きっかけは些細なことだった。

『うっきゃーーーーっ!?』

――――ズシャシャシャッ!!

 奇声のような声を上げつつ、派手に転んだ女の子。
 まるでギャグ漫画のようで、思わず笑ってしまった。
 クラスの皆に笑われて、恥ずかしそうに立ち上がった彼女は、自らの失態に吹き出す。

「ぷっ……あははは、新学期早々、やっちゃいました……?」

 あまりにも楽しそうに笑うその子に、目を奪われた。
 話したこともなくて、その存在すら意識していなかったその子は。
 その瞬間から俺の特別になった――――。





 






「それは恋だね」
「でもお前には渡さないぜ」
「は?」

 親友二人の言葉に、俺は目を見開いた。
 英士はともかく、結人の言葉が聞き捨てならない。

「要するに、俺たちもあの子に恋しちゃったわけだよ」
「何言って……」
「つまり、あの瞬間、俺ら三人は同時にあの子に惚れたってこと」
「な……」

 俺、真田一馬と英士、結人の三人は、念願叶って三人同じ高校に進めた。そして、偶然にも同じクラスになったわけだ。
 でもまさか……あの体育の授業で、三人同時に同じ女を好きになるなんて、信じられなかった。


 信じられないことは続くもので。
 彼女が選抜のマネージャーとしてやってきた時は、驚きのあまり声も出せなかった。

「今日からマネージャーを務めます、風祭です。宜しくお願いします」

 しかも何と、あの風祭とは双子の姉弟らしい。道理で、少し抜けてるところがあると思った。
 そんな彼女が人気者になるのは、最早当たり前というべきで。
 気付けば選抜は、彼女中心で回り始めていた。

―! こっちにもドリンクくれやv」
ちゃん、今日この後暇?? 俺と一緒に遊びにいかない!?」
、今度の試合のことなんだけど……」

 藤代が彼女に纏わりついている。
 それを遮るように英士。
 ドリンクをねだっているのは藤村だ。
 お、俺だって……

「か、風祭……」
「うん? 何? 真田君」
「そ、その……」
「???」

 彼女を前にすると、俺は何も言えなくなる。
 くそ……こんなんじゃ、どうしようもない。
 帰り道、俺は必至に策を練り……映画に誘うことを決心した。



 一週間後、俺は風祭を呼び出した。練習の後に。

「あのさ……風祭」
「なあに?」
「その……あの……」
「うん?」
「ら、来週の水曜日……俺と……」

 俺が運命の一言を言おうとした、まさにその時だった。

「――、帰るよ」
「あ、翼君!」

 椎名だった。
 そう言えば今まで、椎名の存在を忘れてた。
 奴は、彼女の腕を掴むと、スタスタと歩いていく。
 ハッと我に返った俺は、咄嗟に呼び止めた。

「ちょっ、まだ話して……」
「何真田。俺のに、何か用?」
「俺のって……」

 思わず聞き返した俺に、椎名はにやりと笑った。
 ……悪魔のようだった。

「自分の女を俺のって言っちゃいけないわけ?」
「!?」

 「ちょっと翼君! そんな恥ずかしいこと言わないでよ〜!!」という彼女の声が、俺の頭をすり抜ける。
 ……いつの間に、椎名と?
 そんな心の疑問にわざわざ丁寧に答えてくれたのは、何と悲しきかな風祭本人だった。

「びっくりしたよね?? 翼君って将と仲良しなの。それで知り合ったんだ」
「そ、そうなんだ……」
「皆には内緒にしたかったんだけど……真田君にはばれちゃったね」

 そう言って照れくさそうに笑う彼女。
 俺は乾いた笑いを浮かべるしか出来なかった。
 そんな俺に、椎名は言った。

「ま、そういうわけだから。手を出したら承知しないからな、真田。ついでに、周りで見てる奴ら全員!」

 ……今、何て言った?

「うわわっ!? ちょ、藤代!!」
「ちょ、押すなってば!!」

 椎名の言葉に驚いたのか、結人と藤代が崩れるように出てくる。それに積み重なるようにして、他の奴らも姿を現した。……お前ら、俺を犠牲にしやがったな(怒)

「椎名、わざと言わなかったなー!?」
 結人が頬を膨らませて怒っている。そりゃそうだよな……。
「酷いよ椎名!! 俺だってちゃん好きだったのにぃー!!」
 藤代が飛び跳ねて怒っている。……そりゃそうだよな。
「ま、まあ皆……はもう、二年前から翼さんと付き合ってるんだよ」
 風祭の言葉に、俺はもう肩を下げることしか出来なかった。ていうか、風祭。もっと早くに教えてくれよ。まあ、天然なお前にそれを言っても仕方ないか……。

 ……俺は、彼氏持ちの女に恋をしていたのか。
 何て不毛で不運なんだ俺!!(涙)

 しかし、予想外の言葉を発したのが何名かいた。
「別に年数なんて関係ないでしょ。略奪すればいいだけ」
 英士がしれっと言った。え、英士、略奪って……(汗)
「そうやな、愛に時間は関係ないでv」
 藤村が飄々と言い放つ。まあ、そうだけどさ……。
「ハハハハ、はモテモテだな☆」
 渋沢が、また一人空気の読めないことを言っている。論外……。

「え、え、え……?」
 彼女が狼狽する中、面白く無さそうな顔で俺らを睨み付ける椎名。
 でも……前向きな奴らの言葉を聞いているうちに、段々俺も前向きになってきた。

 そうだ……
略奪だ!!
 それしかない!!(え)

 俺は、自分が自分じゃないような気分になっていた。(ちょ、まっ)
 そして、普段じゃ考えられないような言葉を発していた。

「風祭! 俺はお前を諦めない!! 絶対に椎名から奪ってみせるから!!」
「えっ!?」
「椎名! これは宣戦布告だ!!」

 言い切った俺に、椎名は「ふっ」と馬鹿にしたような顔を浮かべた。
 そして、何を思ったか隣にいた風祭を抱き寄せる。
 驚く俺たちに見せ付けるように、奴は言った。

「お前らがどう思おうと勝手だけど、コイツは俺以外見ないよ」
「ちょっ、翼君……////」
「だってホントのことだろ? お前は俺に夢中。今も昔も……ね」
「っ……/////」
「ねえ……?」

 畳み掛けるように言う椎名に、風祭は恥ずかしそうに頷く。
 そんな彼女を抱き寄せながら、椎名は「ほら、見たか?」とでもいいたげに俺たちを見やる。
 そんな光景を呆然としてみつめる俺たち。ただ一人風祭だけが、のほほんとした口調で「あはは、相変わらず仲良いなぁ」と笑っている。
 ……ははは、俺も笑いたい(涙)



 こうして俺の恋は、あっけなく終わりを告げた…………とは言わせない!!

 まだまだ時間はあるんだ。
 俺は彼女と同じクラス!
 椎名は違う学校で学年も違う。俺にもチャンスはあるはずだ。
 英士と結人もまだ諦めてないだろうし、俺が諦める必要もないんだ!!

 へタレと呼ばれ続けた俺だけど……やる時はやるってことを証明してやるぜ!
 待ってろよ、!!(心の中でだけ呼び捨て)
 俺は絶対に、お前を振り向かせてみせるからなー!!



終わる


こういう短編を書いたこと、実はあんまり無くてかなり楽しんで書いた気がします。結波ちゃんの●●記念に贈った代物を、ほんのすこーしだけ変えて再アップです。かじゅまって、やっぱりこういうちょこっと不運な役回りが似合うな(苦笑)最後に美味しいところは他キャラに持ってかれてしまうところが、かじゅまの可愛さですたい。恋は突然落ちるもの……ですかね? 皆さん、良い恋をしてくだされv

2007/9/20 柚
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