事の始まりは結人の、この質問。
「なーなー、って何歳なの?」
「私? 21歳だよ。大学3年」
「そうなんだ! んじゃ、俺より一個上だな」
「実年齢は、それプラス400歳は軽いけどね」
「英士、それ言ったらお終いだろ……」





 
「How old are you?」





 仲良しトリオに囲まれながら、せっせとテーブルを拭く
 丁度その時、寝起き眼を擦りながら、誠二が地下から上がってきた。
「おはよー誠二。今夜もまた……眠そうね」
「ふあぁ……おはよーん。うぅ……血が足りない……」
「血液パック吸いながら言われても……」
 まるでジュースを飲むような様子で、血液を吸う誠二に苦笑する。最初のうちこそ抵抗があったが、今ではだいぶ慣れた模様。もっとも……自分の血を吸わせる気は毛頭ないらしい。
「……ちゃん……駄目?」
「駄目」
「……ちょこっとだけ? ね? 痛くしないからさぁ!」
「絶対嫌。無理強いしたら、竹巳に言いつけるからね」
「うっ……」
 
 契約違反は死刑。
 あの後、彼らの中で交わされた約束だった。
 ファウストの血を口にした者は、その喉元を引き裂く……と、冷たい瞳を光らせたのは誰だったか。もちろん、はそんなこと知るはずもない。
 誠二もそれを知っているからか、冗談交じりでじゃれついてくる程度だ。いわゆる、スキンシップの一つ。

「そうだ。誠二も結人たちと同い年なの?」
「え? うん、そうだよ! 俺ら、ほとんどが同い年w」
 誠二が楽しそうに言うと、 は何か考えるような素振りを見せた。
「ん? どうした?」
「あの……亮に誠二は敬語よね? 竹巳も翼のことはさん付けしてるし。どうして?」
「あぁ。あの人たちは、俺たちよりも一つ上なんだよ」
 英士が思い出したように言うと、結人も「あ、そうだった」と手を打った。
「……もしかして、今まで忘れてた?」
「「うん」」
 綺麗にはもった英士と結人に、一馬が呆れたような顔を浮かべた。ちょうどその時、亮と翼が揃ってフロアに出てくる。
「おはよう、翼」
「おはよ、。相変わらず……早いね」
「……もう夜ですけど」
 欠伸をかみ殺しながらソファーに座る翼に苦笑する。吸血鬼は皆、寝起きがあんまりよろしくないようで……。
「くあぁぁぁ……、水くれ」
「はいはい……」
 ダルそうな声で水を注文するのは亮。
 仕方ないなぁと思いつつも、水を持ってこようと席を立つに、ため息ともつかぬ声を漏らす翼。
「……ったく、コイツの言うことなんて聞く必要ないのにね」
「んだと椎名……っ……ダメだ。てめえと言い争う気力もねぇよ……」
「……同感。ダルイ……」



 冷蔵庫から、氷を取り出すに声が掛かった。
「やあ。おはよう」
「あ、おはよう克朗」
 渋沢だった。他の面々とは違い、彼だけは爽やかな笑みを浮かべている。
「さすがはオーナー。寝起きの良さもぴか一ね」
「ハハハ、そんなことないさ。の方がピカピカしてるぞ」
「……ぴかぴか?」
 何となく話が噛み合わないが、いつものことなので気にしないことにする
 手に持った沢山のグラスと氷を見た渋沢は、さっとそれを取り上げた。
「あ……」
「重いだろう? 運ぼう」
「え、でも悪いよ」
「どうせあいつらのものだろう? お前の手を煩わせるわけにはいかさないさ」
「克朗……」
 爽やかに笑い、そのままフロアへと進んでいく渋沢。
 その後姿を見て、は「何て大人なのかしら……」と思っていた。



「ほらお前たち、に感謝しろよ」
「わ、キャプテン! おはよーございます」
「藤代……血液パックはココで飲むなと言ってるはずだが……」
「いいじゃないですか、まだ店開いてないしーw あぁ生き返る〜!!」
、もしかしてこの水の中に……」
 一口飲んだ翼が、を見やる。
「あ、分かった? ちょっと薔薇の花びらを漬けておいたんだよ。少しでも薔薇の成分が溶け出せば、ちょっとは元気になるかなーって」
 のちょっとした心遣いに、吸血鬼たちは心が温かくなるのを感じていた。
 それは無論、渋沢も例外ではなかった。
は何て気の利く女性なんだ! オーナーとしても、誇りに思うぞ」
「あはは、ありがと克朗」
 ここでは、その笑顔のまま言った。

「克朗みたいな大人から褒められると、何だかすごい嬉しい」

「……、すごい大人って?」
 わずかに動きの鈍くなった渋沢が、張り付いた笑顔のまま尋ねる。
「え? 克朗は私たちよりも全然年上じゃない? だから、そんな人に認めてもらえたってことが、嬉しいの」

 眩しい笑顔でそう言い切られて。
 渋沢の額には、眩しい冷や汗が浮かぶ。

「ぷっ…………!!」
「くっ……うくくくっ……」
 これを見ていたホストたちは、思わず吹き出す笑いを止められないようで。皆、真っ赤な顔で口を押さえて耐えている。

「え? 皆、どうしたの??」
 笑いを押し殺している面々を、訝しそうに覗き込む
 とうとう耐え切れなくなったのか、結人と誠二が同時に笑い転げた。
「ギャハハハハハハハハッ!!!!! っ、お前サイコーーーーー!!!」
「キャ、キャプテーーン!!! ややややっぱそう見えるんスね!? アッハッハハハ!!!!!」
「え? 一体何――――」
 二人の笑いを皮切りに、他の面々も我慢できなくなった様子。弾けたように、皆が笑いだす。
「プッ……アハハハハハ!!!! ……っ、本気でそう思ってるの!? アハハハハハ!!!!」
「クッ……渋沢っ、お前、俺たちよりも全然年上らしいぜ!? アーッハッハッハッハ!!!」
「結人……っ、わ、笑いすぎでしょ……!」
「え、英士こそっ……ギャハハハハハハッ!!」
「は、腹がいてぇっ……!! アッハッハッハ!!」
 涙を流しながら笑い続ける吸血鬼たちに、は一体どうしたものかと狼狽する。
 翼が、お腹を押さえながら息も絶え絶えに言った。
「ち、ちなみにさ……、渋沢、何歳だと思ってるわけ? アハハハ」
「え、えぇと……」
 少し思案する素振りを見せたは、やがて「うん」と頷くとこう言い切った。

「32歳!!」

――――ダダダダーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!(この時の渋沢克朗を表す音声)

「「「「「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!!!!!!」」」」」


「え!? ち、違うの……!?」
 笑い転げまわる面々に、狼狽を隠せない。すると、その肩をぽんぽんと叩く黒い影。
「え……か、克朗?」

 渋沢は、これ以上無いというくらいの爽やかな笑みを浮かべた。
 そして、ゆっくりと……相手の脳髄に植え付けるかのような口調で告げた。



「 俺 は  と 同 い 年 だ ☆ 」



「…………え」

「 21 歳 v」

「…………」

 渋沢の顔を見たは「ひっ……」と声を漏らした。
 彼の目尻には、光る雫が浮かんでいる。
 の背中を、冷たい汗が流れた。

(な……泣いてる!!)

「ご、ごめんね克朗!! 悪気は無かったの!!」
「ハハハ……別にいいさ。俺は全くもって、全然そんなこと微塵にも気にしていないからな」
「(ぜ、絶対気にしてるよね!?)」
 男を泣かせてしまった罪に囚われたは、何とかしてフォローしようと試みる。
「え……えっと、あのさ!! 克朗が決して
老けてるとかそんなこと全く思ってないからね! ちょっとオジサン臭いとか、全然20代に見えなかったとかそんなことないから!!」
「オジサン臭い……」
「いやいや、まさかまさか! そ、そうだ! きゅ、吸血鬼のくせに早起きだから
年寄りっぽいなーとか全然思ってないし!!」
「年寄り……」
「そうそう!! って……違う違う!! あ、どっかの
父親参観日でエセ臭い笑顔浮かべてそう! なんて微塵も考えたことないよ!?」
「エセ……」

「…………、それ全然フォローになってねえって」
 そう突っ込むのは一馬。他のメンバーは、あまりの言い様に声も出せずに笑い続けている。
「ひひっ……っ……それ以上笑わせないでくれ……!! わ、笑い死ぬぅ……!!!」
「若菜……っ……俺、もうダメかも……!! うひゃひゃひゃっ……!!!」
「お、俺様としたことが……わ、笑いすぎて腹が痛えっ……!!!」
っ……ボクたちを笑い殺す気……!? くくっ……」
「ハハハハハハハ…………」
「えぇっ!? あぁっ、克朗!! しっかりしてーーーーー!!!」
「ハハハハハ(笑ったまま泣いている)」
「克朗――――――っ!!!(泣)」


 結局この日、営業時間間際になるまで、クラブ『メフィスト』から笑い声が途切れることは無かった。



 
 翔の妹だけあって、実は天然毒舌家。




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 はいはい、キャプでギャグssです。ていうか、ギャグにもなりきれてない……(汗)シリアスに浸かりすぎると、今度はギャグが書けなくなるという恐ろしさ。オーマイがー!! 何か、全然キャプとかどうでもいい感じになっちゃって悲しいです……(お前のせいだろーが
 あー……でも、ヒロインの天然毒舌っぷりが、スパイシーな一品になればそれで良いです(いいのかよ)
 さて、次はみかみんだーーー。