夜空を見上げる。
 月が輝き、星が瞬く。

 ああ……また始まる。
 長い、長い夜が。

 溜め息をついても、メールは来ない。
 ただ虚しく、部屋に響くこの歌。







 付き合い始めは、毎日欠かさなかったメール交換も、今では三日に一度すればいい方になった。

 嫌いになったわけじゃない。
 ずっと好き。その気持ちに変わりは無い……けれど。

 熱情が冷めていくのを感じてる。



『今、何してるの? 最近、全然メールくれないね』

 そう思うんだったら、自分からメールすればいいのに。
 でも、それはできない――不安だから。
 自分だけが好きみたいじゃない、そんなの。

『寂しいよ、会いたい』

 そう思うんだったら、電話すればいいのに。気持ちを素直に伝えればいいのに。
 でも、それはできない――怖いから。
 そう思ってるのが私だけだったら、そんなの嫌だ。



 視界が滲み、月が朧ぎ、星が霞む。
 夜になると、いつもこう。知らずうちに泣いている。

 でも、メールは来ない。
 響くのは、この歌だけ。

『なあ、! 俺、お前が好きだぜ』
『あー! 発見!!』
『こら英士! 邪魔すんなよー!』

 貴方との思い出が、溢れてくる。


 ねえ、結人。
 もう私のこと、好きじゃないの?
 私に興味、なくなった?
 もう前みたいに、笑いかけてはくれないの?


 世界が滲む。


 ふと、隣で佇むラジオに手を伸ばす。
 結人と一緒に選んだラジオ。
 今の時代に、ラジオを買うなんてちょっとおかしいかもしれないけど。

『ラジオってさ、なんかあったかいよな』

 貴方がそう言って笑うから。
 ちょっと古ぼけたラジオだって、私には輝かしく見えたんだよ。

 部屋に静かに響く、切ない恋の歌。
 前はよく、二人で一緒に聞いたよね。

――――貴方がいない夜は、涙が溢れて止まらないよ……

 夜がこんなに長いものだったなんて、結人に出会って初めて気付いた。
 結人がいないことが、こんなにも寂しくて苦しいなんて、思わなかった。

「ねえ結人……会いたいよ……」

――――素直な気持ちをぶつけたら、貴方はそれに応えてくれる?

 携帯を握り締めて、私は結人の名前を探す。
 発信ボタンを押せば、きっと貴方と繋がる。
 でも、押せない。
 毎日、毎日、その繰り返し。

――――ありのままを伝えたら、貴方はまた、笑ってくれるの?

 寂しいよ、会いたいよ。
 そう言ったら、結人は私に応えてくれるかな?
 私が素直になれば、また前みたいに一緒にいてくれるかな?

 ラジオから流れるメロディーが、私を突き動かす。

「このまま逃げてちゃ……ダメだ」

 震える手で、ボタンを押す。
 心臓が早鐘を打つ。

 出ないで。
――ホントは出てほしいの……。
 電話に出ないで。
――ホントは声が聞きたいんだよ……。
 この電話が繋がらなければいい。
――早く早く出て……。

 怖いの。
 貴方の声を聞くのが怖い。

――――♪♪♪……

 何処かで、歌が流れている。
 その歌は、懐かしいあの曲。
 今、私が聞いているこの曲。

 二つの歌が、重なり合う。

 歌が近付いてくる。
 少しずつ、私のところに。

 私は誘われるように、扉の前へと歩いていく。
 受話器からは、無機質なコール音。
 扉の向こうからは、懐かしいあの曲……。

 扉を掴む手が、震える。

 すると、受話器から懐かしい声が聞こえた。

……俺……」

 零れる涙を拭いながら、私は受話器の向こう、扉の向こうの貴方に微笑んだ。
 素直な気持ちと一緒に。

「……結人……会いたかったの、ずっと……」



 ねえ結人。
 私たちにはもう、夜を越えるための歌は必要ないよね……?




End.


お相手は結人でしたv 歌、全然関係ないしね(汗)夜も越えてねえよ、コレ……。お題無視してます……ゴメン、結波ちゃん(泣)
素直になるって、とっても大事だと思います。意地を張って、いいことなんてほとんどないですよね。素直な子ほど、得をしてますよね。そういう私は、素直になるのは苦手だったりします(苦笑)つい、色々我慢しちゃうのよね……(;´▽`lllA`` 素直になれる子が羨ましいです。

2007/9/20 柚

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