

「おはよー、薫!」
「はよーっ」

 薫……。

 そう言えば前に、愁から聞いたことがあった。弟が来年、まほアカに入学してくるって。確か名前は……薫だった。
 よく目を凝らして見れば、似てはいるけど雰囲気が全然違う。
 愁の方がもっと背が高いし、髪ももっと赤毛だった。愁はあんな風に笑わないし、もっと大人びてて……

「ふぅ……こんなこと考えてもしょうがないか」
「三村?」
「……ううん。何でもない」

 弟に聞けば、何かしら愁のことが聞けるかもしれない……。
 けど、私は聞かない。愁が自分から私に会いに来るまでは、絶対こっちから会わないんだから。






 数日後、編入生が入ってきた。
 普段、あんまり自分から声を掛けることの無い私。でも、気付けば自分から声を掛けていた。

「一緒にお昼食べない?」

 笑顔で頷いてくれた彼女。友人って案外良いものだったんだなぁなんて、今更思う。
 
 しかも、私が唯一信頼を置いている男たちは、皆この子に興味津々らしい。宮田薫……愁の弟も。
 コイツは、私の苦手な典型的炎タイプ。ハッキリ言って、愁の弟という目で見ないと、一緒にいることさえ苦痛。ま、弟としては可愛いかもしれないけど。
 でも、ちょっと女慣れし過ぎ。愁と同じ顔で、そうやってベタベタされると、何だかすごい微妙な気分……。
 ……そう言えば、愁も一見すると、ナンパなタイプに見えなくもないし――――とにかく、宮田薫は色んな意味で私の天敵!
 高城なら、この気持ち分かってくれそうな気がするわ……。



 でも……彼女になら誰とでも幸せになってって言えそうな気がする。
 また逆に、彼等なら安心な気もする。
 私の大好きな友人たちが仲良くなるのは、とても嬉しい。
 


 だから、杉原先輩、高城、そして宮田薫! 頑張って、この子を落としてみせなさいよね。
 三人とも嫌いじゃないから、誰を応援することも難しいけど……私は、アンタたちの恋路を応援してるわよ……一応はね。









「愁…………」

 そんな矢先に思わぬ再会……。
 色んな文句とか言ってやりたかったけど。結局は何もかも許せちゃうんだから……私もどうかしてる。

「優子……ゴメンな。でもオレは、お前を――」
「もういいわよっ」
「優子……」
「……ぷっ…何泣きそうな顔してるの? もういいわよ、全部許してあげる」
「ほ、ホントに?」
「その代わり、これからは、毎日連絡寄越すこと! 辛い時は必ず相談すること! 辛くなくてもすること!! いいわね!?」
「うん……毎日電話する。もう一人で決めたりしない、必ずお前に相談するって約束する」
「……そうしてよね。本当に私、いつも寂しいんだから……」
「っ……優子、カワイイっ!!!!」
「ちょ、ちょっと!?……は、放しなさいよ!!」
「ダメ! ヤダ!! もうこのまま研究室に連れてく!!!」
「きゃ、きゃぁ〜っ!!」

――悔しいけど、私の氷を溶かすのは、結局はアンタの炎だけなんだもん……
 仕方ないから、一緒に夢まで付き合ってあげる。
 私をここまでさせたんだから、ちゃんと責任は取ってもらうからね、愁!!


























「おはよー優子……ってあれ、寝ちゃってる」
「……珍しいな、三村が居眠りなんて」
「……ぅ……愁……」
「ふふっ……優子ってば、愁さんの夢見てるのかな?」
「クス……どうかな? でも、良い夢を見てることには違いないね」



 初夏の風が吹く今日この頃。
 三村優子は頑張ってます。



 fin


*あとがき*
 えーっと……皆様、ごきげんよう。桃井柚でございます。今回は、番外編ということで、優子視点で書かせていただきました。いかがでしたでしょうか?
 優子は、普段は主人公の良き理解者を務めており、まあ顔良し頭良しのスーパーガールなんですよね。でも、何か主人公ばっかり美味しい目に遭うのは、何か癪だなぁ(笑)と思ったのです私。
 だって、実際は主人公よりもモテる設定ですし。こりゃあ、ちょっとここらで脇役の意地を……と。
 それで急遽思いついたのが「愁」。薫ちゃんの兄です! 彼をどうやって絡ませようかなぁって青さんと話してて(というか、兄キャラを作ったのは青さん)このままだと、出番ないんじゃね? って思ったので、優子の彼氏にしちゃえってことでした。
 優子は何故、モテるのに誰とも付き合わないのか? どうしてそこまで魔法陣に入れ込むのか? とか色々あったんですが、このお話を書くことで謎は全て解消されましたね☆
 優子は愁の夢のため、頑張っている健気な女子なのですよ。 実際、主人公よりもかなり健気で性格イイと思いますw いや、主人公はプレイヤー次第ですから私と青さんの性格が悪いだけですけど(llllll´▽`llllll)
ちなみに、優子の気持ちとしては……
・静→ある意味、一番の理解者。友達。
・晋也→敬愛の念を抱く。信頼。恩義を感じている。ある意味愁以上に(笑)
・薫→微妙。嫌いにはなれないが、見ていると腹が立つ。愁が駄々こねてる時にそっくりなためw でも、何故か憎めないガキと感じている。。。
 こんな感じだそうです。しかし、薫微妙だなぁ……。ま、優子は子供っぽいのが大嫌いなので、仕方ないですよね。
 本編も、中盤くらいでしょうかね? どうなんでしょう青さん?? 色んな謎も出てきたり、キャラもいっぱい出てきましたが……どうなっちゃうんでしょうね!?(お前が考えるんだよ)
 ではでは、今後とも「ときまほ」をよろしくお願いします★


2006.5.26 桃井柚