もしも鳥であったなら、
 もしも翼を持っていたら、

 あなたはどうしますか・・・・・・・・?




 空




「なぁなぁっ!みんなこの後時間空いてるかっ!?」
「はへ?」

 ふわふわした茶色の髪を持つ少年の声に、前を歩いていた少女と少年達は振り返る。
 空は鮮やかな橙色。日はもう沈みかけている。
 彼等はサッカーの選抜練習の帰りのようだ。

「いきなり何言い始めてんだよ結人!」
「何か用事でもあるの?」
「へへへー♪」

 黒髪のツリ目の少年とクールビューティな感じの少年。
 名前は、真田一馬と郭英士。ちなみにふわふわした髪の少年は若菜結人。
 彼等は団体さんの中でも特に仲が良いらしい。・・・一人は呆れかえった顔をしているが。

「若菜、さっさと要件済ませてくれない?」
「何か面白いコトでもあるの!?」

 少し苛立っている様子の赤髪の少年と目を輝かせる黒髪短髪の少年。泣き黒子が印象的。
 彼等の名前は椎名翼と藤代誠二。
 対照的な二人に、若菜はにぃっと笑いかけた。


「肝試ししねぇ?」
「「肝試し!?」」


 季節は春。
 だが、春というにはまだ肌寒い日が続いている。
 そんな日に、何故季節外れな肝試しを提案するのか。

「突然にも程があるでしょ」
「何だっていきなり?」
「なんかさ、ここの近くのマンションの一室で怪奇現象が起こるっつー噂聞いたんだよ。だからちょーっと気になってさ♪」
「あぁ、この間西園寺監督が言ってたヤツだろー?」

 話し上手の西園寺監督と面白いコト大好きな若菜と藤代。西園寺監督にいろいろな噂話などを聞いたのだろう。藤代と若菜はもうやる気満々だ。

「お、俺は別にいいけど・・・はどうすんだよ?」

 真田の言葉で、みんながの方を見た。
 肩をわなわなと震わせている。
 選抜のマネージャーである、紅一点の
 やはり女の子は怪談系は苦手なのだろう。



「楽しそうだねっ!」



が、世の中には例外というコトもある。

、怖いものとか平気なの?」
「お化けとか実際に見たことはないから、怖いかどうかはわからないよ。でも、探検みたいなのは好きv」

 にっこり笑う
 怖いものは今のところありません、ということをはっきりと示している。

「んじゃ郭は?椎名はーっ?」
「一馬と結人も行くみたいだし・・・行くよ」
「俺も。より先に帰ったら玲に怒られるしね」

 やれやれ・・・という感じで、全員の参加が決まる。
 ちなみに、椎名とはご近所に住んでいて、は玲のお気に入りだったりする。

「決定っ☆早く行こーぜ!」
「ちょ、待ってよ誠二に結人!」

 藤代と若菜が走り出し、がそれを追いかける。
 その後ろを郭達がついて歩いていく。
 日はもうすぐで完全に姿を消す。
 空は赤と黒で染まり、その幻想的な色合いの中に不吉さが紛れていた。






 走ってたどり着いたのは極普通のマンション。
 結人の案内で4階まで上がる。
 六人でエレベーターに乗るのは少し窮屈だった。

「あ!ここだよここ!」
「404号室・・・?」

 たちの目の前にあるのは何の変哲もない扉。
 ただ、みんなが釘付けになったのはその数字。
 普通のマンションでは、4は不幸の数字とされ使われないため、404号室は存在しないのが普通なのだ。

「なんか不吉っぽさが溢れてるな・・・」
「ま、全部のマンションに404号室がないとは限らないんじゃない?」
「だよなー」

 コレくらいのことでは怖がらない。
 というより、これくらいで気味悪がっていたらこれから先やっていけないだろう。


キィ・・・


「あ、鍵開いてる。入ろうぜー」
「はぁ!?ここ誰か住んでないワケ?」
「空き家だって監督は言ってたぜ?現にほら、靴とか何もないじゃん」

 若菜が扉を大きく開いて見せる。
 確かに玄関には生活感は全くなかった。

「早く入ってみようぜ!わくわくするっ!」
「俺一番乗りっ!」

 若菜と藤代を始めとして、ぞろぞろと空き家の中へ入っていく。
 だが、は≪404≫という表札を見上げて固まっていた。
 その後ろにいた椎名が不思議そうにの顔を覗き込む。

?どうしたのさ?」
「・・・・ううん、なんでもない。早く入ってみようよ♪」
「おい、ちょ、」

 が椎名の腕を引っ張って中へずかずかと入っていく。
 にこにこ笑っているので、特に何かあったというワケではないみたいだ。

ただ、



── 血 ノ 色 ニ 見 エ タ ──



と呟いただけで。






「うわぁ・・・・暗いねぇ・・・」
「そりゃ電気もついてないからね」
「外も真っ暗だからなぁ」

 中に入ってみると静かな暗闇が広がっていた。今は英士がケータイでライトをつけてくれている。
 玄関から真直ぐ廊下があって、右側に部屋が二つ、左側にトイレや浴室とかがあるみたい。そして、奥にリビングがある・・・のかな?

「なぁなぁっ!まずどこから入る?」
「やっぱ近い部屋から入っていくべきだろ?」
「さんせー」

 一馬の意見に賛成して、まず右側の一番手前の部屋に入ることにする。
 結人を先頭にぞろぞろと入っていった。

「・・・なんで家具があんだよ?」
「引っ越したなら家具持ってくだろフツー・・・」

 部屋に入ると、本棚やベッドがあった。
 あったけれど、生活している感じはまったくなくて、埃をかぶっている。
 大人っぽいモノが多いから、多分大人の人の部屋だったんだと思う。

「なぁ・・・・・ここ、仏壇なんかないよな・・・?」
「当たり前だろー?何言ってんだよ一馬」
「じゃぁなんでここに線香が・・・・?」
「線香・・・?」


あれ・・・・?・・・コレ・・・



キン・・・



「っ!?」



 急に頭が痛くなる。
 なんだろう、何かが・・・頭に叩き込まれる感じ・・・っ



『・・・ちゃん・・・だよ・・・』

『・・・も・・・だからね・・・・』




誰?

誰かが、笑ってる・・・

これは、なに・・・・?






「・・・・・・・・!」
「・・・・・え・・・・・」

 いつの間にか座り込んでいたみたい。
 見上げると、みんなが心配そうに私を見ていた。

「よかったー!心配したんだよーっ」
「え、あ、ごめん・・・」

 いきなり誠二が抱きついてくる。
 そんなに心配をかけてしまったのかな?
 頭抱えて座り込んだらそりゃ心配するか・・・・。

「どうしたの?大丈夫?」
「全然平気だよ、英士」
「ならいいんだけど・・・・」

 なんか不思議な感じだったけど、もうその感覚は残ってない。
 昨日夜更かししちゃったからかなぁ・・・貧血にでもなったのかも。・・・・・そう思うコトにしよう。

「そ、それよりさ!何か面白いモノあった?」

 気を逸らすために話を振ってみる。
 案外簡単に結人がのってくれた。

「あ、写真立てがあったぜ!・・・なんか、変だけど・・・」
「え・・・?」

 見せてくれたのは、家族の集合写真であろうもの。
 男性と女性が並んでいて、男性は女の子を抱き上げていて、女性の前に小さな女の子がいる。
 仲睦まじい感じの雰囲気なのに、


 顔だけがない。


 そう、いわゆる心霊写真。



「・・・・っ・・・!」
「俺、こんなの初めて見た・・・・」
「何度も見てる方がおかしいよ」
「確かに・・・」

 引越しをする時、お祓いに出さないで置いていったのかな?
 持ってたら、薄気味悪いもんね。
 でも、なんでだろう、この写真を見てると悲しくなってくる。
 気味悪いんじゃなくて、悲しいの。

「これ、どっかで・・・・」
「見たことあんの、椎名?」
「この写真というか、この背景をね」
「背景?」

 翼が持ってる写真を覗き込む。
 確かに、見たことある。
 どこで見たんだっけ・・・・旅行とかで行った覚えはないんだけど・・・

「とりあえず、次行こうぜ」
「帰りが遅くなりすぎてもあれだしね」
「うん」

 結人の声で考えることを一旦やめる。
 ずっと悩んでも答えは出てこなそうだし、なんか考えたくない気分。
 やっぱり、こういうのは楽しまなきゃ。
 頭を痛くするためにここに来たんじゃないんだから。



──・・・・ちゃん・・・・

      ・・・・おかえり・・・なさい・・・・・







 次は、さっき入った部屋の隣の部屋。
 子供部屋らしく、二段ベッドやおもちゃがある。

「小さい子の部屋だったみたいだな・・・・」
「女の子用の物が多いから、姉妹だったみたいだね」
「なんか探偵みたいだなっ」

 誠二はなんかわくわくして楽しんでる。
 私は、なんだか懐かしい気分。
 私の部屋も昔はこんなんだったんだよねー・・・。

「・・・・電車ーの窓からー・・・見えるー赤いやねーはー・・・♪」

 思わず口ずさんだのは、小学校の頃によく唄った歌。
 何故かよくわからないけど、私はこの歌が好きだった。
 そういえば、このマンションも屋根は赤色だったなぁ。

「懐かしいなーその歌!」
「結人も音楽の時間好きだったの?」
「五教科以外ならなんでも好きっ!」
「結人らしいね」

 しばらく、怪奇現象が起こると言われている場所だということを忘れて、懐かしい話で盛り上がる。
 メロスの歌を唄ったーとか、春の小川とか・・・・懐かしいものばかり。

「そういえばさー、花一匁とか小さい頃やんなかった?」
「やったやった!仲良しな子の取り合いだよなっ」
「でもそれって怖い意味があるって訊いたぜ?」
「へぇー・・・・。あ、それなら『しゃぼんだま』とかもそうじゃね?」
「『しゃぼんだま』は怖いというより、悲しい話だろ?」

 みんな意外と詳しいなー・・・。
 私唄ったことはあるけど、悲しい話なんてまったく知らないや。
 『しゃぼんだま』って・・・・・・・あれ?


 唄ったコト、あるんだよね?



 でも、思い出せないのはどうして?







「ね・・・『しゃぼんだま』ってどんな歌だっけ・・・?」
「は、・・・?これ有名だぜ?知らねぇの?」
・・・・?」
「いいから!唄ってみて・・・っ!」

 言われるがままに、結人と誠二が歌い出す。
 ゆっくりと、歌詞をしっかり発音して。




 しゃーぼんだーまーとーんーだー



『・・・・すてきなうただね・・・!』
『・・・・うん、私もそう思うよ』


 
小さい頃、私は誰かとこの歌を唄った。



 やーねーまーでーとーんーだー



『・・・・かなぁ・・・・?』
『さぁ・・・・・・・じゃない・・・?』


 
この歌が大好きだったあの子。



 やーねーまーでーとーんーでー・・・・・・・




『わたしも・・・・・たいなぁ』
『あはは・・・したら・・・かもねー・・・・』
『ほんと!?・・・やってみる・・・!』




 あの後、あの一言で・・・・・・



 あの子は
 





「嫌ぁぁぁあああああぁあぁああ!!!」



ガタガタガタッッ!!



!?」
「な、何々!?」
「・・・っ!」

 いきなり、全ての物が震え出す。
 地震が起こったワケではないのに、ベッドも本棚も、私も・・・みんなみんな。

「どういうことだよ!?」
「結人、落ち着いて」
も、どうしたんだよ一体!」

 翼が私の肩を掴む。
 それでも、震えは止まらない。



──・・・ちゃん・・・・ずっと、待ってたの・・・・


 ふわっと、何かが私の頬にふれた。


──・・・・・やっと・・・・・きた・・・・・


 小さい子の手だ。
 半透明な、小さな女の子が私の視線の先に、いる。
 私はこの子を・・・知っている。


「あず・・・さ・・・・っ・・・」


──・・・・ちゃん・・・おねえちゃん・・・



 私の、妹・・・・・。




「・・・・・・っ!」
「!」

 リビングへ走り出す。
 みんなが慌てて追いかけてくるけど、それを気にしてる場合じゃないの。
 早く、行かないと・・・・


!!」

 腕をつかまれる。
 いくら頑張っても、相手は男の子だから勝てるわけがなく。
 仕方ないから足を止める。

「いきなりどうしたんだよ」
「なんか、変だぜ・・・?」

 みんなが、心配そうに私を見てる。
 失敗したなぁ・・・・ここに入る前に、気づけばよかったのに。

「ここね・・・・私が前に住んでた家なの・・・・」
「・・・・・は?」

 懐かしい感覚があったのも、なんか見たことある気がしたのもそのせい。
 翼の家の近所に引っ越す前に住んでた所なんだ。

「じゃぁ・・・あの写真ものなのか?」
「そうみたい、だね」
「でも、は三人家族だろ?」
「うん。でもね、昔は四人だったの」
「え?」
「妹がいたんだ・・・・・」





───────・・・・・・



『ねぇねぇ、おねえちゃん!』
『何?梓沙』

 ワンピースを着た、右の目の眉の上に黒子がある小さな女の子が走り寄ってくる。
 私の妹の、梓沙。
 手には、歌詞の書かれたプリント。幼稚園で配られたらしい。

『しゃぼんだまっていうお歌、すてきだね!』
『そうだね。私もそう思うよー』

 私はその時、何か作業をしていた。
 そっちに真剣になっていたから、妹への言葉は適当になっていた。
 それでも、梓沙は楽しそうにしゃべり続ける。

『しゃぼんだまって、なんでお空をとべるのかなぁ・・・・?』
『さぁ・・・・飛ぶ力でもあるからじゃないの?』

 もっと、ちゃんと聞いてあげていれば。
 ちゃんと、真面目に答えてあげていれば。

『わたしもお空とびたいなぁ。だってそうしたら・・・・』
『あはは。ベランダでしゃぼんだま吹いてたら飛べるかもねー』
『ほんと!?わたしやってみる・・・!』




やーねーまーでーとーんーでー・・・・





壊   消   







 梓沙は、ベランダの柵によじ登り、柵に座ってしゃぼんだまを吹いていたところ、バランスを崩して四階から真っ逆さまに落ちていった。
 その姿を、私は見なかった。
 いつの間にか、妹はいなくなってしまったの。
 母と父は泣いていた。
 けれど、誰も私を責めることはなかった。
 私は悲しさと罪の重さに押しつぶされて、妹とこの家での記憶を失くした。


・・・・・・・・・・─────




「私が・・・全部悪いんだ・・・」
「そんな・・・っ!」

 非難の目で見ればいいのに。
 誰もそうはしなかった。
 翼達も、私を責めたりしない。

「なんで、責めないの・・・?そんなの・・・・」


── ずるいよ ──


「!?」

 ふよふよと、あの時のワンピースを着た梓沙が私と翼達の間に現れる。
 あの時の笑顔じゃ、ない。

『ずるいよ おねえちゃん。わたしだってまだやりたいことあったのに。どうして、おねえちゃんじゃなくてわたしばっかりがくるしいの?ねぇ、おかしいでしょ?』
「・・・・・っ!」

 梓沙は笑ってる。
 狂った笑顔で。
 肌は青白く、瞳は血の色を映している。


「あれが、の妹・・・!?」
「くっ・・・・動けない・・・!」
『じゃましちゃだめだよ、おにいちゃんたち』


 あぁ、梓沙は長い間ずっとここにいたんだ。
 ずっとここで、私を待ってたんだ。

『ねぇ、おねえちゃん』
「・・・・・・」

 私の足は無意識のうちに進んでいく。
 梓沙が壊れて消えた、あの場所へ。
 あそこへ行けば、梓沙がまたあの笑顔で笑ってくれるかな・・・・

「っ・・・・・・!」

 足が、止まる。
 私を振り向かせたのは、翼の声。

「翼・・・・・」

 梓沙は大切。
 だから、梓沙の望むようにしたい。
 でも、翼達だって大切。
 私に笑顔をくれた人達・・・・。



『おにいちゃん、《つばさ》っていうの?』



 ふっと、梓沙が翼の前に移動する。
 嫌な汗が背中を伝う。
 あの瞳は、梓沙じゃない・・・っ狂ってる・・・!

「っ・・・・!?」
『おにいちゃんならとべるかな?ねぇとんでみせてよ。とりさんみたいに!』


 今の梓沙に子供らしさはなく、狂ったように笑う。
 抵抗することもできないほど強い力で、翼をベランダへと動かす。
 翼が私の隣を通り過ぎた。


 翼の体が、傾く。


「駄目───・・・・・・っっ!!」



***



 何が起きたのかわからない。
 強い力に押されてベランダまで進んで、そのまま落ちてしまうんだと思ってた。
 けど、自分はベランダに座り込んでる。
 の妹だという幽霊はいない。
 そして、も。


「椎名・・・動ける・・・?」
「動けるみたいだよ・・・そっちは?はどこ行ったの?」
「動ける・・・・みたいだね。は・・・・・落ちた、よ・・・」

「は・・・・・・・?」


 郭が言ってることの意味がよくわからない。
 どういうことだよ・・・・・?

「何やってんだよ英士に椎名!はやく下行くぞ!」
「早く!!」

 言われるがままに足を動かす。
 何かを失う恐ろしさが、胸を苦しめる。
 は、この気持ちを味わったのか・・・?






 ベランダの真下へ行くと、女の子が倒れていた。
 まるで眠っているかのように。
 その隣で、小さな幽霊が泣いていた。

『・・・ひっく・・・うぅっ・・・・』

「お前が・・・・お前がやったんじゃねぇか!」

 若菜が怒鳴る。
 真田が一生懸命止めようとしているが、真田だって怒っていないわけじゃない。

「人を・・・・姉を・・・苦しめて、殺して、楽しいのかよ!」
「結人、落ち着いて」

 今度は郭が制止する。
 ぐっと、若菜が黙る。

「キミは、何がしたかったの?」

 藤代が幽霊に訊く。
 幽霊・・・梓沙は、小さく喋り出した。

『おねえちゃんに・・・あいたかったの・・・っ・・・』
「ならこんなことしなくたって・・・・」

『死んだひとはその場からうごけないから・・・っ・・・ひっく・・・・うらみとかをもってないと、ここにとどまれずにきえちゃうから・・・っ・・・』

 あぁ、この少女はただ単に姉に会いたかっただけなんだ。
 恨みとか、この世に留まる理由が必要で、無理矢理姉を恨んだ。
 ただの、優しい女の子だったのに。

『おねえちゃんっ・・・!おねえちゃんごめんなさい・・・っ わたしね、とべるようになって、おねえちゃんとおそらをとびたかったの・・・っ そしたらきっと楽しいと思ったから・・・・ただそれだけだったの・・・っ!』

 恨みを持つと自我を失くす、というのを聞いたことがある。
 さっきの狂気の目をした少女はまさしくそれだったんだろう。

「なかない・・・で・・・・」
「っ、・・・・!」

 がうっすらと目を開けて梓沙に手を伸ばす。
 梓沙はその手に触れることはできないけれど、そっと手を添えた。

「私が、ちゃんと話て、れば・・・・ 痛かった・・・よね・・・・・ごめん、・・・ごめんね・・・・」

『ううん・・・!わたし、しってたの。おねえちゃんがあのときつくってたのは、わたしのたんじょうびプレゼントだったんだよね しってたのに、はなしかけたのはわたしだもん・・・・っ』
「あず、さ・・・・」
『ありがとう、ありがとう・・・・おねえちゃん、だいすきだよ・・っ!
 わたしは、それがつたえたかったの・・・!』


 少女の姿が消えていく。
 涙の痕はくっきりと残して。


「ありがとう・・・梓沙、だいすき、だよ・・・」



 少女は最後に笑った気がした。
 の大好きだった笑顔で。



***


 その後、は病院に運ばれた。
 何時間もの手術の結果、一命は取り留めた。
 後遺症はなく、しばらく入院すればまた元気にマネージャーをすることができるらしい。


「そういえば、のお母さんもここに入院してるんだって?」
「うん!今日子供が生まれたんだ!」
「今日?」
「あ、ほら!」

 を車椅子に乗せて廊下を歩いていると、新生児室の前についた。
 の指さした先には右の眉の上に黒子があるのが印象的な赤ん坊がいる。

「可愛いでしょー!妹なんだ!」
「・・・もしかして・・・・」
「梓紗っていうの。ほら、あの黒子!生まれ変わりだとしか思えないよ」
「・・・よかったね、
「っ!うん・・・・!!」





 もしも鳥であったなら、
 もしも翼を持っていたら、

 キミはあの空を、自由に飛びまわるだろう。

 あの子が望んだ楽しさを求めて。


 けれど、僕等は何も持たない人間だから。


 だから、この地を歩くんだ。
 辛いことも楽しいことも分け合って。
 時にはあの青い空を見つめて。
 共に、歩んでいこう。





 柚の心の支えの結波嬢から無理矢理強奪……いただきました、素敵ss。
 感想を語りだすとキリがないので、あえて我慢我慢。ていうか、最後の誠二がめちゃ大人っぽいよ〜(llllll´▽`llllll)バカ代じゃない!!(笑 素敵vvv
 結波ちゃん、ホントにありがとうございました★(言うまでもありませんが、著作権は結波様に帰属しますので、無断転載などは一切禁止ですよ〜)