ファイル2 ベッドの下に男がいたら・・・



「というわけで、前回から約一年以上の月日が流れてしまいましたが……
『都市伝説探偵団!』 都市伝説を叩っ切ると題しまして、第2回は私、と」
椎名翼
黒川柾輝
「以上の3名でお送りしたいと思います☆本日のお題は……」
『ベッドの下の男』だね」
「何だか薄気味わりいタイトルだよな」
「そう! では、さっそくこの噂について語っていくことにします。
レッツ! 都市伝説(≧∀≦)♪♪
「「……」」



「そもそも、このお話知ってる?」
「当たり前。つーか、今もこの件で借り出されてたし」
「そうなの!? どうして私にはお声が……(汗)」
には極力危険な仕事はさせたくねえって、監督の判断だ」
「玲ちゃんが? そんなに危険だったの??」
「……危険ていうか、都市伝説というより普通の事件て感じ」
「だな」
「うー……これは二人から詳しく話を聞いた方が良さそう。じゃあ、翼に進行をバトンタッチ!」
「はいはい。じゃあ、簡単に噂の概要から説明するよ。ある女子大生Aが、友人2人BとCを部屋に招いた。夜中まで話に花を咲かせてた三人。だけど突然Cが、夜中にも関わらず「アイスが食べたい」と言い出した。アイスなら冷凍庫に入ってるとAが言うが、Cは「○○で売ってるやつじゃなきゃヤダ」と言って聞かない。呆れたAとBは、じゃあ一人で買いに行けばいいと言うが、Cは「三人一緒に行かなきゃヤダ」とどうしても譲らない。あまりにもCがしつこいから、仕方なく部屋を出るAとB。その間もCはしきりに「早くしろ」と二人を急かす。イライラしながら部屋を出た二人に、Cはそのまま「走って!!」と突然駆け出した。何事かと思いCを追いかけた二人に、Cは顔面蒼白になりながらこう叫んだ。


『Aのベッドの下に、鎌持った男がいたの!!』
「キャーッ!!」
「うっ……」
「……お前ら、何びびってるわけ? 何も初めて聞いたわけじゃないだろ」
「だ、だって……翼の話し方、すごく淡々としてて逆に恐怖が倍増するって言うか……」
「俺はの叫び声にびびった……」
「はあ。まあ、これが世間一般的な『ベッドの下の男』の話だね。他にも、
三人じゃなくて二人だったり、今話したバージョンはCが機転を利かせたことによって全員助かったけど、中には家から出なかったやつが、無残にも惨殺されてしまうっていうバージョンもある」
「ひぃっ。こ、怖い……!!」
「グロイな、それ」
「まあ、こんな風に色んなパターンが存在するのは事実だね」
「うーん。都市伝説って、何も一つの話に『絶対にコレ!』っていう流れがあるわけじゃないのよね。
同じ話でも、色んなパターン……バリエーションっていうのかな。そういうのがいくつもいくつもあるのが普通なんだよね」
「そうだな……。沢山あるバージョンの中でも、特によく知られているパターンってのはそれぞれあるみたいだけどな。要するに、自分が聞いたパターンの中で、一番怖いとか印象に残ったやつを次の奴に語って聞かせるってことか」
「そうだろうね。僕が今話したパターンだって、何パターンか聞いたうちの一つだし。そういや、ベッドの下に潜んでたんじゃなくて、
押入れに狂人がいたっていうパターンもあったな」
「なるほど。でもさ、この話って、都市伝説の中でもかなり有名な話だよね」
「ああ。なんつーか、リアルな話だよな。幽霊とかそういった類じゃない分、余計に現実にありそうって感じがする」
「ベッドが鍵になってることから、
多くの学者はこの話の発祥地を海外って推測してるらしいね」
「うん、それ私も調べた。でも、
実際にこれと同じ話が英訳されて海外で回ってる事実は無いって……」
「ああ、多分
似た話が変化して、この『ベッドの下の男』って話が出来たのかもしれねえな」
「似た話と言えば、アレがあるね」
「あ! それ知ってる!! アレでしょ、
『電気点けなくて良かったな』だよね!?」
「へえ、ちゃんと調べてきたんだね。じゃあ、が話しなよ」
「えへへ、じゃあ行きます! 女子大生のA子は、先輩の家に友人たちと遊びに行ったのね。夜も更けた頃、A子は友人たちと帰宅することにしたんだけど、先輩の家を出た後ポーチを忘れたことに気付いた。慌てて取りに戻ると、玄関の鍵が開いてたの。先輩が鍵を掛け忘れたのかなって思って、そのまま部屋に上がると、先輩が寝転んでたらしいの。電気を点けるのも悪いって思ったA子は「忘れ物を取りに来ました」とだけ告げて、ポーチを手に早々に部屋を後にしたんだって。で、翌日、先輩の家の前を通りかかると、パトカーと野次馬で溢れ返っている。何事かと思って事情を尋ねると……先輩が何者かに殺されていたって言うの! 警察に事情聴取を受けながら、部屋の様子を確認するA子。そうしたら、テーブルの上に紙切れが置かれてて……こう書かれてたんだって。
『電気を点けなくて良かったな』!!キャー!! 怖くない!?」
「60点だね」
「お前の頑張りは認めるけどな。それじゃあストーリーテラーは程遠いだろ」
「うぅ……頑張ったのに;;」
「はいはい、よく頑張ったよ。この話は、
アメリカでは都市伝説の王道ってくらいに有名な話で、『ルームメイトの死』っていうタイトルで広まってる。アメリカは寮生活が当たり前だから、ルームメイトを持つのも当たり前ってわけだ」
「これは俺も調べたぜ。
1960年代初頭より語られ始めたこの話は、前者は機転の利く人物により難を逃れ、後者は自分の運の良さに助けられるというストーリーだが、部屋に何者かが潜んでいたことに最後に気付く、っつー部分でこれらの話は似通ってんだよな」
「そう。この話を広める発端を担ったのは、
全米女性を恐怖に陥れたレイプ殺人鬼テッド・バンディーであると考えられてる。奴は、1974年頃から大学寮やショッピングセンターで犯行を行っていたようで、事実1977年にフロリダ州立大学の女子大生を殺害している
「でも翼。
1960年頃から語られてるなら、この事件の方が遅いんじゃないの? 何か時期がずれてる気がするんだけど……」
にしてはよく気付いたね」
「むっ。私これでも一応、この探偵団の事実上の総括担当なんですけど(怒)」
「まあな。はこう見えて、膨大な数の都市伝説サイトを取りまとめる『管理人』だしな」
「全部玲の受け売りじゃないの? それか俺たちが汗水流して収集した話をただまとめてるだけ」
「うっ……翼ってば酷い! 私だって、色々努力してるんですぅ!!」
「ククッ、、翼は心配してんだぜ。
都市伝説サイトの管理人が、立て続けに行方不明……っつても、ネット上でだけどよ。つい一昔前にあっただろ? とにかく、が危険な目に遭わないようにって、監督にも毎日しつけえくらいに言ってんだ」
「柾輝! 余計なこと言うな」
「へいへい、でも、親の心子知らず……とは違えか。大将の心、知らずだな」
「柾輝っ、お前……!」
「翼……本当に? 本当にそんな、心配してくれてたの?」
「っ……、僕は別に、お前がそんなわけ分からない事件に巻き込まれたりしたら、僕たちの存在意義そのものが疑われるって思っただけだよ。それ以上の意味なんて無いね」
「……ありがと、翼。でも、私は大丈夫だよ。皆がいるし……何より、翼がいてくれるんだもん」
「……フン」
「大将の天邪鬼が治るときは来るのかね」
「柾輝、お前、ネット上と言わずこのまま行方不明にしてやろうか……?」
「おぅ、怖えな。ほら、さっさと先、進めようぜ」
「ちっ……柾輝、後で覚えてなよ。……確かに、噂の時期がずれてる。これが、今日僕たちが借り出されてたことと少し関連があるかな」
「え!? どういうこと!?」
「つまり。僕たちは今日、つい先日起きたストーカー殺人……って言っても、犯人は自殺したらしいけど、あの事件についての調査に借り出されてたってわけ」
「ああ、あの恋人をストーカーしてたっていう事件?」
「そう。事件の収拾自体は別の組織が動いて終了してたらしいんだけど、こっちでも資料として残しておいてほしいって頼まれてね。まあ、警察のお零れを貰ってる僕たちにピッタリの仕事だね」
「……何だか、悲しい響きだね」
「事実だろ。仕方ないよ。僕たちはまだ大人じゃないんだし、社会の裏側を知るにはまだまだ何もかもが不足してるんだ。玲いわく、
『少年少女だからこそ分かることに期待してる』って言ってたけど、僕たち自身はそれが何なのか掴めないでいるんだから」
「少年少女だから分かること……か。確かにそれは、自分たちじゃあよく分からねえよな」
「……話が反れたね。それで、その調査したあの事件こそ、現代の都市伝説『ベッドの下の男』そのものだったんだよ」
「え……それって」
「新聞やニュースでは、ただのストーカー殺人で通ってるけどね。被害者の女子大生は、恋人にストーカーをされていた。その恋人は、ずっとその女のベッドの下に潜んでたんだ。女がどういう経緯でそのことに気付いたのかは分からないけど、我を失った男はその女の目の前で自殺した」
「うわ……でも、警察が来た時はまだ息があったって聞いたよ。誰が連絡したの? その女の人はショックで動けなかったんじゃない?」
「どうやら警察関係者が事件をいち早く察知したみたいで、その人が警察への連絡とか救急車の対応とかしたって。詳しいことは分からず終い。都市伝説に関わる事件は、何らかの形で隠蔽される……この仕事をするようになって知った社会の裏側の一つ」
「世間では隠さなくてはいけないってことなの……?」
「さあな。それは俺たちが知ることじゃねえだろ。ま、要するに、アメリカの事件のことも、
『都市伝説があったからこそ、それになぞらえた事件が起きた』かもしれねえって俺たちは考えてんだ」
「都市伝説になぞらえた?」
「もちろん、事実が噂の印象を強くして、信憑性を高めるからね。事実と噂が混ざりながら世の中に蔓延していくんだとは思う。これはただの推測だし、正しいかどうかはまったく分らない。でも、ベッドの下の男は、何も幽霊話じゃない。
人間の狂気が生んだ話だ」
「そういう話が、
犯行を駆り立てた一つの要因になりうるかもしれねえってことだな」
「……二人がそこまで考えてたなんて、ちょっと尊敬。確かに、それってありえる話だよね。よく出来た話って、少し『真似してみたい』って思ったりするもん。何だか自分が、その話の主人公になったような気分になるし」
「ま、分かってもらえたなら話した甲斐があったってもんだね。そんなわけで、今回の事件も、犯人がこの都市伝説を知っていてそれを敢えて実行しようと思ったかは分からないけど、そういうことも考えられるってわけ」
「調査には危険が付き物だからな。誰がどういった目で、俺たちのことを見てるか分からねえ中、を一緒に連れていくのは止めた方がいいって監督の言葉だ」
「そっか……。私って、皆に大切にしてもらえてるのね;;すごい感動」
「お前がいなくなったら、誰もサイトの管理なんて出来ないからね。都市伝説探偵団の存続が危ぶまれるんだよ」
「一人ぐらいいっつも賑やかな奴がいないと、辛気臭くなっちまうしな」
「うぅ、何となく素直に喜べないけど、一応喜んでおくことにしよっと。ありがと、二人とも♪」
「はいはい。さて、ここでベッドに話を戻すよ。こっからは、事件とかは関係なしに、都市伝説が都市伝説として成り立っている所以について。最近では日本でもベッドで寝る人が過半数を占めてるけど、
ベッドの下の隙間は独特な空間だ。日本で言うなら、障子の隙間、押入れの中などが対応する場所かな? いずれにしても、隙間っていう空間は、僕たちに不思議な感覚を与えるよね」
「確かに……。何となくだけど、ちょっと怖い気がする。あの隙間から、誰かが覗いてたらどうしよう! とか。落ち着かないって感じ」
恐怖や不安が漂う空間って感じだな」
「そうだよね。この隙間は、研究者たちの間では
『日常生活に潜んだ異界』って考えられてるみたいだよ。異界には、人間とは別の生き物が生息している、という僕たちの意識がある。そこから考えると、『ベッドの下の男』も、まさに異界人であって、その姿を見つけた瞬間に突如として日常は非日常と化すってこと」
「対人間の怖い話なんだけど、幽霊話と変わらない恐怖が沸き起こるのは、そういったことが関係してるってことだね」
「幽霊や妖怪は勿論『異物』だが、
狂人も普通の人間にとっちゃ一種の化け物だろうしな」
「……普段はあまり意識していない隙間が、ふとした瞬間やけに気になることがあったりしない? 一度気になり出すとその後もずっと気になって仕方がないの。そうなると、その隙間について色々な思いを巡らすようになって。もし、隙間をモティーフにした怪談話でも思い出したら……突然その隙間が怖い世界に見えてくるよね! そういった恐怖や不安が、こんな話を作り出すんじゃないかな?」
「それは間違いないだろうね。実際にこの
『何かが家の中に潜んでいる』という妄想に悩まされている人は多くて、一種の精神病だと考えられてもいるらしいよ。それだけ、人間にとって家の中、そして隙間ってものは特別な意味を持ってるってことだね」
「確か、
江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』って話が、それにまつわるお話だったような……」
「へえ、よく知ってるじゃん。これを知ってるとは思わなかった」
「えへん! これぞ総括たる所以です☆……あ、ねえ、翼、柾輝。私、お腹空いちゃった」
「何突然。さっき食べたばっかじゃないの?」
、青海苔が歯に付いてるぜ」
「え!? 嘘!?」
「嘘」
「ぅ〜〜〜!! 柾輝の馬鹿! って、そうじゃなかった! とにかくいきなりお腹が空いちゃったの。何か食べようよ!!」
「お菓子ならその辺に沢山あるだろ? それで我慢しろ」
「やだやだっ! 私、コンビニ行きたい! 駅前のコンビニで売ってるお菓子が食べたいの〜!!」
「これ、そのコンビニで買ったやつなんだけど」
「え“!? で、でもこれじゃないやつが食べたいの!! ね、今から買いに行こう!! ね、いいでしょ!?」
……お前、今こんな話したってどうしようもないだろ。何企んでるのかしらないけど、とにかく行きたいなら一人で行けよ」
「お、お願い翼! 柾輝も!! お願いだから、一緒に行って!! お願い!!!」
(……おい大将。の手、引いて。一気に部屋から出るぜ)
「は? 柾輝、お前何言ってんの?」
、俺も無性に菓子食いたくなってきた。つーわけで、買いに行こうぜ」
「ま、柾輝!! ありがとう!! 今すぐ行こう!? 翼も早く!!」
「はあ? お前らホント、一体なんなわけ!? こんなギャグ迷惑なだけなんだよ。ったく、も柾輝も下手な演技しやがって。僕はもう疲れてんだよ! 行くなら二人で勝手に行――――――――…………と思ったけど、やっぱり何故か僕も無性にジェラートが食べたくなってきたな」
「そ、そうでしょ!? 何だか無性に何か食べたくなったよね!? どうしてだろーね!? あははははー☆」
「さ、そうと決まればとっとと行こうぜ。上着なんて俺たちには必要ねえよな?」
「う、うん!! 何か話盛り上がっちゃったら、すっごい暑いもんね!? じゅ、11月だけど、上着なんて必要なーし☆」
「……そ、そうだね。じゃあ、行こうか」
「じゃ、じゃあ、せぇーーのっ……」
がそう言った瞬間、翼と柾輝がの腕を掴む)
「逃げるよ!!」
「分かってる!!」

「うわーーーーんっ!!!!;;」






「うえぇん! 何よアレ!? あの男、何!? 包丁持ってたよね!?」

、よく気付いたね!」
「ああ、助かったぜ」
「そ、それはいいけどこれからどこ行くの!?」
「玲のところ!!」
「まさかあそこに潜んでいやがったとはな。一応あの部屋に監視カメラは付けたし、張り込んでた奴らがアイツを確保したとは思うけどな」
「え、え、え!? ど、どういうこと!?」
「僕たちが頼まれてた調査! 本当は、アイツを誘き寄せることだったんだよ!!」
「えぇぇぇえぇっ!?」
「あの界隈に潜んでるっていう情報はあったんだ。でも、まさか部屋にいやがるとはな」
「え、ちょ、待って!! もしかして……もしかしなくても私、二人が来るまであそこであの男と二人っきりでいたってこと!?」
「無事で何よりだったよ、お姫様」
「ああ。マジで洒落にならねえ」
「ひぃぃぃっ…………!! そんなぁぁぁっ!! 誰が私を危険な目に遭わせないよ〜〜〜〜!! めちゃめちゃ危険だし!!!(泣)」
「何か僕たちって、普通の刑事よりも危険な目に遭ってる気がする」
「……これが少年少女にしか出来ねえことって言うなら、マジでごめんだな」
「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!! もう嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!(号泣)」



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