繁華街の奥地、知る人ぞ知るホストクラブがある。

 『Mephisto』(メフィスト)

 悪魔の名に相応しく、昼はひっそりとその気配を消し影に紛れ。
 夜の帳が下りる頃……静かにその扉は開かれる。

 甘い、一夜の夢を紡ぐために。
 そして――――




 Hello, Vampire-Host..



「ようこそメフィストへ、マドモア――――っ!?」
「どうも。ホスト君たち」
「あ、あははは……皆、こんばんはー?」

 ここはホストクラブ『メフィスト』。
 繁華街の奥地に存在する、知る人ぞ知るお店。
 私は、とある事情から、大学時代にこのお店でホストとして働いていて……当然のごとく、お店のメンバーとも顔見知り。
 そんな前置きがありつつ、今何故、私の前で顔面蒼白で固まっているホスト…水野竜也がいるかと言えば……それは、私の隣で氷の微笑を浮かべる兄、翔がいるからに他ならないだろう。

「お、お兄……お、お店に入ろうよ? ね? 竜也も……ね?」
「竜也……いつもいつも、“うちの”が世話になってるよね。どうもありがとな?」
「!! い、いえ……ど、どうぞこちらへ。ご案内いたします……」
「お兄……(汗)」

 店に通された私たち。当然のごとく、いつものように、私に飛びつく二つの影。
「あーっ、! 来てくれたんだ!?」
「会いたかったぜー!! マジで! 今日も一段と綺麗で――――うわっ!?」
「し、椎名!? どうしてお前、私服なんかでいるんだよ!?」
 私に飛びつく寸前で、二人の影――――誠二と結人が驚きの声を上げる。
「……ふーん。お前らが、いつもいつもうちの
『過剰なスキンシップ』をしてくれることで有名な柴犬と洋犬?」
「ちょ、お兄!?」
 それはいくらなんでも言いすぎだろう……と心の中で突っ込む私。しかも、台詞の一部がとてつもなく強調されていたような気がするのは私の気のせいだろうか……? 
「柴犬!?」
「よ、洋犬だ!?」
「そ、そうだよ……二人とも私の友達なんだから、そんな酷いこと言わないで? ねえ、お兄」
「「お兄!?」」
 驚きの声が重なる。曖昧な笑みを浮かべた私の頭に乗せられる、兄の手。
翔。……よろしくな?」
「「ひっ!?」」
 二人の顔が、一気に青ざめるのを私は見た。お兄……どんな笑みを見せたの……?(汗)



「あ、。こんばんは」
「竹巳っ、久しぶり!」
「久しぶり。……そちらの方は……椎名さん、ではないですよね?」
 流石は竹巳。翼とは違うのだと、瞬時に判断したらしい。少し警戒しながらも、落ち着いた口調のまま問いかける。
翔。のお兄様だよ」
 一瞬目を丸くした竹巳だったけど、すぐに薄く微笑んだ。
「……初めまして。フロア担当の竹巳です。あの節は、色々と……」
 深々と頭を下げる竹巳に、お兄が笑う。
「それはこっちの台詞だって。それに初めまして、じゃないだろ?……を…妹を守ってくれてサンキューな。本当に感謝してる」
「お兄……」
 顔を上げた竹巳は小さく微笑むと、「キャプテン」と声を掛けた。それに気付いたキャプテンこと、克朗が爽やか笑顔でこちらに近付いてくる。
「何あの胡散臭い笑顔
「お、お兄っ(汗)」
「いえ、事実ですからいいんですよ」
「竹巳まで……(汗)」
 二人の酷い発言も霞むほど爽やかな笑顔を保ったまま、克朗は礼を取る。
「初めまして、翔さん。この店のオーナーを務めています、渋沢克朗です」
「……へえ、一瞬で気付くとはね」
「いつもさんからお話を伺っていますからね。それに、貴方と私たちは、初対面ではない」
「……そうだね。あの時は、色々迷惑掛けて悪かった。妹のことも……」
「いいえ! こんな素晴らしい妹さんがいて羨ましい限りです。なあ、☆」
「え!? そ、そこで私に同意を求められても……(汗)」
 微妙な空気が流れた時、それを打ち破るかのごとく聞こえた足音。確実にこちらに向かってくる。
「翔っ!!」
 亮だった。彼はつかつかとこちらに歩み寄ると、お兄を見つめる。
「……久しぶりだね、亮」
「っ……バカ野郎が……久しぶり、じゃねえっつーの……」
「フフッ……もうちょっと早く会いに行こうと思ってたんだけどさ。色々忙しかったんだよ」
「ちきしょー……今日は朝まで付き合いやがれ」
「ふぅ……野郎と朝まで飲み明かせってか? が一緒ならいいけどね」
「当たり前だろーが! 俺だって、てめえと二人っきりなんてゴメンだ!」
「…………私の意見は無視なわけですか?」
 でも……喧嘩腰でも、二人がとっても楽しそうだから黙っておこう。



 ……さて、かなり今更ながら、何故今日こんなことになっているかを簡単にご説明。
 以前、私がここで働いていたのは、最愛の兄、翔を救うためだった。そして、ここでホストをやっている彼らは皆、元――吸血鬼<ヴァンパイア>。今ですら、そんな面影は見えないけれど……数年前までは、人の生き血を吸って悠久の時を生き続けていたのだ。
 彼らは数百年前からずっと、不老不死という呪いを断ち切る方法を探し続けていた。そこに絡んでくるのがお兄だ。お兄は……椎名翼の遺伝子を組み込まれた、翼のクローンだった。容姿は言わずもがな翼と瓜二つ。詳しいことは私にも分からないが、どうやらクローン体は元の遺伝子の記憶も受け継ぐことがあるらしい。お兄はいつからか、翼の記憶や想いに揺られながら生きていた。そして、その思いに突き動かされて、彼は不老不死を消す方法を探し始める。そのために、突然行方をくらました……。
 お兄を探して私が行き着いたのがここ、メフィストだった。そしてひょんなことから彼らの正体を知った私は、ある契約を交わした。私の目的はお兄の無事な姿を見ること。彼らの目的は悠久の時からの解放。私たちの目的は、お兄という形で繋がっていたのだ。だからこれは、完全利害一致の契約。私は彼らを呪縛から解き放つ手伝いをする代わりに、お兄を探す手助けをしてもらう。彼らは私を守る代わりに、呪縛からの解放に繋がる一切の情報の提供を求めた。
 半年以上の月日を、彼らと共に過ごし、ついに私たちの目的は叶えられた。その後数年間は、彼らとの連絡は途絶えてしまったが、今またこうして出会うことが出来た。私は既に社会人になっていて、彼らももう、あの頃のような「血色の瞳」では無くなっていたけれど。でも、根本は何も変わっていない。

 ……そして、再び出会ったあの日から数ヶ月。
 いつものように、彼らに会いに行こうとした私にお兄が言ったのだ。「僕もあいつらに会いたくなった」と。
 そして、兄妹二人でホストクラブへ向かうという、何とも異様な光景が出来上がったわけである……。
 ちなみに、お兄と亮は親友らしい。かなり、疑わしいような気もするけど……。

 そんな時だ。背後で、がさがさっと何かを落とす音が聞こえた。振り向けば、目を見開いて驚くお兄……じゃなかった。翼がいる。
……もしかして……」
 少しだけ掠れた声で呟いた翼に、私は頷く。
「うん……この人が、私の……」
 私が何か言う前に、お兄がすっと翼に近づく。背格好も、何もかもが同じ二人が向き合っている構図は、何とも不思議だ。
「……アンタが、椎名翼だよね?」
「アンタが……僕の……の兄貴……」
 複雑そうな顔の翼。こんな困惑顔の翼なんて、久々に見た。お兄の顔はこちらからでは伺えないけど、きっと翼と同じ顔をしているに違いない。
でも、すぐ笑顔になった翼に安心する。
「……よろしく、、翔」
「フフッ……自分と同じ顔が目の前にいるなんて、何か変な感じだね」
「プッ……確かに。でも……僕の思いを受け継いでくれたのがアンタで良かった。……ありがとう」
「……お互い様だよ。確かに僕は、翼の記憶や想いを受け継いだ。でも、それを実行しようと思ったのは僕自身だからね」
 そう言って不敵に微笑んだお兄に、翼も笑った。
 ……やばい、
お兄が二人いるっvvv(嬉)

、顔がにやけてるよ」
「えっ!? そ、そんなこと――――」
「お兄さんが二人いて嬉しいとか思ったでしょ」
「そそそそそんなこと全然っ! 全然思ってないよ!!(汗)」
 いつの間にか隣に立っていたクールビューティ英士の突っ込みに、私は冷や汗を流していた。す、鋭すぎるよ英士……!!



 克朗が気を遣ってくれて、私とお兄、そして亮と翼は店の最奥に通された。どうやら亮と翼は、今日はお客相手をしなくていいらしい。
「しっかし……こうやって改めて見ると、本当にお前らって同じ顔してんだな」
 亮の言葉に、お兄が笑う。
「そりゃそうだ。なんせ、お前も最初俺のこと『翼』と間違えてたもんな」
「うぅ……私も最初、翼のこと『お兄』と間違えたよ……」
「そう言えばそうだったね。最初、突然抱きつかれた時は、どんな人違いだって思ったけど……今思えば仕方なかったな」
 翼の言葉にお兄がぴくんっと反応した。
「……今、何かすごい聞き捨てならない台詞を聞いたような気がするんだけど……気のせい?」
 にやり、と口の端を上げて翼はとぼける。
「……さあ? 僕、何か言った?」
「……翼、お前、随分と仲良いみたいだね?」
 私の右肩に置かれたお兄の手が、少し震えてるような気がするのは……気のせい? そして、心なしか右側からすごい冷たい空気が流れ込んでくる気がするんだけど……。
「まあね。
唯一手出したのも僕だし?」
「……フフフ、
手、出した、だって?」
「え!? 私、翼に手なんて出されてないよ!?」
 一体いつ私が翼に手を出されたんだろう。そもそも、手を出すって……何?(汗)
「そっか。は覚えてないんだっけ。……僕がお前の血を吸ったから……」
「えぇっ!? 私って、翼に血を吸われたの!?」

 そう言った時、ドクンと胸が鳴った。
 そして、何も無い筈の首筋が疼いた。

「……まあ、ね。お前が僕を……救ってくれたんだよ」
 眉を下げて微笑んだ翼。
 私はこの翼の表情を、いつかどこかで見た気がする。それがいつだったか、思い出そうとしても思い出せない。そう言えば私は、彼らと共に目的を達成したはずなのに……肝心なその瞬間の……いや、その周辺の記憶が全く無いのだ。
が覚えてねえのも無理ねえよ。俺たちに血を吸われたヤツは、前後数時間の記憶を失くすからな」
「そう言えば……そうだったよね。亮ってば、それで悪いことし放題……」
「だぁっ!? 、てめえ、他の読者に誤解を招くようなこと言ってんじゃねえよ!」
「へえ……亮。お前、もしかしてその力使って、
俺のに何かしたとか言わないよね?」
「っ!! それは絶対無えって!! お前が一番よく分かってんだろ!?」
 青ざめる亮が、何だかとても不憫になる。しかしながら、あの亮をたじろがせるお兄って一体……と私はつくづく感じている。
「……翼、亮。お前ら、もう
死ねる体だってこと、覚えてるよね? 要するに、もういつでも殺してやれるってことなんだよ?」
 お兄の不穏な言葉にも、翼はにっこりと微笑んで答える。
「ああ、ちゃんと覚えてるよ。と同じように年取れるってことだろ?」
 翼と同じように微笑むお兄。……でも、究極に冷たい空気が流れている。
「……分かってるよ。もう吸血衝動が起きることもねえしよ」
 亮がタバコに火を点けると、翼が思い出したように言った。
「そうだ。、今度の休みはどこ行く? どこでも、お前の行きたいところに連れていってやるよ」
 そして、私の左肩に置かれる翼の手。
「……翼、お前、それ、僕に喧嘩売ってるって思っていいんだよな?」
「それでしか、
シスコン兄からを奪う術が無いって言うなら仕方ないよね。どうぞご自由に」
「へえ……」
 お兄の額に、青筋が立つ。お、お兄が怒ってる……!(汗)
 右肩に置かれたお兄の手に、力が篭った。
「まあ、所詮翼は僕の代わりだしね。同じ顔で同じ声。
僕のことが大好きなは、やっぱり他の男にも僕と同じものを求めちゃうわけだろ? ねえ、?」
「えっ!? わ、私は……」
は僕が大好きだろ? お兄がいれば、何もいらない恋人もいらないっていつも言ってるよね?」
「え!? い、いや、あの……」
 確かに、昔にそんなこと言ったような気もする……。昔の私は、お兄しかいらないって本気で思ってたし。
「……そろそろ妹離れした方がいいんじゃない?」
 左肩にも、ぐっと力が込められた。
が兄離れ出来たら考えてもいいけど……当分それは無さそうだね」
 余裕の笑みを浮かべるお兄に、今度は翼の額に青筋が立つ。……ひぃ!! 翼も怒ってる! というか、両肩がすごく痛いんだけど……(涙)
「……、どうなの? 兄離れ出来ないの?」
「い、いや、あの……私は……私は…………やっぱりまだ、お兄ちゃんから卒業出来ない……かも」
 言ってしまってから、両肩に圧し掛かる空気が両極端になったことに気付く。
 右肩……お兄は勝ち誇った笑みを浮かべている。そして左肩……翼は、珍しく落ち込んで(?)いる。それを見ていた亮が、何とも言えない哀れみの視線を私に投げていた。……え? 同情されてる……?(汗)



「うっひょー……こりゃあまあ、なんと見事なドッペルゲンガーやねぇ……」
「ホンマや……まさか、ここまでやとは思っとらんかったわ」
「ノリック、シゲ!」
 ソファから覗き込むようにしていたのは、ノリックとシゲの二人。シゲは片手にフルーツの盛り合わせ、ノリックはボトルを両手に立っている。
「どうもー、の兄さん! シゲって言いますー」
「ノリックですー、よろしゅーお願いしまっす」

 お兄が二人と向き合おうと立ち上がった隙に、私は誰かにぐいっと引き寄せられた。
「うわっ……!?」
「大丈夫か、?」
「……か、一馬!?」
 そこにいたのは一馬だった。
「あれって、の兄貴だろ? どうしてここにいるんだよ」
「うわーん、かじゅま大好きーー!」
「うわっ!? ちょ、っ/////」
「怖かったよーー! お兄が二人……いや、
翼が二人して怒ってるのーーーーっ(涙)」
「い、意味分かんねえけど……」
 一馬に慰めて(?)もらっていると、頭上から苦笑した声が聞こえる。見上げれば……
「柾輝! 大地も」
「ったく……お前ら賑やかすぎだっつーの。他の客に隠すの大変なんだって」
、お前の兄とやらを見に来た。噂に違わぬ椎名ぶりだな」
「椎名ぶりって……(汗)」
 大地の冗談なのかよく分からない言葉に困惑しつつ、私は一人しみじみとお酒を飲む亮の隣に座った。
「何しけた面してんのよ」
「……お前、何で俺の前でだけはそんなに強気なんだよ」
「うーん……何でだろ? 何となく?」
「……てめえ。兄妹揃って、俺を振り回しやがって……」
 うんざりした様子でこぼす亮。やっぱり亮って……ちょっと不憫だ。
「あははっ。亮って、実はいい人だよね」
 そう言って微笑めば、柄にも無く照れた顔を拝むことが出来た。
「なっ……何言ってやがんだ!」
「だって本当のことでしょ? 亮って、本当はすっごいいい人だよ」
 最初に会った時は、何て嫌な奴って思ったけど……実は、このメンバーの中でも、一番優しい人かもしれないと、最近になって思う。
「……いい人ってのはな、こういうことしないヤツのこと言うんだよ、マドモアゼル……?」
「きゃっ…………やんっ!?」
 いきなり押し倒されたと思えば、首筋に押し付けられる唇。この光景……最初に亮に血を吸われそうになった時と同じだった。
「お前の血、吸ってやろうか?」
「……“人間”のアンタには無理でしょう? そんな悪い人ぶらないで。私たちは、亮の優しいとこが好きなんだから……」
「っ…………」
 亮の瞳が揺れる。こうやって見ると、やっぱり私と大して歳の変わらない青年だ。数百年生きてきたのだとしても、心はきっと変わっていなかったのだろう。
「……亮、そろそろ離してくれる?」
 しかし、すぐに
エロ目、タレ目で迫ってくるところも数百年前から? にやついた笑顔で、顔を近付けてくる。
、俺様の女になれ――――っぐあっ!!」
「「亮(三上)、死にたいの?」」
「ぐっ……お前らぁ……こういう時だけ息合わせやがって…………ぐはっ」
 がくんっとなった亮の脳天には、二つのかかとが落とされていた…………。
 お兄と翼は、やっぱり繋がってるみたい……(違うだろ)



――――そして、夜も更けた頃……

「じゃあ、えっと……改めまして、皆に紹介するね。こちらが私の兄です」
翔……」
「翔君も、しばらく見ないうちに男っぷりが上がってるわねぇvv」
「げっ、玲さん!? いつこっちへ戻ってきたんだよ!?」

「「「「玲(監督)!?」」」」

「ふふふっ、ついさっきよ。皆に会いたくなって、来ちゃったわ。ちゃんも……すっかり大人の女性になっちゃってv」
「あはは……玲さんも、相変わらずお綺麗です」
「あらやだ、本当? 嬉しいわv」
「玲、少し皺増えたんじゃない? もう不老不死じゃないんだし、肌の手入れとかまめにした方がいいんじゃないの?」
「あら翼……何か言ったかしら?」
 毒を吐いても、翼の顔は嬉しそう。そりゃあハトコだもんね。思わず笑みを零すと、小さく耳打ちされた。
「なあ、知っとるか?」
「直樹? どうしたの?」
「翼の初恋って、実は監督やったんやで!」
「えぇ〜〜〜〜っ!?」
(あくまで小声)
 驚く私に、直樹が「してやったり」という笑みを浮かべる。隣でそれを見ていたらしい柾輝が、「あーあ、バレたら大将に殺されるぜ?」と頭を掻いている。
 し、知らなかった……!! 
「しかもな、監督に見合い話が来た時なんて、翼のヤツ荒れて荒れて手ぇ付けられんかったんやで。相手の男確かめる言うて、単身乗り込もうと無茶しよるし。ホンマ、あん頃の翼は可愛かったんやでv」
「ぷっ……思い出すだけで、笑えるな……」
「つ、翼にも可愛い頃があったのね!! イイこと聞いた〜〜!! ありがとうvvv」

 密かに盛り上がる私たちの背後に、黒い影。
「……お前ら、何盛り上がってるわけ?」
「「「翼!?」」」

「……直樹、お前、本気であの世に逝きたいみたいだね?」
「ひっ!? 
うぐっ……!!
「柾輝、お前も?」
「い、いや……」
「翼翼! 直樹が本当に死んじゃう!(汗)」
 白目を剥いて泡を吐く直樹を横目に、翼が私を見つめる。その瞳がいつもよりも遥かに熱っぽくて……思わず胸が跳ねる。
「なあ、
「う、うん……?」
「僕、お前のことが……」
「え、えええええ?」
 段々と近付いてくる翼の顔。え、ちょ、ちょっと……!?
 そして、あと数センチの距離、というところで、ばりっと引き離された。
「わぷっ! お、お兄」
、お前危機感なさすぎ。男は皆狼なんだって、いつも言ってるだろ?」
「いや、でも翼たちは……」
「野獣だ」
 きっぱりと言い切るお兄に、玲さんが噴出した。
「あははははっ、そ、そうよね。翔君の言葉が正しいわっ……ふふふっ」
 ふと顔を上げれば、翼が背後から数名に取り押さえされている。
「ちょっと姫さん? いきなりに手出すなんて、いい度胸しとるやん」
「そうだぜ椎名! お前はいっつも独り占めしすぎなんだって」
「椎名。いくらの兄に似てるからって、調子に乗りすぎでしょ」
「フン。いつまでも手出せないようなひよったお前らと一緒にしないでくれる? 悔しいなら、お前らも行動起こせばいいだろ」

 翼の言葉に、そこにいたホストたちの目が輝いた……ように見えた。
 何となく、とてつもないほどの悪寒がする。

「……そうだね。確かにそうだ。ねえ、。そろそろ、
手出してもいいでしょ
「いいでしょ、じゃないでしょ!?(汗)しかも、何で断言してんのよ!」
 英士の台詞に思わず突っ込めば、ひょいっとお兄の腕から私を抱き上げる人物が二人。
「そうだよな! が欲しいなら、行動起こせば良かったんだ。もう俺たちは普通の人間なんだし、ぐずぐずしてたら他の奴に取られちまうし。っていうわけで、今から俺と
めくるめく官能の世界へ――――でっ!」
「こら若菜! お前一人で何言ってんだよー! ちゃん、俺と一緒に
楽しいことしない? 俺なら、ちゃんを退屈させたりしないし! 一日中楽しいこといっぱいしてあげるよ?」
 尾っぽを振りながらそう捲し立てる二人の姿は、一見愛らしく可愛く見えるが……それは見た目だけ。目が、目が爛々と輝いてる……(汗)
「いやーっ、やだやだっ、ダメダメっ! 二人とも、離してーーーっ」
 じたばたと暴れると、ふわっと誰かに抱きかかえられる。
「大丈夫?」
「竹巳っ!」
 まるで忍者のような素早さで現れた竹巳。ストンと着地する様は、どこからどう見ても隠密そのもの。
「ありがとう竹巳! 助かった……って、ちょちょちょ、何やってるの!?」
「え? 何って……
逃げられないように、ちょっとね
「ちょっとね、じゃなーい!!(汗)どうして私、
縛られてるの……」
 どうやら助けに来てくれたわけではないらしい。っていうか竹巳、その縛り方、そこはかとなーく危険な香りがするんだけど……。
「てめえら、
何羨ましいこと……じゃねえ、何ふざけたことしてやがんだ!」
「亮!」
「とにかくだ! 今夜は翔がわざわざここに来やがった。色々話すことがあんだろ? だから少しは落ち着きやがれ!」
 亮の意外な言葉に、一同は押し黙る。亮ってば……
やれば出来る子なのね!!(勘違い
「そ、そうだよ! 亮の言うとおり! ほらお兄っ」
 ぽかんとしていたお兄も、やがてフッと微笑む。そして、皆に向き直った。
「……遅れたけど……、あの時は、本当にありがとう。を救ってくれたこと、本当に感謝してる。今日はそれが言いたかった。本当に、ありがとな」
「わ、私からも……改めて言わせて! 皆がいてくれたから、私はまた、こうしてお兄と……そしてお母さんとお父さんとも一緒に暮らせるようになったの。本当にありがとう……! 皆がいてくれなかったら、私はきっと一人ぼっちのままだった」

 皆と出会って、私の世界は変わった。
 お兄と私だけの世界が広がった。
 お兄以外、誰もいらなかった私が、こんなにも世界を求めるようになったのだ。
 それは、仲間の大切さ、友達の大切さを皆が教えてくれたから……。

……何泣いとんねん」
「えっ……あれ、やだ……あははっ……」
 気付けば涙を零していた私。シゲが苦笑しながら涙を拭ってくれる。
「イイ女は泣くもんじゃねえよ。お前はいつも……笑ってる方が似合う」
「亮……」
「亮、口説くなんて十年早いよ。でも……お前の言うとおりだ。、お前にはいつも笑っててほしいんだ。それが僕の、兄としての願い。僕はお前が笑っててくれることが、何より嬉しいんだから」
「お兄……私……」
「お前の世界に、僕しかいなかったように……僕にとってもお前しかいなかった。でも、亮に出会って……翼の記憶を通じて、色々な世界に出会えた」
「翔……」
「翼の記憶が、僕を突き動かしたのは事実だ。でも、それ以上に僕が自分でお前らを……自分自身を救いたかった。そして、お前も」
「……やっぱり、お前で良かった。僕は本当に、そう思うよ」
 翼はそう言って、お兄の肩に腕を回す。お兄は、少し面食らった顔をしていたけど、やがて眉を下げて笑う。

 あぁ……この笑顔は、やっぱり翼と同じ。
 でも、お兄と翼は違う人。
 それでも二人が、私にとって大切で大事だってことには変わり無い。

「お兄、翼……二人とも、大好きだよ!」
 二人はじっと私を見つめて、少しだけ照れた顔で微笑んだ。
「「僕もお前が大好きだよ」」
「「「「「俺たちもが大好きだ!!!!」」」」」
「うわっ!? ちょっと皆っ……きゃーーーーーっ!!!」

――――だきっ だきっ だきっ!!!

 複数の叫び声と重なるように、いくつもの影が私の上に倒れこんでくる。し、死ぬ……!!
「えぇっと……軽食作ったんですけど、いかがですか?」
ちゃん、大丈夫?」
 将君のおろおろ声と、多紀の気遣う声に癒されつつも、私は頭上で聞こえる賑やかな喚き声に、ただただぐったりと肩を落とすしかなかった……。

はお前らには渡さないよ!! 顔洗って出直してきな!」(お兄)
「何で兄貴のアンタにそこまで言われなきゃいけないんだよ! 決めるのはだろー!?」(結人)
「そうだそうだ! 
シスコンは嫌われるぞ!!」(誠二)
「大体、アンタも
もういい歳なんじゃないの!? そろそろ妹離れして、自分のこと考えた方がいいんじゃない!?」(翼)
「それはお前らも一緒だろ! お前らなんて、
本当は〜〜歳で、化石もびっくりな歳なんだからさ!」(お兄)
「ケッ。心が若けりゃ、問題ねえよ!」(亮)
「そうだぞ! 人は中身が重要だ☆ アハハハハ!」(キャプ)
「キャプテンは、
見た目が老けてますもんね。心ももう、随分老化していると思いますけど」(竹巳)
「んー? 何だ、笠井。何か言ったか?」
「確かにね。渋沢は、見た目も少し変えた方がいいでしょ」(英士)
「お、お前ら……渋沢が不憫だぞ」(一馬)
「そういう一馬こそ、
その歳でその純情はやめた方がいいよ」(英士)
「そうそう。しかも、好きな食べ物リンゴジュースって……お前、どこのガキだよ」(結人)
Σ(|||´■`|||;;Σ)ガーン!!! や、やっぱり、そうなのか……(ずーん)」
「うん? 何故俺はここにいるのだ? 、お前を下敷きにしている」(大地)
「不破……無意識かよ」(柾輝)
「ハハハ、不破センセ、意外や意外に手ごわいライバルになるんとちゃう?」
「そうやね、不破君、要注意人物や」
「いててて……アホ、ノリック、シゲ! 動くんやない!!」(直樹)

「あらあら……やっぱり、ちゃんは大人気ねv」
「玲さん……見てないで、助けてくださいよ〜〜!! 
皆、どいてーーーーーっ!!!(涙)



 満月の夜、ホストクラブ『メフィスト』。
 もう以前のような、Bloodyな雰囲気は微塵も感じられないけれど……やっぱり私、の眠れない夜は続きそうな予感――――



Fin.


Re:>>


 というわけで、何だかすごい久々に笛夢書きました。お題は「ホストさんとこんにちは」でしたが、何だか全然お題とちがくね? どこらへんがこんにちはなのか、意味不です。しかもまた、以前の連載「吸血鬼輪舞曲」の番外編みたくなったし。お兄が出張りすぎて、全然夢じゃないし。もうごめんなさいとしか言いようがありません……。
 でも、連載終了後の後日譚的な感じで書いたので、とても懐かしかったし面白かったです。お兄と皆も再会させたかったので。
 連載は未読で、こちらのお題を読まれた方は、意味不な部分が多かったと思います。。。もし宜しければ、連載の方にも目を通してやってください。お兄がただのシスコンじゃないってことが、分かっていただけるかと思います。
 久しぶりに書くと、どうも感覚が鈍っていてダメです。これから少しずつ夢書きのリハビリをしていかなきゃ……。それでは、ありがとうございました!

2008/06/01 桃井柚