epilogue:
月明かりに照らされた部屋の中、一冊の雑誌。
夜風が舞い込み、ページを捲る。
何度も読み返されたそのページは、すんなりと開く。
『――――期待の紅星、瀬川渚』
インタビュー記事には、次のように書かれている。
「私がここまで頑張れたのは、大学時代の先輩と同級生のおかげです。彼らと一緒に、音楽をやってこれたことが、私にとって大きな自信になったんです」
――――瀬川さんは、大学時代に国際音楽祭で優勝なさってますよね? その時にはピアノトリオを組んでいたそうですが、その方たちのことでしょうか?
「はい。特に、先輩が私の背中を押してくれて……すごい素敵な先輩なんです。もう、女の子なら誰でもクラッときちゃうような(笑)今でも、大きなコンクールの時なんかは、前日に電話をくれたりします」
――――もしかして、その方と……?
「あははは、残念ながら(笑)でも彼は、私にとって掛け替えの無い大切な人です」
――――今度のコンクールは、日本で行われるということで、久しぶりの帰国になるかと思います。何かやりたいことなどはありますか?
「あります! もう一度、ピアノトリオを組みたいんです。あの時のメンバーで、演奏したいんです」
――――それは素敵ですね!
「はい! 実はさっき、二人に連絡したところなんですよ。二人に会えるのも本当に久しぶりなので、そう言った理由からもコンクールは楽しみで仕方ありませんね」
――――どうもありがとうございました。次のコンクール、期待していますよ。
「こちらこそ、どうもありがとうございました。コンクール、頑張ります!」
そう言って、明るい笑顔を見せてくれた瀬川さん。短いインタビューの間も、終始キラキラした笑顔を見せてくれた。
彼女の演奏には、輝きと華があると評判だ。
輝きと華。まさに彼女にぴったりな言葉だろう。
瀬川さんと言えば、同じヴァイオリニストとの交際が噂されているが、話の中の『素敵な先輩』が気になるところ。
そんな彼女が楽しみにしてやまないコンクール。そして、ピアノトリオ。
あの輝きの原点を探れるかと思うと、どちらも興味が尽きない。
「さて……そろそろ寝るかな」
開かれた雑誌に目をやり、苦笑する彼。
再会を心待ちにしているその姿は、数年前のあの時のまま。
写真立ての中微笑む、輝きをまとった姿のまま――――……
fin.
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